夜顔~Yorugao~   作:夕顔

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 人との繋がりというのは、意外にも堅固なもの。少なくとも、崩月夜顔は実感する事に成る。

 

「よし!準備万端だ!いつでも話し始めてくれて良いぞ!」

 

 キンッと響く大声と共に、司の太陽の瞳が向けられる。

 場所は、鳳家のえむの部屋。目算でも十畳以上はあるだろう広々とした部屋で且つ女の子らしいファンシーでメルヘンチックな内装である。

 その部屋の中央に置かれた脚の短いテーブルを囲むようにしてワンダーランズ×ショウタイム+夜顔という形で集まっていた。

 

「…………とりあえず、どこから聞きたいんだ?」

「そうだね。僕としては、やはり君の体のついて、かな」

 

 うなじを撫でる夜顔に、類が道を示す。

 頷いて、少年は口を開いた。

 

「俺の力は、家系的なものだ。まず前提として、この国は二種類の家柄が表と裏双方から支配してきた」

「…………なんか、本当にゲームとか小説の話になってきてない?」

「事実は小説より奇なり、だ。先ず表。こちらは表御三家と呼ばれる、主に政財界に大きな影響力を持っている」

「九鳳院、と言ってたね。それが、表御三家という事かい?」

「ああ。“九鳳院”、“麒麟塚(キリンヅカ)”、“皇牙宮(コウガノミヤ)”。この三つが、表御三家。そして――――」

 

 そこで、夜顔の視線が隣に座るえむへと向けられる。

 

「“鳳”は、九鳳院の分家の一つらしい」

 

 な?と問われれば、えむは頷く。

 

「うん。あたしもね、あの後色々教えてもらったから。鳳家は、九鳳院家からすっごく昔に分かれたおうちの一つなんだって」

「成程……とりあえず、崩月くんは話の続きをお願いできるかい?」

「ああ。表御三家がその名の通り表から支配するなら、裏社会を牛耳ってきた者が居る。それが、裏十三家だ」

「多くない?崩月くんみたいな人が居る家が、そんなにあるの?」

「昔の話だがな。今では半数近くが断絶しているか廃業済みだ。うちも祖父の代で裏稼業は廃業している。裏十三家は、その家々に特色がある。ウチの、崩月の家なら腕の角だ」

「む?夜顔の家族も同じ事が出来るのか?」

「基本的に、崩月の直系の人間にはこの角があるからな。昔の先祖が内臓の位置が変わって全身の骨が十回は軽く折れるような狂気の鍛錬で肉体改造を積み続けた結果、らしい。それ以上となると、家の書庫をひっくり返せば何か見つかるかもな」

「肉体改造、か…………ある意味で、崩月くんの家は一つの進化を果たしたのかもしれないね」

「寧ろ、進化するほどの鍛錬って何?」

「俺も知らん。だが、その力と鍛錬の結果俺の体は、酷く頑丈だ。少なくとも、拳銃の掃射を受けても致命傷に成らん」

「…………それはもう、大型の肉食獣とかが適切じゃないかな?」

「俺もそう思う」

 

 類の言葉に同意を示しつつ、中身はもっと恐ろしい、と夜顔は内心で付け加えていた。

 個人差はあれども、崩月の人間は素の状態でも頑健頑丈だ。そこから更に角を発動した戦鬼化を果たすと、その肉体強度は生物の範疇を逸脱する。

 ぶっちゃけ、ライオンや狼の群れを素手で屠殺し、最大全長のホッキョクグマを真正面から絞め殺す事が可能と大型肉食獣など目じゃない戦闘力を有するのだ。

 

「そう言えば、夜顔。裏十三家という話だが、他にはどのような家があるんだ?」

「そうだな………パーティの時に襲ってきたのは、星噛家の人間だった」

「また、変わった苗字だね。そこも崩月くんみたいに、身体が特殊なのかい?」

「いや。星噛の特性は、サイボーグ化だ」

「さ、サイボーグ?あの、映画とか特撮に出るような?」

「そうだな。改造人間って言っても良い。星噛製の義手義足は、生身の手足と変わらず動かせる。それだけじゃなく、内臓や骨格も置換可能だ」

「!そんな技術力が?」

「門外不出だがな。極稀に、裏で星噛製が流れたりする時も同量の宝石と取引されるらしい」

「………出回らないのかい?」

「神代先輩。裏の人間に、善意を期待しない方が良い。その期待ごと貪り食われる」

 

 裏の人間は、大半利己的だ。そもそもが利他的であっても意味が無いのだ。食い物にされるだけで。

 その一つの到達点を、夜顔は知っている。

 

「夜顔くん、大丈夫?」

「ッ、何がだ?」

「何だか、嫌そうな顔してたから………」

 

 心配そうに自分を見てくるえむ。そして三人を見やり、夜顔はうなじを撫でた。

 嫌な顔を思い出したせいで表情に出てしまったらしい。

 

「………いや、まあ………厄介な奴を思い出したせいだな」

「崩月くんの知り合いなの?」

「知り合い…………正直な話をすると、知り合いにもカウントしたくはないな」

「そこまでかい?」

「ハッキリ言って、裏関係の人間には関わるだけ損なんだ。出来るだけ、先輩たちにも関わってほしくない」

 

