トガちゃんは元暗殺者   作:ぶらっきー

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#2 個性把握テストの時間

 

入学早々式をクラス全員がボイコットし始まった個性把握テスト。最下位の人は除籍処分になってしまうこのテストですが、基本は中学の時にもやっている体力テストを個性ありの状態で行うものです。が、私にとっては関係ありません。

 

「私、血をもらわないと個性すら使えないんですけど?」

 

残酷なことに私の個性について理解のある人はこの場にいません。これはつまり詰みってやつです?まあやれるだけやりますよ、はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ!いきなり3秒台かよ!!」

 

準備運動をしながら走る人を観察していたら、いきなり3秒台の記録が出た。足にバイクのマフラのようなものがついているので足がとても速い個性なのでしょう。蹴り技も強そうです。

 

「次、轟と渡我」

 

あっという間に私の番です。一緒に走るのは轟さんという方らしいです。

 

「よろしくです」

「…ああ」

 

…なんか近づくなオーラが凄い子です。

 

まあまあ気を取り直してスタート位置につく。個性は活かせないので実力でどうにかするしかありません。合図とともに走り出しますが、隣の轟さんは氷を放出してその上を滑るように走っていきました。なにあれ楽しそう!!

 

「6秒88」

「まあこんなもんですかね」

 

個性を使わずにこのタイムなら十分です。この後も測定は続きます。

 

立ち幅跳びに長座体前屈、握力測定に反復横跳びと進んでいきます。ちなみに、握力測定にて障子君が500kgと聞いたときに夏休みのリゾートであったおじさんぬを思い出したのは内緒です。

 

「次は持久走だ。さっさと準備しろ」

 

お次は持久走。…正直に言えばつまらないです。E組時代にフリーランニングを訓練を行っているので、罠も何もない平坦なトラックを1500m走るなど朝飯前です。ポニーテールの子がバイクを作っている姿を横目にスタートラインに立ちます。

 

「用意…スタート」

「なっ!?」

 

スタートの合図で走り出します。後ろの方から驚愕の声が聞こえた気がしますが気にしません。すぐにポニーテールの子に抜かれますが、バイクに乗っているのだから当たり前です。個性もなしにバイクに勝てたらヤバすぎます。

そのままペースを落とすことなくゴール。結果は2位です。

 

「ム~、もう少しペース早くても良かったかもです」

 

息切れもすることなく、そんな言葉を吐いてしまったので隣に座っているポニーテールの子の目線が痛いです。でもこの程度でバテてたら何もできませんからね?

 

「あ、あの、渡我さん、でよろしかったでしょうか?」

「はい、トガです。トガヒミコです」

「私は八百万百と申します。渡我さんの個性は身体強化のようなものなのでしょうか?」

「いいえ、違いますよ?私の個性は『変身』です。血液を摂取してその人に変身できます。血の量によってはその人の個性も再現できたりします。なので今回のテストでは個性は一切使ってません。というより使えませんね」

「そうなのですか!?では今の走りは…」

「正真正銘、自分の力です」

「まあ!もしよろしければどんなトレーニングを行っているのかご教授いただいても!?」

「…良いですけど―」

 

 

―死ぬほどきついと思うので、死なないで下さいね?

 

にぃっと笑って百ちゃんを見つめる。百ちゃんの雰囲気から察するに、ちょっと脅かしすぎましたかね?

