「全員コスチューム持ったな?本来なら公共の場じゃ着用禁止の身だ。決して落としたりするなよ」
「は~い」
「はいを伸ばすな芦戸。くれぐれも失礼のないようにな。それじゃあ行ってこい」
『はい!!』
皆さんと別れて、私は1人駅を出ました。そしてすぐ近くに停まっていた黒塗りの車に乗り込みます。
「お待たせしました。ステイン先生」
「…それほど待ってはいない。出すぞ」
ステイン先生の運転でいつも訓練している施設へ向かいます。その道中で今回の職場体験で行う内容を聞きます。
「今回行う内容はダッシュボードに入っている資料を見ろ。今日はこのままいつもの施設で訓練と、期間中に使用するサポートアイテムのテストを行う。資料は極秘資料だ。全て見たら処分する」
「了解です」
私はダッシュボードに入っている資料を最後まで見ます。全て見たら処分するとのことなのでここで内容を完全に理解しておかなければならないのですが、殺せんせの授業での経験が活きているのですぐに頭に入ってきます。…それにしてもこの内容、学生に。しかも職場体験でさせるような内容じゃありませんよね?体験っていうより完全な業務ですよね?
~*~*~
~職場体験内容~
・基本業務
戦闘訓練、サポートアイテムのテスト。管轄地域でのパトロールの参加。
・平行業務(極秘任務のため、外部への漏洩を一切禁ずる)
先日発生した、柳沢誇太郎及び鷹岡明誘拐に関しての可能な限りでの情報収集。
上記2人は誘拐発覚時点において、防衛省の管轄する精神病院にて入院していた。目撃者の証言から、誘拐には敵名:黒霧の個性によるワープゲートが使用されている可能性が高く、敵連合の関与が疑われる。
柳沢の状態は、触手細胞と超生物との戦闘により脳にダメージが残った影響で身体機能が著しく低下し、介護なしの活動は不可能になっている。誘拐後、単独で活動するといったことはまずないと判断できる。
鷹岡の状態は、E組との戦闘により深刻な精神的ショックを受けており、正常な会話はほぼ不可能となっていた。基本的な行動に問題はないが、幻覚や幻聴の症状があり自傷行為や自殺を図ろうとした記録もあった。
現状2人の誘拐経緯は不明だが、昨年の超生物の件が敵に漏れている可能性は否定できない。特に触手細胞をまだ体内に宿している渡我被身子氏は最大限の警戒が必要。また、防衛省にて管理している触手の種子も今まで以上に管理体制を強化する必要がある。
「え、触手の種子ってまだ残ってたんですか!?」
「ああ。柳沢が持っていた研究所を捜索していた際に発見したそうだ。データベースによれば2代目死神に与えた触手のコピーで、性能は大きく劣るものだそうだが、それでも最高速度は計算上マッハ1程度は出るそうだ」
「殺せんせよりも遅いですけど常人からしたら充分脅威になり得ますね」
「そういうことだ。ハァ…全く面倒なことになったものだ」
「…ですね」
~*~*~
「あ~イライラする…!!」
「お、落ち着いて下さい死柄木弔」
「落ち着いてられるか!せっかく雄英に強襲したのに失敗して、手配したチンピラはまるっと捕まった。次の増援もいつ来るか分からない。退屈なんだよ、俺は」
『焦ってはいけないよ弔』
「…先生」
『今はどんなに辛くとも耐えるんだ。そうすればいつか必ず君の望む世界を作ることが出来るんだ』
「だけど退屈なことは変わらない。この鬱憤をどう発散すればいい!」
『溜め込むんだよ。怒りや憎しみがお前の力となるんだ。溜めに溜めたものを放出したとき、とてつもない力を発揮できるだろうね』
「チッ!!」
「死柄木弔、どこへ行くのですか?」
「散歩だよ。この場に居続けたらどうにかなっちまいそうだ」
勢いよく閉められた扉の音が部屋に木霊する。
『やれやれ、反抗期かな?黒霧、弔のことは頼んだよ』
「分かっております」
テレビから聞こえてきた声も消え、その場は静寂に包まれた。
「…死柄木弔はどうするのでしょうか」
仲間を集める。そしてもう一つ、”元E組のメンバーの中から触手細胞を持つ者をこちら側に引き込む”。そのためにも情報が必要だ。
~*~*~
「…今日はこれで終わりだ。シャワーを浴びたら食堂で飯を食え。それ以降は自由だが明日も早いから夜更かしなどするなよ」
「ありがとう、ございました…」
やっぱりステイン先生の訓練は地獄です…。まともに攻撃が通りませんし、防御に関しても一撃が重くて貫通してきてダメージが蓄積されます。おまけに死角から攻めても背中に目でもあるんじゃないかと思うほどの反応速度で対応されてしまって手も足もでません。まあ文句を言っても「まだお前に負けるわけにはいかない」と言われるだけですし、負け続けてはいますけど成長はできているのは事実です。これで手加減されて勝っても嬉しくありませんね。
さて、シャワーも浴びてご飯も食べたのでこれからはフリーの時間です。せっかくですし、施設周辺でも散歩してますかねぇ。
「ん~!風が気持ちいいですねぇ」
春から梅雨前にかけての時期は夕方でも暖かい風が吹いたりして意外と過ごしやすかったりします。こういう時の散歩は気分転換にも丁度いいです。
「さて、どこら辺に行きましょうか…ん?」
「…チッ、全然治まんねぇ。あ?」
前方から見たことのある顔の人物が…え?
