私は艦娘または深海棲艦である。正体は未だ不明。 作:キノコ飼育委員
さて、現在私は周囲の探索を終え、水没部分を潜航しているところだ。
先ほどの、熱に浮かされたかのような衝動は……正直なんだったのか。私にもわからん。
なんというか、とにかく前へ進まなければいけない、進むのだという、強迫観念のようなものを感じた。
あれはもしかして、私の記憶、か?
その手がかりだというのか?
……。
…………まぁ、どうでもいいことか。
おいおい思い出すだろうさ。
今気づいたが私は、存外失くした記憶に未練がないようだ。
『戻れば得』程度の、軽い感覚。
……ふむ、そう考えるとかなり楽になった。
やはり無意識に記憶がないことを恐怖していたようだ。
さてさて?探索した戦利品を確認しようか。
まず、襲ってきた連中の死体。
うまかった。
以上。
二階の一か所に集めて喰ったが、疲労も回復、弾薬も補給、おまけに腹も満たされて実に満足。
面はどいつもこいつも私と似通っており、もしかしたら本当に私の姉妹だったのかもしれない。
いやいや、もしやするとここは私の量産施設で、あの頭の怪我が原因で無意識にここへ来たのかもな。
次に小部屋だ。
水没した下の部屋のように、どの部屋にも水槽があった。
そこにはあのイグアナ鉱物や、魚鉱物、どころか足の生えた魚鉱物も存在していた。
魚鉱物用の水槽が一番多かったな。
大量の魚鉱物が入ったモノや、色違いが飼育されているモノなど多種多様。
それ以外にも手術室っぽいところや、各水槽を監視できる監視室兼事務室みたいなところもあった。
あぁそうそう、ついでに天井に穴の開いたところも見つけた。
恐らく私がぶち抜いた床と繋がっていた部分だ。
「ヘイ!解析完了したぜ!」
おっと、そして最後にあの記録媒体だ。
今回は手術室と監視室からひとつずつゲットした。
まずは手術室の方だな。
再生されてすぐに流れるのは、あの暗い女の声。
それと……なんだ?妙に音質が荒いな。
ザリザリという砂嵐の音に混じって何か、いや誰かの声が聞こえる。
だが内容は全く聞き取れない。
『鹵獲した『艦娘』の兵装であるこの……自律型二連装砲だが、これは非常に興味ぶか……なに?……連装砲?それがコレの名しょ……は?『連装砲ちゃん』?』
んん?同じ女の声だと思っていたが、妙にこう、声に張りがあるな。
いつもは死にそうな声なのに、これには生気がある。
それに、やはり誰かと話している?
……駄目だ、ノイズが酷くて聞こえない。
『何故いちいち『ちゃん』など付けねばならん。第一、私のスタイルじゃ……え?『ちゃん』も含めて名前?』
『じゃあお前、コレをさん付けして呼んだら『連装砲ちゃんさん』か?……それでいいって?』
『あぁもうわかったわかった。『連装砲ちゃん』な。まったく変わったヤツだ』
『そんな遺言を遺すなんてな』
突然の砲撃音。
『クソどうでもいい話どうも。脳が腐るかと思ったよ』
『……なんだお前、泣いてるのか?』
『フ、フヒ、フヒッヒヒ……』
うん?
『フヒャハハハハハハハ!!ヒャハハハハハハハ!!たかが、たかが兵器の分際で!涙なんか流してやがるのか!ヒャハハハハハハハ!!』
うおっ!?豹変した?!
