トガちゃんは元暗殺者   作:ぶらっきー

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#10 強化の時間(2)

 

「はっ!!」

「まだ踏み込みが甘い!100%の力を出し切れていないぞ!!」

「はい!!」

「さっさとやられろやぁ!!」

「そんなんで殺られるわけないでしょう!」

 

お昼を挟んで、午後は私とかっちゃんも格闘術の訓練に合流します。イズク君の動きが昼前とは格段に上達していてとても驚きましたね。これは私もうかうかしているとあっという間に追い越されそうです。かっちゃんも同じ気持ちなのか訓練にも熱が入ります。本当はかっちゃんをステイン先生にお願いしようと思っていたのですが、振られている仕事もあるので今回は難しいとのことでした。なので私が相手をしていますが、私の戦闘スタイルがあまり合わないんですよね。普通にやったらお互い訓練にならないのですし、かっちゃんに合わせた訓練に寄せています。負けることはまだないですが、ヒヤっとする瞬間はあるので、負けるのも時間の問題でしょう。誰か代わりに訓練に付き合ってくれる都合のいい人はいませんかねぇ…。

 

「なぁ~んか気配がするなって思ったら、面白いことやってんじゃ~ん。俺も混ぜてよ」

「カルマ君…?」

「久しぶりだねトガちゃん。入学早々大変みたいじゃん」

 

…いました、都合のいい人。カルマ君が飛び入り参加です。なんでも放課後定期的にここを訪れていたそうです。せっかくですし、格闘戦最強格のカルマ君にかっちゃんの訓練を付き合ってもらいましょうか。

え、超体操服持ってきてるってどういうことです?最初からやる気満々じゃないですか。元々体を動かすために持ってた?あ、ソウデスカ…。

 

「久しぶりの訓練だから、お手柔らかにね?」

「ハンッ、思ってもねぇこと抜かしてんじゃねぇよ赤髪野郎が」

「へぇ…?」

「言っときますけど、個性の使用は厳禁ですからね?かっちゃんの個性はケガじゃ済まないんですから」

「いいよ別に個性使ってもらっても。せっかくやるんだし、全力でやった方が楽しいじゃん」

「ア”ァ!?テメェ舐めてんのかぁ!?」

「まっさか~。いくら訓練でも、死ぬ気でやらなきゃ意味ないでしょ?殺す気で来なよ、天才クン?」

「…こちとらずっと制限かけられてフラストレーション溜まりまくってんだ。後悔すんじゃねぇぞ!」

「御託はいいから、来なよ」

 

カルマ君の口車に乗せられて切れ散らかしてるかっちゃん。カルマ君のいつものやつですね。煽るだけ煽って、自分はしっかり観察して相手を見極めています。去年の夏休みを思い出しますねぇ。

 

「おらぁ!!」

「っと、そんな大振りじゃすぐ読まれるよ?」

「読まれる前にぶっ潰しゃいいんだろうが!!」

「出来てないじゃんww」

 

…戦闘中でも煽ることを止めない精神力は素直に称賛しますね。私も相手を煽って集中力を乱すことはしますが、限度があります。生粋のドSですね。

 

「テメェこそ避けてるだけじゃねぇか!!そんなんで俺を倒せると思ってんかぁ!?」

「…言っておきますが、カルマ君の戦闘スキルは私より圧倒的に上ですよ。格闘術だけじゃなく心理戦も織り交ぜてくるんで、普通にやるより質が悪いです。現に全く攻撃が当たらないでしょ?」

「クソがぁ!!」

「ほらほら、もっと殺す気で来なよ?」

「ヒーロー志望の人が殺す気で行くわけないじゃないですか…」

 

戦闘訓練以降、彼の口から”殺す”という言葉は一切出ることはなくなりました。代わりに”潰す”にグレードダウンしただけで、暴言自体はなくなりませんでしたけど。顔はいいんですから、そういうとこ直すだけで人気出ると思うんですけどねぇ。

 

「抜群のセンスは持ってるみたいだけど、実践慣れはしてないねぇ。経験さえ積んじゃえば見えるものもたくさんあるよ?」

「んなこと…分かってら…」

 

あらら、フィジカルモンスターのかっちゃんでもカルマ君には勝てませんでしたか。経験を積んで出直してこいってやつです。元ネタは多分ありません!

