魔法少女ばかりな日常記録(旧:配信系魔法少女が沢山いる魔法少女モノ)   作:何処にでもある

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 魔法少女の秘密!一ノ瀬と二葉亭編
 一①ラーメンやステーキといった脂っこいのが好きだが、綺麗好きでもあるので行きにくいのが悩み。
 二①西洋系の館に住んでいた日系イタリア人。メガネを外すと青い目が見られる。




第5話「一日千秋!夏の風物詩に文学乙女!」

 

 

「デートに行きましょウ」

「見た目に似合わない豪速球の要求!」

「油断しましたネ?イタリアのナンパ術とはこういう物でス」

「全イタリアのテクニシャンに謝るべき暴論っスねぇ!」

「では1時間、駅前にテ逢瀬と洒落込みましょウ」

「おっと、既に決定事項だったっスか…」

 

 陸上マネージャーの帰り道、太陽真っ盛りの中、信号待ちで起きた会話だった。

 蚊も湧かないこのご時世で、これって中々の発情ぶりだと思いませんか?私はここまで直球だと戸惑いが勝るので困るしかない。悩みどころだ。

 

「そもそも、デートって何処に行くんスか」

「それを決めるのモ、貴女様の仕事の内に御座いまス」

「リーダーの越権行為に当たりそうで怖いんスけど?」

「問題ない、個人の権利の範疇でス」

 

 デートの言葉に面食らったが…要は二人だけのお出かけだ。それなら、適当に服や本でも見繕って買って盛り上がれば大体何とか成るだろう。だが…それだけでは面白くない。どうせデートの名目なら水族館か遊園地にでも行きたいのが人のサガという物だ。

 なので右手にイルカのホルダー、左手には謎のマスコットキャラを持ち、選ばせる事にした。

 

「んじゃ、どっちか選べっス。それで行き先決めるっスよ」

「当ててあげましょう、右が水族館、左手が遊園地ですネ?」

「なぜバレた…?」

「前も同じことがありましたからネ」

「なっ!?二番煎じ…!」

 

 ころころと、鈴が鳴るような笑い声が聞こえる。普段は声の抑揚がない癖に、笑い声は人らしいと思うし…もっと笑っていて欲しいと、そう思わせる力があった。

 …どうも思惑を見破られると小っ恥ずかしい。

 それも2回目となると本当に気恥ずかしさを覚える。

 そして、私の知らない私を知られているようで、ちょっとだけ不安にもなる。

 

 つまり、ぶっきらぼうに投げやりで、選択肢を放り投げたかった。

 

「じゃあどっち選ぶっスかー、バレたからには好きな方選ぶっスよー」

「投げやりですネー。なら……図書館にでも向かいましょウ」

「それでいいんスか?」

「…はい。私にとって、貴女様にとっても素晴らしき思ひ出の地で有りますから」

 

 その言葉は今までで一番人らしく喋っていて‭─‬‭─‬彼女の心の底からの感情が宿っていた。

 なんだか、本当に男女がやるようなデートをする気分になるから、そういうのはやめて欲しい。

 この何日かはフタバに護衛をして貰っていたが、彼女は二人きりになると凄くこう…恋愛的に攻めてくる。

 おかげで、今ではすっかり私もその気になりかけていた。やべーぞ百合の花が咲いちまうぜ!

 

「やー、フタバと居ると女でも良いかって気分になるの、不思議っスよねー」

「…私の想い深げに語る直後にそれですカ。雰囲気が台無しでス」

「良いじゃないっスかー!私はそうやって不貞腐れるフタバの事も可愛いって思うっスし、私にダメージはないっスよー」

「幾度も歯が浮き漂ひて…小っ恥ずかしささえも擽る想ひ人ヨ」

「ん?なんスかそれ?」

「別に、引用に有りませン。ただ、惚れた阿呆が負けただけに御座いまス」

「好きな人は、あばたもえくぼに見えるって言うあれっスか。ま!なんであれ勝ったなら気分は上がるっスねー♪」

「…ええ、そうです…ネ!?」

 

