私は艦娘または深海棲艦である。正体は未だ不明。   作:キノコ飼育委員

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サプラーイズ!

 光線が宙を走り、艦載機が爆発四散した瞬間、その場に新たな放送がかかった。

 

『演習場内で戦闘を確認しました』

 

『演習用ステージを起動、遮蔽物を出現させます』

 

 同時に床の一部が幾つもせり上がり、ちょうどお互いの姿を隠すような遮蔽物となった。

 

「チィ!またキテレツな仕掛けか!!」

 

 サウスゴータは舌打ちをひとつし、砲を構えて曲射体勢に入る。

 それに倣って戦艦二隻も砲の角度を上げた。

 そして一斉に砲撃、榴弾の雨を怪物のいた辺りへ次々に降らせていく。

 幾つかは遮蔽物に跳ね返され、しかし大半は向こう側で盛大に爆裂、空気が震えその凄まじい威力を伝える。

 

 それでもサウスゴータは歯噛みする。

 圧倒的な破壊力を売りとする戦艦だからこそ忌々しげに、たった今こちらの砲撃を『跳ね返した』遮蔽物を睨みつける。

 

(ええい、やはりここはおかしい!なぜただの壁が私の砲撃に耐えられる!?)

 

 だが考えたところで理解などできない。

 自らの腕に装備された新兵器と同様に、彼女には『そういうもの』として扱うしかないのだ。

 

 そう、ここはあの『埒外の大天才』、メアリー姫の研究所なのだから。

 

 

 さて、何故サウスゴータたちはここにいるのか?

 いやそもそも何故深海棲艦がこのクリスマス島にある研究所を攻略に来たのか。

 いやいや、何故味方の研究所を『攻略』しなければならないのか?

 

 それは、日数にして三日前に遡る。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 太平洋東部戦線において、深海棲艦は艦娘による人類の反攻作戦の前に敗北を重ね、戦線を後退させ続けていた。

 最前線基地であった泊地を失い、陸上包囲網は崩壊。

 大規模な陸上基地としていた鉄底海峡も、激戦の末に奪取され、オーストラリアまで追い込まれつつあった。

 

 オーストラリア北部港湾基地にて指揮を執る『姫』、パール・ブルーム・ダーウィン姫はこれに対し、インドネシア諸島を利用した防衛線を構築。

 押し寄せる艦娘に対し陸上砲台と潜水艦による奇襲、機動艦隊による海上封鎖を実行。

 

 しかし大規模な艦隊で波状攻撃を仕掛けてくる艦娘によってじりじりと追いつめられ、海上封鎖が崩壊。

 そしてついに、ビーグル湾深くまでの侵入を許すこととなる。

 

 この時点でもパール姫の士気は高く、残存戦力を結集、徹底抗戦の姿勢を崩さなかった。

 これには私情によるものも多分にあったのだろう。

 

 彼女の妹であるメアリー姫は、先の鉄底海峡防衛に於いて艦娘に対し圧倒的な戦果を挙げた。

 『神が全てを与えた』と謳われた彼女は、自ら開発した数々の新兵器と優れた指揮により艦娘艦隊を終始圧倒。

 幾度も人類の侵攻を跳ね返し、鉄底海峡が落ちることはないと言われていた。

 だが何という非業の厄難か、敵の放った新型弾頭、そのたった一欠けらが彼女の脳天深くに突き刺さったのだ。

 それによりメアリー姫は意識不明の重態、指揮系統は崩壊し、不落を誇った鉄底海峡は落ちたのだ。

 

 それだけではない。

 この敗戦で彼女が負った頭部の傷は完治出来ず、それによる影響かメアリー姫は発狂。

 荒唐無稽なことを口走り、時には味方にすら襲い掛かる始末。

 

 だがなによりも悲惨なのは、彼女は完全には狂ってはおらず、半分は正気のままだったことだ。

 時に狂気に飲み込まれ、時に正気に戻り、彼女は壊れていく自分自身をまざまざと見せつけられた。

 

 そしてついに彼女は、研究所の扉を固く閉ざし、自らをそこに幽閉した。

 それが12月のことだ。

 

 それからも彼女は、研究所内に閉じこもったまま幾つもの兵器を開発し、新たな論文を発表した。

 研究所の搬入口には連日資材と彼女の注文したモノが届けられ、しかし彼女の姿を見た者はいなかった。

 施設は自動化され、誰の手も借りずに動くようになっていった。

 

