村での一夜が明けた朝、見回りを兼ねた朝の散歩をしていたノエルとフレアが村に帰ってきていた。
2人が家の前まで来ると、さつきとそらが家の前で何かと話しているのが見えた。
「あそこ、そらちゃんとさつきちゃんがいるよ」
「本当だ、お~い」
ノエルが手を振って声を掛けると。
「そらちゃんさつきちゃんおはよう。さつきちゃんはケガの方は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「そっか、それはよかった」
「ノエルちゃんとフレアちゃんはどこか行ってたの?」
「団長とフレアはちょっとお散歩に行ってたよ。そっちは何してたの?」
「あのね、今わたしのおともだちが来てたの」
「そらちゃんのおともだち?」
ノエルが聞き返すとそらの足元にあん肝とぬんぬんが現れる。
「こっちのクマさんがあん肝で、こっちがぬんぬんだよ」
「あらかわいいね〜。2人ともよろしくね」
ノエルが笑顔で挨拶する一方、フレアは少し不安そうな顔をしていた。
「この子たちってマスコットなの?ホログラムを持ってないみたいだけど」
「わたしもよく分かんないんだけど子供の頃からずっと一緒だったんだよ」
「団長も、大丈夫だと思うよ。ホログラムは無くても、そらちゃんと同じ魔力を感じるから」
「ノエル…うん、そうだね」
フレアはかがんであん肝とぬんぬんに目を合わせる。
「疑っちゃってごめんね」
フレアの言葉にあん肝は頭を撫でて答える。
「あん肝もいいよって言ってるみたい」
場の空気が和やかになったところで、さつきが疑問を口にする。
「あの、マスコットって何ですか?」
その言葉にフレアとノエルは驚いた表情で、さつきの顔を見る。2人の表情にさつきはきょとんとしていたが、すぐにはっとする。
(そうか、まだあの話してないのか)
さつきは少し息を吸うと別の世界から来た事を語り出す。
「実は、私違う世界から来ちゃったみたいで、まだこの世界のことあまりわからないんです」
「だから、わたしと一緒に帰る方法を探すために旅をしてる感じなんだよ」
「本当に!?それならちゃんと教えてあげないとだね。マスコットっていうのは全体的に丸っこい感じのぬいぐるみみたいな生き物の総称なんよ」
「ちなみにエルとフレイもマスコットだよ」
「それじゃあ、さっきのホログラムがどうのっていうのはどういうことなんですか?」
さつきの疑問にフレアが答える。
「さつきちゃんは魔物がどういうものか知ってる?」
「なんとなく、人を襲ってくる存在としか」
「魔物っていうのは、ホログラムの代わりに普通の生き物から放出される魔力が集まって出来たコアで出来た存在なんだけど、コアはホログラムみたいに魔力を生み出すことができないんだよね。だから魔力を奪おうとして生き物を襲ってくるんだよ」
「つまりさっきはあん肝とぬんぬんが魔物じゃないかって思ってたってことですか?」
「そういう事」
フレアの解説が終わるとノエルが口を開く。
「それじゃあ誤解も解けたことだし、朝ごはんにしようよ。団長もうお腹ペコペコ太郎だよ」
「そうだね」
4人は朝ごはんを食べて身支度を済ませ、村を出発する。
「みんなありがとね~」
挨拶すると4人は村を出る。少し歩くと2人の騎士と出会う。
「お~い、団員さ〜ん」
「団長、おはようございます。今からお帰りですか?」
「そうだよ。2人も見回りご苦労さま町の方は大丈夫だった?」
「そのことなのですが、1つ報告があります」
「どうしたの?」
「昨日この森に入った女の子がが1人帰っていないようで、副団長の判断で今日は見回りを強化することになりました」
「そんな事があったの!?それじゃあ団長達も女の子を探しながら帰るよ」
「よろしくお願いします。それでは、我々はそろそろ行きます」
「うん、報告ありがとね」
2人の騎士は再び森の奥へ向かって歩いていく。
「団長たちも行こっか」
4人も女の子がいないか注意しながら町を目指して歩いていく。
「もう少しで森を抜けるよ」
