バスに乗り数10分。蓮ノ空に到着した俺たち新入生。
満員のバスがプシューっと音を立てて学校の停留所に停まると、真新しい制服を着た生徒たちが一斉に吐き出された。
俺と沙知、そして雪人の3人も、人混みに流されるようにバスから降りて蓮ノ空の敷地に足を踏み入れる。
康太「ん〜っ!!」
俺は1つ背伸びをして目の前に立つ校舎を見る。
康太(ついに来たな。蓮ノ空……)
沙知「…………………」
沙知が顔を暗くする。
つ―――!
ギュッ。
沙知「!?」
沙知のそんな顔が許せず、俺は沙知の手を握る。
康太「言ったろ? 何かあったら頼れって。お前だけを犠牲になんかさせねぇから……」
俺の言葉に沙知は俯くと、微笑みながら握った手を握り返してくれた。
康太(絶対に、沙知を守らないと……)
雪人「お〜い、お二人さん……見られてるぞ〜?」
康太&沙知「「ハッ!!」」
周囲の新入生たちがキラキラした目で俺たちを見る。あれは完全に人の色恋沙汰をイジろうとする野次馬の目だ。
俺は軽く威嚇するが、沙知に止められた。だって―――
雪人「バカなことやってないで行こうぜ?」
敷地内では、正面の大きな掲示板の前に、 すでに恐ろしいほどの人だかりができていた。 新入生のクラス分け発表の紙が貼り出されているのだ。
沙知「うわぁ……けっこうな人だねぃ。これ、中に入っていけるかな?」
知が、緑色の髪を少し揺らしながら、人混みの圧倒的な熱気に気圧されたように目を丸くした。
新しい環境への緊張が隠しきれていない様子だ。
康太「行くしかないだろ。ここで立ち往生しててもクラス分からないし」
俺がそう言って一歩踏み出そうとすると、隣を歩く雪人が、いつものマイペースな調子で眠そうに欠伸をした。
雪人「まあまあ、焦っても結果は変わらないって。それより、俺は二人が同じクラスになって、俺だけポツンと離される未来が見える気がする(笑)」
沙知「ちょっと雪人、早々縁起でもないこと言わないでくれないかい!?」
沙知がすかさず雪人にツッコミを入れる。そのテンポの良いやり取りに、張り詰めていた俺の緊張も少しだけほぐれていく。
康太「でも、本当に沙知と雪人とは同じクラスになりたいな。知り合いゼロから始まるのはさすがにキツい」
なによりも沙知を一人にしたくはない。
康太の本音に、沙知は少し頬を緩め、それから 「よしっ」と気合を入れるように拳を握りしめた。
沙知「大丈夫だよ! もしクラスが離れちゃっても、休み時間は絶対に康太の席に突撃しに行くから!」
康太「はは、それはそれで目立ちそうだな」
雪人「あ、俺の席にも来ていいよ、大賀美。お菓子持ってたら」
沙知「雪人はお菓子目当てかーい!」
そんな風にいつもの調子で言い合いながら、俺たちは掲示板に向かって歩みを進める。
周りの喧騒がどんどん大きくなり、クラス分けの紙がはっきりと目に入る距離まで近づいてきた。
沙知「じゃあ、一斉に探すよ? せーの…………!」
沙知の声を合図に、3人で人混みの隙間から自分たちの名前を探し始めた。
これから始まる3年間の、本当の第一歩となるクラスの名前を。
― 蓮ノ空・1年生教室廊下 ―
康太「1ーAか」
沙知「アタシも1ーAだったよ」
雪人「俺も」
3人一緒らしい。好都合だな。
康太「行こうぜ?」
本当に良かった。3人で談笑しながら教室に向かい、案内通りに教室に入る。黒板に張られた座席表を見ると、
康太「おお!? 沙知、隣?」
沙知「みたいだね……。女子と男子でそれぞれ五十音順なのかな……女子の"お"と男子の"か"だとたしかに近いからね……」
康太(よしっ!!)