 彼女が中で何を研究しているのか。

 それを知る者はいなかった。

 

 いつしか彼女は何も発表しなくなり、しかし運び込まれる資材は増え、彼女の希望する研究材料も種類を増していった。

 

 そうして二か月が過ぎ、三か月が過ぎ―――4月、艦娘による反攻作戦が再開された。

 

 ビーグル湾での決戦は凄まじい激戦となり、敵味方共に大きな損害を出していく。

 しかし艦娘側には、いったいどういった原理なのか、轟沈を回避する手立てがあり、練度の高い艦娘を保持し続けた。

 対し深海側にはそういった手段がなく、無尽蔵に沸くとはいえ、高度に進化した個体を削られ統制が崩壊しつつあった。

 

 そしてあわやポートワインも陥落かと思われた、その時だ。

 

 西の方角より謎の艦隊が出現、艦娘たちの背後を強襲した。

 謎の艦隊は少数ながら凶悪な性能を誇り、艦娘艦隊を蹂躙、ついには潰走させる。

 

 新たに現れた謎の艦隊はポートワインのパール姫に合流、自らを『ワルキューレ艦隊』と呼称した。

 

 そしてその所属を聞けば、なんとあのメアリー姫の遺作だと言うではないか。

 パール姫はそのことに喫驚し、すぐさま生死を確かめるべく艦隊を派遣した。

 

 しかし研究所は――――暴走した防衛設備によって守られていた。

 

 派遣された最初の艦隊は救援要請を最後に音信不通。

 第二派遣艦隊も同じく碌に状況を伝えることも出来ずに消息を絶つ。

 

 縦続けに行方不明となった艦隊、それを踏まえた第三、第四派遣艦隊は陸上艤装でギリギリまで接近、艦載機による偵察の末にそれが目的地である味方施設からの攻撃であると断定。

 陸上艤装のまま人間大の大きさを活かして突撃し、超至近距離で外洋艤装展開、集中砲火で沿岸部を制圧した。

 それでもなお被害が出ており、艦隊は撤退を余儀なくされた。

 

 しかしだ。

 その時の生き残りが僅かながら持ち帰った“戦果”。

 これが全てを一変させた。

 

 “誘導ミサイル発射台”

 

 長距離から驚異的精度で飛来、駆逐艦を即座に撃沈し、戦艦すら一撃で大破に追い込む。

 装弾数は4発、沿岸に設けられていたソレはやってきた部隊を文字通り半壊させ、弾切れで機能を停止した。

 これが派遣艦隊を消滅させていたのだ。

 

 問題は、この兵器が『自分たちも装備できた』という点だった。

 

 人間相手の戦争は開戦当初、人間どもの使用してくる兵器は一切こちらに効力を為さなかったが、技術力だけで言えば間違いなく深海側を圧倒していた。

 

 これら撃沈した軍艦をサルベージ、こちら側の艤装に転用する試みがなかったわけではない。

 しかしこれらの兵装を外洋艤装に搭載、実験したところ、原因不明の接続不良を起こし全く操作を受け付けなかった。

 

 どれだけ手を尽くしても使用できず、どころか外洋艤装から陸上艤装へと変形した途端装備が外れて潰されるor謎の爆発を起こすといった事故が多発。

 ついには深海棲艦は、現代の優れた科学技術の結晶を諦めざるをえなくなった。

 

 

――――これまでは。

 

 

 そう、もしもこのような新たな兵器を回収し研究、量産することができたなら?

 艦娘のような時代遅れの軍艦ごとき、鎧袖一触にできるはず。

 そうなれば時計の針を艦娘登場前まで巻き戻せる。

 いや、もしかすれば、今までの悲願であった陸上の制圧も可能になるかもしれない。

 

 こうして深海棲艦の本国は、犠牲の一切を考慮しないごり押しによる攻略を開始したのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 生き残っていた僅か10機足らずの敵艦載機が迫る。

 再びサウスゴータの手から光線が走るが、これを艦載機はデタラメな軌道で回避、一瞬で距離を詰めてくる。

 

「チィ!!」

 

 サウスゴータたちが全ての砲を向け迎撃を行おうとしたその時、突如後方から艦載機が飛来。

 一瞬ながら激しいドッグファイトの末に全て撃墜した。

 

「援護します。サウスゴータ様」

 

 振り返れば、蒼いオーラを纏う空母が艦載機を展開しているところだった。

 心強い味方の援護、しかしサウスゴータは怒りを露わに怒鳴りつける。

 