 信号が青になったので渡る…辺りで、勝者の特権としてその手を握って渡ってやった。

 多分夏の暑さでおかしくなったんだと思う。原因は直前の会話で変な気分にさせたフタバのせいだ。

 よって私は無罪、フタバはこの後のデートの服を二人で選ぶ償いをさせるとしよう。…なにか可笑しいが、多分暑さで茹ってるだけだ。涼しい場所で頭を冷やすべきだろう。それに最適なのは‭─‬‭─‬図書館である。

 

「ほら、そうと決まれば行くっスよ。2回目だって言うなら、私もそれなりの考えがあるっス」

「‭─‬‭─‬‭─‬はい、貴女様」

 

 

 

 

 

第五話「一日千秋!夏の風物詩に文学乙女!」

 

 

 

 

 

「いやー!涼しいっスねぇ!夏と言ったらやっぱクーラーで涼むことっスわ!」

「カッシー、図書館ではお静かニ」

「おっとごめんっス。でもこれ叫ばない奴居ないと思うんスよ」

「想うと事実動くのは違いまス。そして、やってカッコいい物とわるい物も違いまス。これは後者でス」

「おいおいフタバ、それ以上咎めたら私はめっちゃ凹むっスよ?具体的には本棚の隙間に埋まるっス」

「知っておりまス。前は本当にやりましたから」

「おっとー小学生の私の行動力の高さには参っちまうっスねー」

 

 どうやら小学生の私は相当やんちゃ小僧だったようだ。一年前は小学生だっただろうって?五月蝿え私は中学生になって変わったんだよ。全くそんな気がしなくても立場が人を変えるんだ、信じれば人は救われるんだ。

 だがそれはそれとして過去の自分に負けるのはなんか癪に触る。私の癖に生意気だ。大人の凄さってやつを今から見せてやるから覚悟しとけよー?

 

「おっとふらついて倒れたー!ぎゃふん!」

「……どうして何もない所で躓いたのですカ」

「フタバ…以外と受け止めるとかしないんスね?」

「魔法少女でなければ非力なので」

「この前ダンペル20kを片手で持ち上げた奴が非力…?」

「無粋ですヨ」

「へへっ私は…弱い!」

「お静かニ…ネ?」

「あ、はいっス…」

 

 よし、この作戦はなかったことにしよう。クッソダサいことになったし。

 よく考えれば、相手のノリの良さも求めるのは間違っていたかも知れない。先ずは初歩からやるべきだろう。

 

「フタバーちょっと近付いてもいいっスかー?」

「宜しいですヨ」

「はい、肩ピター。この至近距離はもう過去の私に勝ちもうしたわ」

「経験済みですネ」

「これでもっスか!?」

「耳元で大声は?」

「あっすまねっス」

 

 ところで、根性論とは素晴らしいものだ。何回やっても許される。

 なので、何回やっても一度勝てば私の勝利とする。これは私の中の決定事項であり、不変である。

 うむ、実に完璧な理論だ。ノーベル賞も貰えるかもしれない。この武装で突貫してみるとしよう。神風隊突撃ー!玉砕っ粉砕っ大喝采!

 

「フタバ、私めっちゃいい事思いついたっス」

「そうですか、言うだけ言ってみて下さイ」

「今からお互いに好みの本を探して、それを交換して読むんスよ。そうしたらお互いの趣味とか分かるっスよね?」

「では此方が私の差し出す本でス」

「ほう、スピード感があるっスね」

「そして此方が貴女様が差し出した本でス」

「ほう、心を読まれてる時ってこんな感じなんスね」

「最後にこちらのイヤホンを…これが婚約を約束した時の録音でス」

 

[えー?コレに改めて言えって?…えー、恥ずかしいんっスけど‭…ま、一回だけっスよ。─‬‭─‬満月が綺麗っスね。蒼くて、見るたびに私の心を惹き寄せる。この月を毎夜見れたならどれだけいい事か。月の昇る日は、いつもそう想っちまうっス]

 

 おっとサラッとやった覚えのない物を取り出して来たな。そして私の声がメッチャすげえ事言い始めたな。ここ図書館だってことを忘れてないか?この女。恥ずかしい所の所業ではないんだが?

