あれから日が過ぎて今は1月。
俺たちスクールアイドルクラブはラブライブ!決勝大会を終えて蓮ノ空に戻ってきていた。
結果は3位で優勝はできなかった。みんなは昨日帰ってきたとき酷く落ち込んでいた。大丈夫かな?
康太「………………」カタカタ
康太が部室でパソコンを弄りながら来年への引き継ぎ資料を作成していると、梢が入って来た。
梢「あれ、先輩?」
康太「梢? 今日は練習ないだろ? どうした?」
梢「来年に向けての資料を作ろうかと……」
康太「あ〜似たようなもんだな。俺は引き継ぎの資料作ってたとこ。来年は俺居ないから」
康太がそう言うと、梢は悲しそうな顔をして「寂しくなりますね」と、言ってくれた。後輩から少なくとも悪くは思われていなかったようだ。
康太「なんなら作業一緒にやるか?」
梢「そうですね………」
そしてしばらく一緒に作業をする康太と梢。すると、
ガチャ
梢「………あら」
康太「ん?」
花帆「あ、梢センパイ、康太センパイ」
梢「おはよう。どうしたの? もしかして、眠れなかった?」
花帆「あ、いえ。そういうわけじゃないんですけど………。センパイたちは、なんだか、いつも通りですね」
康太「……そう見えるか?」
花帆「違うん…ですか?」
梢「私は、スクールアイドルクラブの部長だもの。こんなときぐらいは、しっかりしていなくっちゃ」
康太「俺も、最上級生だからな。しっかりしないと……」
花帆「……………」
すると、梢は少し俯くが、顔を上げて話はじめた。
梢「去年は結局、辞退をしてしまったから。みんな、初めての経験なのよ。ラブライブ!の大会で、敗退するのは……」
康太「そうだな………」
花帆「……そう、ですよね。決勝まで、いったのに。……あたしは…まだ、あんまり実感がなくて。今も足下がふわふわしてるんです。あんなにずっと練習してたのに、ほんとに…たった1日で終わっちゃうんだな、って…………」
梢「…………そうね。ねえ、花帆さん。 もう少ししたら、みんなの様子を見に行こうと思うの」
花帆「え?」
梢「みんなが少し気になってね。一緒に見に行ってくれないかしら?」
花帆「それは、でも……」
梢「ね、お願い、花帆さん」
数少ない梢の後輩への《お願い》。この顔で言われたら花帆は断れない。
花帆「わ、わかりました。なにができるかわかりませんけど、その、がんばります!」
すると梢は微笑み、
梢「ふふっ、ありがとう。それじゃあ、まずはお礼に紅茶をいれるわね? 今日は寒いわ。温まってから、みんなに会いに行きましょう」
花帆「はい! あ、手伝います!」
康太「俺は仕事してるから。2人で行ってきな。俺はもう居なくなる人間だし」
花帆「あ…………」
康太がそう言うと、花帆は暗い表情を浮かべる。お茶を飲むと、梢と花帆はみんなに会いに行った。
康太「…………………」カタカタ
俺が作業を続けていると、
ガチャ
沙知「康太? 居るかい?」
来たのは沙知だった。
康太「沙知? どうした?」
沙知「いや………ラブライブ!どうだったかなと思って」
康太「結果なら知ってるだろ?」
沙知「そうじゃなくてさ……」
沙知は言いにくそうにすると、
沙知「康太もみんなも、ショック受けたんじゃないかなと」
……ああ。
康太「心配して来てくれたのか」
沙知「うん」
康太は作業の手を止める。
康太「そうだな。ショックだよ……。みんな、あんなに頑張ってたのに……届かなかった」
沙知「うん」
康太「今になって、もっとやれる事があったかもと思うことはあるけど、遅すぎるし……どうにもならない。悔しいよ……」
沙知「うん……ギュッ」
沙知が俺を抱きしめて背中を擦ってくる。
沙知「こうしてれば顔見えないよ」
沙知……
康太「悪い。少し貸してくれ……」
そして康太は、嗚咽を漏らして泣き始めた。
しばらくして泣き止むと沙知は帰っていき、作業に戻る康太。―――すると、花帆と梢が部室に戻ってきた。
康太がみんなの様子を聞くと、ショックを受けてはいたが、次に向けて歩き出せそうだということでホッとした。
そして花帆が席に座ると、梢が紅茶を淹れてくれた。
梢「どうぞ」
康太「ありがと……」
花帆「いただきます………。……ん、甘くて、おいしいです」
梢「今度の紅茶は、メイプルシュガーよ。外を回ってきたから、甘い方が落ち着くでしょう?」
梢……こんなときでも気配りは忘れないんだな。ホントに頼もしい後輩だよ…。
康太(本当は、自分が一番泣きたいだろうに………)
花帆「あの、でも、あたし……。他のみんなみたいに、落ち込んだりとかは……」
梢「そうね、だったら……少し、聞いていってくれるかしら?」
花帆「?」
そして、梢は部室に置いてあった自身のアコースティックギターを手に取る。