ノエルがさつきとそらに声を掛ける。さつきがようやく町につくのかと安堵したとき、視界の端に崖を見つめるあん肝の姿が映る。そこにそらが近づき、あん肝に声を掛けていた。
「どうしたの?」
あん肝はそらの方を一瞬見ると崖を指差すように腕を挙げる。
「ここに何かあるの?」
そらがそう言いながら崖に触れるとそらの手がそのまますり抜けてしまう。
「うわ!!」
そらは驚いて慌てて手を引き抜く。
「何、これ?」
そらが無意識につぶやくとそれに答えるようにフレアが話し始める。
「ここに洞窟か何かがあって、それを隠すように擬態の魔法がかけられていたみたいだね」
「いつからあるんだろう?町に戻ったら団員さん達を集めて調べたほうがいいかな?」
そんな話をしていると、あん肝は洞窟の中に飛び込んでしまい、それを追ってそらも飛び込んで行く。
「2人とも待ってよ!!」
残った3人もそらとあん肝を追って洞窟に入る。
「洞窟なのに妙に明るい」
さつき達が周りを確認しながら進むとすぐにあん肝とそらに追いつく。
「そらちゃん!」
ノエルがそらに声を掛けるとそらが振り返る。
「ノエルちゃん、私は大丈夫だよ」
そらは再び前を向く。そらの視線と視線が合うと4人を導くように歩き出す。
「どうする?ノエル」
「ついて行ってみよう」
4人はお互い小さく頷くと、あん肝に付いて歩き出す。
*
「うん…ここはどこ?」
洞窟内に作られた檻の中で、1人の少女が目を覚ます。
(いつも通り森でキノコ採取をしてたはずなんだけど)
少女が周りを見渡しながら記憶を辿っていると、檻の反対に1つだけ取り付けられたドアから誰が入ってくる。少女はその人物に見覚えがあった。
「団長さん!」
部屋に入ってきたのはノエルだった。
「団長さん!助けて下さい!私、気が付いたらここに閉じ込められて…」
「あら、目を覚ましたの?」
「団長さん?」
少女の言葉を遮るノエルに、少女は違和感を覚える。
「本当は、起こすつもりはなかったけど、まあいいわ。早起きしたご褒美にちょっとだけ教えてあげる」
ノエルは不敵な笑みで檻に近づき語り出す。
「これからあなたは、私が世界征服する為の最初の生贄になるの」
「生贄…?」
少女の声は恐怖で震えていた。ノエルは檻の鍵を開けて中に入り少女に近づきながら語り出す。
「怖がらなくて大丈夫、死は救済なの。痛いことはしないから安心して…」
「あなた誰!!」
違和感が確信に変わった少女が大声で叫ぶ。
「誰って白銀ノエルよ。」
「団長さんは死は救済だなんて、そんな事を言う人じゃないもん!!」
少しづつ後ずさる少女の言葉にノエルは苛立ちながら、手を掴む。
「この世界にはね、知らなくていい事はたくさんあるの。あなたはみんなから愛されてるノエルが世界の頂点に立つ最初の生贄になれるのだから、黙って死を受け入れればいいの。」
「嫌、離して!!」
ノエルは嫌がる少女の手を強引に引っ張って檻から出る。
「やだ、誰か助けて!!」
死にたく無いと抵抗し、必死に叫ぶ少女の目に1つの光が飛び込む。
(あれは…)
少女がその光をみた瞬間、ドアの方からフレアの声が聞こえてくる。
「ねえノエル、本当にここから人の声聞こえたの?何にも聞こえなかったけんだけど…てかこのドア開かないし!」
「任せて、団長が何とかする。」
ノエルがそう言いメイスでドアを殴る音が響く。
「オラ!開けオラ!」
ドアの向こうからノエルの叫び声が聞こえるたび、ドアがドカァ!バゴォ!と音を立てて歪む。
「ドリャー!!!」
ノエルが渾身の一撃でメイスを振ると、バゴオオンと音を立ててドアが吹き飛ぶ。
「よし、開いたよ!」
「いや、流石に強引すぎるでしょ」
自慢げに振り返るノエルに、フレアは半ば呆れ気味につっこみながら部屋に入る、後に続いてノエルたちも入ってくる。
「え、ノエルがもう1人…?それにあれ、シェリーちゃんじゃない?」
「あの偽物、ホログラムが無いから魔物かな」
自分の偽物を見たノエルは冷静に分析する。
「フレアさん!団長さん!助けて!」
「黙りなさい!」
シェリーに怒鳴る偽物のノエルに、ノエルが叫ぶ。
「ちょっと!団長のふりして!!なにやってんだよ!!」