 そしてこれは本当に小学生の私が喋ったことか?確かに今より声は高いが…こんな賢かったかな私は。テストじゃいつも点数高かったが…いやぁ…。

 

「とんでもないもの引っ張って来たっスね。止める交渉に応じて欲しいっス」

「まだ続きがありますのデ、それを聴き終えてからに致しましょウ」

「それを世間一般で応じないと言うっスね。…えー?私マジでこんなこと言ったっスか…?」

 

[新月になると、心細くなっス。あの蒼い光がないのが、不安で夜も眠れなくなる。そうするとどうしても、私は家を飛び出して、フタバに会いたくなるんスよ。そして、私だけの蒼い月を独り占めにするんス]

 

「すげえな私、フタバの蒼い眼に絡めてやべぇ事言ってるっスわ。滅茶苦茶私から求めてるじゃないっスか」

「私が貴女様に夢中な理由、お分かり頂けましたカ?」

「分かったから止めて欲しいっスね。聞いてるだけで顔が熱くなってくるっスから」

「それすらモ愛おしく感じるのでやめませン」

「淡々と私を追い詰めて楽しいっスか?」

「はい、それはもう。今までの仕返しが出来て心が満たされる想いでス」

 

[‭─‬‭─喩え同じ花を持つ者だとしても……この指輪、受け取って貰えないっスか?‬]

 

 音声はそこで途切れた。……無言でフタバがネックレスに通した指輪を見せてくるが、それに関しては今は積極的に無視しよう。言い逃れできなくなる。

 今は冷静に、この音声を頼りに何か弁明出来る記憶を掘り出すべきだ。じゃなきゃ私はフタバと同じ墓に入る事になる。まさか自分から言い寄ったとは思わなかったから本当にビビってる。どうしよう。

 蒼い月…花…やけに私にしては賢い台詞…セリフ?‭─‬‭─‬‭─‬アァー!!

 

「これ小5の演劇でやった奴っスよね!「月下の蒼」!私が主人公だった奴!確か誰かが希望した奴で、半分も意味を知らないままやった奴!んでなんか誰かに録音聞いて練習しようって…うっわチョー懐かし…!」

「フフ…バレてしまいましたネ?…記憶は、戻りませんカ?」

「夜にこっそり家を抜け出しては、ヒロイン役の誰かとよく一緒に練習してたのは覚えてるっスわ。あぶちーは商人役だったんスけど…え、アレの相方フタバっスか?」

「懐かしいですネ…何度も告白されて、私はそれに必ず応えテ…素敵な思ひ出でス」

 

 完全に記憶の底に沈んでいたから忘れていた。良かったー私が考えて言った事じゃなかったわ。

 …思い出せなかったらそのままキスの一つでも要求されそうな流れだった。本当に危なかった。

 

「あ、それでフタバは婚約者なんていつも言ってたっスか?」

「フフっ身内の弄りですネ。お互い冗談で言い合ってましたよ。あれは本当に楽しい思ひ出でしたから」

「それを忘れた奴に言うなっスよ…あーびっくりした。ガチな婚約かと一瞬勘違いしたじゃないっスか」

 

「なら‭─‬‭─‬本当にしますカ?」

 

 さらりと、フタバは私の髪を軽く撫でながら言った。

 フタバの双眸が、メガネの奥から蒼い光を反射する。

 蠱惑的な誘いだった。緩んだ心の隙間に侵入して、私の心に返しのある棘を刺して絡まっていた。

 その視線を逸らすことが出来なくて、ゆっくり近づいて、唇が触れそうな程になっても、寧ろ自分から求めてるみたいに─‬‭─‬‭─‬。

 

 

 

「あー…今回の実験準備完了ー」

「が……あ"…」

 

 カラリと、フタバが首にかけていた指輪が落ちる。

 いつの間にか近くにいた財団の研究員に、背中から心臓まで、黒い結晶を突き刺されていた。

 ‭─‬‭─‬完全に、認識外だった。気付けば私とフタバ、両方とも突き刺されていた。

 油断していなかった…とは言えない。だが、近付いてくる人に気付けない程では無かったはずだ。

 何故と、そう自分に問いを投げつけて‭─‬‭─‬蛾の怪人戦の研究員の言葉を思い出した。

 

