夜顔~Yorugao~   作:夕顔

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 夜道で、スマホを手に取り応答ボタンをタップして耳へと押し当てる。

 

「もしもし、真九郎か?」

『久しいな、夜顔!聞こえるか!?』

「?紫か?」

 

 スピーカーから聞こえてきたのは、想定した少年の声ではなく幼さの残る少女の声だった。

 

『うむ!真九郎にお願いして、電話させてもらったのだ!』

「そう、か……それで?用件は何だ?」

『実はな、そなたの身の回りに危険が迫っているようなのだ』

「…………もう少し具体的に頼めるか?」

 

 いまいち要領の掴めない言葉に、夜顔は道の端によって立ち止まった。

 電話の相手、九鳳院紫は齢一桁の小学生だ。そろそろ二桁。その割には、明瞭で甘えたな所はあれども達観したものの見方をできる視点を持つ。

 だが、こういう部分はまだまだ子供だ。

 

『――――そこからは、こちらが引き継がせていただきましょう』

「!騎馬さんか。お久しぶりです」

『はい、お久しぶりです崩月夜顔様』

 

 紫の声に続いて、聞こえてきたのは渋く低い声だ。

 九鳳院家が有する近衞隊の一人であり、紫の護衛並びに送迎係を務める騎馬大作の声であると夜顔は判断する。

 

「それで?さっきの紫の言葉はどういう事ですか?」

『現在、九鳳院関連の家に襲撃が行われています』

「…………つまり、“鳳”は九鳳院関連って事ですかね?」

『はい。そうなります』

「スー…………とりあえず、俺の今の交友関係を知ってるのは無視した方が良いですよね?」

『貴方は、私の同僚の恩人でもありますが、何より“崩月”の人間でもありますので』

「…………」

 

 丁寧な口調だが、声の圧は巌のソレ。

 

 表御三家の一つ、“九鳳院”。その資産は、世界全体の数%ともされており日本屈指の名家でありその影響力は政治の世界すら左右する。

 他二家含めて、絶大な権力を有する表御三家。そして、この表と対を成すように裏十三家と言うものが存在していた。

 

 歪空(ユガミソラ)堕花(オチバナ)斬島(キリシマ)円堂(エンドウ)崩月(ホウヅキ)虚村(ウツロムラ)豪我(ゴウガ)師水(シミズ)戒園(カイエン)御巫(ミカナギ)病葉(ワクラバ)亞城(アジョウ)星噛(ホシガミ)

 

 以上がその家柄。尤も、その半数ほどは既に断絶しているか、廃業しているか、或いは表の権力に合体しているかで残っていないのだが。

 特徴的なのは、その()()()

 各家が、常識的な人類の範疇を逸脱した独自の一種の進化を果たしたような超人的能力や技術を有するのだ。

 

 そして、崩月夜顔もまたそんな超人的な能力を有する一人。九鳳院とは、その箱入り娘である紫を通じて友好的な関係を結んでいるが、それはそれとしてその能力に対して警戒を抱かれてもいる。

 夜顔自身もその事は分かっている為、特に言及しない。

 

「はぁ…………とりあえず、事の詳細を聞いても?」

『畏まりました。襲撃は全て、九鳳院の分家筋並びに麾下における各家に起きています』

「成程……ニュースにならないのは、お得意の情報統制で?」

『それもありますが、相手方も裏の人間を使いあくまでも秘密裏の体を装ってこちらを攻撃していますから』

「厄介な…………それで?態々こっちに連絡してきたという事は、俺に何かしらの動きを求めてるのでは?」

『相も変らぬ聡明さですね。夜顔様、貴方には直近で行われる鳳家の立食パーティに潜入していただきたい』

「そこで、襲撃を撃退しろと?…………まず、どうやって入れば?」

『その辺りは、こちらから手を回しましょう…………では、お嬢様に変わります』

「あ、はい……」

 

 面倒事の気配。だが、相手方からは既に夜顔がその渦中に飛び込む事は決定事項であるらしい。

 

『夜顔!こちらからは、リンを送り込む予定だ!』

「リン?アイツか……」

 

 紫に言われて、思い浮かんだのはとある女性。

 真面目だが、真面目過ぎて堅物過ぎる。オマケに近衞隊としての職務にも真面目過ぎて、自分が生きるか死ぬかの瀬戸際の時ですら容易には逃げてくれない。

 

「人選ミスじゃないか?」

『リンも張り切っていたぞ?漸く夜顔に借りを返せる!と』

「馬鹿真面目め……」

『とにかく、近々リンがそちらで接触すると思う!その時は宜しく頼むぞ!』

「ああ…………はぁ」

 

 厄の種は尽きない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。夜顔は、特に何かしら身構える事無く学校へと向かっていた。

 常在戦場ではないが、どれ程身構えていても面倒事が向こうから突っ込んでくればどうしようもない事を彼はよく知っているからだ。因みに、意識的に面倒事に飛び込む事も多い為家族などの近しい人たちには呆れられていたりする。