『ヒャハハハ!バーカバーカ!ご主人たまがちんでかなちいのかなーっと!』
『チッ、あーくっだらね』
『さってさて?何が興味深いのか!?それはこいつが自律しているというその一点だ』
『我々も艦娘も皆肉体から兵装まですべて『ナノ・ファントム』で構成されている。しかしならばこの自意識はどこにあるのか?魂は意思は思いは感情はどこにある?心臓か脳かはたまた腸内細菌のシナプスか?お腹で歌うのか?』
『駄菓子菓子、艦娘と我々には明確な違いが多々あるが最も大きな点は中に誰かいますという点であり興味深いことに中に人間の女が取り込まれていたつまり生物兵器かパワードスーツだわかるだろう?理解は求めてないよ連装砲
『なるほど考えたものだ『ナノ・ファントム』は感情に反応するならば理不尽かつ非合理的な本能の塊である人間をぶちこみゃ強力な艦を容易に量産可能というわけだ驚いたねまったく一本とられたしかし誰でもなれるわけではなさそうだだってそうだろう誰でもなれるなら今ごろ海は漢体これくしょんばりの肉密度で埋め尽くされているだろうしかしそうなってないならば女でかつさらに選別された要因があるはずだ興味深い実に興味深いそういえば艦娘は艦としての記憶と娘としての記憶両方を保持しているなら同型艦同士の遭遇によるアイデンティティーの喪失ゲシュタルトの崩壊は免れるわけだうまくやっている考えたヤツは悪魔だな間違いない』
『……ひょっとしたら、お前は我々に近い存在なのかもしれないな?何せお前はこいつみたいに中身は無い。『ナノ・ファントム』構成体だ。我々と同じ、な』
『ひははひふひいひひ、そう嫌がるなよ連装砲ちゃん?お前もこいつも、欠片も残さず再利用してやるからさぁアヒャハハハハ!!』
……うーむ、今まで暗いだけの女だと思って『――――――なんだ、この惨状は』
ん?続きか?
『わ、わたしが……やったのか?』
『待て、待って、そうだ、記録を確認しよう、わたしがこんな、獣のような―――』
……多重人格?
「わけがわからんな。心の内に秘めし新たな人格でも目覚めさせたのかコイツは?」
「だからもっと腕にシルバー巻けとあれほど」
「クク、まぁいい。コイツの豹変っぷりは聞いていて嗤える。もう一本も再生しろ」
「オーケィ」
『最近、身体の調子が悪い』
あぁそうそうこれだこれ。
この死にぞこないのフナムシみたいな声だよ。
おそらく時系列的にさっきのより後なんだろうな。
『なんというか、だるいのだ』
『頭痛は、マシになった。脳に錆びた釘を突っ込まれるようだった痛みは、どこか遠いじくじくとした痛みに変わった。辛さは変わっていないのにな』
『代わりに、最近記憶がよく飛ぶ。そして気がつくと決まって何かが壊れている』
『……壊れていってるのは、私の方か』
『……最近、整備をサボッていたからな。調子が悪くて仕方がない』
『……姉上は無事だろうか』
『ほっぽは、元気にしているだろうか』
『……なんだか、自分が弱くなった気がする』
『……私も、死ねば艦娘になるのだろうか』
『深海の我々、海上の艦娘。ここには見えない強固な繋がりがある』
『艦娘を我々に改造すると、エリート並みの知性を持った存在となる。そして我々もまた、エリート以上は撃破されると高確率で艦娘になることがある。海上勤務が長い個体と、改造艦娘はほぼ確実に艦娘になる』
『純正の我々、艦娘化した我々、人間入りの艦娘、改造した艦娘。中身無し無し有り有り』
『……そういえば、最初に鹵獲した艦娘……『武蔵』といったか?あれは、中身が有りだったか?無しだったか?』
『……“無し”だ』
おや?声に張りが戻ったぞ?
