夜顔~Yorugao~   作:夕顔

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 放課後。“VividBADSQUAD”は練習があるという事で、勉強会は無し。

 一方で“ワンダーランズ×ショウタイム”の練習はお休みだ。

 どれだけ精力的で、やる気に満ち満ちていようとも彼らは高校生の子供。練習すればするほどにその技量が上がろうとも、同時に疲労が積み重なる。そして、積み重なった疲労は思わぬケガなどを呼ぶのだ。

 

「…………お待たせ」

「ああ…………疲れてるな」

 

 校門の近くで待っていた夜顔へと声を掛ける寧々。その顔には、気疲れの跡が見て取れた。

 

「…………」

 

 何も言わずに、彼女はジッと夜顔を見る。

 今朝の事だ。登校した彼女は、その後クラスの女子に質問責めとまではいかないが、それでも夜顔との関係性について割と根掘り葉掘り聞かれる事になったのだ。

 不幸中の幸いは、朝の早い時間に登校した者が少なかった事。それでも、人見知りの彼女にとっては中々に辛い時間だったが。

 言わせてもらえば、八つ当たり染みた鬱憤が溜まっている。しかし同時に、その鬱憤を目の前の少年にぶつける事もまた違うとも理解していた。

 

「崩月くん」

「ん?」

「ゲーセン行かない?新台入ってるかもしれないし」

「俺は、構わないぞ。他に誰か呼ぶか?」

「類も司もえむも用事があるみたいだから」

 

 それだけ言うとさっさと歩き出す寧々。その後を夜顔は追いかけて隣に並んだ。

 

「それにしても、草薙は何のゲームをするつもりなんだ?」

「格ゲーは分かる?格闘ゲーム。ソレ」

「へぇ?……ん?今は、家庭用のゲーム機でも出てるだろ?」

「そうだけど、ゲーセンにも筐体が幾つか置いてあるの。多分昔ほど流通してないけど、そのお店の店長さんが格ゲー好きみたいでそこは結構な数が揃えてあるかな」

「面白いのか?」

「うーん……人次第、だと思う。ゲームの中でも操作が難しい方だと思うし」

 

 格ゲーとひとくくりにしても、その難易度はタイトルによって違う。

 ボタンを連打するだけでコンボがつながるものもあれば、コマンドを覚える事が前提の上でそこから自らの戦い方を組み上げていくものもある。

 

 寧々のゲーム指南を続ける道中。程なくして、目的地へと辿り着く。

 自動ドアを潜れば、二人を出迎えたのは耳に響く喧騒たちだ。

 

「こっち」

 

 先導する寧々の後をついて、夜顔も店の奥へと足を運ぶ。

 入り口近くは、UFOキャッチャーなど子供或いはファミリー向けの筐体が置かれており、奥に進むにつれメダルゲーム、レーシングゲーム、音ゲー、そして格ゲーといった具合にスペース毎に纏められていた。

 その一角。格ゲーコーナーへと足を運んだところで、寧々は首を傾げた。

 

「あれ?」

「どうした?」

「いや、えっと…………人だかりができてるから」

 

 寧々に言われ、夜顔も格ゲーコーナーへと視線を向ける。

 彼女の言うように、成程確かにプレイヤーが向かい合うようにして置かれた筐体の周りに人が集まっているではないか。

 人見知りの寧々は、無意識の内に夜顔の後ろに隠れる様に動いていた。

 

「他の場所に行くか?」

「…………」

「まあ、俺も気にはなる」

 

 見上げてきた寧々の視線の意図を汲んで、夜顔は人だかりへと歩を進める。

 近付けば、自然と周りの騒音に覆われていた彼らの歓声が聞こえてきた。

 

「すげぇ!もうこれで、何人抜きだ!?」

「おいおいおいおい、マジかよ。どういう反応してやがる。あそこから、コンボ繋いで返しやがった」

「ああ!また負けたぞ!コレで何勝目だよ!?」

 

 悲鳴と歓声が入り混じり、また一人のプレイヤーが黒星を付けられる。

 頭を掻く青年が席を外し、また別のプレイヤーが手を上げて席に着いていく。

 彼らを薙ぎ倒すプレイヤーは誰なのか。気になった寧々は、夜顔の後ろから顔を覗かせて人が立ち替わる筐体と対面する筐体へと目を向けた。

 

「…………女の子?」

 

 年の頃が自分達と近そうな、サイドテールに髪を纏めマフラーを巻いた少女が機嫌良さそうに口角をうっすらと上げて手元を操作していた。

 ゲームの腕前に、年齢はあまり関係ない。経験をセンスで上回る者も居れば、経験値の高さで巧く立ち回る者も居るからだ。

 

 もっとも、夜顔は別の意味でその目を見開いたが。

 

「…………ふぅ」

 

 思わず、一歩出そうになった足を寸前で止める。

 危険な相手ではある。だが、一方で不必要に暴れ回るような相手でもないのだ。

 

「どうする?草薙も参加するか?」

「む、無理……他のに行こう。空いてるから」

「あっちか?」

 

 とりあえず人だかりを避けて、二人は別の格ゲーの筐体へと向かう。

 まずは、寧々が手本を見せ都度、夜顔の質問に答える形を取った。

 何度かの練習を経て、いざ対戦へ。

 

「――――むぅ……難しいな」

「その割には動けてると思うけど。特に、技の繋ぎがかなり自然だったし」

「体の動かし方には、一日の長があるからな」

「…………そういえば、そっか」

 

 寧々が思い出すのは、両肘から角を出現させた戦鬼としての姿。

 そこらの創作物のキャラよりも、よっぽど人間離れした姿と怪力。ゲームの中のキャラの動きもマネできるのではなかろうか。

 