 

「さて、次はトガちゃんやろっか」

「え、私もですか?」

「だって爆豪君とやってるとき全力じゃなかったでしょ?一回トガちゃんの実力をちゃんと把握させた方がよくない?」

「…確かにそうなのかもですね」

 

戦闘訓練の時はかっちゃんに変身していたので実力かと言われるとちょっと微妙ですしね。

 

「通算戦績、覚えてます?」

「もちろん。523戦270勝232敗21分け。最初のリードがなかったら後半の追い上げで負け越してたかもだねぇ」

「負け越してはいますけど、直近だと連勝記録更新中ってことお忘れなく」

「はいはい。渚と似たタイプだし、ちょっとの隙であっという間に絡めとられる。相性の問題もあるけど、こっちとしても色々な戦法が見れて勉強になるよ」

「そうですか。…今度も勝ちます」

「今回は負けない」

 

軽く体を動かしてカルマ君と向かい合います。ちょうど休憩になったのか烏間先生とイズク君も観戦するみたいです。久しぶりの対人格闘。ステイン先生は指導するのが目的なので決着まですることはまずありません。どちらかが倒れる(殺される)まで終わらない戦闘…。この緊張感は早々味わえません。

 

「先生、合図お願いしていい?」

「いいだろう。…始め!!」

 

合図の瞬間、お互いに接敵します。カルマ君は重い一撃を。私は軽い連撃を相手に与えようとします。ですがお互いに攻撃を受けまいと捌くか避けます。う~ん、お互いにその場その場で臨機応変に対応しながら攻撃を仕掛けるので、集中しないと簡単にやられちゃいます。はっきり言って、この戦いは集中力が先に切れた方が負けます。

 

「す、凄い…」

「これが、同い年だってのか…」

 

傍から見たら何が起きてるか言語化する前に次の展開に進んでいるので理解が追い付かないかもですね。烏間先生位の人なら問題なく把握できてそうですけど。

 

「しばらく会わない間に随分と衰えたんじゃないですか?サボりはよくないですね!」

「ヒーロー科と普通科の運動量を一緒にしないでくれるかな!?」

「それもそうですね!」

 

確かにほんとにサボってたらここまでまともな戦いが出来るわけなかったですね。そう考えるとよくやってると言えますか。

 

「っ!」

「逃がしません」

 

僅かに出来た隙。私の戦闘スタイルは視線誘導を応用した死角からの攻撃です。ですがいくら視線を誘導しても攻撃に殺意が乗っていてはすぐに感づかれます。故にギリギリまで悟らせないよう、戦闘中の感情の起伏を極限まで抑えています。そうすることで相手に感づかれにくくなるだけでなく、攻撃も読まれにくくなる副次的効果もあります。こういう戦法は本能的に動く人ほどやりにくい相手になりますね。

ブレイクダンスの要領で逆立ちから回転させ上半身に攻撃し、防御されればすかさずがら空きになっている下半身へ。意識がそちらに向いたところでカルマ君に飛びつき三角締めをお見舞いします。いつぞや渚君がカルマ君に極めようとしましたが力技で崩されてましたけど、今は戦闘の疲労もあってそこまで力が入っていません。

 

「ぐっ…ギ、ギブ」

「はい、これで23連勝ですね」

「そういうのはよく覚えてるよね…」

「弱みになるものはとことん集めておけって言ったのはカルマ君ですよ?」

「まさか自分に返ってくるとは思わないじゃん」

 

とりあえず私の実力は幼馴染コンビには見せれましたね。反応は…ただただ呆然としてますね。自分との実力差に驚愕してるみたいです。特にかっちゃんはプライドズタボロでしょうね。一朝一夕でできるような技術じゃありませんから。

 

「…テメェら、なんでそんなに動けんだ」

「ん~、知りたい?」

「ったりめぇだ!!俺はNo.1ヒーローになんだ!こんなとこで躓いてるヒマはねぇんだ!!」

「か、かっちゃん…」

 

ちらっと烏間先生の方を見ますが、首を横に振っています。ここまで何も言わず付き合ってくれていますが、殺せんせのことは国家機密情報。簡単に話すことはできないみたいです。まあそもそも”色々棚に上げてる人に”教える気はないですけどね。

 

「躓いてるヒマ…ですか。自尊心痛めつけられてるとこ申し訳ないですけど、今のかっちゃんはヒーローにはなれませんよ?」

「ア”ァ!?」

「暴言吐いたり、すぐ暴力を振るうような人がヒーローになる?なれるわけないじゃないですか。敵の方がよっぽどしっくりきます」

「なっ…」

 

今まで誰もはっきりとは言えなかったこと。反撃が怖くて言えなかったことを私は躊躇なく発言します。だって何されても対応できますから。

 

