私は艦娘または深海棲艦である。正体は未だ不明。 作:キノコ飼育委員
残念だが、公式設定など初めからない。
騙して悪いが独自設定の説明回なんでな。読んでもらおう。
あと、随所に『?!』な部分がありますが気にしたら負けです。
先ほどの所からさらに進むと、行き止まり、というか破壊された扉があった。
銀行の金庫のような、丸く、とても分厚い(私が両腕を広げた状態よりもなお厚い)鉄の塊の扉が奥へ向かって裂けている。
「抉じ開けられているな。いや、焦げ跡がある。これは砲撃で爆破されたのか?しかし何かに穿たれたような小さな穴や亀裂もあるな。何が起きたんだ?」
「知らねーよ」
「お前には聞いてない」
ぴょんと裂けたところから飛び込む。スタッと着地。
んー暗いな……まぁ見えるからいいか。
さて周囲は……ふむ、かなり広い。奥へ長い体育館といった感じだ。
着地した場所は狭い鉄骨組みの階段で、壁沿いに下へと続いている。
手すりから下をのぞきこめば、20メートルくらいの高さがあり、一番奥までだいたい……400メートルほど?
「研究施設か……まんまバイオだな」
下にはフラスコやビーカー、遠心分離機っぽいのがあるテーブルがいくつも並んでいるし、あのガラス柱状の培養槽も見える。
かと思えば機関砲がバラバラに分解されて乗せられている台もある。
さらに奥には巨大な装置やオブジェらしきものも見える。
点在する巨大なガラス柱に、あの魚と船を混ぜたような生き物の巨大化バージョンが浮いているし、グロテスクな物体がノコギリと放置されている場所もある。
明らかな血の跡もそこら中に。楽しくなるな。
とりあえずここから飛び下りる。
右手へ階段が続いていたのは知っていたが降りるのも面倒だった。
スタッと難なく着……地?
「おい」
「んがっ、ペッ。どした?」
「……いや、いい」
もちろんホントはよくない。
私が飛び下りた瞬間、尻尾が壁に垂直に噛みついたのだ。顎が外れるほどガパッと口を開いてな。
そのおかげで私はゆっくり着地出来たわけだが……気を使われたのか?
いやまさか、そんな馬鹿な。
やめよう、考えたくない。気持ち悪いだけだ。
えー、さて、何か面白いものはないかな?
この液体は何だ?色ガラスの試験管に入った綺麗な色の謎溶液。机の上に一滴垂らして……わわわ!
慌てて三歩後退。
たった一滴垂らしただけなのに机がごっそり溶けた!四角い机の一角が溶け切ったぞ?!
床までドロドロに……面白いが危険だな。
じゃあ次。これは銃か。
変な形の銃だな。銃口の代わりに曲面ガラスが嵌めてある。
手に取って天井に向かって引き金を引いた。
……ビーム出た。ナニコレ未来武器?
もう一回……出ない、エネルギー切れだ。
それを戻して次の机へ。
それから私は、緑色の粒子の詰まったごつい瓶をうっかり割ったり(粒子は消えた)、ちょっとヤバそうなエイに似た生物を逃がしちゃったり、「じょうじ」と寂しそうに呟く黒人?を檻から出してやったり(言葉は通じなかったがジェスチャーは通じた)、なんか浴びたら機械が生物化するエネルギーを帯びた箱をルービックキューブと間違えてねじ切ったりと、いろいろ興味深い科学教室を楽しめた。
しかし奥に進むにつれて、整理されていない、様々なガラクタが目につくようになってきた。
……ん?今、奥で何か光ったか?
とりあえずそっちに向かって歩きながら、無造作に置いてあるガラクタを眺めてみる。
これは上から見えていたオブジェか?でかいな。なんかマグロの切り身を二つ寄り合わせて捻ったような印象だ。
まぁ芸術はわからん。
こっちはポリタンクか。何が詰まって……なんだ空だ。側面に黄色の丸に黒でプロペラのマーク。
ふむ、どこかで……あぁ、私のネックウォーマーか。ここにも同じマークが付いてる。
なんだこれ?血で汚れたボロボロの古着の山?
