私は艦娘または深海棲艦である。正体は未だ不明。   作:キノコ飼育委員

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レイジング・ビロウズ(2)

 開戦の号砲が轟き、荒波に水柱が数えきれないほど立ち上がる。

 

 サリーの傍らに居た駆逐艦4隻が直撃を貰い一気に爆散した。

 斜め上から打ち下ろされた46センチ砲弾が、駆逐艦を上から下まで貫通したのだ。

 

 サリーは奇跡的に無傷、敵のすぐ傍らに居たためか、砲と砲のちょうど間に挟まれる形で助かった。

 ……代わりに周囲の駆逐艦が犠牲になったわけだが。

 

 「ッ()ェー!」

 

 二度目の斉射がサリーの船体を揺らす。

 こんな巨体だ、交差射撃など不要だろう。

 撃てば全弾命中する。

 

 だが自身の誇りであった16インチ砲が、今ではどこか頼りない。

 この圧倒的怪物が相手ではどうしても意識が萎縮してしまう。

 それでも戦意を奮い立たせ、持てる火力を全力で投射しなければ戦いにもならない。

 

 三度(みたび)、主砲を一斉射。

 

 それに続く形で他の艦からも砲撃が飛んだ。

 闇の中、海域のあちこちから赤熱した砲弾が夜空へ飛びあがり、流れ星のように弧を描いて怪物のどこかしらに命中する。

 爆発した砲弾の焔が怪物を照らし出す。

 サリーの砲撃も全弾命中だ。これほどの集中砲火を受ければ、例え大和型戦艦だろうと跡形もないだろう。

 

 だがそれでも、怪物は小動(こゆるぎ)もしない。

 

 静かな海を荒らすがごとく、無数の爆撃隊が喊声を鳴らして飛び込んでくる。

 腹に抱えた爆弾が次々と切り離され、ヒュルルと落ちて怪物の背中に命中する。

 戦闘機が手持無沙汰に機銃をばら撒き、蝗の大群のように怪物の周りを飛び回る。

 これほどの大空襲、大阪だろうとニューヨークだろうと灰塵に帰すだろう。

 

 だがそれでも、それでも怪物には焦げ跡ひとつつかない。

 

 命中した砲弾は化け物の船体にぶつかる寸前に爆発した。

 まるで『見えない壁』にでも当たったかのように『空中で』弾かれているのだ。

 

 その正体を知る彼女からすれば、それは信じ難い衝撃であった。

 

「あれは、まさか『ブルー・アーマー』か!?そんな馬鹿な!!」

 

 『ブルー・アーマー』とは深海棲艦、それも姫級や鬼級、またはそれに準ずる実力者、艦隊総旗艦に配備される特殊艤装だ。

 高度な進化を遂げた艦を守るため、非常に貴重な資材によって開発された,陳腐な言い方をすれば『バリア』と呼ぶべきそれ。

その堅固な護りを彼女たちは突破できないでいた。

 

『ハハハハハ!!無駄、無駄、無駄無駄無駄ァ!!』

 

 怪物の哄笑に重なるように、あの45センチ戦列砲の砲撃が行われる。

 図らずも直前に彼らが陸地へしたように、彼らも砲撃による面制圧で押し潰されていく。

 一撃が命中するごとに1.4トンの砲弾が深海棲艦を景気よく粉砕していく。

 

 運よく砲弾が掠めるだけで済んだモノ、中破で煙を吹いているモノがひたすらに、咆哮を上げながら撃ち返すが、やはり『壁』に遮られダメージが通らない。

 そうこうしてるうちに狙いを付けられ反撃に撃砕される。

 

そして必死の抵抗を嘲笑うように,怪物がさらなる攻撃を繰り出した。

 

『さぁ!遊びは終わりだ!』

 

 怪物の背中、そこにいつの間にか対空機銃の群れが鬣のように突き出しており、空への反撃を開始。

 

 さらに怪物の装甲にあった隙間、そこから一斉に火柱が噴き出し、航空機を撃ち落としながら加速を始めた。

 それと同時、船首の巨大ドリルも再び回転を再開、そのうえ怪物の喫水線から下ではハイドロジェットエンジンが火柱でなく水流を吐き出す。

 それらの圧倒的勢いに荒波が立ち海域そのものが逆巻いていく。

これが先程まで起きていた現象の正体かと、サリー・オクラホマは戦慄した。

 

 恐らくドリルによる吶喊を行うつもりなのだろう。

 直撃すれば先の軽巡のようにされてしまうのは想像に難くない。

 だがあの巨体だ、回頭するにもかなり大回りに移動しなければいけないだろう。まして同航戦からこちらを追い越し、さらに突っ込んでくるにはもっと時間がかかるはず。

 ならばこちらは小回りを―――戦艦の身でこんなことを言うのもおかしいが実際相手より遥かに小さいのだ―――活かして機動戦を仕掛ける!

 

 ―――いい加減、予想が外れるのも、常識がぶっ飛ぶのも、なんというか慣れてきた。もう麻痺した。

 

 その巨体が、目の前で文字通りバナナのようにぐにゃりと『曲がり』、結果怪物は予想を遥かに越えた急旋回を果たした。

 

 装甲にある火を吹く隙間、それらを関節に、蛇のように全身を曲げ、無理矢理に急旋回を果たしたのだ。

 さらに先ほどサリーが見たヒレもまた、その急旋回に一役買っていることは想像に難くないだろう。

 

 そしてその先には、もちろん哀れな獲物の姿が―――。

 

『削れて死ねぇ!!』

 

 巨大なドリルが深海棲艦に喰らいつく。

 ド派手な金属の破砕音が噛み砕かれた船体の断末魔となって海原をかけた。

 

 さらに艦隊のど真ん中を突っ切りながら両脇へ砲撃を敢行。

 今までと違い、まるで『ちゃんと狙いを付けた』かのように砲撃が命中していく。

 

 蹂躙。

 

 その光景は、たった二文字で表せられる、残酷な現実だった。




あれ?いつの間に半年経ったんだ…?
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