「死柄木…弔君?」
「お前…あの時のマスク野郎…!!」
感情の波の起伏が一気に上がったので瞬時に首元に手を当てて落ち着かせます。
「落ち着いてください。別に私は今あなたを捕まえようなんて思ってませんから」
「は?」
「ちょっとお茶しません?」
~*~*~
「お前…一体どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も、普通にトムラ君とお茶したいだけですよ?誰にも連絡はしていませんし、会話から情報を抜き取ろうとするつもりもありません。なんならスマホの電源も切っておきましょうか?」
「…いい。そこまで言うんだったらそういうことにしといてやる。だが、少しでも不審な行動をとったらお前を粉々にするからな」
「はい、それで大丈夫です」
さて、喫茶店に来たのでそれぞれ注文します。私はケーキセットを、トムラ君はブラックコーヒーを頼みました。
「それで、なにをそんなにイライラしていたんです?」
「おい、情報を抜かないんじゃなかったのか」
「これはただの世間話じゃないですか。イライラするって口にしてたくらいですし、少し愚痴ったって罰は当たりませんよ?」
「…溜めこめと先生に言われた。怒りや憎しみは力になると」
「へぇ…先生ですか。また随分と振り切った教育方針ですね」
「…お前には関係ないだろ。ヒーローの卵であるお前に敵である俺のことなんて」
「そうかもしれません。でも私だって一歩間違えていれば敵に堕ちていたと思います」
「は…?」
「私は個性の都合上、血液に異常な執着がありました。それで小さい頃、親に”普通”を強制されました。でも私にとっての普通と親にとっての普通の差異にストレスを感じていました。なんでこの世界はこんなにも生きづらいのかって。そのうちこんな生きづらい世界壊れてしまえばいいと思い始めました」
「…で?そんなお前はなんで今そっちにいるんだ?」
「…ある先生のおかげです。その先生は、人それぞれ違った普通があって、それを相手に押し付けるのは違うと親の考えを真っ向から否定しました。それで生きにくいと思うのは当たり前。ですけど全てを否定するというのもまた違う。そういった考え方、普通もあるんだと理解し、お互いに認めること。胸の内に秘めていることをさらけ出して初めて相手のことを知ることが出来る。先生はそう私達に教えてくれました」
「結果お互いのことが分かってハッピーエンドってか。面白味もない、王道ルートじゃねぇか」
「残念ながらそうはいきません。お互いのことは知れましたが、やっぱり完全に認めることはできませんでした。マイナスとマイナスは足してもマイナスですし、差し引くことは出来ても元が大きなマイナスだったら、プラスにはなりません」
「…よくそれでヒーロー目指そうなんて思ってるな」
「考え方が変わったからかもですね。この世界が生きづらいと思っている人は私だけじゃないって気づけましたから。自分のことを否定されてばかりで、段々自分の思っていっていることを話せなくなる。そういう人の話を否定せずに聞いて苦しみを和らげたい、救ってあげたい。私がせんせに助けられたように、私も悩んだり苦しんでいる人の助けになれるヒーローになりたい。それが私のオリジンです」
ふぅ、と一息ついて紅茶を一口飲んで口の中を潤します。
「さ、次はトムラ君、いやテンコ君の番ですよ」
「!?なんで俺の名前を」
「血液採取したのをお忘れですか?DNA鑑定で一発です」
「チッ、そういやそうだった…」
「改めて、テンコ君のことを教えてください」
すると少しずつですが自分のことを話してくれました。ですが前提として小さい頃の記憶はないとのことでした。覚えていることは憎悪だけ。のはずだったんですが…
「俺は、なにに憎んでるんだ…?」
「え?」
「なにが許せない…?ヒーロー?いや違う。もっとその前…」
「…何か思い出したんですか?」
「…そう、だ。俺は…殺したんだ。個性、で、お父さんお母さん、華ちゃんにモンちゃんも…」