どれだけ洗濯物を溜めたんだ、見上げるほどの山になってるじゃないか。
だが……サイズがバラバラだ。セーラー服ばかりだし……まぁゴミ山だな。
えーと、こっちは白い巨大ロボ?腹に穴が開いて機関部を取られているな。
これは、本?内容は……中学生のポエムだった。暗黒がなんだの邪神がどうだの……でも手触りが奇妙だな。誰かの肌を触っているみたいで気持ち悪い、捨てておこう。
で、こっちの装置は何だ?
天井まで届きそうなくらいデカいドーナツを、穴が横を向くように置いた感じの装置だ。
下の方に名前がペイントされてるな……『
くだらない名前の装置だな。瞬間移動でも研究していたのか?
だが説明書どころか制御装置もない。スイッチひとつ見つからんぞどういうことだ。
まぁいいほうっておこう。
んー他には、お!
でかいパソコンらしき物体が奥にある。
画面サイズは3メートルかけ1.5メートルくらいか。
何か情報があればいいんだが。
さてさて……。
……。
……。
電源はどこだ?
「これじゃね?」
「これ?ああそれだ、ポチっとな」
ふぁんふぁんふぁんふぁーん♪……パスワード?または生体認証?
……テキトーに打ってみるか。
「なんて打とう?」
「FUCK YOU」
「FACK YOU……ダメだ。まぁわかってたがな」
「え、おま……いやなんでもない」
何か戸惑った目で見られた。何故だ。
さてどうするか。
ダメもとで生体認証もやるか。
ガラス板、つまり指紋認証パネルかな?
ここに手を……ん?
「ん、なんだ?……なんだ?!」
手のひらが、急にすこぶる痒くなってきた!
かっゆ!ひどく痒いぞ!
「何だこれは!このッ!」
爪を立ててガリガリ掻くがダメだ、指先を尖らせて本気で掻く。
手のひらと指先でギャリギャリと火花が散る。
しばらく掻き毟ってようやく痒みが収まった。
ふぅ、何だったんだ?
まぁいい、とにかくそのパネルに手を置く。赤い光が上から下へ、左から右へ走り、スキャンが完了。
結果は……
「え」
ログイン、成功……だと?
画面に表示されたユーザー名は……『ヘンダーソン研究所』?
「……まさか、私は、ここの研究者だった…?」
「マジか、似合わねー…」
ヤバい、大当たりだ。
マウスに手を伸ばす。無意識に手が震えていた。
デスクトップには、番号の振られたファイルが10ほど。
一番からさらっていこう。
『新型艦装開発資料』?
CIWS、誘導魚雷、VLS、ICBM、レールガン、レーザー砲、イージス……どれもこれも素晴らしい兵器ばかりだ。
設計図に、試射記録、量産時のコストに材料に……面白いデータだ。貰っておきたい。
「何か、この記録を保存できるものはあるか?」
「あるぞ。グゥェ!」
尻尾が口からあの記録媒体を吐き出した。
「なんと……汚い奴なんだ…」
唾液まみれのそれを指でつまみ、直感的に突っ込めそうなところに突き刺す。
……ん、読み込んだ。
ささっとデータをコピーする。なんでこういうことは身体が覚えてるんだ?
とにかく手早く作業を終わらせ次のファイルを開く。
これは、『新型機関部開発資料』か。
いや、ここには新エネルギー全般の実験資料もある。
『ティーゼルエンジン』『ハイドロジェット推進』『原子力機関』。
『コジマ粒子』『怨念変換』『龍脈機関』……?
最後の方へ行くと冗句のようなものの研究資料が出てくる。しかも真面目にやってる(嗤)
どうでもいい、次。
「ウェイト!その資料も一応入れといてくれ」
「は?要るのか?こんなオカルト」
「いいから入れといてくれよ。小説みたいなもンだろ?」
「ハァ……まぁいいがな」
PONと入れて次は、『深海進化論』?