 通学路の道半ば。信号で足を止めた夜顔。

 すると、背後から爆音が響いた。

 

「崩月ーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 音に圧されるというのは、正にこの事。

 若干つんのめる様に前に崩れた夜顔が振り返れば、文字通り大手を振って駆け寄って来る金髪の彼が居た。

 

「おはよう!良い朝だな!」

「おはよう、天馬先輩。朝から元気だな」

「勿論だとも!朝は、一日の始まり!だからこそ、活力溢れるものでなくてはならない!」

 

 胸を張って呵々大笑。周りからの視線も何のその。

 同時に、司が目立てばその隣に立つ夜顔にも視線が集まるのだが、彼の方も特に気にした様子はない。

 

「で?俺に何か用事か?」

「うむ、昨日の件に関しての礼を言いたくてな!」

 

 信号が変わり、二人並んで歩き出す。

 

「咲希も楽しめたようだ。オレが家に帰るととても興奮した様子で嬉々として昨日の事を話してくれた」

「熱とかは、出なかったか?」

「ああ。疲れてはいたようだが、その分早くに寝かせる事が出来たからな。たっぷりと八時間眠って朝も元気いっぱいだったぞ!」

「なら、良いが……」

 

 体が弱いと前もって聞いていた以上、夜顔としては何処かで咲希の現状を司に聞くつもりであった。因みに、トークアプリを使わなかったのは紫の連絡の一件による想定の準備を行っていたから。

 それらを差し引いても、疲れているであろう咲希の時間を下手に削るような真似をしたくなかった、というのもある。

 

「改めて、礼を言うぞ崩月……!いや、()()()!お前のお陰で、咲希の楽しい時間を作る事が出来た!ありがとう!」

「えっと……どういたしまして?」

 

 直球の感謝は、慣れていないと照れてしまう。

 変人と揶揄される司を、割と夜顔が気に入っているのはこういう隠す事無く感謝を伝えられる性分を知ったからだった。

 

「んんっ!……それはそうと、天馬先輩は朝早いな」

「む?確かにそうだな。いつもなら、もう少し遅くに着いている」

「?なら、今朝はどうして……」

「実を言うと、昨日の感謝をいの一番に伝えるために早く家を出たんだ。本来なら学校で待つつもりだったが、こうして通学路で会えたからな!ついつい走って追いかけてしまった!」

 

 はっはっは!と胸を張る司。

 

 そのまま上機嫌な司の話に相槌を打ちながら、夜顔は学校へと辿り着いた。

 周りからは、変人ワンツーフィニッシュの片割れと気楽に付き合える変わった一年だと見られているが、本人は気にもせず教室へ。

 席に着き、今日の時間割を思い出しつつ引き出しの中を確認。

 基本的に夜顔は課題関係以外は家に教科書の類を持ち帰る事が無い。紙束は嵩張るのだ。

 教科書の確認を終えて程なくして、クラスメイト達も続々と登校してくる。

 

「うーっす……お、居た」

 

 特徴的なオレンジ髪に黄色メッシュ。東雲彰人は教室に入ると、目当ての人物の元へと足を向けた。

 

「崩月、ちょっと良いか?」

「おはよう、東雲。何の用だ?」

 

 本から顔を上げた黒髪の友人に、彰人は手を合わせて少し頭を下げた。

 

「英語の課題出てたろ?アレ、見せてくんね?」

「やってないのか?」

「やった……んだが、ズタボロな気しかしねぇ。中身も適当の埋めて、六割位だし」

「成程?…………」

 

 彰人の言葉を受けて、夜顔はチラリと時計に目をやった。

 朝のHRにはまだ時間がある。そして同時に、勉強関連でため息を吐く寒色ボーイの顔も思い浮かんだ。

 

「…………見せるのは良い、が少し中身を教えようか」

「ゲッ……マジ?」

「青柳の苦労を少しは減らしてやろうかと思ってな」

 

 椅子持ってこい、と夜顔は机の一部を指先で叩いて英語の課題を取り出した。

 

「…………」

 

 彰人としては、やりたくない。もう適当に夜顔の答えを写して終わらせる気だった。その為に、いつもよりも少し早く登校したのだから。

 他の友人に見せてもらう、というのもあるが、

 

(逃げれる気がしねぇ……!)

 

 見上げてくる夜顔が怖すぎた。少なくとも、今この場で踵を返しても速攻で捕まる気しかしない。

 葛藤し、やがて肩から力を抜く。

 

「…………マジで分かんねぇぞ?」

「心配するな。まだ中学の範囲を半歩進んだ程度だ。応用があっても、大した難易度じゃない」

「はぁ…………」

 

 観念したのか、彰人は大人しく課題を手に椅子を持ってきた。

 そして始まる、プチ勉強会。

 これにより、彰人の成績も少しは良くなる――――かもしれない。

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