私は艦娘または深海棲艦である。正体は未だ不明。 作:キノコ飼育委員
さてさてあれから私は鬱蒼とした廊下をてってこてってこと歩いているところだ。
鬱蒼とした、といっても分かりにくいだろうから、適当に叙景詩的表現を付け加えてみよう。
まず……あー、暗い。で……暗いな。うん。光源はところどころにあるが廊下を照らしきるには到底足りない。むしろ影がより濃くなっている。
天井の高さは普通。上に手を伸ばしてジャンプすれば届くくらい。
あ、あと磯臭い。いや海の臭いと言うべきか。
まぁそこら中で浸水しているしな。今も水の流れる音がそこかしこで聴こえてくる。
それに現在私が歩く道も膝まで海水に浸かっているし。
あと所々壁や天井が崩壊してコンクリが零れているところがある。
階段やエレベーターらしきものは今のところ見当たらない。
まぁ見てもまだ行かないだろうがな。この階層を見てからだ。
そういう理由で、私は前回獲物を見つけた方向とは逆に歩いている。
前回はホール出て左、今回は右。実にわかりやすい。
「ファック!!クッソボロいな!カビ臭ェし磯臭ェし鉄臭ェしよ!そのうえ陰気臭ェときた!やってられねェな!」
「いきなり喧しいぞ。品のない口をきくな不愉快だ」
まったく……む?まてよ、ならばここは海中なのか?
こんなにもだばだばと海水が入ってきているのはそういうことなのだろうか?
窓のひとつでもあればわかるのに、周囲はコンクリ固めだ。
と、しばらく代わり映えのないコンクリ廊下を進んでいると、行く先に潮で錆びた鉄扉を発見。
扉には『メアリー』というプレートが貼られていた。
「『メアリー』か。名前が書かれたプレートがあるということは、そいつの部屋ってことだよな?」
「誰がこんな場所にいンのかね?こんだけ荒れ果ててンのによ」
「さあな。ま、いてもいなくても手がかりくらいあればいいのだが」
「かゆうま日記とかあったら笑えるな!シャハハハハ!!」
「ふん、我々自体下手なゾンビより化け物だろうに」
「まんま
くだらん馬鹿笑いを聞き流しつつ目の前の鉄扉をひら、鉄扉を……うん、枠もろとももぎ取った。
錆び付いて動かなかったからな。仕方のない措置だ。
もいだ扉は尻尾の口に放り込んだ。バキンバキンという硬質な音を響かせてヤツの口に消えていく扉。
「ゲェップ。
かなりテンションが下がった声だな……ホントに不味かったらしい。
まぁいい、とにかく中に入ろうか。
と、中に入ってまず目についたのは窓だ。
入って左側の壁一面がガラス張りの窓になっていた。
そして外は―――美しい。
真っ暗な闇の世界に、一面の紅い灼熱の水溜まり。
ごぼごぼと弾けた焔はすぐさま黒く固まり、弾け、消えていく。
熱せられた水が白い泡となり、太い柱となって聳え立つ。
間違いない、火山だ。それも海底火山だ。
美しい……なんというか、星の
「オースゲェ!アメイジング!!」
「うむ、綺麗だ……」
……よし、探索の続きといこう。
どうやらここはメアリーの部屋のダイイングルームに当たるようだ。
磨かれた金属の机に、クッションの敷かれた金属の椅子がある。
海底火山を眺めながらの食事か……風情があるな。
ん?テーブルに何かある。
ひょいと拾って見てみれば、『雑記』と書かれたあの記録媒体のようだ。
別のやつだな。
「おい尻尾、出番だ」
「オーライカモン」
ヤツの口に放り込み、しばらくすると頭の中に音声が再生される。
流れてきた声は……前の女と同じだな。
だがしかし、前回のものよりも一層声に生気がない。
『あー……何を言えばいいのやら。とにかく、なんというか……うん。絶望した。絶望したんだな私は』
『私は、我々は何のために戦ってきた?ひとえに我らの領域からサルどもを追い出し、正しき秩序を築くためだ』
『我々の世界に攻撃を仕掛けてきたサルどもを、分相応の場所に閉じ込めるためだ』
『だがどうだ?フタを開ければ……ハハ、ハハハハ……ただの代理!代理戦争の傀儡だ!』
『ハハッハハハハ!!くだらない!実に滑稽だ!笑うしかないではないか!!ハハハハハ!!』
『んァ?いやいや……君たちを恨む気はないよ。と言うよりなれないのかな?フフ、どうでもいいか……ただ私は疲れた。疲れたよ……本当に』
『あぁ、頭が痛いなぁ……』
「終わりだ。なんつーか、正気度喪失って感じだな。クトゥルフでも覗いたのかね?」
「かもな。というかこの女、『誰か』と話していたな?それも複数だ」
「さっき俺らが食っちまった連中じゃね?この女も一緒によ」
「だとしたら傑作だな。その上記憶を失う前は仲間だった可能性すらある。記憶を取り戻した結果、我々は泣き崩れることになるやもしれんぞ……そう思うと、なんだろうか、この胸に浮かぶ気持ちは…」
「シャハハ!鬼畜の笑みだ!マザーファッカーの浮かべる顔だ!シャハハハハハ!!」
言われて顔を触れば、ハハ、確かに嗤っている。それに妙に胸が弾むな、スキップのひとつも踏みたくなる気分だ。
まぁあれだ、本能的にエサだと思えた連中だ。仲間なわけがない。
さぁ、探索の続きだ。
ざっと見渡したところ、簡単な造りの部屋だ。
目につく扉は入って来たのを除けば全部で四つ。
あの大きな窓以外に窓は無し。
照明はあるな、スイッチはどこだ?いや、見えてるから必要ないか。
キッチンは……何もないな。調理器具しか見当たらん。
この部屋は……寝室。んー、タンスや本棚の類いは無し。日記のような明らかな手がかりが欲しいのだがな……。
で、こっちの部屋は……バスルームか。特に面白そうなものは無し。血のバスタブとかがあったら笑えたんだが。
……!
私の目の前に、少女が立っている。
真っ白で光沢のあるレインコートを着て、妙なマークの入ったネックウォーマーをしている少女は、こちらを呆然とした面持ちで見ている。
私がフードを取ると、その少女も取った。
大理石のように硬質な白を帯びた短髪は、バックリ割れた傷によって赤黒いアクセントが添えられている。
本来の目玉の代わりに黒真珠でも埋め込んだかのような目は、どことなくサメの無機質な瞳を想起させる。
ポカーンと開いた口にはこれまたサメのようにギザギザした歯。でも勘違いするな、臼歯だってちゃんとあるんだからな!
「おい、どうした?鏡見てボッとして。……あぁ、確かにお前はヒデェ面だが、そう気を落とすな人間中身だ。ってお前は中身もクソだったなシャハハハハハぶべぇ!!」
無言で裏拳、ヤツの鼻っ柱に叩き込む。
「黙れクズが」
おっと。本音が漏れた。
とにかくこれが私の容姿か。
ふぅむ……そこそこだな。肌も綺麗だし、目もパッチリしている。いささかパッチリしすぎている気もするがな。
しかしこうして改めて確認するとひどい傷だな。
頭のこれ、額から後頭部まで大きく裂けている。
いったい何がどうしてこうなったのやら。鉄球でもぶつけられたか?
記憶を失う前の自分はいったい何をやらかしたんだろう?
―――ん?
頭に走るバチッとした感覚。
同時に脳裏に映る、複数の影。
「おい……お客さんだぜ」
「そのようだな」
さて、家主ではないが……おもてなししなければ。
主人公の容姿がようやく…!