俺が心の中でラッキー! と喜ぶ。
そして雪人と合わせて3人で集まって喋っていると、そろそろホームルームの時間が迫ってくる。
廊下に響く足音が聞こえ、急いで席に着く俺たち新入生。――すると、先生が入ってきた。
先生「席に着け〜って、もう座ってるな。感心感心……。では、ホームルームを始めるぞ! その後は入学式だから体育館に移動する」
そして蓮ノ空についての軽い説明を先生から受けたあと、体育館に移動する俺たち新入生。
おえらいさん挨拶は、沙知の祖父であるこの学院の理事長だ。
理事長「新入生の皆さん、入学おめでとうございます……。3年間この学院で学び、ここでの経験を将来の糧にしてくれることを願います」
ほかの理事の長ったらしい挨拶は割愛し、俺たちは学生寮に向かう。
男子寮と女子寮で別れており、学園の規則は全生徒まとめて女子寮に集まって女子寮の寮母さんから聞くことになった。
寮母「というわけで、恵まれた大自然の中で、皆様には厳粛な規律と、確固たる伝統を学んでいただきます」
寮母「いいですか? 規律と伝統、ですよ。どちらが欠けても、蓮ノ空としての品位に関わります」
寮母「寮では、門限厳守でお願いします。夜は明かりがなく、山道は危ないですからね」
寮母「バスは週末に一度。金沢駅前行きのバスが出ています。必要なものは、そこで買い揃えてください」
寮母「ただし、事前に外出申請と、許可証が必要です。自由行動はできません。ご留意ください」
康太(雁字搦めやな〜………)
周りを見ると、「知ってはいたけど厳しいな……」と、つぶやく生徒もちらほら。
寮母「それと、許可の無い男子寮と女子寮の行き来はできませんのでご注意ください」
そして、寮生活の説明が終わり、俺が男子寮の自室に行き荷物を解いていると、スマホに着信が届いた。
見てみると沙知からのビデオ通話だった。俺は通話モードをオンにして通話を繋げる。
沙知『康太〜、今平気かい?』
康太「おん。どした?」
沙知『寮の外で待ってるから会えないかなと思って』
康太「あ? 良いけど……今行くから少し待ってろ」
沙知『うん。アタシも今出るよ』
そして通話をオフにし、荷解きも後回しにして寮の外に出る康太。すると沙知が待っていた。
沙知「康太……」ソワソワ
康太「どした?」
ソワソワする沙知。俺が聞くと、
沙知「その、高校生にもなって恥ずかしいんだが……あれ頼む////」
え!?
康太「アレやるのか? 今更だけど、ああいうのって女子は嫌がるって最近何かで見たぞ?」
沙知「それはその女の子にとって相手の男子をどう思ってるかで変わるよ」
康太「ほ〜ん。まあいいや。来い」
俺が腕を左右に広げると、沙知が正面から飛び付いてきて抱き着いてくる。
沙知「〜〜♪」
沙知は俺の胸に顔を埋めてご機嫌。
康太「こういうのは好きな男子にしかやらない方が良いぞ?」
沙知「………そだね」
今の間はなんだ? 一瞬不機嫌になったような気がしたが……。
そしてしばらく堪能して満足したのか俺を離し、
沙知「じゃあまた明日ね!」
康太「おう」
沙知は走って女子寮に戻っていった。俺も寮に戻ると、夕飯まで時間をつぶした。
その日のごはんで筍ごはんに焼き魚、味噌汁を美味しくいただき大浴場でお風呂に入って就寝した。
――その頃、理事長は、
理事長(沙知の祖父)「ついに沙知が高校生か………早いものだな。――そして、康太くん、これから沙知に何が起こるかはわからんが君ならきっと沙知と、沙知の心を守ってくれると、ワシは信じとるぞ………」
― 男子寮・康太の部屋 ―
康太(――明日からは部活動勧誘週間らしいからな。サッカー部に入部届け出しに行こう!)
― 女子寮・沙知の部屋 ―
夜、ベッドで布団を被っていた沙知は………、
沙知(部活………か…………)
――大賀美の家の人間として、言われた事しかやってこれなかった沙知が、"自分のやりたいこと"に出会うまで、あと少しに迫っていた。
― 続く ―
1年生の沙知先輩がスクールアイドルに出会うまで、―――あと少し。
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