「今まで会ってきた人は個性の強さと上っ面の成績だけを見てあなたをもてはやしたんでしょうね。でも本性は自分より弱い相手を見下し、気に入らないことがあれば癇癪を起して相手を傷つける。そうやって逆らえない状況を作り上げて支配したつもりになってる。先生に言われたんじゃないですか?『素行はあれだが成績はとても優秀だ』みたいなこと。そこだけ見たら昔のカルマ君みたいです」

「うわ、いきなりこっちに飛んできた」

「事実じゃないですか。全く、良かったですねうちの学校じゃなくて。うちだったら成績良くても素行が悪かったらすぐ下位に落とされましたから」

「全てに関して優秀な生徒でなければ価値はない。多少なら許されたかもだけど、爆豪君みたいなタイプは受け入れられなかったかもねぇ」

 

まあかっちゃんの成績だったらうちの授業にもついては行けたと思いますけど。あ、でも理事長には屈服されそうですね。そうなってたら今みたいな性格も多少は…いや、理事長には逆らえないうえで、むしろ助長されてそうかもです。

 

「どうせイズク君にも相当当たってたんでしょうね。イズク君もよくこんな人と幼馴染やってますよ。私なら早々に見限っちゃいます」

「そ、それは…」

 

イズク君もかっちゃんをちらちら見ながら言葉を探してるみたいです。こんな状況でもかっちゃんを擁護しようとするなんて、生粋のヒーローなんですね。ですが残念ながら私は元暗殺者です。相手を殺すためなら何でも使います。それによって相手が壊れようとも。

 

「いい加減現実を見たらどうです?いくら頭がよくて、抜群のバトルセンスがあったって、根底が歪んでいたら意味がありませんよ?No.1ヒーローになるというのは、言うのは簡単でも実践するには多くの障害があります。その障害を無視してなれるほど、ヒーローは甘くありません。いつか絶対ボロが出て転落していくもんですから」

「俺、は…」

 

話をしている間かっちゃんはずっと俯いていました。図星を突かれ続けて何も言えないでしょうね。しかもそれは本人自身もよく分かってることで。でも今や無いに等しい自尊心が前に進むこと、”他者を認める”ということを拒否しているのではないでしょうか。そういったものは早い段階で解決しておかなければ、後々もっと大変なことになることだってあります。頭も良いんですから、そういうことを考えたことだってあるはずです。今のうちに挫折を経験させておきます。その方がきっと大きく成長できるはずですから。

 

「前にも言いましたが、一度イズク君と話しなさい。プライドなんて捨てて、自分の本音をすべてさらけ出してしまいなさい。そうでもしなきゃあなたは変わらない、変われないです。そのままでいたいなら結構です。これ以上教えるものはありませんしそういった対応をさせてもらいます」

 

そう言って話は終わりとばかりにその場を去ろうとします。あ、2人にに言わなきゃいけないことがあったの忘れてました。

 

「そうそう、ここなら個性の使用は問題ありませんが、建物に被害を出すようなことがないようにお願いしますね。もし被害が出るようなことがあれば…絶対に許しませんからね」

 

2人に釘を刺して、今度こそ山を下りていきます。カルマ君と烏間先生も特に何も言わずついてきました。

 

「いいの?放っておいて」

「口出しはしなかったが、少し言い過ぎだぞ」

「あれでも抑えた方ですよ?言いたいこと全部言ってたら、指導ではなく脅迫になっていたかもなので」

「大丈夫なの彼?」

「大丈夫ですよ。あれだけのことで折れるようならヒーローなんてやっていけません。簡単に倒せない巨悪なんてごまんといるんですから」

「…それもそうだ」

 

その後は爆発音が聞こえてきたりしましたが、私は気にせずカルマ君と近況を話して静岡に帰りました。その日の夜にイズク君からかっちゃんと和解した旨の連絡をもらいました。無事に和解できてよかったです。これでようやくかっちゃんの手入れも進んだというものです。

 

「…ですが、あの暴言は一生直る気がしませんね」

 

そんなことを思いながら私は夢の世界へ旅立つのでした。

 

 

 

~*~*~

 

 

 

 

 

 

「オ…オワら、せン!モ、モルモット、ど、どどドモ、ガ!!」

 

 

 

 

 

 





いかがでしたでしょうか…?

最後の最後に不穏な気配が…一体なんなんでしょうかね?

次回は体育祭編に入っていきたいなと思います!お楽しみに…
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