これは文書だな。何々……
『我々深海のものはある日突然発生したものだと、今日誰もがそう考えている。だがこれは間違いだ。正確には、“自意識が発生し世界を認識できるようになった”のが最近だというのが正しい』
『深海のモノは、もともと目に見えないような、塵以下の大きさから始まった。私はこれを『ナノ・ファントム』と呼称している。詳しくは後述』
『これが魚型へ成長、進化した。そう、君らもよく知っている稚魚級だ』
『この稚魚級が成長、進化し人型を取る。魚類から人類へ、より高度な思考形態を持てるようになる』
『この高度な思考が意識を持ち、世界を認識。その結果、ある日突然自分が生まれたように感じる、というわけだ』
『では何故人型を取るのか?それは、我々が人の感情から生まれたからだ』
『深海に沈む数多の遺骸に染み込んだ、強烈な感情』
『戦意、憎悪、恐怖、悲しみ、殺意……そして記憶』
『これらに反応し、『ナノ・ファントム』は変異した』
『だが最初から人間の姿を、いや高度な思考を行うには、感情というのは余りにも不安定かつ不合理だ。それも他の存在に影響を及ぼすほどの偏った強烈な感情。ならば最初は獣となるのが道理だろう』
『ただこの場合の獣とは、環境に適応したソレゆえ、まず魚の姿となった。そこから時間をかけ、感情が『精製』されていった。それが『艦装』だ』
『感情のより攻撃的な部分をこし取り、体の外へと押し出し、牙や角のように纏う。その副次作用として辛うじて思考を得たわけだ』
『そしてその思考が成長し、理性へ進化した。この過程で徐々に感情の元となった人間の姿に近づいて行ったのだろう。これは僅かながら記憶の残滓を持っていたことも下地になっているはずだ』
『そうして深海だけで成長していけば、おそらく我々は人魚か半漁人となっていただろう。艦装は退化し、代わりにより理性的に、知性的になったはず。実際そういう存在も確認されていた。あの深海人たちだ』
『そうやって全ての『ナノ・ファントム』が人魚になっていれば、おそらく我々は、サルどもへの憎悪をいつの日か完全に風化させ、深海に新たな文明を築いていたことだろう』
『だがそれは、他でもないサルどもによって』
飽きた。
次は『艦種と階級』。これもレポートか。
『艦種の多様性だが、これは単純な話だ。稚魚級の時点で進化圧がかけられ、対応するために艦装が変化。それが定着し進化していったのが多種多様な艦種だ』
『駆逐や軽空母など、比較的原始的な種類の姿は未だに半ば獣だが、階級が上がるとやはり思考形態が高度になっていくようだ』
『階級―――同じ艦種に存在する明確な差。兵士、精鋭、旗艦の三段階。これは溜めこんだ怨念や、感情の総量によって成長する』
『他生物を害することで向けられる怨念、その地に溜まった負の念、そして自ら生み出した感情。これによって艦装がより強力になっていき、比例するように思考も高度になっていく』
『そしてその溜めこんだそれらを外部からの処置によってより効率的に精製、体に定着させる画期的技術こそが改装である』
『さらに今日、我々は意図的な進化を可能とし、自在に必要な艦を建造できるようになった。まったく技術の進歩とは素晴らしい』
『おっと、自画自賛になってしまった』
『そうだ、旗艦の駆逐級が全く新種の艦種に変化した例もある。これは……おそらく一種の突然変異だろう』
『これらを解析し、より効率的により強力な艦を建造していくのが今後の課題と言える』
『そしてもうひとつ忘れてはならないのが私達姫級の』
長い!三行で纏めろ!!
次!
えー、『艦娘についての考察』。またレポートか!
