林間合宿の続きをお送りいたします。
「準備はいいですか洸汰君?」
「う、うん…」
じっとターゲットを見つめてその時を待ちます。チャンスは一度きり。それを逃せば次はありません。焦らず、確実にやらねばなりません。
「…今です!」
「え、えいっ!!」
――パサッ
「お見事です」
「や、やった…。やった!」
こうして私達はターゲットの、カブトムシを捕まえることができました。
~*~*~
私が洸汰君と一緒に行ったことは至って単純、遊ぶことです。これくらいの年で、これだけ広大な森があるというのに遊ばないでいるなんてもったいないです。それに今の洸汰君は純粋に楽しむということができていません。故に森が如何に楽しいところかを教え、今だけでも楽しいことだけを考えてもらって思い出になるようにしたいと思って洸汰君を色々なところに連れ出しています。
「さあ行きますよ洸汰君。しっかり捕まっててくださいね!」
「う、うん!」
雄英を目指すことのなってからというもの、今まで以上にハードな訓練をこなしてきました。それは雄英に入ってからも変わることはなく、むしろハードになっていく一方でした。最近なんて重りをつけながら訓練してますし。まあそれがあって今、洸汰君を担ぎながら森の中を駆け回れているんですから良しとしておきます。
そうして森を駆け抜けて色々な遊びをしているうちに日も暮れてきました。気づけば2人とも泥だらけです。
「そろそろ宿舎に戻らないとですね。洸汰君楽しかったですか?」
「うん!!」
あれだけ不貞腐れた態度だったのが噓のように、年相応のわんぱく少年になりました。と思っていたら、宿舎に帰る頃にはまた最初の様子に戻っちゃいました。
「…お姉ちゃんと遊ぶのは楽しかった。でも、他のやつらのことは…まだ好きになれない」
「それもそうでしょうね。そんな簡単に気持ちを切り替えれるなんて思ってません。私がしたのはあくまできっかけづくり、初めの第一歩を踏み出させただけです。そこからどうしていくのかは洸汰君次第です」
「…頑張ってみる」
「それでいいです。また遊びましょうね?」
「…うん」
宿舎に戻るとマンダレイとピクシーボブが迎えてくれました。遠くの方に相澤先生もいましたが、A組メンバーはまだ着いてなさそうです。
「こんな時間まで帰ってこないと思ったら、泥だらけになってるなんてね」
「すいません…」
「ああ、別に怒ってるわけじゃないのよ。むしろ色々任せちゃってごめんなさいね。洸汰、楽しかった?」
「…」
マンダレイの質問に声は出しませんでしたが頷いた洸汰君。その様子にマンダレイとピクシーボブは驚いて私の方を見てきました。
「数時間前まであれほど毛嫌いしてたっていうのに…渡我さん、あなた一体何してたの…?」
「気になるニャ!」
「ん~、具体的な話はしませんけど、強いて言うならば、手入れをしてました…かね?」
~*~*~
「や~っと来たニャ」
「何が3時間ですか!」
「それ、私たちならって意味。悪いね」
「ケッ、実力者自慢の為か」
洸汰君と遊んだことによって着ていた制服も汚れてしまったので、着替えようかと考えていたら森からA組の皆さんがゾロゾロとやってきました。皆さんボロボロで満身創痍みたいです。地面に座り込みながら文句を言っていますが、マンダレイにバッサリと切り捨てられてます。
「てかテメェは今までどこほっつき歩いてたんだぁ!?」
「私ですか?さっさと攻略してB組の皆さんとお昼ご飯食べてました」
『はぁ!!??』
「え、それじゃあまさか…」
「そのまさかだ。渡我は3時間以内にここに辿り着いた」
相澤先生の言葉に皆さん絶句してますね。だってしょうがないじゃないですか、朝昼とご飯抜きなんて正常なパフォーマンスを行うことなんてできません!食べなきゃ戦は出来ぬってやつです!!
