季節は8月の夏真っ盛り。
スクールアイドルクラブは夏休み中も練習していた。
スクールアイドルクラブは、この2ヶ月で、乙宗さんも夕霧さんも藤島さんも、お互いを名字ではなく名前で呼ぶようになった。お互いを知ったおかげで仲良くなった証拠だ。
あと、俺も3人を名前で呼び捨てにすることを許された。男ではあるけど、部活の先輩で部長の沙知が信頼してるのもあったが、何よりみんなのために動き続けたことで3人からの信頼を勝ち取り仲間だと認めてもらった形だ。
―――男子はスクールアイドル部にマネージャーとかで入ると、たとえ先輩でも肩身がせまいものだからな。
康太「―――よし、みんなラストスパート! ゴールはもうすぐだぞ!」
マネージャーである康太は、ストップウォッチを片手に、ゴールラインの手前で声を張り上げる。
最初に姿を現したのは、力強い足取りで走ってしてきた後輩の梢だ。
筋トレが趣味というストイックな彼女。鍛えられた肉体によるダイナミックな走りで、一気にゴールラインを駆け抜けると、そのまま芝生の上に大の字に寝転がった。
梢「はあ……暑いですね……! でも、走りきったわ」
康太「お疲れ様」
続いて、持ち前のガッツと負けず嫌いで必死に足を動かしてきた慈と、一歩一歩着実に進んできた綴理が、お互いを鼓舞するように並んでゴール。
二人とも肩を大きく上下させ、練習着はすっかり汗で色が変わっている。
慈「はぁ、はぁ……つ、もう、本当にめぐちゃん倒れるかと思った……!」
綴理「でも、遅れずにごーるできたね」
そして最後に、後輩たちの走りを後ろからしっかりと見守り、監督しながら走っていた沙知が、息を切らせながらゴールへと滑り込んできた。
康太「みんな、お疲れ様! 全員ナイスラン!」
康太はすぐに全員のタイムを記録し、あらかじめ確保しておいた大きな木陰へとみんなを誘導する。
ジリジリとした直射日光から逃れ、涼しい木陰に入ると、それだけで生き返るような心地よさだった。
葉擦れの音と、時折通り抜けるわずかな風が、火照った肌に信じられないほど心地いい。
康太「ほら、みんなまずは水分補給! しっかり飲めよ!」
康太が冷えたスポーツドリンクと、氷水でキンキンに冷やしたタオルを渡すと後輩たちは、「ありがとうございます……!」と乾ききった喉を潤し、火照った身体にタオルを当てて冷やしていく。気持ちよさそうだ。
康太「ほら、沙知も」
沙知も冷たいボトルを受け取った。
沙知「ぷはぁ……っ! 生き返る〜! やっぱり、走った後の冷たい飲み物は最高だね!」
沙知はボトルを口から離すと、疲れを吹き飛ばすほどのハツラツとした笑顔を俺に向けた。
真夏の強い光が木漏れ日となって彼女の緑色の髪を照らし、琥珀色の瞳がキラキラと輝いている。
沙知「マネージャーのサポートのおかげで、みんな最後までバテずに走りきれたよ。ありがとね」
康太「いや、みんなが頑張ったからこそだよ。沙知も、後ろから梢たちを引っ張ってくれて助かった」
沙知「ふふ、先輩だからね! これくらい、余裕……って言いたいところだけど、今日の太陽はさすがに堪えるなぁ」
そう言って、沙知は額の汗を拭いながららの芝生の上に心地よさそうに腰を下ろした。
隣では、慈が綴理に冷たいスポーツドリンクのボトルを頬に押し当ててイタズラをしていたり、梢が静かに呼吸を整えながら「次はもっとタイムを縮められるように頑張ります」とノートを見つめていたりする。
厳しい暑さの中での過酷な練習。だけど、この木陰でみんなと冷たい水分を分け合い、達成感を噛みしめていた。
康太(つーか………)
みんなの汗のせいで練習着が身体にピッタリと張り付き、ボディラインがめちゃくちゃ分かってしまう。
康太(それに女の子ってなんで汗の匂いまでこんないい匂いなんだろ………ヤバい。変な事を考えるな!)