『…………』
『……私は、『武蔵』を使用して『戦艦級』の姫を造った。世界初の量産型姫をだ。それが撃沈されアレは『武蔵』に戻った』
『―――それ以前に、一度でも『武蔵』が海戦に出てきたことがあったか?』
『……艦の、記憶?艦娘は『同型艦』でも『別人』だ。しかし艦としての記憶だけは共通して保持している』
『―――艦の記憶とは、なんだ?』
『……現在我々が確認している艦娘の種類の総数、そしてサルどもが投入してきている艦娘の種類の総数……』
『―――大きな隔たりがあるな?』
『―――サルどもは最近になってようやく『武蔵』を量産投入しているな?』
『――――――』
『―――もしかして、『オリジナル』が存在する?』
『あの姿が何かしらのデータ、つまり記憶そのもので、それと融合するから艦の記憶を持つ……?』
『だとしたら』
『だとしたら、陸のどこかにそのオリジナルデータを保存している場所があるはず……!』
『我々が近寄れない内陸で、試験も容易な水のある場所……!』
ガサガサという紙のこすれる音がした。
『…………ここだ。ここしかない!』
『だが……わかったところでどうしようもない』
『……ハァ、無駄な時間だったか』
『だが一応各地の同朋に伝えておくか』
『面倒だが女王にもな』
『……その前に、整備に行こう。時間外だが、開いているだろうか…』
…………あ、これで終わりか。
「ふーむ、中身の有る無し?どういう意味だ」
「最後までアンコたっぷりかどうかだろ」
「その点トッポはすごいな」
「おぅ最後までチョコたっぷりだしな」
っと、水没部分の一番底についた。
さっき見つけたあの部屋は……お、ここだ。
後回しにしていたが、ここだけ長い通路になってるんだよな。
おそらく次の階層への道だ。またはボス的な存在がいるはず。
「最初のボスは無傷でクリア。必死こいていいのは小学生までだ」
「ハイポは換金アイテム。オーケー?」
てってこてってこ歩いていくと……なんだアレ?
「これは、バリアか?」
「だな」
半透明で水色の、何か、ぶにょんぶにょん?いやぷるんぷるん?な壁があった。
「いや、ぽよんぽよん……か?」
「ア?何言ってんだ?」
「このバリアを表すオノマトペだ。何かないか?」
「……アレだ、水分ムッチャ吸収するヤツ。あれの手触りを視覚化した感じ。なんつーかな?ゼリンゼリン?」
「……駄目だ、思いつかん」
とりあえずさっきから齧ってた骨付き肉を突っ込んで抜いてみる。
ん、突っ込んだ先が消えてなくなるなんてことはなかった。
次に指先でそのバリアを触ってみる。
……特に何も起きない。感触も全くない。
ゆっくりと腕から入って、する、んと……抜けた!
おぉ……!
「すごいな!まさか浸水だけを完全に防ぐバリアとは!」
バリアの先には空気があった!
振り返れば、バリアのところから一切の水が入ってきていない。
それどころか私の体もパリッと乾いている!
実に興味深いな……。
それに、だ。
随分と雰囲気が変わっている。
先ほどまでの空間が廃墟なら、ここは稼働中の研究施設だ。
きっちりと電気が通っており、今までと比べ格段に明るい。
さらに空気も清浄なもので、ジメッとしていない。
しかし……誰かのいる気配はないな。
とりあえず進むか。
てってこと進んでいけば、左側に扉発見。
これを開い……ひら…もぎ取った。
鍵がかかってたんだ。
これはその辺に捨てておく。
「さて、何か面白いものはあるかな?」
結論から言うとなかった。
野球ドームみたいな部屋を、上から見下ろせる部屋?だった。
ただ、その野球ドームがえらくボロボロ、いやボコボコ?だったのが妙に印象に残った。
まるで戦争でもしたかのような跡地だったのだ。
通路を出てしばらく、道が緩やかなカーブを描き始めたころ。
また扉を見つけた。これももぎ取り中を拝見。
「んー?」
上で見たような部屋だ。
あの怪物の入ったガラス柱のある部屋。
違う点を挙げれば、そのガラスが割られていないという点だろう。
もちろん中身もない。
数は合計三本。
そばには使い方のさっぱりわからない機材のみ。
しかも派手に壊されており、煙を吹き続けている。
「特になんもねぇな、行こうぜ」
……うむ、確かに何もない。
何もないのだが……何だ?この違和感は。
「オラさっさとしろ!」
「……チッ!うるさいぞ下種」
ええい!考えがまとまらん!
……もういい、行くか。アイテムっぽいものもないしな。