 

 

 

~*~*~

 

 

 

「はぁ…」

 

ボール投げの記録を取りながらため息を吐く。今年の生徒は随分と面倒がかかるやつらばかりのようだ。

 

「んじゃまぁ…死ねぇ!!」

(言動が物騒。バトルセンスが高い故に喧嘩っ早い。それが改善されるだけでもっと活躍できるだろうに。センスの塊だけにもったいない)

 

そしてこいつ。

 

「えっ!?確かに今使おうと…」

「個性を消した。まったくあの入試はつくづく合理性に欠くよ…お前のようなものでも入学できてしまう」

「消した…?そうかあのゴーグル!見ただけで個性を消す、抹消ヒーローイレイザーヘッド!!」

 

ほう、俺のことを知ってるのか。だがそんなことは今はどうでもいい。

 

「見たとこ…個性を制御出来ないんだろ? また行動不能になって、誰かに助けて貰うつもりだったか?」

「そ、そんなつもりじゃ…!」

 

緑谷を睨みつけながら脅すように尋ねると、緑谷は反論しようとする。往生際が悪いと首の捕縛布を緑谷に巻き付け引き寄せた。

 

「どういうつもりでも、周りはそうせざるをえなくなるって話だ。昔、暑苦しいヒーローが大災害から1人で千人以上を救い出すと言う伝説を創った。同じ蛮勇でも…お前のは一人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久、お前の力じゃヒーローにはなれないよ」

「…」

「…個性は戻した。ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

 

思いつめた顔で再びボールを投げる姿勢をとる。ここで改善なく腕を壊すようなら…

 

「…見込みゼロ」

「SMASH!!」

「!?」

「先生…まだ、動けます!!」

「こいつ…!」

 

思わず深まった笑みを浮かべてしまう。さすがに僅かな時間で怪我をしないようになるなんてことは夢物語にも程がある。だからこいつは個性の使う箇所を最小限にして怪我の範囲を抑えやがった。…まだまだこいつは成長するかもしれないな。

 

そして最後の1人…。

 

「えいっ」

 

手元の測定器に表示された記録は27m。一般的な女子としてはトップクラスの記録だが、ここはヒーロー科。個性との相性もあるのでしょうがないだろうが、少しも焦ることもなく淡々とこなしていく。

そんな中驚かされたのは持久走だ。スタート直後からトップスピードを維持してそのままゴール。息も切らすことなく他の生徒を見学していた。

 

「話は聞いていたが、ここまでか…」

 

椚ヶ丘中学校3年E組に在籍していた生徒は超生物と一年間共にし、その超生物を撃退するよう訓練していた。この情報を知るものは、ヒーローの中でも一部の者にしか知らされていない。俺は一度、撃退するチームに組み込まれ実際にその超生物と相対したが、見た目は黄色い触手で移動速度はマッハ20という規格外なスピード。そして俺たちのどの攻撃も一切通用しないという無敵の存在だった。俺の個性を使っても変化が見られなかったことから、この能力が素の能力だと分かったときは茫然としたものだ。

そんな存在が中学生に倒されたと聞いたときは心底驚いた。名高いプロヒーローが手も足も出なかった存在にまさか中学生の生徒らが…。だが、個性把握テストで片鱗を見ることができ納得した。ああ、確かに可能性は秘めているなと。

 

「さあ、お前はどんなヒーローになるんだ?」

 

少し、将来が楽しみだ。

 

 

 

~*~*~

 

 

 

「んじゃあパパっと結果発表。いちいち口頭で言うのも不合理だから一括開示する」

 

テストの結果がホログラムで表示される。私の順位は…18位ですか。まあ今回のテストでは結構鍛えた無個性の少女の状態なので、よくやった方でしょう。

 

「ちなみに除籍はウソな。キミらの個性を最大限引き出す合理的虚偽」

(なにをおっしゃい。見込みのない子がいたら容赦なく除籍にするつもりだったでしょうに…)

 

はあ…とため息を吐きつつ、とりあえず除籍は回避できたことを喜びましょう。テストが終わるころには入学式などとっくに終わっており、教室に資料を取りに行ったらそのまま下校しました。

 

クラスメイトとは仲良くしたいですが、それは明日以降にして今日は向かわなければいけない場所があります。無線イヤホンを片耳につけてスマホにつなげる。

 