 ""「人を支配する魔物の均一的な制御試験」は成功を収めましたから。おかげさまで今後に向けた有用な事実が()()()判明しましたよ""

 

 あの時は、怪人の姿を黒くする奴だけだったが…その中に、()()()()()()()()()()があったのではないか?全てを伝えられている訳ではないから…あの不親切な連中の事だ。その中にあったとしても、可笑しくはない。

 ああ、そうだ。私は再生能力が高いから耐えられるだろうが…フタバは違う筈だ。今すぐ逃さないと…。

 

「フタバ…逃げ…」

 

 そうして手を伸ばした先には‭─‬‭─‬()()()()姿()()()()()()()()()

 

「…ほぇ?」

「あー…そういえばPC2はコレが有ったかー」

 

[─‬‭─‬《幻惑ノ氷月》ト、名を持ツ魔法でス]

 

 空房の効いている図書館に、冬と錯覚する程の冷気が漂い始めた。

 見渡せば、いつの間にか一般の図書館の利用者も居ない。

 その理由を考えて…そこでやっと、私はフタバが初めからこうするつもりだったのだと理解した。

 

[毎週、決まっタ曜日に来る事だけハ守る方々でス。デあれば、事前に用意した()を作る事が大事だト、学んでまスから…カッシー、よく見ておくようニ。遭遇戦だけが魔法少女の戦ではないト、心得なさイ]

 

「あー…オマケの刺さり悪いな…もう抜き取るか」

「うがっ…!」

「あーあ、やっぱ反転実験は手抜きじゃダメかー」

 

 姿の見えないフタバの声を聴きながら、私の心臓を貫く黒い結晶を雑に取る痛みに悶える。いつもより痛みが長引いていて…それが傷口に残った結晶の粉のせいか、変身道具が無いせいか、私には判断がつかなかった。後でドラゴン爺に相談だな。

 そして自ら結晶を抜き取らず、ボーッとしていたのは…フタバが無事だった安心感のせいだろう。思考を切り替えるのが遅れていた。

 意識が追いついたので変身しようとして…一回休みだったことを思い出した。

 変身出来ないから私はこの戦いを勝つことが出来ません!フタバを応援するしかねぇ!

 

「あー…困るよなー、実験を始めることすらさせないとかさー。幾ら予算が潤沢でも、時間は有限なんだぞー?」

[なんとでモ言いなさイ。どうセ別の実験を 始めるだけでしょうニ]

「あーまあね。いーまーだーと…「見立ての成立」辺りかな?あ、気になる?これね、使い易い規格探し。人の心にいい感じの定規の線を引けないかなって今ね、総当たり中なの。で、これは有力仮説。やっちまうかー?」

[千差万別の心を規格化しようなド…無意味も良いところですネ]

「あー…うん、だからこういう時にしかやらないんだよね。じゃ、季節区切りで‭─‬‭─‬ゲェムすたぁと」

 

『suuu…preee……』

 

 研究員と入れ替わるようにいつもより軽めの重圧感を出す怪人が現れる。

 ネイティブな呻き声を出す、本が集まったような怪人で、出現早々に腕を振るって紙を撒き散らした。舞い散った紙が、光を纏って変身する。千差万別に、人や異形に…どう見ても西遊記の孫悟空の見た目をした奴が現れて、これが空想のキャラを実体化する奴だと気付いた。

 

[撒いた紙の最も台詞の多いキャラを出す…召喚系ですカ]

「フタバ!そろそろ私を安置に置かないと死ぬっスよ!」

[問題ありませン。既に、氷の幻想が覆い隠してますかラ]

「さっすが先輩魔法少女だ隙なんて無かったっス!」

 

 そういえば私とキスしようとした氷像がない。どうやらやけに寒い原因は氷像が霧となり、私を隠しているからなようだ。実に無駄のない再利用だ、これはもう尊敬するしかねぇ。