『現在サル側に加担している敵対勢力、艦娘とはなんなのか』
『サルどもを徹底的に追い詰め、内陸部へ閉じ込めていた我々に突如として立ち塞がり、逆襲をかけている連中の正体。一応推測……のようなものはある』
『『ナノ・ファントム』だ』
『我々が負の感情で進化した存在なら、連中は護国の意思、希望、勇気、戦意、慈しみ……いわゆる正の感情で進化した存在、なのだろう』
『だがそうなると、だ。深海進化論と若干の矛盾が生じる』
『何より、発生源はどこだ?あの時点で海岸線の封鎖は完了していた。そもそもそんな進化の流れがあったのなら、前回の研究段階で気がついたはず……』
『いや、そもそも『ナノ・ファントム』とは、どこから来た?』
『……鍵はここにあると思われる』
『これ以上の研究はサルどもを追い払ってからだな。私も防衛の用意をせねば』
『可能ならば艦娘のさらなる鹵獲も行いたい。それに新造艦の試験運行だ。これは……連れていくだけでいいだろう。そこまで敵が進むことはないからな』
『何故なら全ての敵は、私の環境兵器『夜間結界』と『怨念機関』の前に鉄底海峡へ沈むのだから』
途中から妙な流れになっているが、艦娘?またわからん言葉が出てきたぞ。
尻尾に聞くか?いややめておこう、癪だからな。
次は……『妖精』?いきなりメルヘンになったな。
文書がある。
『正体不明』
……え?これだけか?
簡潔極まりない……。
資料は……何も写っていない写真ばかりだ。
床や、艦載機の中身の写真(空の座席)、どういう意味だ?
じゃあ次は……『ナノ・ファントムについての新説』?
『私は『ナノ・ファントム』を誤解していた』
『『ナノ・ファントム』とは原初生物ではない、細胞なのだ』
『強烈な感情に反応し変化する細胞』
『深海進化論など、くだらん妄想に過ぎなかったわけだ!』
『我々は肉体も、艦装も、どころか弾薬に至るまで全てこれで構成されている。いや、我々だけでなくあの艦娘たちも同様だ』
『工廠を丸ごと解析してようやくわかった。キルドローンの大半を失った甲斐があったというものだ』
『では、理論上鋼材から弾薬を、燃料からボーキを作れるはず』
『結論、無理だった。どうやらこれには微妙に異なる4タイプが存在するようだ』
『解体時に出てくる資材の割合が常に一定なのはそういうことと思われる。だが建造に使う資材と釣り合わない理由は……わからない』
『さてここで仮に鋼材、燃料、弾薬、ボーキサイトを構成する『ナノ・ファントム』をそれぞれI,F,P,Bタイプとする』
『これらの『ナノ・ファントム』は、それぞれ自己増殖機能を有しているようだ。Iタイプをただの鉄鉱石にかけたところ、それを喰らって増殖していた』
『だが興味深いのは、喰らい方が“浸食”とでも呼ぶべきものだったことだ。鉄鉱石にふりかけて一時間後、鉄鉱石を調べると、見た目は変わっていないのに組成がそっくりそのまま『ナノ・ファントム』の群体となっていた』
『連中よほど存在がばれることを恐れているようだ』
『しかし鉄鉱石に他のタイプを振り掛けても効果はなかった』
『こういった性質は4タイプ共通』
『とにかく、我々の装甲から装備まで、すべてIタイプで構成されているのは分かった』
『ならば、自在に構成を変更できる機能を造ることも可能ではないだろうか。いや、それだけでなく、艦内部で兵器の開発も行い、戦況に合わせて装備を変更するような……』
『実験は慎重に行わねば。もはや忌々しくも便利なヤツらはいないのだから』
……『ナノ・ファントム』、ねぇ。
この腕も、爪も、忌々しい尻尾も、すべてそれで出来ている、ねぇ。
賢い人ってのはすごいことを思いつくものだ(小並感)
ただ、興味深い考察ではあったものの、コイツどうやって『ナノ・ファントム』とやらを見つけたんだ?
目にも見えないのだろう?
ん?機材?『八型電子顕微鏡』?
……あぁ、あそこにあるアレか。なんかデカい胴体とちっちゃなレンズの付いた機材が確かにある。
すごいね(駆逐感)
さぁ次だ。
えーっと……中身がない?
