夜顔~Yorugao~   作:夕顔

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 崩月夜顔が、神山高校に入学してしばらく経った頃。

 所属している1-Cでは良くも悪くも周囲に溶け込んだ普通なタイプ。しかし、力仕事などで困っているとサラリと手を貸したり、教師受けの良い立ち位置になっていた。

 

「あ、すまん崩月。ちょっと、お使いを頼まれてくれないか?」

「はい?何です?」

 

 職員室で不足したプリントを受け取っていた夜顔に、数学担当の教員が声を掛けてきた。

 

「今日までに提出だった数学の課題があるだろ?それを一人出してない奴が居るっぽいんだ。教室に居たなら催促してきてくれないか?回収出来たら、俺の机に置いてくれたらいいから」

「はぁ……イイですけど、居なかったらどうしますか?」

「そりゃ、明日声を掛けるさ。悪いな、今から会議があって直ぐに行かなくちゃならない」

「分かりました。それで、回収する相手は誰ですかね?」

「ああ。東雲だ。東雲彰人。オレンジの頭してるから分かるだろ?」

「東雲……分かりました」

 

 悪いな、と去っていく教師を見送って夜顔は溜息を一つ吐くとプリントを折ってブレザーのポケットに収めると職員室を後にする。

 時は放課後。居ない可能性の方が高いと考えながらもその足は一応教室へと向かう。

 

 果たして、教室には二人の男子生徒が居た。

 

「分っかんね。もう良くねぇか?」

「だが、彰人。この大半は、中学の時の範囲だぞ。今できていないと、後々苦労する事になる」

「いや、んな事より練習を――――あ」

 

 二人の内の片割れ、オレンジ髪の垂れ目がちな少年が教室に来た夜顔に気が付いた。

 同時に、もう片割れの左右で色合いの違う寒色の髪色をした少年が振り返って来る。

 

「…………東雲。その課題終わったのか?先生に回収を任されたんだが」

「あー、いや、その…………」

「すまない。彰人はまだ終わっていないんだ。職員室に持っていけばいいだろうか?」

「まあ、そうだな。数学担当の先生の机に置いておけばいい」

 

 真面目そうな彼に言葉を返しつつ、夜顔はもう一人を見やる。

 露骨に嫌そうな表情だ。勉強が嫌いという態度が隠しきれない。

 

「…………とりあえず、適当に穴埋めして提出したらどうだ?」

「!それだと、課題の意味が無いだろう?」

「でも、そのままやる気がない状態で進めても頭には残らないんじゃないか?勉強が嫌な感情が積もるだけだ」

「それは…………そうだな」

 

 思い当たる節があるのか、寒色の彼は頷いた。

 それを確認し、夜顔はオレンジ髪の彼へと顔を向ける。

 

「東雲も、それで良いか?」

「お、おう……えっと…………」

「崩月だ。崩月夜顔」

「崩月は、勉強しろとか言わねぇ訳?」

「言ってやるのなら、な」

「うぐっ」

 

 オレンジ髪の彼、東雲彰人は言葉を詰まらせた。

 特別頭が悪いとか、学習障害があるとか、知能が低いとかそういう事は無い。ただただ、純粋に勉強が嫌いなのだ。そして、周りに言われてその態度を改める事が出来るのなら、苦労していない。

 

「崩月も、勉強は苦手なのか?」

「好きじゃないのは確かだ。ただ、やらなければならない事である事も分かってる成績は……特別悪くないな」

「勉強って、いまいちモチベーション上がらねぇんだよな。数学とか、将来使わねぇだろ?」

「彰人……」

 

 寒色の彼は何か言いたげだが、夜顔は肩を竦める。

 

「確かに将来には使わないが――――今、必要だろう?」

「今?」

 

 コツコツ、と指の先がプリントの乗った天板を突く。

 

「東雲が、進学するのか就職するのか知らないが、それでもいい成績を持っておくに越した事は無い」

「それは……まあ、そうだな」

「だから俺は、今使う分の勉強をする様にしてる。結果的に将来使わなくても、今を乗り切れるように」

「成程……良い考えだな」

「そう、か?」

「ああ。勉強へのモチベーションをどう保つべきか考えていたが、今の為に頑張るというのは視点としても新しいと思う」

 

 そう言って頷いた寒色の彼は、改めて夜顔に向き直る。

 

「崩月、だったか。俺は、青柳冬弥。1-Bに所属している。これからも、仲良くしてもらえたら嬉しい」

「あ、ああ……よろしく、青柳」

「ああ」

 

 相棒の交流関係が広がるのを目の当たりにして、彰人はふとある可能性が頭を過る。

 

(…………コレ、勉強の監視役が増えてね?)

