(…眠いです)
林間合宿当日です。昨日はカルマ君と電話を終えて寝に入ったのですが、楽しみ過ぎて眠れない現象が起きてしまい結局寝たのは2時を回っていました。どうにか遅刻することはありませんでしたが、朝ごはんは食べれなかったし眠気は絶好調です。まさか遠足が楽しみで眠れない小学生みたいになるなんて思いもしないじゃないですか!!
B組の人が絡んできたりもしていましたが、眠気も相まって会話の内容が右から左へ流れていったので全然聞いてませんでした。そもそも私B組の人とお話したことありませんし。
その後各々バスに乗り込んで出発しました。私は乗り込んですぐに夢の世界へ旅立っていきました。暫くして起きるとブランケットがかけてありました。きっと百ちゃんが創ってくれたのかなと思います。まだ着く気配はなさそうなのでもうひと眠りしてしまいましょう。次に起きた時にはきっと着いている…といいですね。
~*~*~
「…い、おい渡我起きろ」
「んえ…?」
「他の奴らはもう降りてる。さっさとお前も降りろ」
「え、もう着いたんです…?」
「…早くしろよ」
何故か返答を濁した相澤先生に不信感を覚えつつも大人しく指示に従ってバスを降ります。最初はパーキングエリアでトイレ休憩とかかなと思いましたが、そこは山に囲まれた何もない平地でした。それにB組の姿もありませんね。そこに2人の女性が近づいてきました。
「ようイレイザーヘッド」
「ご無沙汰してます」
「あ、あの人たちは!」
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにシュティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」」
「今回お世話になるプロヒーロー、プッシーキャッツのみなさんだ」
華麗に決まった決め台詞。正直キッツいなんて思ったりはしてませんよ?してないったらないです。彼女らの経歴について熱く語るイズク君の声を聞きながら、目の前に広がる森に目を向けていました。あの裏山よりも広大な森。ここを自由に駆け回れたらどれほど楽しいんだろうなぁ…。裏山だって危険な箇所が多くコースが限られていたが故にトラップを作ったり試行錯誤しながらフリーランニングの訓練をしていたので、広い森ならば常に新しいルートの発見ができそうでワクワクしてしまいます。
「ここら一帯は私らの私有地なんだけどね?あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」
「「遠っ!?」」
マンダレイさんが指さす山の麓は、中々の距離がありました。ん~、ざっと裏山のコース3つ分くらいですかね?
「え?じゃあ、なんでこんな半端なところに?」
「これってもしかして……」
「いやいや…まさかね?」
「な、なぁ、バス…戻ろう?…早く」
そんな声に先生達はニヤリと笑っています。
「今は午前9時30分、早ければぁ12時前後かしらん」
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね〜」
「悪いね諸君、合宿はもう始まっている」
その言葉と共に、生徒達がいた場所の地面が崩れ落ちていきました。
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「私有地につき、個性の使用は自由だよ!」
「今から3時間、自分の足で施設までおいでませ!この魔獣の森を抜けて!」
魔獣の森。読んで字のごとく魔獣が住まう森を抜けて無事に宿舎にたどり着けという障害物レースですか。これはちょっと大変ですね。ついさっきまで寝てたので体をよく伸ばしておかないと…。
「ハァ…。合宿早々過酷ですねぇ…」
「えっ!?なんで落ちてないの!?」
「あれだけの予備動作があれば気づきますよ?」
「…規格外なキティもいるのね」
「ハァ…渡我、お前も行け」
「分かってますよぉ。…改めて確認ですけど、3時間以内にたどり着けたらご飯食べれるんですよね?」
「は?」
「私今日寝坊しちゃいまして、朝昼ごはん抜きは流石に堪えるんで」
「…着けるって言うならなら用意しといてやる」
「言いましたね?言質取りましたからね!!」
私は勢いよく魔獣の森の中に飛び込んでいきました。
~*~*~
森の中に入った私は安全面を考慮して太めの枝を選びながら飛び移って前へ進んでいきます。魔獣相手に苦戦している他のメンバーを抜き去っていきます。目の前の魔獣に集中しているようでこちらに気づく人はいませんね。そのまま時々方角を確認しながら宿舎に向かって一直線に向かいます。流石に皆さんを置いて行った罪悪感もあるので、所々で魔獣も狩っておきます。全て狩っちゃったら意味なくなっちゃいますからね。
「意外と脆い魔獣ですね。土だからしょうがないかもですけど。りっちゃん、方角はあってます?」
『はい、このまま直進していただいて問題ありません。このままのペースなら20分もかからずに到着できそうです!』
「了解です」
グルルルル…
「…途端に増えましたね。簡単には通してもらえないみたいですね」
『まあ試練みたいなものですね』
「…戦闘は最低限にして最短距離を進みます。サポートお願いしますね?」
『お任せください!!』
「…本当に着きやがったか」
「約束、守ってくださいね?」
「…B組が食堂で飯食ってるから混ざってこい」
「やった~!」
バスが止まった地点を出たのが9時半で、今の時刻は12時10分。2時間40分で宿舎に着くことができました。最後の魔獣ラッシュがなかったらもう少し早く着けたと思いますね。全く先生もイジワルです。
「まさか私達よりも早く森を抜けてくるコがいるなんてね」
「一時期森の中で鍛えてたので」
「なるほどね。さ、とりあえずご飯食べてきてらっしゃい」
「ありがとうございます」
マンダレイさんにお礼を言って食堂に向かいます。中ではB組の人達がご飯を食べていました。
「あれ、あなた確かA組の…」
「トガです!トガヒミコです」
「私は拳藤一佳。一佳って呼んで。A組はあなただけ?」
「はい。途中の平地に降ろされて、絶賛森の中を魔獣を倒しながらここに向かってると思います」
「それはまたハードな…。って、渡我はどうやってここに来たの?」
「他の人と同じく森の中を抜けてきましたよ?今日朝起きるのが遅くて朝ご飯を食べてなかったので、お昼まで抜きになるのは困りますから、頑張りました!」
「凄いな…」
「ねぇねぇ、アンタって体育祭出てなかったよね。なんで?」
「お恥ずかしながら体調を崩しちゃいまして…」
「あ~そうだったんだ。せっかくプロヒーローに注目してもらえる機会だったのに勿体なかったね。私は取蔭切奈、よろしくね~」
「よろしくです!」
その後はB組の女子陣と自己紹介しながら仲良くご飯を食べました。場の流れで男子陣とも自己紹介をしましたが、物間君が結構な物言いで煽ってきました。すぐに一佳ちゃんに鎮圧されてましたが。これがいつもの流れって、この子本当に大丈夫です…?
