私は艦娘または深海棲艦である。正体は未だ不明。 作:キノコ飼育委員
「このツルハシ、どっから出したんだ……?」
しげしげとツルハシを眺めまわしていると、尻尾が口を挟んできた。
「
「出し入れ自由?……あ、本当だ」
適当に消えろと思った瞬間ツルハシは掻き消え、出ろと考えた瞬間に再び出た。
便利だな。
で?
「『ぎそう』とは?」
「……お前憐れなくらいモノ知らねぇな。俺らの武器だよブ・キ」
武器?これが?
……まぁ、適当に振り回すだけで相手を殺せるのは先ほど見た通りだ。
武器、といえば武器と言えるのかもしれない。あくまで言い張ればだが。
さて、徐々に熱も引いてきた。見れば怪我も粗方修復されている。
コートの前を閉じながら“気分はバケツだな”と呟いてみる……バケツ?
まぁいい。とにかく人心地ついたわけだ。
とりあえずパパッともといた場所(なにかしらのホール)まで戻り、私は手に入れたものを検分することにした。
先ほど殺した連中の、あの空母。
彼女の服のポッケに妙なものが入っていたのだ。
その時は食事優先でその辺に置いといたが、こうして考える余裕が出た今興味深い対象といえる。
「ふむ、これは……」
手のひらサイズの四角い物体で、側面に『雑記』と記入されている。
と、ここで尻尾が後ろから覗き込んできた。
「何かの記録媒体だな。どれ」
そう言ってそのまま流れるようにパクリ。
私の腕ごと口にいれて器用に舌でそれを絡め取り腕だけ吐き出しやがった。
すぐさま無言の肘打ちを叩き込む。
その衝撃でヤツの口から飛び出したソレをキャッチする……唾液まみれで実に不快だ。
「貴様何のつもりだ?どんな悪意があって私の所有物を奪った?これが茶菓子か何かに見えたのかな?」
「ぐぇほっげほっ!何しやがるファッキンサノバビッチ!読み込んでやろうとしてたのによ!」
「読み込む……?」
「おうよ、記録媒体なら喰えば読み込めんだよ。そしたらそのデータを共有すりゃいいだろ!?それをテメェ……」
「ご苦労、速やかにやりたまえ」
喧しくなりそうだったのでさっさと口に突っ込んでやる。
ソイツがえづきながら飲み込むのを横目に、“しかし不思議だ”と思考を回す。
便利なのはいいがどうにも私の持つ情報が少なすぎる。何故こうも私はモノを忘れているのだ?というか何故コイツはこんなに情報を持っている?
いや、思い当たるフシならある。
そっと手を頭にやればべたっとした感触。先程の発熱で血が微妙に乾いたのだろう。そこにはかさぶたのようなモノがある。流石に一度ではあの深い傷は回復しきらなかったらしい。体はかなり回復しているのに。
とにかくこの頭に出来た傷が原因で、私は記憶喪失になったのではないだろうか?つまりは物理的なソフトの破壊だ。
それによって大規模な情報の崩壊が起きている、と考えるのが自然か。
「おい、解析できたぞ。再生すンぞ!」
おっと、終わったのか。
とか考える暇もなく頭の中に音声が響いた。
『今日は……あー、“あの日”から何日目だったか?最近記憶がよく飛ぶ。特に今日みたいに上が晴天な時は特に特に特に。……さて、なんだったか?あぁそうそう、哨戒に出した連中が敵の輸送艦を撃沈、資材と糧食を強奪してきたんだ』
気だるげな女の声だ。死にそうなネガティブ調の声。
少なくとも私の声ではなさそうだ。私はもっと張のある声を出す。
『タマゴにブタニク、トリニクにコメ、ヤサイ、クダモノ、カンヅメその他いろいろ。我々には無用のゴミだが学術的興味から今から適当に料理を行う。一緒に手に回収したこの料理に関する書類によれば「料理ハ化学ナリ」だそうだ。ならばこの天才である私に作れないはずがない』
ほう、自らフラグを立てるか……誰かは知らんがわかっているじゃないか。
『―――結論から言えば、焼くことには成功した』
そりゃそうだ。
『そしてこの料理書の間違いも発見した。料理とは「化学」ではなく「芸術」である。となれば化学と科学において卓越したセンスを持つが芸術には疎い私ではそもそもこの『目玉焼き』を作るのは不可能だったのだ』
さすがに私でもそれが簡単な部類だと知っているぞ。
『まぁいい。……ッチ!また頭痛がする。やはり一度大規模に改修工事を受けるべきか。だが、妖精どもが正しければその場合私の意志は……頭の痛みはひどいが、消えるのはゴメンだ。やはり耐えよう。少なくとも、今やっていることが終わるまでは』
「再生終了だ!日記か?コイツァよ?」
「知るか。だが『雑記』というタイトル通りとりとめのない記録なのだろう。何故そんなものを残したかは知らんが……」
「ほーん。ま、どうでもいいわな」
「まったくだ……しかしこれからどうするか」
腹は満たされた。怪我も粗方治った。
だが結局右も左もわからないのに変わりはない。
ここがどこなのか、私は誰なのか?
どうすれば知ることができる?
「とりあえず歩き回りゃいンじゃね?」
「ふむ……一先ずそれでいいか。適当な誰かが見つかるかもしれんしな。食べる前に話を聞くことぐらいできるだろう」
「連中に言葉が通じるかはわかんねえけどな!シャハハハハ!!」
まぁ一先ずは行動だ。何事も一歩踏み出すことで始まるのだ。
そう考えた私は、ホールの入り口から鬱蒼とした廊下へと歩き出した。