トガちゃんは元暗殺者   作:ぶらっきー

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#1 入学の時間

 

「俺たちで決めなきゃいけない。このまま手を下さずに、天に任せる選択肢だってもちろんある。手を上げてくれ。…殺せんせーを、殺したくないやつ」

 

ゆっくりと1人、また1人と手が上がっていく。手を挙げたのは、全員。

 

「手を下ろしてくれ。…じゃあ、殺したいやつ」

 

先生と生徒、それだけの関係であったらどれだけ良かっただろうか。これからも先生に色々なことを学びたかった。教えてもらいたかった。だけど、私たちの関係は標的(ターゲット)殺し屋(アサシン)という歪なもの。けど確かに繋がっていた大切なもの。暗殺を通じて私たちは殺せんせと絆を深めていった。それをどこの誰かも分からない者に横から攫われてはいおしまい、なんてことは絶対に許せない。

 

 

 

 

 

全員が手を挙げた。

 

 

 

 

 

「こうしたら動けねぇんだよな、殺せんせー」

「その通りです。握る力が弱いことが心配ですけどねぇ」

 

その言葉に、ハッとして手に力を籠める。せんせの触手を、みんなが強く握り直す。

 

「最後は誰がやる…?」

「あっ…」

 

そう、全員で触手を抑えていても殺せんせは死なない。誰かが弱点である心臓にナイフを突き刺さねばならない。

 

「僕に…殺らせて」

 

一人の生徒が声を上げる。潮田渚、この暗殺教室においての首席。

 

 

 

 

 

 

烏間先生とビッチ先生へのあいさつも終わり、ついに始まる。

 

「さて皆さん、いよいよですね。1人1人にお別れの言葉を言っていたら、24時間あっても足りません。長い会話は不要です。…その代わり、最後に”出欠”を取ります。1人1人せんせーの目を見て、大きな声で返事をしてください。全員が返事を終えたら、殺してよし」

 

 

 

 

 

最後の出欠。

 

 

 

 

 

そして、最後の暗殺が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若き暗殺者たちよ。

今から1つの命を刈り取る君たちは、きっと誰より…命の価値を知っている。

沢山学び、悩み、考えたはずだから。

私の命に価値を与えてくれたのは、君達だ。

君達を育むことで、君たちが、私を育んでくれた。

だから、どうか、今…最高の殺意で、収穫してほしい。

 

「潮田渚君」

「…はい」

 

この30人の、未来への糧になれたのなら。

死ぬほど嬉しいことだから。

 

「渡我被身子さん」

「はい…!!」

 

本当に、本当に楽しい1年でした。

皆さんに暗殺されて、せんせーは幸せです。

 

旅立つものから、旅立つものへ。

命丸ごとの…エールを──

 

 

「っ、うわぁあああッ!!」

 

 

ピトッ──

 

 

「そんな気持ちで殺してはいけません。落ち着いて、笑顔で…」

 

子供をあやすように静かに、優しく、朗らかな表情で話す殺せんせ。その顔を見て、この一年間が走馬灯のように頭の中を流れていく。

 

『普通じゃない、ですか。ではあなたの言う普通とは何なのでしょうか?私の普通はマッハ20で地球上を駆け巡り、世界中を見て回ること。え?それは普通じゃない?いえいえ、せんせーにとっては普通なのです。ほら、あなたと私では普通というものが違うでしょう?それで良いのです。せんせーにはせんせーの、渡我さんには渡我さんの価値観があります。それは他人に強制されるものではありません。それにね──』

 

 

せんせーは好きですよ?あなたの笑った顔は。とっても可愛らしい素敵な笑顔です。

 

 

 

 

 

「さようなら、殺せんせー」

「はい、さようなら」

 

せんせの身体にナイフが沈み込んでいく。瞬間、せんせが淡く光り輝く。

 

 

『卒業、おめでとう』

 

 

最後にそう聞こえた気がした。

私はせんせが消える最後まで笑えていたかな?ねぇ殺せんせ。私カァイイかった…?