空のファイルだ。
じゃあ次……これも空だ。
なら次……も空。
どうなっている。
とうとう最後のファイル……これも空だ。
「どういうことだ……?なぜ空のファイルがこんなにある?」
「あれじゃね?事前に作っておく派だったんじゃね?」
「なんだそれ」
……ん?更新日時……まさか!?
「おいどうした?」
「黙ってろ!」
ファイルを全て別々に開き、更新日時を確かめる。
……やはり!
すぐさまツルハシを召喚し、尻尾に怒鳴りつける。
「全周警戒だ!急げ!」
「ど、どうしたいきなり?!」
「見ろ!空のだけ更新日時が同じだ!さっき何か光ったのを見た、たった今までここに『誰か』がいたんだ!!」
「ッ!?
尻尾の甲板が次々開き、中から無人艦載機が出てくる。
あっという間に10機以上が展開、周囲に飛ぶ。
盲点だった。
ソナーを掻い潜れる存在がいるのだ!私のように偽装網を使える存在がいるのだ!
『完全に透明になれる存在』を考慮しておくべきだった!
私の防御力はそれなりだと思うが、それでも奇襲で頭を潰されれば死ぬ。私がやったようにな!
いや、こちらにはバリアがある。一応即死はないだろうが……。
「……ファック!何も見つかんねェ!」
「チッ!」
すぐに全てのファイルをコピーし、記録媒体を引き抜いて出口へ走る。
「後ろを見張れ!」
「任せろ!」
周囲を警戒しながらダッシュで飛び降りたところへ駆ける。
「じょうじ」
「お前も走れ!」
途中にいた黒人の肩も叩いて走る。
焦っているのが伝わったのか、ちらっと見たら黒人もちゃんとついてきている。
「尻尾!何か見えるか!」
「相変わらず何も見えねェよ!!」
そうこうするうちに到着!入口は15メートル上!
「階段を撃て!」
「もう撃った!」
尻尾の砲撃が入口の手すりを爆砕した。
「そぉら!!」
可能な限り上へ跳び、指先を尖らせ壁に突き刺す。
あとはそれを繰り返して壁を登り切り扉の破損部をくぐる。
「じょうじ」
お前飛べるのか便利だな!
黒人も出たので遠慮なく―――
「撃てェ!」
入口の天井を砲撃で崩す!
ガラガラと瓦礫が降り注ぎ、すぐに入口が塞がった。
……何も、いない、よな?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
誰もいなくなった研究室で。
ソレは室内の片隅にひっそりと潜み、誰もいなくなるのを待っていた。
やがて誰もいなくなったことを確認すると、ソレ―――『銀色の円盤』、UFOは『光学迷彩』を解除し、無音で垂直に離陸、名を忘れた怪物の弄くっていた機材の前に来る。
そうして円盤下部から出ているマジックハンド、それが手にしていた『記録媒体』を差し込んだ。
画面に『Loading……』と表示され、やがてひとつの映像が映し出される。
『―――ァ、ハァ、ハァ、……ハハハハハハ……笑えるな』
白衣の女だ。
背中に流れる白髪に、血のように紅い瞳。
頭には猫耳……に見えなくもない三角の角が二つ。
そして女は、かなりの重傷だった。
見える範囲では、片腕がない。傷口は肩ごと何かに喰い千切られたかのようだ。
全身の傷から黒煙と血を流し、特に背中から特大の黒煙が立ち上っていた。
『過去も未来も合わせた歴史上最高の頭脳を持つ、大天才メアリーも落ちぶれたものだ』
女は傍に合ったイスに倒れるように座ると、鬱屈とした目つきのまま話し出す。
『これか。これが私の最期だというのか』
『陸上艦装を剥ぎ取られ、施設内のコントロールもここ以外全て奪われた。それもこれも、あんなミスを犯したから……フフ……まぁいい。』
『既に研究資料のコピーと『ベヒーモス』は女王に送ったし、あの子は『ジズ』のもとにいる。もう、私は退場していいだろう』
