夜顔~Yorugao~   作:夕顔

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 裏十三家の一つ、崩月家。

 特徴は、その剛腕に内包された角の力を源とした剛力。戦鬼化と呼称される、常軌を逸した肉体改造の果てに到達した極致。

 対する星噛家は、その真逆。

 人体改造を行うが、それは自己鍛錬の果てではなく機械備品への代替によって行われていた。

 要は、人体のサイボーグ化。義手や義足だけでなく、内臓器官や骨格などありとあらゆる部分を義体へと置換する事が出来るのだ。

 

 そして今宵、この二家がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初にぶつかり合ったのは互いの右拳だった。

 星噛絡惨(ほしがみらくざん)の両手足は何れもが星噛製の義手義足へと置き換えられている。特に、右腕は特殊弾頭を用いた特別性であり、拳のインパクトと共にギミックが起動。単なる打撃を大型トレーラーの衝突レベルにまでその威力を引き上げる。

 並大抵の相手ならば、その一発でケリが付く。

 

 ()()()()()()()()()

 

「ッ……!」

 

 押し込まれる。ギミックは正常に働いていたにも拘らず星噛の体は後ろへ。

 彼の誤算は、崩月という存在を甘く見た事。

 一瞬の拮抗の末、星噛の体は後方へと飛び壁へと叩きつけられる。

 

「…………」

 

 粉塵を上げる壁を見やり、夜顔は無言を貫いていた。

 追撃は容易い。だが、ソレではこの戦いに置いて意味がない。

 

「ぐぬぅ……己ェッ!!」

 

 立ち上がり、星噛は再び少年へと躍りかかった。

 義足による脚力開放。内臓骨格換装を行った義体による出力。更に星噛の体術を組み合わせる事でその破壊力は巨岩であろうとも容易く打ち壊せるだろう。

 だが、

 

「なっ……!」

「悪いが、こっちはお前を頭の先からつま先まで完膚なきまでに叩き潰すつもりだ」

 

 止められる。

 先程は両手を使わなければ止められなかった星噛の攻撃が真正面から、片手で受け止められていた。

 崩月の戦鬼。彼らの特徴はその圧倒的なまでの剛力だが、同時にその肉体は自身の力で崩壊しない様に生物的な範疇を逸脱した頑健さを有している。

 そして、

 

「ゴッ……!?」

 

 受け止められた拳が引き寄せられ、体勢を崩した星噛の左頬を廻し蹴りが捉えた。

 横三回転をしたところで踏み込んだ夜顔は、その無防備な胴体へと右アッパーカットを叩き込む。

 

「オゴッ!?」

 

 上へと跳ね上がる体。天井へと叩きつけられ一瞬減り込んだ後、重力による落下。

 そこに更なる追撃として、右廻し蹴りが叩き込まれ星噛の体は吹き飛び、床を跳ねてから壁に激突。

 

「…………あ、圧倒的だな」

 

 そこらのアクション映画など足元にも及ばない光景を前にして、司は思わずつぶやいた。

 戦闘の良し悪しなど彼には分からない。だが、その素人の目線で見ても目の前の光景における趨勢は火を見るよりも明らかだ。

 

「そうだね。崩月くんは、まだまだ余裕があるみたいだ。あの運動性能は興味深いね」

「言ってる場合じゃないと思うけど…………」

 

 類は既に観戦する雰囲気で、寧々も恐怖が完全に抜けた訳では無いがそれでも見ていられるだけの余裕は持てるらしい。

 そして、

 

「…………」

 

 鳳えむは、ただジッと少年の背を見ていた。

 目は充血しているが、それでも涙は止まり言われた通りにその背を見つめる。

 

 視線を背中に受けながら、夜顔は次を待っていた。

 

「――――クソがァァァァアアアアアア!!!!」

 

 壁から立ち上がった星噛の左手が動き、前腕の辺りから肘に向けて腕に沿うようにして黒いブレードがその姿を現す。

 

「私が!星噛が!その技術を凝らしたこの体が!敗れる筈等無いのだァ!!」

 

 激昂と共に、星噛は左腕を振り被り肘打ちの軌道で斬撃を狙う。

 対する夜顔は、コレに右の肘打ち、角をブレードに打ち合わせる様にして振るう。

 

 激突。しかし、拮抗はない。

 

「――――お前が俺に、勝る事など何一つ無い」

 

 肘を振り抜き、夜顔が告げる。彼の右ひじの角は無傷で至極あっさりと星噛のブレードを撃ち砕いてしまったのだから。

 そこから左のボディアッパーが星噛の無防備な胴体へと突き刺さる。

 

「ビジネスにケチが付いた?そんな事は、こっちの知った事じゃない」

 

 右肘の振り下ろしが脳天を捉え、星噛を床へと打ち据える。

 

「何より気に入らないのは、そんな理由でアイツを泣かしたお前の行動だ」

 

 瞬間、夜顔の左足が振り抜かれ星噛の体が錐揉み回転しながら宙を舞った。

 同時に右拳が硬く固く握られる。

 

「死ね、とは言わん。だが、二度とこういう馬鹿な事をする気に成らない様にさせてもらう」

 

 床が蜘蛛の巣状にひび割れるほどの強い踏み込みと共に、夜顔の体は深く沈み込む。

 腰だめから、更に肘を背後へと突き立てる様にして溜を作り踏み込みの反発の腰の回転を上乗せしながら渾身の力で拳を振り上げた。

 断末魔の一つも許さない。

 宛ら花火の玉のように、星噛の体は天井を幾重にも突き破って空へと打ちあがっていた。

 