「通りで道中既に倒されていた魔獣がいたわけか…」
「さすがに独断専行して突っ走ってましたから、少しでも負担は減らしておこうかと」
「って言いながら、本音は目の前の敵が邪魔だったからぶっ飛ばしただけだろうが」
「そうとも言います」
「結局自分のためじゃねぇか!!」
おお、ボロボロのわりには意外と元気ですね。まあ明日もあるんでその元気は明日に取っておいてもらいたいですね。
「規格外の子もいたけど、それでも想像以上に魔獣の攻略が早くってびっくりしちゃった!特にそこの4人!躊躇のなさは経験値によるものかしらん?3年後が楽しみ!唾つけとこ~!」
「…マンダレイ、あんなでしたっけ」
「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」
唾をつけるとはよく聞いたりしますが、本当につける人っているんですね…。いくら異性でも限度ってものが…汚いです。
その後、イズク君から洸汰君に関して話題が移りました。
「この子はいとこの子供だよ。ほら洸汰、挨拶しな」
「あ、えと、僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷出久。よろしくね?」
「…出水洸汰。俺はヒーローが嫌いだ。よろしくなんてしねぇ…」
あら。一朝一夕で改善なんてできないと思ってたんですが、意外と変化はあったみたいです。チラッとこっちに視線が向いたので、小さく親指を立ててグッドサインを送りました。
「さて、荷物は宿舎内に運んであるからそれぞれの部屋に持っていけ。その後夕食を済ませてから風呂だ。明日は早朝から訓練に入る。体をしっかり休めておけよ」
『はい!!』
~*~*~
荷物を部屋に持っていき、ご飯も食べ終わり後はお風呂だけ、なんですが私は合宿所の外にいます。理由は単純で、広大な森でフリーランニングするためです。昼間もやっていましたが、速度優先だったので正直消化不良でした。相澤先生にも呆れられながらも許可をもらったので縛りもなく自由に動き回れます。
「さて、準備運動も終わったので早速――」
「渡我?」
さあ行こうと飛び出そうとしていた瞬間に声をかけられて、危うく転倒しそうになるのをどうにかこらえて声の主に視線を送るとそこには轟君が立ってました。持ち物から察するにこれからお風呂みたいです。
「何やってんだ?」
「お風呂の前に運動しようかなと思いまして。日中のじゃ、ちょっと消化不良で」
「あれだけの距離を移動して消化不良とは凄ぇな」
「元々こういった森で訓練していたのもあって、これだけ広大な森を見てるとつい疼いちゃうんですよ」
「森でか…。なあ、もし良ければ渡我の訓練に付き合わせてくれねぇか?」
「構いませんよ?明日以降で時間を作るんで、それでも良いですか?」
「ああ、構わねぇ。無理言って悪ぃな」
「いえいえ、では」
轟君と別れて今度こそ森の中に入っていきます。相澤先生には7時には切り上げて帰ってこいとのお達しですので、あまりのんびりもしてられません。
「今は6時過ぎですから、1時間くらいはできますか、ね!!」
早速フリーランニングを始めます。裏山と違いほとんど傾斜はありませんが、その分岩があったり川が流れていたりと障害物になるものが多々あります。それでも合宿施設があるくらいですから、訓練に使えるようにか手入れがされているようです。正直に言えば手が入ってない方が訓練になるんですが、安全面を考えれば文句は言えませんね。
「ん、ここらへんは手入れが入ってないですね」
合宿所から離れた場所になると手入れされた範囲から外れました。まあここまで広いと業者でも全部の範囲を手入れするには時間と労力がかかりますから仕方ありませんね。私としては嬉しい限りですが。私は持ってきていたインカムをつけてりっちゃんに指示を出します。
「ここなら色々試せそうですね。りっちゃん、お願いしてもいいですか?」
『了解しました!一定以上になった際は合図しますね』
今から行うのは、隠密行動の訓練です。様々な障害物を避けながら一定時間フリーランニングをします。その際に移動によって発生する音を最小限に抑えるようにします。普段歩く際に気にしていなかったものに対して細心の注意を払わなければいけないのでちょっと大変です。りっちゃんにはインカムを経由して音のボリュームを計算してもらい、一定の音量を超えたら注意してもらいます。
「とりあえず今日は10分でやってみましょう」
『分かりました!それでは、スタートです!!』
スタートの合図とともに近くの木に登ります。地面には少なからず落ち葉があるので、誤って踏んでしまうのを考慮して木の上から移動します。その際枝がしなる音にも注意します。
『基準値オーバーの音を検知しました。注意して下さい』
「っ!中々難しいですね…」
いくら気を付けていても枝に体重がかかった時にどうしても音が出てしまいます。そのため乗り移る枝の選定もシビアになってきています。慣れてきたと思ってもすぐに別の課題が見えてきたりと意外と奥が深いです。これを考案したステイン先生には頭が上がりません。
『10分です!』
「だはぁああ~…」
時間になり集中を解いた途端にドッと疲れがやってきます。思いのほか負荷がかかっていたみたいです。少し休憩してから、今度は速度重視での移動の訓練をしました。これは昼間の移動でもしていましたが、今回は全力状態で行っているので速度も上がります。
「っとと、やっぱり思考と動きにズレが生じちゃいますか。こればっかりは馴染ませていくしかないですねぇ…」
その後は合宿所に戻りながら、以前イトナ君に作ってもらった捕縛布製の包帯、『強化包帯』を用いた空中移動の訓練も行いました。使う度に思いますけど、これめちゃくちゃ便利ですね!普段のフリーランニングに取り入れるだけでここまで幅が広がるとは思いませんでした。今度正式に相澤先生に捕縛布の使い方を教えてもらいましょう。
合宿所に戻ると峰田君が天井から吊るされてました。一体何したんですかね…?
いかがでしたでしょうか…?
次回は本格的に合宿訓練に入っていきます。一体トガちゃんはどんなことをするのか…。お楽しみに。
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