「りっちゃん?」

『お呼びですか!』

「何か連絡はきてます?」

『特にはありませんね。なので時間通りに向かって問題ないかと思われます』

「じゃあ今学校出たので18時半ころに着くと連絡しておいてください」

『了解です!』

 

声をかけたのはかつての仲間、自律思考固定砲台、通称律。殺せんせの暗殺が達成した後、固定砲台は解体されましたが、プログラムされたAIは解体前に機体を離れ、インターネットの世界で生き続ける選択をしました。現在はE組メンバーの端末を行き来したり、防衛省のネットワークで烏間さんのお手伝いをしているそうです。

 

家に戻ると、私服に着替えて電車に飛び乗ります。向かう先は東京。地元の椚ヶ丘に一度帰ります。早く着かないかなと落ち着きなくソワソワしちゃってます。なんせ頼んでいたものがようやく完成したんですから!!

 

「あ~楽しみです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早かったな」

「楽しみにしてましたから!」

 

着いた場所は小さな町工場。外観は少し古びていますが、中は所狭しと機械が並んでいます。私は待ち合わせしていたイトナ君先導の元中へ入っていきます。

 

「よくここまで集まりましたね…」

「お前の要望を応えるには俺の技術だけでは無理だと判断したまでだ。金も十分あるし、将来のことを考えれば必要経費だ」

「ここまでしてくれてありがとうございます!」

「俺とお前の仲だ。吉田と村松にも協力してもらったから、後で連絡しておけよ」

「もちろんです!」

 

部屋に入るとそこにはコスチュームとサポートアイテムが鎮座していました。そう、イトナ君には私のコスチュームとサポートアイテムの製作を依頼していたのです!

 

「わぁ…!!」

「依頼された通り、超体操服に使用していた強化繊維を基にコスチュームは作ってある。サポートアイテムも説明書があるから目を通しておけ。隣の部屋使っていいから試着してみてくれ」

「はい!」

 

早速コスチュームに着替えます。見た目は大きなフードのあるセーラー服といった感じです。中学高校と制服がブレザーなのでセーラー服に憧れがあったんですよね!将来的には超体操服のような仕様にする予定ですが、学生の時くらいはセーラー服を着たってバチは当たりませんよね!

両手にはグローブ。手の甲のあたりににシリンジ付きの管が片手に3つずつ収納されていて、シリンジを相手に差し、スイッチを押すと血液を採取できる仕組みです。採取した血液は背中にあるタンクに貯蔵されます。貯めた血液を摂取するときは、タンクから口元に装着するマスクに管が通っているのでそれを使って摂取します。こちらもボタンでオンオフができるので量の調整もでき、外部に血を飲んでいるのを悟らせないようになっています。フードも被れば更に向上しますね。シリンジも使い捨てで、脇腹あたりについている装置に差し込むと自動で交換してくれる優れもの。

また超体操服と同様、衝撃耐性、耐火性があり、強い衝撃を受けるとゲル状の骨組みが硬質化し、衝撃を吸収した後砕けるダイラタンシー防御フレームが内蔵されています。

 

「どうだ、なにか気になるところはあるか?」

「着心地も抜群ですし、依頼した内容以上の出来栄えで感動してます!!」

「そう言ってもらえると作った甲斐があるな」

「今後も頼りにしてます!」

「ああ」

 

その後はお互いの近況を話しました。イトナ君は無事親と再会できたそうで、今は工場復権のために試作品を作ったりしているようです。私のサポートアイテムを作ったのも、名前がヒーローのほうにも売れて受注が来るかもしれないというのもあって引き受けてくれたそうなので、機会があれば私からも話をしていくと伝えておきました。

 

「では、そろそろ帰ります」

「ああ、またなにかあったら連絡くれ」

 

あっという間に1日が終わってしまいました。明日はどんなことが起きるのか、楽しみです。

 

「殺せんせ、私今楽しいです!」

 

空に浮かぶ三日月を眺めながらそうつぶやきました。きっとせんせに届いていると信じて…。

 

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