「崩月くんもこんな動き出来るの?」

「んん?このキャラの動きだろうか?」

「そう」

 

 示された道着に厳めしい鬼のような顔をした男性キャラを見やり、夜顔は顎を撫でる。

 

「……少なくとも、手から何か飛ばすような奴と何をしているのか分からない様なものじゃなければ出来ると思うが…………」

 

 よっぽど人体構造から逸脱した動きでなければ、可能。というのが夜顔の判断だった。

 因みに、格ゲーのコンボを効率よく覚えるなら体の構造を把握していると動かしやすかったりする。

 

(殺陣の指導とか出来ないかな)

 

 寧々は、次の対戦へ向かいながらそんな事を考えていた。

 アクションシーンなどを演じる際に、実際の武術などを身に付ける俳優が居る。どうしても、手足を振り回す際に慣れていないと素人くささというものが出てしまうからだ。

 その点、夜顔ならば一般的な武道武術とは違う、純粋な戦闘を主眼に置いた体術の使い手。

 実際に戦っていた姿も見た為、余計にその考えが浮かぶ。

 

 それから、二人は格ゲーのみならず様々なゲームを練り歩いた。

 

「ゲームも存外面白いもんだな」

「でしょ?でも、パンチングマシンはやらなくて良かったの?」

「力加減が分からないからな」

 

 店を出て寧々に言われ、夜顔は肩を竦める。

 本気で殴れば、素の状態でも分厚い鉄板を歪ませる程度の威力は出せる。だがそれは、常人を逸脱した力だ。そんな力で殴ってしまえばパンチングマシンも壊れかねない。

 折角の楽しい時間を壊すような真似を、夜顔はする気は無かった。

 

 もっとも、先延ばしにしていた面倒事が迫っていたが。

 

「――――こんにちは、お兄さん」

「…………このまま大人しく、帰してもらえる方が良かったんだが?」

 

 背後からの声。答えながら、夜顔は寧々を自分の後ろに庇いつつ振り返った。

 声を掛けてきたのは金髪の少女、斬島切彦。

 思わぬ相手に、寧々は目を見開いた。

 

「あの子、さっきゲーセンに居た…………」

「斬島切彦。殺し屋だ」

「こ……!?」

 

 寧々の肩が跳ねる。同時に夜顔の背中にくっつくようにして隠れてしまった。

 殺し屋などリアルで会えるものではない。そもそも喧伝する殺し屋など存在しないというのもあるが。

 切彦はゆったりと笑みを浮かべる。

 

「わたしに気付いてたのに、ひどいです。声を掛けてくれればいいのに」

「こっちも連れが居る。生憎と俺は、真九郎みたいに誰彼構わず声を掛ける様な人間じゃないんだ」

「ふーん…………そっちの人は、お兄さんのがーるふれんど?」

「違う」

 

 即否定しながら、夜顔は切彦の視界に寧々が入らない様に立ち位置を微妙に調整していた。

 誰彼構わず暴力を振るうタイプではない事を知っているが、だからと言って堅気の友人を好き好んで裏の知り合いに顔合わせしたいとは思わないからだ。

 果たして、彼の内心を読み取ったのか興味が失せたのか、切彦は踵を返した。

 

「ばいばい、お兄さん。次は、もっと人がいないところで()()()()()()

「失せろ」

 

 去っていく切彦の背中。その背が完全に見えなくなってから、夜顔は息を吐き出した。

 

「…………もう、行っちゃった?」

「ああ」

「知り合い、だったの?」

「…………去年、少しな。草薙に接触してくることは無さそうだが……とりあえず、家まで送ろう」

 

 先程までの楽しい気分は何処へやら。夜顔の眉間には深いしわが寄っていた。

 

 どれ程歩いただろうか。二人は閑静な住宅街の中へと足を踏み入れる。

 

「……ねぇ、崩月くん」

「ん?」

「さっきの子、聞いても大丈夫?」

 

 意を決して、寧々は問う。

 夜顔が、自分達がこの手の事を知るのを嫌がっているのは彼女も分かっている。しかし、何も知らない状態では警戒しようにも限度があった。

 現に、斬島切彦にしてもその見た目は金髪の儚げな印象の少女でしかない。町ですれ違っても気付く事は無いだろう。

 

「……“斬島”は、俺と同じ裏十三家の一つだ」

「!崩月くんたちと……?じゃあ、あの子も何か変身したりするの?」

「いや。斬島の特性は、刃物に対する異常なまでの扱いの巧さだ」

「刃物?それって、ナイフ……とか?」

「ああ」

 

 言われても、寧々にはいまいちピンとこないのか首を傾げる。

 

「……そういう剣術流派って事?」

「違う。奴らは、刃物の扱いが生まれつき巧なんだ。それこそ剣術のイロハを一切学ぶ事無くド素人の状態で、何十年と剣の鍛錬を積んだ一流の剣豪を斬殺できる」

「そ、れは……」

「刃物って言ったが、実際には切れる特性があれば何でも良いらしい。それこそ、笹の葉で対象を切り刻んだりも出来るな」

「……」

「斬島の家は、代々殺し屋を担ってる場合が多い。異常性柄、どうしてもな」

「そっか……あの子も、そうなの?そういえば女の子……だよね?」

「ああ」

「でも……切彦って呼んでなかった?」

「アレは、殺し屋家業を継いだ斬島の人間が受け継ぐ屋号みたいなものだからな。本名は、俺も知らない。歳は俺達の一つ下だ」

 

 裏稼業に年齢制限はない。才能が有れば、十歳未満であっても凶器を握る。

 改めて、傍らの少年がある意味違う世界の住人であると寧々は実感する事になる。

 

 余談ではあるが、この出会いから時折ゲームセンターで50連勝を達成した格ゲーの筐体が見られるようになったとか。

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