 

 

 

~*~*~

 

 

 

暗殺教室を卒業し、それぞれの道へ進んでいった元E組の面々。かく言う私も新天地へと向かっています。

 

「…今日から高校生活が始まるんですねぇ」

 

進学を機に家を出て、学校の近くのアパートに引っ越しましています。最低限の電化製品は部屋についており、防犯対策も万全。学校にも徒歩15分程度と中々の立地条件です。家賃はちょっとお高めですが、暗殺報酬の貯蓄もあるので全く問題ありません。

荷物は一昨日のうちに届けられており荷ほどきも終わっている。まあ衣服と殺せんせからの卒業アルバム兼アドバイスブック位だったのですぐ終わりましたけど。ちなみにアドバイスブックは全体の1割も読めてません。これあまりにも情報量が多過ぎるんですもん。

 

制服に着替え、食パンを咥えながら部屋を出ます。

 

「いってきます」

 

もちろん返事はありません。寂しさと共に懐かしさも感じました。

 

せんせの手入れが入って、両親との関係は改善されましたが、今までのことがなくなった訳ではなく、私の中で壁が出来ていました。それに両親も気づいていたようで、進学先の話をする際に家を出ることを止められることはありませんでした。代わりに毎月仕送りをしてくれるとのことなので、最低限の繋がりは残りましたね。

 

「しかし、何度も思いますが変わりましたね私も。まさか私が”ヒーローを目指すなんて”」

 

私が向かっている場所、それは雄英高校です。

 

 

 

 

~*~*~

 

 

 

 

『さて渡我さん。あなたの進路ですが…調査票は無記入でしたね。理由を教えていただけませんか?』

『…私は今の世の中が生きづらいです。皆がそれぞれの”普通”を表現できるようにしたいなとは思います。でもそれをどのようにそれを実現すればいいのか、イマイチ思い浮かばないのです』

『なるほど。目標は定まっていても、その過程が不透明になっていると』

『です。カルマ君のように政治家になるというのも考えましたが、私には合わなすぎます。もっと自由にやりたいです』

 

少し不貞腐れて口を尖らせる。

 

『なるほど。そこまで見えているのなら、答えも出ているのではありませんか?』

『けど私がなれるとは思いません…』

『なれますよ。あなたなら、必ず。だってもし私を暗殺することが出来たら、あなたは世界を救った”ヒーロー”ですよ?』

『…そんな称号いりません』

『ですが、渡我さんの求めるような世界を目指すのにヒーローになるというのは最適だと思いますがねぇ…』

 

そう言ってある紙を見せてくれた。そこには小中学生を対象にした、個性に関する相談会の情報が書かれていた。しかもそれを企画していたのは、近所でよく聞く名のヒーローだった。

 

『ヒーローとは、多くの人を救う仕事です。敵を捕まえるだけでなく、あなたのように個性で困っている人の話を聞いて、少しでも良い方向へ向かえるように導いてあげる。それもまたヒーローの役割だとせんせーは思います。あなたは一度個性に対して苦しい思いをしてきた経験があります。その経験を活かし、同じことで苦しんでいる人を助けてあげて下さい』

『…私に、なれますか?ヒーローに』

『もちろんです。せんせーが保証します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは怒涛の日々だった。とりあえず志望校とした雄英高校ヒーロー科は、平和の象徴として名高いオールマイトやヒーローチャート上位者を多く輩出しているのもあり、毎年倍率が300を超えるほどの大人気高校。試験内容も学科と実技があるので、試験前日まで放課後は殺せんせの特別授業、休日は烏間先生の格闘訓練と個性伸ばしを並行して行い、鍛えていきました。たまに他の子も混ざってきたので意外と楽しみながらできたのは幸いです。

 

 

そして試験当日。学科は問題なくクリアし実技試験に臨みましたが、思いの外受験者のレベルが低くて驚きました。まあよくよく考えれば、私暗殺者として色々な経験を積んでるんでしたと納得。E組にいると感覚がバグりそうです。ヤではないですけどね。