俺は変な事を考えないように自分のほっぺたをパシン! と気付けて気合いを入れ邪念を祓う。
沙知「? どうした康太?」
康太「何でもない。で、今日のメニューは良いとこ終わったけど、今日の残り時間はどうする? 部長」
沙知「そうだねぃ……もう少し練習したいところだけど、こうも暑いとね………」
綴理「ねっちゅーしょー…だっけ……?」
康太「そうだな。バカにしてると命に関わるものだしな。ラブライブ目指して練習してたら仲間に死人や重篤な後遺症がでたとか笑えなさすぎるぞ……」
梢「室内練習にします? さっき案内板の予定欄見ましたけど、レッスン室今日使ってる部活動無いそうですよ? あそこならクーラーもありますし……」
慈「え〜……梢は相変わらずストイックだよね〜。めぐちゃんは休みたい……」
梢「そんなことでラブライブで優勝できるとでも!?」
康太「まあまあ………」
意見が割れてしまい、取り敢えず俺は皆を落ち着ける。
康太「じゃあ、休みたい人は? 手を挙げて?」
慈と沙知が手を挙げる。
梢「沙知先輩!?」
沙知が休みたい側に手を挙げたことに梢はショックを受ける。
沙知「しょうがないだろ……アタシは練習量と覚える振り付け3倍なんだぞ……いくらなんでも疲れるって……」
それを言われては、沙知に限っては正論すぎて梢も反論できず「むぅ」と、押し黙る。
康太「じゃあ、もう少し練習したい人は?」
梢「はい!」
綴理「はい」
梢と綴理が手を挙げる。―――なら、
康太「沙知、慈と一緒に休んで、「もういいな」と思ったらレッスン室に来てくれ。2人は俺が先に一緒に行って練習見とく」
俺の言葉に4人はびっくり。
梢「え、康太先輩ダンスや歌の経験あるんですか?」
康太「経験はないけど
梢「い、いえ! そんな事は!!」
「――先輩に対して失礼なこと言ってしまった!?」と、梢が慌てる。――すると、
綴理「こーた、見てくれるの?」
康太「おう。じゃあレッスン室行くか」
梢&綴理「「はい(お〜)」」
沙知「じゃあアタシたちは部室に行くか」
慈「やった〜……」
―― レッスン室 ――
康太「じゃあ、曲は今度の大会で披露するやつな。フォーメーションとかは自分と相手の歩幅や、他2人が居ると仮定して取ること。感覚にはなるけど、気になるところあったら言ってくから」
梢&綴理「「はい!(わかった)」」
そして曲をかける。2人は歌とダンスをしながら、フォーメーションを他の二人が居ると仮定して動く。
康太「綴理、今声が慌てたよ! 焦らずしっかりと歌いきろう!」
綴理「うん」
康太「梢は合わせようと意識しすぎて動きが逆に小さくなってる。もう少し意識して!」
梢「はい!」
そして曲が終わり決めポーズ!
康太「おっけ! じゃあ撮影してたの再生するぞ」
俺はビデオカメラの動画をオンにして今の2人のダンスを見る。
綴理「あ、ほんとだ」
梢「たしかに私の動きが小さいですね……こんな見てハッキリと分かるなんて……」
康太「まあ、意識して練習すれば直せるから。じゃあもう1回、頭から!」
梢&綴理「「はい!」」
――その頃、
―― 部室 ――
慈「は〜……極楽極楽……」
沙知「だらけてるねぃ………」
慈「だって外暑すぎるんですもん! 夏バテ街道まっしぐらですよ~」
沙知「確かにねぃ……」
―――すると、
慈「………沙知せんぱいって、康太せんぱいと付き合ってるんですか〜?」
沙知「ブッ!」
沙知が吹き出す。
沙知「な、何を言って……!?」
慈「だって、友達というには仲良すぎますし、恋人なのかな〜? と」
沙知は「はぁ……」と、ため息をつき、
沙知「付き合ってないよ……。康太は、アタシのことをそんな風には見てないんじゃないかな……」
慈「え?」
沙知「アタシと康太は、幼稚園からの幼馴染でね。アタシの実家の家柄のせいで、周りがアタシを特別扱いする中で康太と……とある友達は、アタシを大賀美沙知という1人の人間として見てくれたんだ。ホントに嬉しかったよ……初めてアタシ自身を見てくれる人ができた気がして」
沙知「それで、康太にアタシの家の事とか色々話してたら、「なら俺は沙知ちゃんが潰れないように支える!」とか言ったんだぜ? 幼稚園の男の子が」
慈「え〜!? 凄いですね! カッコいい!」
沙知「だろ? しかもそれを有言実行。何度も助けられてきた。アタシは……康太のことを恋愛対象として好きなんだけどねぃ……康太がどう思ってるのか……」
慈(……そこまでしてるのに康太せんぱいが沙知せんぱいに対する恋愛感情無いわけ無いじゃん……。康太せんぱいも沙知せんぱいも鈍感すぎない?)
沙知「まあ、そんな感じかな? 慈は誰かいるのか? 先輩に話させたんだから」
慈「あ〜残念ながらアタシは好きな人今のところ居ないんですよね。高校入ったら一緒にスクールアイドルやろ? って誘った幼馴染なら居るんですけどね〜。私の1つ下で女の子だから」
沙知「なるほど。なるほどねぃ……。よし。じゃあ、もうたくさん休んだしレッスン室行こうか?」
慈「は〜い」
そして、2人も合流してダンスを合わせてみたら前よりも合っており、沙知に「康太どうやったんだい?」と驚かれた。
― つづく ―
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