そんな中でも特に驚かれたのは…
「ん」
「ああ、醬油ですね。どうぞ」
「んん」
「いえいえ気にしないでください」
『小大と普通に会話してる!?』
「え?」
「今小大なんて言ってたの!?」
「え、”お醤油取って”って言ってましたけど…」
「ん」
「なんで分かるノコ!?」
「なんでと言われても…なんとなく?」
「なんとなくで理解できてるのウラめしすぎるわ」
皆さん唯ちゃんの言葉には苦戦してるみたいですね。まあ確かに聞こえる単語は”ん”とか”ね”とかですし、内容が理解できないというのも頷けます。私も今までだったら理解できてなかったでしょうけど、技術模倣のおかげで色々な会話術や暗号解読を模倣できているので唯ちゃんの会話も成り立っています。教えてくれたビッチ先生には感謝しないとです。
「ん…(自分のせいで迷惑かけちゃう…)」
「大丈夫ですよ。ここの人は唯ちゃんを迷惑だなんて思ってませんから」
「んん…(でも私がちゃんと話が出来ればッて思っちゃう)」
「まあそれが一番の解決策かもですけど、そう簡単に直せるものでもないじゃないですか。唯ちゃんには唯ちゃんのペースがあるんですから、少しずつ皆に慣れていけばいいんです。それこそ、今は私にしか伝わらないですけど他の人にも伝わるようになるかもしれないですしね?」
「ん…(被身子ちゃん…)」
「少しずつ、話せるようになりましょうね?」
「…うん!」
「内容はよく分からないけど感動的なシーンってことはよく分かる」
「感動的ノコ…」
~*~*~
「さて、お前に関してだが、3時間以内に着くことを想定していなかったからやることがまだない」
「想定してなかったんですね…」
「3時間っていうのは私達がって言う話だったからね。まさかそれを上回ってくるなんて思いもしなかったけど」
「そういう訳だ。それに俺達もこの後会議がある」
「それで、申し訳ないんだけど会議が終わるまで洸汰の面倒を見てもらえないかしら?」
「洸汰…?」
マンダレイさんは後ろに目を向けると、宿舎入口の影からひょっこりと男の子がマンダレイさんに寄ってきた。
「いとこの子なんだけどね。魔獣が出ない範囲だったら森に行ってもいいし、宿舎も奥の部屋なら自由に使ってもらっていいわ。ほら洸汰、挨拶しな」
「…ふん」
「ちょっと洸汰!」
「大丈夫ですよ。私はトガヒミコです。よろしくね洸汰君」
「…ヒーロー目指してる奴となんてよろしくするつもりはねぇ」
まあ、随分と捻くれたお子様ですこと。これは手入れのし斐がありますねぇ…。しかし洸汰君を見ていると松方さんの保育施設にいた子供達を思い出します。皆元気かなぁ…っと、今は洸汰君のことですね。
「そうは言っても、会議が終わるまでは一緒にいないとですよ?」
「…フン」
「…洸汰君はヒーロー嫌いなんですか?」
「…個性見せびらかして目立とうとしてる奴は嫌いだ」
「なるほど。ヒーローが嫌いってより、個性そのものが嫌いなんですね。…そしたら私と似てるかもですね」
「え…」
「私は個性の影響もあってか、血に対する執着が異常です。それで周りの人には気持ち悪がられましたし、両親にだって冷たい態度をとられてました。私にとっての”普通”はその人にとって”異常”だったのもあって、色々なことに縛られて生きづらくて仕方なかったです」
「…」
「でも、ある人に出会ったことで私の考え方は変わりました。その人との出会いがあったから私は今ヒーローを目指しています。私みたいに個性で悩んでる人や苦しんでる人を助けられるようなヒーローになりたいです。そこには一般人もヒーローも敵も関係ありません。みんな平等です」
「ヒーローも、敵も平等…」
「さ、まずは洸汰君を助けたいと思います。行きますよ!」
「え、ちょっ!?」
私は洸汰君の手を掴んで森へ走り出します。まずは遊びましょう!!
いかがでしたでしょうか?
次回は洸汰君との絡みと合宿に本格的に入っていきます。トガちゃんは一体どんなことをするのか…お楽しみに。
なお、今回のお話でPixivの投稿に追いつきましたので、以降は不定期更新となります。ご了承ください…