 そも、星噛絡惨は勘違いをしている。

 彼のビジネスの邪魔をする事になった一件。星噛の中でも最高傑作と謳われた“孤人要塞”が、崩月の小鬼である揉め事処理屋と引き分けた件。

 この揉め事処理屋は、崩月夜顔の一つ年上の内弟子であった。

 

 そして、実の所その内弟子よりも夜顔の方が実力は上なのだ。

 

 単純に、崩月としての直系である事も関係しているが身もふたもない話をすれば、才能の差。

 そんな相手に、如何に星噛製の改造を施したサイボーグであろうとも勝てる道理など無い。

 

 況してや、()()()()()()()()

 

 戦闘終了。天井に空いた穴を眺めて殴り飛ばした星噛が落ちて来ない事を確認し、夜顔は両肘の角を収めた。

 同時に背中に軽い衝撃。

 

「……………………夜顔くん…………」

()……終わったぞ」

 

 震えるピンクの頭の背に、手を添える。

 一先ずの終わり。少なくとも、今この場では。

 シャツの背が濡れるのを感じながら、夜顔は大きく息を吐き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、ぞがぁぁぁ…………」

 

 水をたっぷりと滴らせながら、星噛絡惨は川岸へとその体をどうにかこうにか持ち上げる事に成功していた。

 夜顔に殴り飛ばされた彼は、僅かな弧を描きながら夜の空へと打ちあがり最後の最後で運を掴んで川へと落下。改造を施したお陰か水面に叩きつけられても辛うじて生存を果たしていた。

 だが、その体は酷いものだ。

 両腕の義手はそれぞれ肘の辺りから崩壊して原形を留めておらず、打撃を貰った胴体もその内側の置換した人工臓器類が著しく破損。両足に至っては、半ばから砕けてしまっていた。

 

「お゛の゛れ゛、崩月ィ……!次こそは、必ず……殺す…………!」

()はねぇよ、オッサン」

 

 這いずる星噛の前に、ブーツに包まれた脚がその道を阻んだ。

 顔を上げた星噛の頬が引き攣る。

 

「ギ、“ギロチン”……!」

 

 マフラーをたなびかせた少女が、一振りのナイフを手にそこに居た。

 無慈悲にも、ナイフの切っ先が向けられる。

 

「ま、待て!なぜ、貴様がここに居る!?」

「上からの指示さ。お前、はしゃぎ過ぎ。そりゃあ、粛清対象にも成るってもんだろ?」

「馬鹿な……!私は、“星噛”だぞ!?」

「だったら俺は、“斬島”だし。お前が襲ったアイツは、“崩月”だ。何よりお前――――」

 

 そこで、言葉を切り斬島切彦は呆れた様な目を星噛に向ける。

 

「無理矢理拒絶反応を抑えてるんだろ?“星噛”の人間とは言えねぇじゃねぇか?」

「黙れェッ!!」

 

 切彦の言葉に、星噛は咆えるが手足が潰れた以上何が出来る訳でもない。

 

 星噛絡惨は、落伍者である。

 裏十三家である“星噛”では、生まれと同時に片腕を切り落として義手へと換装して訓練を行う。

 積み重なったノウハウと、家系的強靭さも相まって星噛家の関係者は何れもが星噛製の義手や義足といった義体パーツを有している。

 

 だが、彼は違った。

 拒絶反応が出てしまい生死の境をさまよった事も軽く二桁を超える。

 手足を動かすだけで痛みが生じ、置換した星噛製の内臓も上手く合わないのか真面に食事もとれない。

 それら拒絶反応を無理矢理に強い薬で抑え込んで、しかし今度は薬の副作用が体を蝕んでくる。

 結果として、無理な移植手術と薬の影響で彼は二十代でありながらその見た目は四十代以上の不健康そうなやつれた姿となっていた。

 

 そして、誰が呼んだか星噛の落伍者。星噛に生まれながら、その身が星噛を拒む落ちこぼれ。

 

 薬物などで無理を推し進めた結果得た身体は、しかし何処まで行っても二流止まり。

 裏の、それこそ裏十三家などの当主を務められるような存在には決して成れず、さりとて独立をするような手腕も能力もない。

 ただ、落伍者というレッテルが貼られ、常に黒い影のように付き纏ってくる人生。

 いっその事、星噛を抜けてしまえばまだ真面な人生を送れたかもしれない。だが、彼は自身の全てを擲てるほど心は強くなく、度胸も無かった。

 

 それも、もう終わりだが。

 

「じゃあな、オッサン。そもそも、アレは俺の獲物なんだよ」

「ま、待て――――」

 

 言い終わる前に銀が閃く。

 都合、五つの斬撃が走り星噛の胴体から、頭、右腕、右足、左足、左腕が切り離された。

 元より死に体であった彼は、そこで事切れる。

 対象の絶命を確認して、切彦は顔を上げた。

 本音を言うなら、今すぐにでも現場に乗り込んで一戦交えたい。だが、昂る闘争本能を無理矢理に飲み込んで彼女は踵を返す。

 ソレでは、面白くないのだ。僅かにでも消耗した相手を切っても、彼女の渇きは癒えないのだから。

 

 かくして、血をもって今回の一件は幕を下ろした。

 表と裏の接点を残したままに。

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