女はどこか投げやりな様子で目を瞑る。
しかし、突然ふと顔を上げた。
『……いや、本当に私は、ミスを犯したのか?』
疑問のままに思考を回し始める。
『犯したんだ。うん、犯したからこんなところで命運尽きようとしている……』
『だが、いくらなんでも敵と味方を設定し忘れる何てことあるだろうか?』
『……私は、死にたかったのか?』
『……死ぬために造ったのか、『レヴィアタン』を』
答えらしきモノに当たった女は、しかしそこで考えることをやめた。
今更過ぎると思い出したのだ。
『……ハハ、どうでもいいか。どうせ死ぬのだ』
『なんにせよ、『レヴィアタン』はもう止まらん。与えた指令はただひとつ、『悪意のままに』だ』
『ただ一隻で全てが完結した超兵器。誰にも倒せない。誰にも殺せない』
『憎悪の生み出す悪意のままに、世界を喰らい尽くすその日まで、決して誰にも止められない』
女は狂ったように嗤いながら、歌うように言った。
『
『海を滅ぼせ『レヴィアタン』』
『その全てをただただ傍観せよ―――『ジズ』』
『願わくはその果てに、静かな海のあらんことを』
『……記録、メアリー・リコリス・ヘンダーソン』
そこまで言い切った女は、ぐったりと力を抜いた。
残った腕に顔を埋めるようにして画面の前にもたれる。
『……』
『……』
―――その肩が、徐々に震え始めた。
『……っく、ひっく…』
『ごめ、ごめんねほっぽ。お姉ちゃん嘘ついた』
『ホントはね、もう会う気なかったんだ』
『お姉ちゃん最近ね、記憶がバラバラなんだ』
『気づいたらいっぱい物が壊れてるんだ』
『だから、きっと、お前のことも壊してしまう』
画面の奥、女の背後で何か音がし始めた。
鋭い金属音だ。それも何度も何度も。
『だからここを封鎖した』
『私を出さないために兵器を増やしたのに、気がついたら全部私を攻撃しないように改造されてたり……笑っちゃうよね』
『でも大丈夫だよ』
『お前は、ジズが守るから。お前の世代には、世界は変わってるから』
鋭い金属音に、腹に響く重低音が混じる。
僅かな振動に画面が細かく揺れた。
『姉さんは、大丈夫かな?』
『貴女は、内気だけど武人だ。サルどもの卑怯な手にやられないか不安だよ』
『……言っても逃げないだろうから、試作品をありったけ送り込んだわけだけど』
『きっと、大丈夫だよね』
だんだん音が大きくなる―――運命がドアを叩いている。
『……』
『……』
『……』
『……』
『……ほっぽ、姉さん…』
『……怖い、よ…』
女がそう言った瞬間、その後方で爆炎が上がり、扉が吹き飛んだ。
同時に耳障りな哄笑が聞こえ―――映像の再生が終わる。
UFOはしばしフヨフヨと漂い、下部よりコードを伸ばしてパソコンと接続した。
データベースの情報が次々に消去されていく。
怪物の秘密も、怪物の親の遺言も、全てが電子の海へ泡となって消えていく。
そして最後に、画面に映し出された文字が、アナウンスとなって施設いっぱいに響き渡った。
『機密処理操作が行われました』
『一時間後にこの施設は消滅します』
そこまでやったUFOは、その場で自爆した。
黄緑の光を発して爆裂し―――後には何も残らない。
主人公が途中で読み飽きた続き、ちゃんとあるんですぜ……余りに長くなったから切りましたけど。
メアリーさんは深海のダ・ヴィンチ的存在です。
ただ、あまりに天才過ぎて周囲はまったく追いつけてません。
まぁこれで記録読み上げはしばらくない、かな?たぶんない!
あんまりやると台本形式になりがちで嫌だったんですよね。
目指してたのはバイオショックだったんですが。
あと、じょうじの出番はもうない!
あの漫画、タコが出た巻までしか読んでない……