 

 話していて分かったが、崩月夜顔という少年は真面目だ。勉強に対するスタンスを確立しており、そして相棒である青柳冬弥とも馬が合いそうなタイプ。

 成績こそハッキリとは分からないが、それでも自分よりも上だろうと彰人は思う。

 嫌だと思う。勉強会、もとい勉強など本当に嫌だ。

 だが、同時に相手が善意をもって行ってくれる事を邪魔だと払い除けられる程、彰人は人でなしではない。

 

 この日を境に、三人の交流は増える事になる。ついでに、勉強会は鬼教官が二人に増えた事を此処に記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あいつの交友関係ってよく分からねぇよな」

「確かに。他校の女子生徒と知り合いとは思わなかったな」

 

 彰人と冬弥の二人は、騒動の人垣から少し離れて事の行く末を見守りつつそんなやり取りをする。

 彼らが見つめる先では、黒髪の友人が他校のピンク色の髪をした少女に飛び掛かられ、更に騒がしい先輩たちに絡まれている姿が確認できる。

 

「チケットは、いつ渡す?」

「とりあえず、後にしようぜ。少なくとも、あそこに突っ込みたくない」

 

 ゲンナリ、という言葉が顔に張り付いたような表情で彰人は眉を顰める。

 他校の女子生徒も問題だが、それ以上に彰人が警戒するのは上級生の二人だ。

 

 神山高校の変人ワンツーフィニッシュ。誰が言い出したか分からないが、学校生活の中での騒動の八割程度は彼らが担っている。

 真っ当な生活を送りたいのなら、関わらない方が吉。

 

 

 そんな友人からの視線に気づくことなく、崩月夜顔は飛びついてきた少女、鳳えむを抱え直して前を見た。

 金髪の男子生徒と紫髪の男子生徒。それから、周りの視線にキョロキョロと落ち着かない様子の緑髪の女子生徒。

 

「えっと……俺は、どうすれば?」

「とりあえず、場所を変えようか。えむくんが見つかると厄介な事になるだろうからね」

「…………鳳。勝手に他校に入るのは、良くないぞ」

「えへへ、ごめんなさい」

「はぁ……」

 

 ふにゃふにゃとした笑みを浮かべる少女に対して、夜顔は振り払える気がせず自身のブレザーへと手を掛けた。

 そして、徐にコレを脱いでえむの頭に被せたのだ。

 

「とりあえず、コレで。それで、えっと…………」

「自己紹介は後にしようか。まずは、移動しよう」

 

 その声に促されて、一行は人垣を抜けて屋上へと向かう。

 かなり目立っていたが、それはそれ。引き留めようとする者は居ない。誰しも、面倒事には関わりたくないからだ。

 果たして、やって来た屋上。金属扉を押し開けたその先は、放課後である事も手伝って誰もいなかった。

 えむに被せたブレザーを回収して羽織り直した夜顔は、改めて一行へと目を向けた。

 

「……まず、自己紹介すべきか?俺は、崩月夜顔。1-C所属だ」

「うむ。では、オレから行くとしようか!天翔けるペガサスと書き、天馬!世界を司ると書いて、司!天馬司だ!2-Aの所属で、今はワンダーランズ×ショウタイムの座長だ!」

「それじゃあ、次は僕だね。初めまして、神代類だよ。2-B所属で、同じくワンダーランズ×ショウタイムの演出家兼役者を務めさせてもらってるよ」

「先輩だったのか……申し訳ない」

「いや、気にする事は無いぞ!オレも類も、そんな小さなことは気にしないからな!」

「そうだね。先輩後輩関係は気にせずに、気楽に接してもらえると有り難いよ」

「そうか?…………そういう事なら、良いか」

 

 実にフレンドリー。司も類も、変人である事は否定できないがそれはそれとして良い人間である事もまた否定できない。

 男性陣の顔合わせが滞りなく行われ、残るはえむの後ろに縮こまった少女だ。

 

「ほら、寧々ちゃん!頑張って!大丈夫だよ、夜顔くん怖くないから!」

「つ、ついてきといて何だけど、ほ、本当に必要な訳……!?」

「だが、寧々。円滑なコミュニケーションを行うなら、まず最初に互いの自己紹介はしておくべきだろう?」

「司のくせに、真面目な事言ってる………」

「オレは何時でも、真面目で真面だろう!?」

 

 腹から声が出ているからか、司の声は爆音の如し。

 元々の発声以上に、練習やトレーニングの成果による彼の大声は、聞き取りやすくはきはきとしている。

 顔を顰める者も多いのだが、夜顔としては寧ろ好印象だ。

 常のやり取りと静かに待っている夜顔に推されたのか、えむの背に隠れたままだが少女は口を開いた。

 

「く、草薙寧々……1-B所属………」

「B組……なら、青柳と同じクラスか」

「う、うん……」

「ほう!夜顔は、冬弥を知っているのか!」

「天馬先輩が知り合いの方が驚きなんだが?どういう繋がりだ?」

「冬弥とは、幼い頃から付き合いがあってな。こうして実際に交流がある事を見れて、嬉しく思うぞ!」

 

 一々、言動が大きい。しかし、言葉の端々に優しさが滲むからか夜顔は司の言動を煩わしいとは思わなかった。

 とはいえ、今回の目的はただ交流を深めるのではない。

 話を本筋に戻す為に、類が手を打つ。

 

「実は、こうして崩月くんを連れ出したのは理由が有るんだ」

「俺に用事か?」

「そうだね。実は、えむくんから探し人が居る事は聞いていてね。ただ、それがどんな理由で探しているのか、そして相手はどんな人なのか。そう言う所はサッパリだったんだ」

「そこに、俺が現れた、という事だな」

「そうなるね」

 

 類の言葉を受けて、夜顔は確かに気になるだろうと頷く。

 ただ、二人の出会いは結構デリケートだ。現に、少年は少女へと視線を送っている。

 

「……うん。コレは、お話しておいた方が良いと思うの。夜顔くん、良い?」

「俺は構わないが……鳳が構わないなら、良いぞ」

「うん。それじゃあ、お話するね」

 

 そう言って、えむは夜顔の隣に移動すると改めて三人へと向き直る。

 

「春休みにね、あたし誘拐されちゃったんだ」

 

 爆弾を放り込む。

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