ヒーロー基礎学の授業も終わり放課後。興奮冷めやらぬ皆さんは先ほどの授業の反省会を教室で開いていました。かく言う私も参加したいところではありましたが、今日は大事な用事があるため後ろ髪引かれる思いで教室を後にしました。
「あ、かっちゃんじゃないですか」
「っ!?かっちゃん言うなぁ!!」
玄関に向かうと丁度帰ろうとしていたかっちゃんに遭遇しました。私に気づいたらビクッとしてたんで、軽くトラウマになってるみたいですね。
「どうです?あれから考え方は変わりましたか?」
「っせえ…。ここに来てから思い通りにいかないことばっかだ。今日の訓練でポニテの言うことも間違ってねぇし、氷野郎のを見て敵わねぇかもと思っちまった。テメェには完膚なきまでに打ちのめされた!だが俺の考えは変わんねぇ!!こっからだ!!こっから俺はテメェも超えてNo.1になってやる!!」
「…井の中の蛙大海を知らず。お山の大将も外に出ればまだまだってことは分かったみたいですね。志は高いことはいいですが、まずその傲慢な態度は改めて下さい。あと攻撃的な言葉も。天性の才能だって、大した努力もしなければ簡単に追い抜かれますよ?」
「…何が言いてぇ」
「見えないところで、皆努力してるんです。だから私はあれだけのことを出来ているんですから。あなたの嫌っているイズク君だって努力をやめなかったから今があるんじゃないですか?何を恐れて彼を遠ざけようとしてるかなんて知りませんが、今のままじゃ彼は必ずあなたを超えてきますよ?」
「あぁ!?なんで俺がクソデクを恐れてるなんて―」
「それですよ。あなたはイズク君のことになると過剰に反応します。これまでのあなたの言動から察するに今まであなたは出久君に対して優位な立場にいたんでしょうね。それがここに来て揺らいでしまっている。今まで気にも留めなかった彼が、今はあなたの前にいるかのような感覚。そりゃあ焦りますよ」
かっちゃんは顔を俯かせて何も言ってきません。図星が故に何も言えないって感じですね。
「…一度ちゃんと話したらどうです?本音をぶつけあった方がいいと思います。それはきっとこれからのためになりますよ」
「ケッ」
不貞腐れた様子で去っていったかっちゃん。これで彼の成長になればいいんですけどねぇ…。
「まあ暴言は減りそうですかね?」
「あ、渡我さん!かっちゃん見なかった!?」
「丁度今出てったとこですよ。…ケガは治りきりませんでしたか」
「う、うん。体力的に一気に治すことは出来ないってリカバリーガールに言われちゃって…」
「そうなんですね…。じゃあ体が壊れないように鍛えるしかありませんね」
「そうだね…。ってかっちゃん!早く追いかけないと!!」
そう言ってイズク君はかっちゃんを追いかけていきました。2人の会話の邪魔をする訳にもいかないですし、少し時間を空けてから校門を潜ります。そしてそのまま近くに止まっていた黒塗りの車に乗り込みました。
「すいません、遅くなりました。―――烏間先生」
「時間通りだから問題ない」
~*~*~
「新たな学校生活はどうだ?」
「授業はちょっと退屈ですが、お友達が何人かできたので楽しくやってますよ」
「そうか、それなら良かった」
烏間先生と近況を話しながら目的地へ向けて車を走らせてもらっています。
「着いたぞ。さあ、行こうか」
「はい」
着いた場所は街外れにある廃れた倉庫群のある場所です。扉には廃倉庫に相応しくないハイテクそうな機械が付いていました。そこに烏間先生がカードキーをかざすとロックが解除され、中に入ると外観が嘘だというような真っ白な壁に囲まれた施設が現れました。
ここは防衛省が管轄している施設で、殺せんせの暗殺に関して様々な研究を行っていたそうです。現在は研究自体はストップしましたが、施設そのものは閉鎖することなく新たな形として使われ続けています。そう、訓練施設として。
慣れ親しんだ超体操服を着こんだ私は地下へ続くエレベータに乗り込みます。着いた階には既に先客がいらっしゃいました。
「お待たせしました」
「…遅れているわけではない。いつものメニューでいいな」
「はい、よろしくお願いします。”ステイン先生”」
「…先生はやめろと何度も言っただろう」
~*~*~
1年前。スタンダールという名を捨て、ステインとして活動を始めてすぐの頃。
「探したぞ。敵名ステイン」
「ハァ…誰だ貴様」
「防衛省特務部の烏間という」
「防衛省?そんなところのお偉いさんが俺に何の用だ」
「お前に暗殺してほしい人物がいる」
瞬間、俺は烏間と名乗った男に刃で切り刻まんと接近した。だが男はそれを難なくいなし、俺は取り押さえられた。
「いきなり攻撃とは噂に聞く凶暴性だな」
「貴様ァ…この俺に暗殺の依頼だと?ふざけるのも大概にしろ!俺は贋物を粛正するために活動しているのだ!!そんなものに大義など存在するはずもない!!」
「その意見はもっともだが、多くのヒーローがそいつに敗れてきている。あのオールマイトですら負ける可能性がある」
「なんだと…?」
「ここから先の話は機密事項が含まれる。依頼を受けないのであればこれ以上話すことはできないし、干渉することもしない」
あのオールマイトですら敗れる可能性のある存在…?そんな者がこの世に存在するのか。それ以前になぜその話が俺に来るのか。気になることがたくさんあった俺は渋々了承し、話を聞いた。