 パーティの一件が無ければ、少なくとも一般家庭出身である司、類、寧々の三人は裏関係にも触れる事は無かっただろう。

 今回の説明会も、えむと関わる以上そういう手合いと出くわす場面があるだろうから、という措置。

 

「……ごめんね、あたしのせいで」

 

 言葉の裏を呼んでしまったのだろう、えむがしょんぼりと項垂れる。

 四人もそれぞれに気に掛けていたが、それでも少女の心の傷が癒えるのはまだまだ先。

 

「あー、()?そう気に病むなよ。そもそも、仕掛けてきた方が悪いんだ」

 

 不器用ながら、夜顔がフォローを入れる。

 彼女の性根がもう少し悪ければ、襲ってきた相手に責任転嫁して自身の心の傷も浅く出来たかもしれない。

 だが、鳳えむという少女は優しく、そして天真爛漫でありながら同時に聡明さも持ち合わせていた。そして、怖がりな部分もある。

 そんな少女の目が、夜顔へと向けられた。

 

「夜顔くん」

「ん?」

「あの時、あたしの事“えむ”って名前で呼んだよね?」

「…………そうだったか?」

 

 思い当たる節が無いのか、夜顔は首を傾げる。

 だが、えむは彼にそのまま畳みかけるのではなく、他三人へと目を向けた。

 

「司くんたちも聞いたよね!?」

「む?確かにな。言っていたぞ、夜顔」

「言ってたね」

「うん、言ってた」

「そう、か?」

 

 三人に立て続けに肯定されて、夜顔は首を傾げながらも頷く。

 パーティでの一件は、夜顔自身かなり腹に据えかねていた。

 

 特に、えむが泣いた事、泣かせた事は夜顔自身も自分に驚く程度には苛立った程。

 

 とはいえ、今見るべき場所は違う。

 

「……()()?」

「うん!」

 

 先程までのしょんぼりとした雰囲気は何処へやら、喜色満面にえむは頷く。

 勿論、先程までの事が演技であったとかそういう事は無い。無いが、今は嬉しい気持ちが勝っているらしい。

 一方で、夜顔としては妙な気分だ。

 彼自身としては正直な所、縁が切れてもおかしくはない事をした自覚がある。

 

「……俺が、怖くないのか?」

 

 その内心が言葉となって口を突いて出た。

 吐いた唾は吞めぬと言うもので、口から零れた言葉は最早やり直しはきかない。

 

「怖くないよ」

 

 最初に答えたのは、えむだった。

 

「夜顔くんは力も強いし、とってもガンジョーだけど、でもあたしを助けてくれたもん。だから、怖くないよ」

「……それが、偶然でもか?」

「うん」

 

 えむは頷く。

 偶然だろうと何だろうと、彼女は事実として崩月夜顔に救われた。その力が誰かを守る為に振るわれる瞬間を確かに目撃した。

 であるのなら、怖がることはない。何より、()()()()()()()をした少年の手を振り払うような事はしない。

 

「無論、怖くなどないぞ!オレは、お前を信頼し信用している!オレが、信じた!それだけで、理由は十分だ!」

 

 司が咆える。いつも通りの爆音で、だからこそ彼の心がそのまま一直線に伝わる。

 

「そうだね……危険視はしても、僕も恐ろしいとは思わないかな」

「危険視するのにか?」

「事故は何時でも起きるからね。それに、短い付き合いだけどそれでも君の為人に関しては司くんではないけど信を置いてるんだ」

 

 だから恐ろしくない。夜顔が、無意味に暴力を振るうとは思わないから。類の理由はそんなもの。

 

「わたしは…………少し、怖いかな」

 

 続く寧々が、ポツリと呟く。

 

「崩月くんが、暴力を振るう人だとは思わないけど…………やっぱり、力が強いっていうのは印象がマイナスだと思うし。それに…………」

「それに?」

「…………崩月くん、わたしたちが危なかったら何も考えずに盾に成ろうとするんじゃない?」

「む……肉盾に成る前に、相手を制圧するぞ?」

「でしょ?崩月くんがそれをできるにしろ出来ないにしろ、そういう危険な場に自分から飛び込んでいくのを見送るのは……わたしは嫌、だと思う」

 

 強いのだろう、と寧々はキョトンとした顔の少年にそう思う。

 事実、あれほど恐ろしかった襲撃犯を一方的に叩きのめして殴り飛ばしてみせたのだから。

 だが、ゲームでも漫画でも本でも、絶対無敵な存在など早々居ない。況してやこちらは現実問題。絶対的に夜顔が全てを打倒できるとは限らないのだ。

 そして、彼は敵わない戦いであろうとも自分達を守る為なら平気で飛び込む。寧々はそう見ていた。

 

 夜顔は、うなじを撫でる。

 

(本当に、得難い出会いをしたものだな)

 

 改めて、今の自分の立場に感謝しながら夜顔は笑みを浮かべるのだった。

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