 そんな訳で見学となったが…蹂躙とは彼女の為にある言葉だと思った。

 

 何処からともなく木枯らしの風が吹けば、忽ち氷像となって砕け散り、いつの間にか有った氷柱が落ちては確実に本の怪人にダメージを与えていく。

 そして、ふとした時に変身したフタバの‭─‬‭─‬藍色の和服…忍者?っぽいけど動き易い見た目の‭─‭─‬‬姿が現れたが現れたかと思えば、本の怪人が殴りつけた頃には消えて、其処に氷の針が突き出てズタズタに本を破るのだ。

 幻覚と氷の魔法。それがフタバの力で、場を作れば出力は弱くても、一人でも弱い怪人を討伐出来るくらいには強く出れる魔法のようだった。

 これにあの焔の火力があったらそりゃあ、二人で沢山倒せもするか…なんだか納得だ。

 

『srqpeeee……』

[でハ、トドメでス]

 

 最後は本体が現れ、扇子をバシッと閉じて下駄で蹴り付ける。幾度も積み重なった傷も相まってそれは致命傷となり、遂に一人で怪人を倒してしまった。流石忍者、汚いけど強い。

 変身が解除され、本来の緩い三つ編み乙女の姿に戻っていく。戻ったフタバは落ちていた指輪を回収し、自分の首に付け直してから三つ編みを後ろにかきあげた。完全勝利である。

 

「おーやるっスねフタバ!一人で倒しちゃったっス!」

「ふぅ…この程度なら楽な相手でス。向こうはとっくの前に倒しタでしょうしネ」

「向こう…?2箇所同時とかあるんスか?」

「本来の実験を阻止しましたからネ。そうすると二つ、弱メなのを出すのでス」

「げっ…イヤみったらしいことしてくるっスね…」

「かれこれ二十は相手にして来ましたガ、アレはそういうものとしテ対処するしか有りませんネ」

 

 そうしていると、次第に幻覚の魔法も解除されたのか図書館利用者も戻って来た。事前に人払いも出来るなんて万能な魔法である。

 …それにしても、怪人が来る前のあれ…ちょっとだけ名残惜しい気がしなくもない。私は一見地味ながらと人外風味のある子が自然体で急に迫るシチュに弱いんだ。それこそ相手が男でも女でも、財団を釣る為の演技だとしても、雰囲気に押し流されるレベルで。

 

「では、お互い本を読み合いましょうカ?」

「……あー、それなんスけど…」

「……?どうされましたカ?」

「さっきの続きはないんスか…なーんて!財団を釣る為の作戦っスよね失礼しました!」

「おやおや…貴女様がお望みなラ…」

 

 しんなりと腕が首に回され、お互いの足が絡まる。まるで蛇のようだが…やっぱ隙があるとスッて来るよなフタバ!あっはは!

 

 そんな感じで視線と思考を逸らさないと何かが持ってかれそうで怖い。そろそろ蛇に食べられる前の蛙の気分になって来る。

 

「今は人が戻って賑わいを取り戻す最中…それでもイケナいことをしたいと仰るなら…それハもう…コッソリと…」

 

 着席させられ、先ほど積み重ねた本が影となる。お互いの席は私が最初に肩をくっつけに行ったせいで零距離だ。……もしかして、この状況を作る為に誘導させられたか?私。

 しまったな…どうやら()に捕えられたのは怪人だけではなく、私もらしい。よっしゃ実力で逃げ…おいやべえ強いぞこの女!そういや腕力強かったね、抑えつけに勝てない!あかん負ける!パンツ降ろされた!そういやこのミニスカを選んだのフタバだな…やべー最初から計画されてたぞ!