花帆「え? あ、ギター………」
梢「ええ」
そして、梢はギターで弾き語りを始めた。
梢「〜♪ 〜♪ 〜♪ 〜♪」
梢が引いているのは、今年の新入生歓迎会で花帆と梢が初めて歌った思い出の歌、〈水彩世界〉。
梢の奏でる音色と、口ずさむメロディーが、夕暮れの部室の雰囲気と相まって物悲しくもなんとも言えない様子を醸し出していた。
そして、梢はギターを弾き終わると、
梢「どうだったかしら?」
花帆「なんだか、懐かしいです。あたしがまだマネージャーって言ってた頃にも、センパイがギターを弾いてくれて……」
花帆は、蓮ノ空に入学したばかりの頃。スクールアイドルという物を知ったばかりの頃を思い出す。
花帆「センパイのギターに合わせて、軽く踊ってみたりして……。それで、もしかしたらあたしにもスクールアイドルができちゃうのかも、って……」
康太「花帆がスクールアイドルに興味をもってくれたらいいなって、梢から相談を受けて2人でいろいろ考えたんだよ」
花帆「康太センパイ、梢センパイ、どうして……。どうしてあたしだったんですか? 梢センパイだったら、他にもっといい人が……」
梢「この子となら、きっと、ラブライブ!を目指せると思ったの。……あるいは……この子と一緒に、ラブライブ!を目指したいと思ったのよ」
康太「俺も、直感だけど……この子とやれたら楽しそうだなって、思った……」
花帆「でも、あたし……。あたし、初めてのステージで舞い上がって、ずっと梢センパイに頼り切っちゃって。応援してくれる人の顔も、ぜんぜん見えなくって……」
花帆は、自分の過去を振り返り、駄目なところばかりが脳裏をよぎってしまっていた。
花帆「あたし、梢センパイの足、引っ張っちゃってました………。あんなにいっぱい、練習したのに……。負けちゃった…………」
花帆の瞳から、ボロボロと涙があふれる。今になって敗北を実感したのか、行き場のない感情が一気に押し寄せる。
康太「花帆、キミはみんなの期待以上に、がんばってくれたよ。最初はずっと、朝練も嫌がってたのにな……」
梢「ええ。楽しそうにライブをするあなたの笑顔が、好きよ。一緒だから、私もこんなに毎日がんばれているの」
康太&梢「「
花帆「梢センパイ……、康太センパイ……」
感情が限界を迎えた花帆。俺と梢で、花帆を抱きしめて背中を擦る。
花帆「ごめんなさい、梢センパイ……。康太センパイ……。ごめんなさい……」
謝る必要なんか無いのに……。
そして――、しばらく泣いてから泣き止んだ花帆。
花帆「……うう、すみません。あたし、こんなつもりでは……」
梢「いいのよ。ただ、花帆さんがずっとモヤモヤを抱えているように見えたから。そういうのはぜんぶ、吐き出してしまったほうがスッキリするでしょう? 慈みたいにやれとは、言わないけれどね」
花帆「はい。少し、スッキリしました……えへへ」
すると、花帆は少し困ったような顔をして、
花帆「ラブライブ!の本戦が、なにがなんだかわからないうちに終わったのって、もったいなかったなあって……今は、思います。せっかく、あたしが花咲けるチャンスだったのになー、って」
康太「それもそうだな。みんなで東京に行ったのに、観光する暇もなかったからな」
花帆「ハッ! そ、そうだよ! あたし、なんにも覚えてない!」
梢「ふふっ。また来年、ね? 明日からの練習は、がんばれそう?」
花帆「はい。もう、大丈夫です。本当に、ぜんぶ、梢センパイのおかげです!!」
梢「それは、よかったわ。きょうは、部屋でゆっくりするのよ?」
花帆「はい、せっかくなので、ずっとゴロゴロします! あっ、でもさやかちゃんみたいに少しは練習をした方が……?」
康太「そこは任せるよ。もう体調管理も1人でできるだろ?」
花帆「あ、はい! じゃあ軽く走って寮まで戻ってゆっくりしてます。ありがとうございました!」
そして、花帆は部屋を出て行った。
康太「梢、部長だからって痩せ我慢しなくていいんだぞ?」
梢「っ!」
――すると、
花帆「スミマセン忘れ物……え?」
梢「っ!」
康太「あ……」
梢が泣いているところを、見られてしまった。
花帆「…………梢、センパイ? 今、泣いて……」
やっぱり見られたか……。梢は急いで後ろを向いて涙を拭い、気丈に振る舞う。
梢「ごめんなさい、なんでもないの」
花帆「でも…………」
梢「大丈夫だから。心配、しないで」
無言の花帆。すると、花帆の目に力強い意思が宿る。
花帆「梢センパイ……。あたしじゃ、だめですか?」
梢「違うの。これは、人に話しても、仕方のないことで……」
花帆「でもあたし。聞きたいです。センパイがどうして泣いているのか。あたしじゃ、だめですか………?」
花帆…………。本当に、キミは……。
康太「梢……。話してやれよお前の夢」