「…個性の発現による不慮の事故ですか」
そこからは断片的ですが小さい頃の話をしてくれました。なんでも昨今の家庭では珍しくヒーローを嫌悪するような家庭だったそうです。その筆頭が父親。話によるとテンコ君からみて祖母にあたる方がヒーローだったそうなんですが、ヒーロー活動を優先するために家族を傷つけてしまったのだとか。それで家庭内でのヒーローに関する話題は禁止されてたらしいです。でもヒーローに関する話題は外に出てしまえば簡単に手に入りますし、テンコ君自身もヒーローに憧れていたそうです。
「けどある時、お父さんの書斎に入った罰として外に出されていた時、俺の個性が発現した。結果家族は粉々に崩壊してしまった…」
お父さんの最後の言葉は『すまない』だったそうです。それに対して今までの鬱憤が爆発したのか、自分の意志で父親を崩壊させたそうです。その瞬間に途轍もない快感が訪れたのと同時に胸にぽっかりと穴が開いたような虚無感があったそうです。
「その穴を埋めるように俺を導いたのが先生だった。だが、今となっては先生の考えに疑問を覚える。先生はいつもオールマイトのことを目の敵にして嫌っていた。あいつには絶望を味合わせてやるって常日頃言っていたしな」
「相当憎んでるみたいですね。まあ敵は皆オールマイトのこと憎んでると思いますけど」
「まあな。だが、俺の為と言って色々とよくしてくれてはいるが、先生自身は何もしない。まるで育成ゲームをしているみたいな感じだな」
「言い得て妙ですねその例え…」
「ともかく俺のオリジンは確かに憎しみだった。けどその憎しみを向ける相手は既に俺の手で壊してた。じゃあそれから今まであったものはなんだ?そう考えたら思い浮かんだことがあった」
「思い浮かんだこと…?」
「俺は先生の目的ための駒にされてるんじゃないか。そう考えると納得のいく。小さい頃の記憶がなかったのも思い出したら不都合なことがあったから。現に今ヒーローに対する憎しみは皆無だ。オリジンを思い出せたんだからな。むしろ今は先生に対しての憎しみが増すばかりだ。やつのせいで俺の人生はめちゃくちゃにされたんだからな」
「…これからどうするんですか?」
「今はまだなにもしない。先にやるべきことがある」
「そうですか。…また話がしたかったらこの番号に連絡ください。きっとあなたの助けになれるようにしますから」
「…一応もらっとく。ってか今更だがお前の名前を知らないんだが」
「ああ、言ってませんでしたね。私はトガ、トガヒミコです」
「トガ…ああ、先生が言ってた”E組生徒”か」
…表情に出さないようにしましたが、今の言葉に戦慄しました。やはり敵側に私達の情報が漏れています…。ということは私が触手細胞をもっているということも露呈している可能性は高いです。
「気をつけろよ。お前らのことを先生は狙ってる。どこかのタイミングで必ず動く」
「…用心しておきます」
「ああ。…今日は世話になったな。ここは俺が出しておく」
「ごちそうさまです」
こうしてテンコ君とのティータイムは終わりました。内容は暗いものばかりでしたが、確かにテンコ君に道筋を示すことはできたと思います。
「しかし、皆さん複雑な家庭環境だったり、歪な友人関係だったり、大変ですねぇ…」
でも手入れのし甲斐がありますね。ですよね、せんせ?
いかがでしたでしょうか…?
ステインがいない、ということはそれに感化された敵がいない!つまりは敵連合が発展しない可能性が高い!!なら最初からなかったことにしてしまえばいい!!!のテンションで、トムラ君にはテンコ君になってもらいましょう。んでもって色々決着付けちゃいましょうやとノリで書いちゃいました…。
もう原作改変どころか崩壊してる気がします。トムラ君の個性がまさか現実まで!?
「勝手に人のせいにすんじゃねぇ」
すいません…。
次回は引き続き職場体験の話をしつつ、敵連合が一体どんな動きをするのかを書けたらと思います!お楽しみに。