 

 

そうして送られてきた合否通知。正直に言うと相当素行が悪いと判断されない限りは受かると思ってました。事実結果は合格。学科は歴代最高得点だったなんて言われてちょっと嬉しかったです。そして試験直前まで課題と考えていた実技でしたが、仮想敵を倒した際に入るポイントは67ポイント。この時点で合格をもらえていたが、敵を倒す以外にも評価項目があったそうで、それがレスキューポイント。簡単に言えば他の受験者のフォローや救助を行ったりするとポイントが入るそう。結果は23ポイント。特に意識してそういうことを行った記憶はないので、偶然評価されたようでラッキーですね。

 

実技試験の合計は90ポイント。主席合格だそうです。ここまで頑張った甲斐がありました。クラスの皆のもたくさん祝福してくれましたし、殺せんせ達も満足そうでしたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻って現在。入試の時にも通った正門をくぐり、だだっ広い校舎をちょっとだけ迷いながら1年A組の教室にたどり着きました。

 

「…大きな扉。バリアフリーにしても限度がありません?」

 

無駄に大きい扉を開けると、まだ生徒は誰も来ていないようでした。入学式の2時間前は流石に早過ぎましたかね…。

座席表は黒板に貼られていたのでそれを基に席に座ります。早く来たのは良いのですが、暇です。凛香ちゃんなら読書したりで時間を潰せるんでしょうけど、生憎私は本なんて持ってません。…大人しく他の人が来るまで仮眠でもしてましょうかね。

 

 

 

~*~*~

 

 

 

「おい、起きろ」

「…んぇ?」

「入学初日から居眠りとは良い度胸だな?」

「…え?」

 

え、え、どういう状況です?周りを見ても誰もいないし時間は…あれ!?凄い時間経ってる!!いくらなんでも熟睡し過ぎでは!?何やってんですか私!!!

 

「既に他のやつらは移動してる。寝ていて全く話を聞いていなかったお前にもう一度言ってやる。俺は担任の相澤消太だ。目が覚めたんならこれを着てグラウンドに集まれ。あと10分以内に来なかった場合は除籍とする。分かったら行け!!」

「は、はい~!!」

 

運動着を受け取って脱兎のごとく教室を出ました。あれ、そういえば…

 

「更衣室ってどこです…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な、なんとか間に合いました…。危うく入学初日から除籍にされるとこでした。というより初日から除籍って何です!?理不尽にもほどがあります!!

 

『個性把握テストォ!?』

「入学式は!?ガイダンスは!?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。…雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

生徒の言葉を一蹴して先生は説明を続けます。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈…中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。国は画一的な記録を取って平均を作り続けてる。文部科学省の怠慢だ。合理的じゃない」

 

そう言うとちょっと特殊な感じのソフトボールを取り出しました。

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」

「67m」

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何をしてもいい。早よ。思いっきりな」

 

ボールを手渡された爆豪は、顔をにやつかせながら意気揚々と円の中に入って振りかぶります。

 

「んじゃまぁ…死ねぇ!!」

(((…死ね?)))

 

ああ、あの爆豪って人声質がカルマ君そっくりだなぁ…。言動は全然違いますけど。あ、でも物騒なのは同じかもです。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

端末には「705.2m」と表示されてました。感じから爆破の個性で、爆風の勢いを使ってボールを飛ばしたみたいです。よく壊れないですね、あのボール。

 

「なんだこれ!!すげー面白そう!」

「700m超えってマジかよ!」

「個性思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!!」

「…面白そう…か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

先生の雰囲気が変わりましたね。さっきの教室でのこともあります。はぁ、全く先が思いやられますね…。

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

『えぇぇえええ!!!??』

(やっぱりですか…。しかもあの目は本気でするつもりみたいです。はぁ、今日も良い天気ですねぇ…)

 

殺せんせ。どうやら私のヒーローへの道は、果てしなく険しいものみたいです。

 

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