梢「先輩……、でも」
花帆「お願いします。梢センパイ」
花帆の言葉に、梢は俯くと、
梢「悔しいの……」
今まで見た誰よりも大粒の涙をボロボロとこぼす梢。声は震え、深い悔しさが伝わって来る。
梢「あと、もう少しだったのに……。ラブライブ!優勝に、手が届いたのに!」
梢の感情が爆発する。それを花帆は、黙って聞いている。
花帆「梢センパイ……」
梢「幼い頃から、ずっと目指していたの! 夢だった! ようやく叶えられるって、思ったのに! 私はまた、ダメだった……!」
康太&花帆「「…………………」」
梢「ダメだったの………私は、いつもそう……! 本当に欲しいものだけ、手に入らないっ………!」
梢は、両手で顔を覆い、幼い子供のように泣きじゃくる。
梢「みんな、スクールアイドルで「なにか」を見つけて、輝いてる…それなのに、私だけ。私にはなにもない………優勝できなければ、私には、なにも……!」
花帆「そんな、なにもないなんて、どうして……。センパイは、なんでもできるじゃないですか! 「それだけじゃダメなの…!!」…ッ!」
梢「だって、夢を叶えるために、なにもかも賭けて、ここにいるんだから……!」
花帆「なにもかも…………」
それは、梢の幼き頃、初めてラブライブ!の映像を見て、スクールアイドルを知り、梢がスクールアイドルを志した時のことだった。
梢(幼少期)「ねえ、お母様! 私、スクールアイドルになるわ! ほら、素敵でしょう? ラブライブ!っていうのよ。あの子たちみたいに――私も、ぜったいに、優勝してみせるんだから!」
梢「憧れたスクールアイドルに、私もなりたかった……そのために、がむしゃらに走り続けて……でも、なれないの……。私には、もう、なにも………」
梢の涙は深い悔しさに囚われ、収まる気配が無い。だが、そんな状況を、花帆は放っておかない。
花帆「梢、センパイ………。――優勝、しましょう!」
梢「…………え?」
花帆の言葉に、梢の心がわずかに動く。
花帆「だったら、優勝しましょう! 来年こそぜったい、梢センパイの夢を叶えましょう!」
梢「どうして…………」
花帆「そんなの、決まってます。あたしをスクールアイドルに誘ってくれたのは、梢センパイです。この学校を辞めようかって悩んでたあたしを救ってくれたのは、梢センパイなんですよ? 花咲きたいっていうあたしの夢を、最初に助けてくれたのは、梢センパイなんです!!」
花帆は入学当初、この学校の方針に絶望し、入学早々退学しようかと悩んでいた。そんな時、花帆に希望を与えたのは、紛れもない梢だった。
花帆「あたしはこれからもずっと、梢センパイに笑っていてほしいんです。スクールアイドルとして過ごした日々が、悲しい思い出になっちゃうなんて、そんなの、ぜったいにだめです!」
梢「花帆さん……?」
一瞬、梢の涙が止まった。花帆はたたみ掛けるように話し始める。
花帆「センパイがどんな決意でラブライブ!に臨んでいるのか。あたし、ぜんぜんわかりませんでした。わかった気になってただけだったんです。ずっとセンパイのそばにいたのに。センパイが、何度も夢を話してくれたのに……」
花帆の瞳には、決意の炎が宿っていた。
花帆「ユニット失格です。だから――。今度こそ、あたしたちでセンパイの夢を叶えましょう!」
花帆の言葉に、梢の瞳にも段々と光が戻って来る。
花帆「あたしも、もっともっとがんばります。朝練だって、サボらず毎日来ます。文句も…………たまには、言うかもしれませんけど……! でも、いっぱい努力して、きっと、花咲いたスクールアイドルになりますから! 梢センパイのことだって、あたしが、花咲かせてみせます!」
梢「花帆さん……」
花帆「ひとりでがんばるのが大変だったら、すぐそばに、あたしがいますから。くじけそうなときでも、今度はあたしが支えますから! だから………。なにもないなんて、言わないでください……」
そして花帆は今自分が梢に一番伝えたい言葉を叩きつける。
花帆「センパイには、日野下花帆がいるんだって! そう信じてもらえるように……がんばりますから!!」
花帆は、落ちていたガーベラの花を拾い、梢に差し出す。
梢「一緒に、夢を信じてくれる……?」
その時には、梢の涙は止まっていた。
花帆「もちろんです! あたしたちで――夢を叶えましょう!」
梢は差し出されたガーベラを受け取り、
梢「ありがとう。花帆さん……」
そして次の日の早朝、卯辰山公園展望台に来たスクールアイドルクラブ。
日の出とともに来年への誓いを新たにするみんなを、俺と、陰から沙知が見守っていた。
― つづく ―
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