「人造の姫からの支援など必要ない!下がっていろ!!」

 

 『人造の姫』。

 

 それは最近『建造』されるようになってきた、姫級たちのことだ。

 『進化』ではなく最初から『姫』として生まれるため、『進化』によって『鬼』となった者たちからは(はっきりとした抗命こそないが)侮られがちである。

 『姫』に至ってはあけすけに悪意をぶつける者もいるほどだ。

 

 そしてここにいる南方棲鬼サウスゴータ・ベレロフォンは、パール姫から応援として派遣された身であり、心情的に戦艦棲姫サリー・オクラホマの指揮下である彼女が気に入らない。

 

「……ハッ!では、私は後退します」

 

 そう言ってフラグシップヲ級改、『ヲパール』は通路奥へと走り去って行った。

 

「チッ、余計な手出しを……ん?」

 

 改めて前を向き、再び砲撃に戻ろうとしたサウスゴータは見た。

 こちらが砲撃を加えている遮蔽物の後ろから何かが出てくるのを。

 

 一言で表すならば『白い塊』。

 そしてそれは『戦車』に似ていた。

 履帯こそ見えないが、前面から後ろへ流れるような真っ白な装甲が存在し、何故かドリルが突き出ている。

 そして巨大な砲が一門乗っている。

 上から見れば三角形の一角からドリルが突き出し、面に砲台が乗っていると言ったところか。

 

 その主砲は真っ直ぐにこちらを指向し―――

 

「危ナイ!」

 

 サウスゴータの最も近くにいた戦艦が、彼女を突き飛ばした―――瞬間。

 

 砲声。

 

 こちらの一斉射とは比べ物にならない、ドーム全体が爆発したとまで錯覚させる巨大な一発の砲声。

 

 同時にサウスゴータを突き飛ばした戦艦が『消し飛んだ』。

 それとともに後方の壁に着弾、大爆発を引き起こす。

 

 突き飛ばされたサウスゴータが立ち上がると、後ろの壁には大きなクレーターができていた。

 

「なんという威力か!」

 

 そう思わず呻くが、しかし砲が巨大ということは比例して装填までの時間も長大だということ。

 今のうちに残った雷巡と戦艦、そして自らの全武装を叩き込めば十分に勝てるだろう。

 

「怯むな!今こそヤツに止めを―――」

 

 

 ―――――先に言っておくと、その判断自体は正しかった。

 

 突然現れた未知の敵、それが放つ桁外れな一撃という異常事態に遭遇したにも関わらず、素晴らしい指揮だった。

 流石は百戦錬磨の『鬼』といえた。手放しに賞賛できることだろう。

 事実、戦車もどきはその強力な主砲をもう使わなかった。

 

 ただ。

 

 ただこの施設は、そう言った常識に捕らわれたヤツから死んでいく。

 

 

 一瞬、サウスゴータの耳に何か大きな、『息を吸うような甲高い音』が届いた。

 彼女が生まれてから一度も聞いたことのない、しかし何故か『高まっていく』ようなイメージを自然と受け取れる音。

 

 そしてその次の瞬間、サウスゴータは戦車もどきのドリルに突き刺さっていた。

 

「さズェ!?ガハァッ!!」

 

 先ほどクレーターと化した壁に衝撃とともに縫い付けられる。

 

「なッ……ガァ…!!?」 

 

 理解不能。

 

 先ほどまでこの戦車もどきは、確かに50メートル向こうに存在していたのだ。

 だというのに、だというのに何故ここで自分の腹を貫いているのか?!

 

 そう、サウスゴータの脳内が混乱で埋まっていると、ひどく不快な声が目の前から聞こえてくる。

 

「理解できましぇーんってツラしてんなぁシャハハハハ!!」

 

「まぁ理解する必要はないさ。ここで死ぬのだからな」 

 

 目の前の戦車もどきの装甲が、正面から左右に割れた。

 

 その中には、邪悪に嗤う怪物の姿が―――――

 




視点移動がややこしくなりそうだったのでここで切ります。
次は遮蔽物が出てからの主人公視点。
そう遠くないうちに更新できるよう私は最大限の努力を払いたいと思う所存であります(大本営発表)

ちなみに、飛行場と港湾で苗字違うじゃないと思われるかもですがそれは人類の文化であり深海側ではまた違った文化がうんぬんかんぬん。
ぶっちゃけると相応しいファミリーネーム思いつかなかっただけです。申し訳ない。
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