「―以上が現在ある情報だ」
「…は?」
話を聞いて最初に思ったのは、あまりにも規格外すぎるというものだった。マッハ20で活動可能の触手型の超生物、通常武器では一切ダメージを与えることは出来ず、類いまれなセンスで軒並みのヒーローを退けてきたという。
「…なぜ俺にこの話がくることになった?」
「お前の個性がやつに通用する可能性があること、そして桁外れの戦闘技術と身体能力を生徒に指導してもらいたい」
「ハァ…俺に教師の真似事をしろと?」
「現在暗殺に関わっているのは椚ヶ丘中学校の3年E組の生徒だ。彼らはこの1年間でやつを暗殺しなければならない。そのためにはどんな手段でも可能性があるなら藁をもすがる思いだ。世界の存亡のために力を貸してくれないか」
「…俺は敵だぞ」
「この件に関して言えばヒーローも敵も関係ない。皆共通してやつを殺す暗殺者になるんだ、身分は関係ない」
最終的に俺はこの件を受けることにした。だが、一度単独で奴に挑戦をした。結果はもちろん惨敗。確かにこれは簡単には殺せそうにない。
「ヌルフフフ、ヒーローの次は敵を連れてきましたか。しかしあなたの能力は非常に惜しい。敵摘発に多大なる貢献をできるでしょうに、なぜ敵の道を進むのでしょうか?」
「ハァ…この世のヒーローはどれも贋物のものばかり。私利私欲のためにヒーローとなり他のために力を振るわず、自らを顧みず人々を助けるという真のヒーロー精神を持つ者はごく僅かだ。俺はそれが許せない。ヒーローとは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得うる称号でなければならないのだ…!!」
「…なら、なぜあなたはヒーローにならなかったのですか?外からではなく、己自身でそれを体現し中から世直しするということもできたはずです」
「そ、それは…」
「今のヒーロー社会は確かに本来のヒーロー像からはかけ離れてしまったているかもしれません。悪の道に進んでいる者もいるかもしれません。ですが皆必ずヒーローを目指すと決めたオリジンがあるはずなのです。それを思い出させてあげることが出来れば、それもまたヒーローなのだと、私は思いますよ」
「…だが、もう俺は手遅れなほど汚れてしまった。今更ヒーローなるなんてことは出来ない」
「確かに”正義”のヒーローにはなれないかもしれません。ですが、”誰か”のヒーローにはなれるかもしれませんよ?」
「誰かの…ヒーロー…」
「道は外れてしまいましたが、あなたはまだ間に合います。この教室で、それを学んでいきましょう」
「…ハァ、まさか暗殺する側が懐柔されるとはな」
そうして俺は暗殺教室に外部講師として定期的に生徒を指導することになった。
そこに至るまで烏間が関係各所を駆け回り交渉したことで、俺の今までの犯罪歴は超生物の暗殺を条件に減刑され、今は防衛省職員として、烏間の部下として働いている。超生物、殺せんせーによってレールを敷かれ、烏間に引っ張ってもらうような構図。昔の俺であれば考えられないような状況だが、不満はない。俺は正義のヒーローではなく、誰かのヒーローになれているのだから。
~*~*~
「ふっ!」
「甘い!」
「うぐっ!?」
「視線の誘導がまだ甘いぞ。それでは完全に意識を逸らせず手練れには通用しない」
「ですけど、こんな何もないところで視線の誘導してって限界ありませんか…?」
「ハァ…それがお前の十八番ともいえる技術なんだろう?ならばどんな状況でもそれを活かせるようにしろ」
「む~…」
「…時間か。今日はここまでだ。疲れを明日に残すなよ」
「…ありがとうございました」
使用した器具を片付けて、部屋を清掃。その後ステイン先生に報告してからシャワーを浴びて帰ります。
「…そういえば」
「はい?」
「その、なんだ、オールマイトの授業はどうだ?」
「ん~そうですねぇ…簡潔に言えば、ヒーローとしては一人前でも教師としては半人前って感じですかね。擬音を多用して内容がイマイチ分からないこともあったりで、そういうとこに関してはステイン先生の方が説明もはっきりしていて分かりやすいです」
「…奴は感覚で鍛え上げたのだろうな。ナチュラルボーンヒーローが故の弊害だろう」
「なるほど」
「だが経験に関しては群を抜いている。学ぶことは多いぞ」
「それもそうですね。学生の本分は勉強ですからね」
「そういうことだ。…渡我」
「はい?」
「俺みたいにはなるんじゃないぞ。…俺は一度道を踏み外して堕ちていった。だがお前は違う。落ちる前にすくい上げてくれた恩師がいたんだからな」
「…大丈夫ですよ。私は、私のオリジンを忘れたりはしません。そう殺せんせに誓いましたから!」
「ハァ…なら、いい」
そう言って私の頭を撫でたステイン先生は部屋を後にしました。この世界は生きづらいです。『普通』という答えのないものをあたかもそれが答えだというかのように強制される世の中は多くの人が悩み、挫け、諦めていると思います。私はそんな世の中を変えたい。たくさんの普通が共存できるような世界にしたい。きっとそれは無謀かもしれません。でも、何もしないで諦めるということだけはしたくありません。不可能上等。だって、私たちは一年間それをやってきたんですから。