夜顔~Yorugao~ 作:夕顔
シトシト処か、ザーザー降りの土砂降り模様。
梅雨の時期であり、どうしてもぐずついた空模様ばかりとなる今日この頃。嫌いな者も多いであろう季節だ。
「雨ばっかりでカビそうだ」
「この時期は仕方が無いだろう。少なくとも、雨模様は今週一杯という話だ」
「まあ、うんざりするのは分かるぜ。外で練習も出来ねぇしな」
神山高校は1ーCにて、夜顔、彰人、冬弥の三人は昼食を口にしつつ愚痴っていた。
因みに、この三人が集まった席は中々どうして顔面偏差値が高い。三人がそれぞれに、方向性の違う顔立ちであるから余計に目立っていた。
もっとも、当人たちは気にした様子もないが。
「練習もそうだが、彰人。そろそろ期末テストがあるだろう?」
「ゲッ……思い出させんなよ。折角忘れてたってのに……」
「そうは言うが、期末テストはどうにかしないと困るのはお前だろう?」
「何の話だ?」
ゲンナリと顔を顰める彰人に、夜顔が首を傾げる。
「この前の中間テストがあっただろう?」
「ああ」
「あの時、彰人は幾つか赤点を取ってな。その補修で、練習時間が結構削れてしまったんだ」
「……東雲?」
「…………悪いとは思ってる」
そっぽを向く彰人だが、今回の補修不味いのだ。
「今回補修となれば、まず間違いなく夏休みに食い込む事に成る。平時と比べて圧倒的に時間が取れる時に、補修に食い潰されるのを俺は避けたい」
「まあ、そうだろうな。一ファンとしても、ライブは完成度が高い方が見たいもんだ」
「うっ…………」
相棒とファンからの視線。コレを裏切れる者は、そう居ないだろう。
夜顔としては、先の言葉通り完成度は高ければ高い方が良い。因みに、足を運んだのは彰人と冬弥が組んでいた“BADDOGS”とその後に紆余曲折あって組まれた男女混合ユニットの“VividBADSQUAD”の二つ。
今年に入って三つのジャンルの違う音楽グループに出会い、そのメンバーと親しくするなど去年の彼が聞いたら驚くような事態だ。
だからこそ、今回の件は無視できない。
「というか、中間は東雲は何をしてたんだ?青柳が勉強させないとは思えないが」
「それは…………」
「まだ中学の内容も入っていたからな。油断した」
「東雲…………」
彰人に憐みの視線が刺さる。
一応、受験を突破して入学を果たしているのだから相応の学力はある筈なのだが、如何せん勉強嫌いは筋金入り。必要だと頭の隅で理解していても、だからといって机に向かう事は体が拒否してしまう。
しかし、ここまで一方的に言われっぱなしも癪というもの。
「そういう崩月はどうなんだよ。テスト、良かったのか?」
「一応、学年で三十位以内に入っているぞ?」
「…………マジ?」
「嘘を吐いてどうする。そも、学校のテストは授業をどの程度理解できているのかを確認する為のものだ。裏を返せば教師の求める水準を理解できていれば点数は取れる」
アッサリと告げる夜顔に、彰人はあんぐりと口を開ける。
補足をすれば、そもそも夜顔は地頭からして良好。自分なりの勉強法も中学時代には確立しており、そもそもテストで困った試しがない。
そして、夜顔の成績を聞き冬弥は顎を撫でると、何を決めたのか一つ頷く。
「…………良し、勉強会をするとしよう」
ポツリと呟かれ、二人の視線が向く。
「まあ……仕方ねぇか。夏休み呼ばれるのも面倒だしな」
「俺もか?」
「ああ。出来れば、崩月も参加してほしい。彰人に教えるだけじゃなく、俺と互いに教え合えればその分成績も上がるかもしれないからな」
「成程。それは確かに」
冬弥の提案に、悪くないと夜顔も頷く。
勉強の効率的な方法の一つに、誰かに教えるというものがある。
他人にものを教えるというのは、存外難しいものだ。何故なら教える内容に対するちゃんとした理解をしていなければそもそも教師役など出来はしないのだから。
裏を返せば自身の説明で相手に理解させる事が出来るのなら、その分野に対する理解は確りと出来ているという証拠でもある。
