「さて、どこから話したもんか。」
机を挟んでソファに座ると老婆はゆっくりと口を開く。
「私はそらの祖母の時之海です。」
「えっと山本さつきです。」
自己紹介を済ませると、そらがさつきと出会ってからのことを海に話す。
そらの話を一通り聞いたところで、海はそらに質問をする。
「それで、今回のことは宝珠に関わることでいいのか?」
そらは静かに頷く。
「この世界では遥か昔、邪悪なるものを倒した女神様がおってな。戦いが終わったあと、何かあったときにこの世界に降臨できるように一緒に戦った3人の戦士達に宝珠を授けたんじゃ。全ての宝珠が揃い、女神に仕えた巫女の力を受け継ぐ者が儀式を行った時、女神様が降臨なさる。だが、その儀式を行う際に異界から来た"ホログラム"を女神様と融合させると女神様は世界を滅ぼす邪神となって降臨なさる。さつきさんはそのための生け贄として、何者かにこの世界に連れてこられたのだろう」
さつきはあまりの衝撃に言葉が出てこなかった。
「女神様は古の戦いでは時空を超え、別世界からも協力者を呼んだと伝えられておる。女神様に頼めば、さつきさんを元の世界にかえしてくれるだろう」
さつきは帰る方法があることに少し安堵しつつ海に尋ねる。
「その儀式はすぐに終わるんですか?」
「3つの宝珠はそれぞれ離れた場所に安置さているうえ、巫女の力の継承者が直接取りに向かわなければならない。その巫女の力は代々時之家が受け継いで来て、今はそらがその力を受け継いでおる」
さつきはそらの方を見ると、少し気恥ずかしそうに笑っていた。
「まだ受け継いだばかりだけどね」
「そらには一人で宝珠を取りに行ってもらうことになる。大丈夫か?」
海の問いにそらは、力強く答える。
「大丈夫何とかしてみせるよ」
海はさつきの方に向き直る。
「さつきさんはそらが帰ってくるまでこの家に居なさい。ここに居ればまず問題はないだろう」
さつきは疑問を投げかける。
「そらさんがひとりで行くんですか?いくらなんでも危ないんじゃないですか」
「さつきさんはあずきの事を少し聞いたのだろう?」
さつきは頷く。
「1週間前、そらとあずきは一緒に誘拐されたんじゃ。この家の近くでな。だから、相手はこちらの動向を察知できるものとして考えるしかないだろう」
ここまで聞いたところで玄関の方からガチャっという音がした。
「そら!!」
「お母さん…」
部屋に入ってきたそらの母親である華はそままそらを強く抱きしめる。続けてそらの父親である進一が猫を連れて入ってくる。
華はそらを抱きしめたまま、海の方を見る。
「御母さん、やっぱり私も行きます!そらだけひとりで行かせることなんて出来ない!!」
「華、昨日も話だろう。あずきがとらわれている以上下手な行動はできないと。」
「でも…」
「はな、気持ちはわかる。わたしとて、そらだけで行かせたいわけじゃない」
海に続いて進一が華をなだめるように語りかける。
「こういう時のためにそらには色々教えてきたんだろ。ここはそらを信じよう」
何とか華をなだめたところで、海が口を開く。
「わたしは色々準備をしておくから、今日はみんな休みなさい。進一さん、こちらのさつきさんのこともお頼みます」
「分かりました。それじゃあさつきさんこちらへ。そらと華も行こう」
進一に促され、3人は隣にある、そらの自宅のリビングへと移動する。
「とりあえず何か食べよう。簡単なものしか出せないけど」
そう言うと進一は冷蔵庫を開けて食事の準備をする。
そらは一緒に戻ってきた猫のファミにゃんの相手をしていた。
「ファミにゃん、ごめんね、寂しかった?」
ファミにゃんはニャアニャアと鳴きながらそらの足に体を擦り付けている。
「準備できたから食べよう」
4人がテーブルに着くと他愛のない会話をポツポツとしながら食事をして、この日はそのまま寝る流れになりさつきは客間に通される。
軽くシャワーを浴びたさつきは眠りにつく。
*
さつきはふと目を覚ます。明け方なのか部屋はまだ薄暗い。
ぼんやりと見える見慣れない部屋に戸惑うが、すぐに昨日の出来事を思い出した。
(そっか、今は違う世界にいるんだっけ)
目が完全に覚めてしまったさつきはとりあえずトイレに行こうと部屋を出る。トイレから戻る途中リビングの扉から光が漏れている事に気づいたさつきはそのまま扉を開けた。
リビングにはコップを手にしたそらが座っていた。
「おはようさつきちゃん。朝早いんだね」
「今日はなんか目が覚めちゃって」
「そっか。わたしもあまり眠れなくて。」
さつきはそらの後ろの壁にあるポスターを見けるとそのポスターに近づいて眺めだす。ポスターにはそらを中心として3人のアイドルが描かれている。1人は昨日森で出会った星街すいせいだった。もう1人は黒いロングヘアーに内側だけピンクに染めた、アイドルと言うよりは歌姫のような衣装の女性が描かれていた。ポスターの下の方にはときのそら、AZki、星街すいせいと書かれている。
「この人があずきさん?」
「そうだよ。」
「懐かしいな、この頃は頑張ることに夢中で後ろを見る余裕もなかったな」
懐かしそうにポスターを眺めるそらをみて、さつきも改めてポスターを見る。よく見ると茶色いそらの瞳は青く、星の髪飾りには赤いリボンがついている。
「このそらさんなんかちょっと違うね」
「アイドルの仕事してるときはカラコンしてるんだ」
さつきはそらの方を振り返るとずっと気になってる事を聞き出す。
「本当に一人でいくの?」
「こんな時のために色々教えてもらったから大丈夫。それにわたしは一人じゃないから」
「一人じゃない?ああ、えっとぬんぬん?とあん肝?の事?」
「そう、あん肝とぬんぬんはわたしの友達なの!本当はね、そらザウルスもいるんだけど恥ずかしがり屋だから中々人前にはでてこないの」
今までの会話からは想像つかない興奮した様子で会話をするそらをみてさつきはふと思った事を口にする。
「今の話し方、なんだか赤ちゃんみたい」
「赤ちゃんじゃないもん!」
「ぷ、あははは!」
そらの言葉を聞いたいたさつきは余計赤ちゃんにしか思えなくなって思わず笑い出す。
「なんで笑うの!」
「だって、聞けば聞くほど赤ちゃんなんだもん。」
「笑わないでよ!んねぇぇぇ!!!」
笑いながら答えるさつきのに頬を膨らませるそらの姿はまさしく赤ちゃんだった。そらが赤ちゃんであることを否定すればするほどさつきの笑いを誘った。
「!」
そらは何かを思い出したかのようにリビングの窓を開け、夜空を見あげる。
「急にどうしたの?」
さつきはそらの後を追うように夜空を見あげる。
「きれいな星空」
夜空に見惚れるさつきの隣で、そらはある一点を見つめ続ける。
「やっぱりわたしは一人じゃない」
そう呟いたそらは誰かに向けて語りかける。
―ありがとう!また来てくれたんだね―