偽物のノエルは冷たい笑みを浮かべ、語り出す。
「私はね、白銀ノエル、あなたの闇から生まれた存在」
「団長の闇?」
「そう、あなたが心の中に隠し持った感情から生まれた存在なの。だから、私は世界を征服したいの」
「いや、それ本当に団長の闇か?世界征服なんて考えたことないんだが」
ノエルから発せられた疑問の言葉なんて聞いてなかったように、闇のノエルは自分の世界に入り込んで語り続ける。
「そして、世界を征服したら世界中からショタを集めて、フレアと一緒に…」
「あ〜コレは紛れもなく団長の闇だわ」
「え、ノエル?」
自分の闇に同調しだすノエルにフレアはあり得ないと言いたげな顔を浮かべる。
「そこはロリも入れなきゃダメでしょうが!!」
フレアとノエルが自分の性癖を晒すそらも中ショタという言葉から連想した自分の世界に入り込んでいた。
「強気な男の子がが心折れて仲間に泣きつく姿…いい!」
(ツッコんだほうがいいのかな…)
場の空気がもはや性癖暴露大会と化し、さつきは困惑していたが、はっとして静かにシェリーに近づきながら合図を送る。
「こっちにおいで」
さつきが手招きするとシェリーがさつきに駆け寄る。さつきはシェリーの手を取り走り出す。
「しまった!戻ってきなさい!」
闇のノエルが叫ぶが、さつきは気にせず部屋の入り口に向かって走り出す。
「みんな、今のうちに一度逃げよう!!」
「させるか!!」
闇のノエルが叫ぶと、入り口が魔法障壁で塞がれてしまう。
「これは、あいつを倒さないとここから出れなそうだね」
4人は武器を構え闇のノエルに向き直す。
「シェリー、こっちに来なさい!そしたらその4人はここから出してあげる!」
「嫌!」
「このガキ…!言うこと聞かないなら!!」
怒りに震える闇のノエルはアビャアビャと言いながら奇妙なダンスを踊り出す。部屋に魔力が満ち始め、コアを形成し剣と盾を持ったスケルトンが現れる。
「洗脳開始!」
洗脳という言葉にそらの心臓が、ドクンと強く脈打つ。少しすると、シェリーがふらふらと闇のノエルへ向かって歩き出す。その様子を見ていたそらは、刀を強く握りしめ、闇のノエルへ走り出す。
「まってそらちゃん!」
フレアの制止を聞かずそら走るそらの前にシエリーが飛び出す。慌てて避けてバランスを崩したそらにスケルトンが斬りかかる。
(しまった!)
剣がそらを切り裂く直前にフレアが空の手を引き、事なきを得る。
「気持ちは分かるけど、落ち着いて!」
フレアの言葉でそらは落ち着きを取り戻す。
「ごめんなさい、ありがとうフレアちゃん」
ここまで見ていたノエルはメイスを腰にかけて静に一息つく。そして闇のノエルを真似するように踊り出す。
「あっびゃー!あびゃびゃ!あびゃびゃ!あっびゃー!あびゃびゃ!あびゃびゃ!あびゃびゃ!」
「ノエルまでどうしたの!?」
混沌としだしたこの空間にフレア達はもはや成り行きを見守ることしかできなかった。
しばらく2人が踊り続けると、シェリーの様子が変化し、一瞬正気を取り戻し、すぐにまた洗脳されるのを繰り返すようになる。そんな状況を打開するように闇のノエルの踊りが変化する。
「すっきー!すきすきだいちゅっきー! らっびゅーらびゅらびゅ洗脳中! むっちー!むちむちせめちゃダメー! よくできました!ほっぺにちゅー」
シェリーの洗脳状態が進み、手遅れになる寸前でノエルがシェリー語りかける。
「もしも、君がシュンとしちゃっても〜、ぎゅって、ぎゅって、ぎゅ~って、抱きしめたげる!ほらおいでー!!」
ノエルがシェリーに向かって両手を伸ばすと、シェリーの洗脳が完全に解けノエルへ向かって走り出す。
「団長さん!!」
シェリーは勢いのままノエルに飛び込み、ノエルはシェリーを抱きしめる。
「もう大丈夫だよ」
ノエルがシェリーにそう言うと、両手を離し再びメイスを手にする。
「許さない!お前ら全員生贄にしてやるー!!」
「許さないのは団長の方だよ!白銀聖騎士団の誇りにかけて、絶対に負けないからね!!」
覚悟を決めたノエル達の前に"闇のノエル"が立ちはだかる。