「いつ始めるつもりだ?」
「そうだな…………出来れば、早い方が良いと俺は考えている。テスト範囲の発表を待たずともある程度の予想は付くからな」
「それもそうか」
テスト範囲の予想を立てる。コレは意外と難しくない。
そも、学校で行われるテストの目的は、先程夜顔が指摘したように授業に対する理解深度を把握する為のものだ。出題範囲に限りがある以上、だいたいの場合は前回のテストから今回のテストの間の授業で扱った範囲がテストとなる。
そこから、勉強会の計画を練る二人を他所に彰人は遠い目をして紙パックのココアを啜っていた。
彼自身の頭の出来は悪くない。寧ろ回転の方も速い方だろう。
しかし、勉強はダメだ。敵である、と嘯いてもいい。
勉強嫌いというのもあるが、同時に彼が今は歌に全力で取り組むからこそ、その他には意識を向けにくい。先の通り、嫌いな対象ならば猶の事。
彰人の内心など知る由もなく、二人は計画を話し合っている。
「とりあえず、教科を絞るとしよう。崩月は得意科目はあるか?」
「特別得意な、とは言えないな。強いて挙げれば、文系だろうか。教科書を読んでおけば、最低限何とでもなる一応、簡単な英会話程度なら可能だぞ」
「成程…………とりあえず、積み重ねが重要な数学と英語を重点的に行うとしよう。国語は…………」
「古文漢文の古い言い回しや、漢文を読むのに必要な記号と言葉の意味が重要だろう。現代文は、最悪文さえ読めば何とかなる。漢字は……とりあえず、読みを重点的にしよう」
「そうだな。社会科目は、暗記か」
「ああ。年表が覚えられるなら、歴史は大丈夫だと思うが……とりあえず、教科所の用語を纏めよう」
「おい、本人に聞く前に諦めてんじゃねぇよ」
「出来るのか?」
「…………」
スッと逸らされる彰人の目。
噛み付いてはみたものの、現状この場の学力最低値は自覚している。勝てない勝負はするべきではない。
彰人が引き下がり、夜顔は勉強会の計画に関しての話を続ける。
「場所はどうする?」
「そうだな……俺の家は、難しいな。図書館か或いは…………」
「まあ、オレんちは大丈夫だぜ。煩いのが居るけどな」
「ああ、彰人にはお姉さんが居たな…………講師役を頼むか?」
「止めとけ。姉貴も頭良くねぇし。そもそも、オレが教えられるのが嫌だ」
「そうか…………崩月はどうだ?」
「俺か?…………んん」
冬弥の問いに、夜顔は顎を撫でた。
「…………一人暮らしだから、呼ぶ分には問題ない………が」
「「が?」」
「ウチは、事故物件だ」
「…………マジ?」
「ああ。心霊現象の類に遭った覚えは無いが、気分は悪いだろう?」
「いやいやいやいや、そこじゃねぇって。その、事故物件って事は………」
「ああ、亡くなったのは俺の二つ前の入居者だな。因みに、俺の一つ前の入居者は一週間ぐらいで出ていったらしい」
「ガチモノじゃねぇか。大丈夫なのか?」
「死人にどうこうされるほど、軟じゃない」
「そういう問題じゃねぇよ」
彰人の突っ込みに、しかし夜顔はどこ吹く風。
一方で、冬弥は二人の会話に顎に手を当てて首をかしげていた。
「崩月」
「ん?」
「崩月の家は、その……経済的に苦労しているのか?」
冬弥の疑問。事故物件に住むとなれば、相応の理由が有るのだろう、と。
だが、夜顔は首を振った。
「いや、そういう訳じゃない。単に、この一人暮らしは俺の我儘で始めた事だからだ。家賃やら何やらを親に頼っている以上少しは抑えようと思ってな」
「そうなのか?」
「第一、俺は幽霊の類を信じていない。会った事もないし、心霊現象に出くわした事もないからな」
結局のところ、コレに尽きる。
経験した事がない以上、想像力では限界がある。テレビの心霊番組なども見た事はあるが、いまいちリアリティに欠けて恐ろしいと思った事が無かった。
そんなこんなで、勉強会の場所は彰人の家に決まる。
そしてそこで、夜顔は思わぬ再会を果たすのだった。