 

「さア…今度は声は抑えて…私に身を委ねてしまいましょウ?あなたサマ?今度ハだーれも…助けなんて来ませんヨ?」

「……ピィ…た…たしゅけて……」

 

 あわや様々な意味で食われるその時である。そっと、私の肩に小さな手が置かれた。

 

「はいー。お助けに来たひつじさんですよー?」

「流石ひつじさんだどうしてここに!?でも助かったっス!フタバから私を助けて欲しいっス!」

「えー?どうしよーかなー……」

「…徐にカメラを回してどうしたんスかひつじさん。返事をしてくださいよひつじさん!おい!ひつじ!仙台!なんか言え!垢BANされるぞ!おーい!乱暴はやだー!」

 

 あわや脅迫材料を作られるその時である。更なる助けの手が私の肩を叩いた。

 

「ひつじさん、あまり遊んじゃダメだよ!フタバも!」

「ヒノ!流石は清純派!助けて…くれっス…!」

「ありゃー…見つかっちゃいましたー」

「何故邪魔を…?少し遊ぶだけでハないですカ」

「カッシーがちょっと泣きそうになってたからね!記憶を無くす前なら兎も角、今のカッシーは純朴で綺麗なのを忘れちゃダメだよ!」

「…ではここで手打チと致しますネ…次はもっと上手くヤリましょウ」

 

 記憶を無くす前の私とは‭─‬‭─‬?え、そんなに淫売な奴だったの?嘘でしょ?

 小学生なのに怖えなあ…自分のことながら真の過去を知るのが怖くて泣きそうだ。

 ここまで来て疑う気はないが、一体記憶を無くして私はどれだけ変わったのだろうと、そう震えるばかりである。

 

「えっと…改めて聞くんスけど、小学生の私って何やったんスか?」

「私を館から連れ出して遊んだリ、学校で一人だった時によく話かけたリ、一緒に本を読んだリ、看病してくれたリ、親に自由時間を増やせと啖呵を切ったリですネ」

「初対面が雪の日にママに立ちんぼしろって追い出された時に拾ってくれて、この後一緒に夕飯食べたし、怒られない為にってお小遣い全部くれた!それからもずっとお世話になって今に至りまーす!」

「なんかなー!片方が重いんっスよねー!なんでかなー!?いやどっちも重いんスかねー!?うごごごっ!」

 

 聞いてちょっと後悔した。確かに一時期とてもグレていた影響で家出したり、ヤンチャした時期は確かに有ったが…こんなことをしているだなんて聞いてない。

 家出した食べたコンビニ弁当は一人で食べたし、お小遣いを全部どっかで落とした記憶とかはあるが…流石にこれがそうだというつもりじゃないだろうな。私が覚えている限りだと全部一人でやってたぞ。

 

「あぁもう…所でどうしてここに?デートとか伝えてないんスけど」

「面白そうな気配がしたのでー着いて来ましたー」

「私はロボと一緒にひつじさんに着いて来たよ?面白いのが見れるからーって」

「…そのロボ何処いったっスか?」

「……あれ?そう言えば…」

 

 一瞬の静寂が、イヤに長く感じた。

 次の瞬間、私達は急いで本を片付けてロボの捜索を始めた。

 図書館、商店街、家までの道中を手分けして探し……見つけたのは15分後。暑い日差しの中で、公園のブランコでしょんぼりしているロボを私が見つけたのが決め手だった。

 それをみんなに知らせようとして…今のロボによってたかって話しかけるのは違う気がして、やめた。見つけたから先に帰るように返信して、ロボに近づいて視線を合わせた。

 

「…ロボ、どうしてこんな所でしょんぼりしてるんスか?みんな探してたっスよ」

「……当機の、存在意義はなんでしょうか」

「みんなの笑顔と安全を守ることっスよ。交番ロボなの、忘れちゃったっスか?」

「いえ……しかし、当機はもう不要な存在なのです」

「そりゃあなん……あー…」

 

[こんにちは!今日も健やかな日ですね!熱中症にはお気を付けて!]

 

 ロボの指差した方を見ると、かつてロボの居た交番には新しいロボットが配属されていた。挨拶されたので、私も会釈する。

 優秀な、ピカピカで新品のロボットだ。考えてみれば当たり前だ。既にロボが元の姿に戻れなくなって随分と長い時間が経った。市長として、この町を管理する警察なら当然そうするだろう。

 しかも、前任のロボは犯罪者として放送されたとなれば…コスト度外視で最新機を投入する判断も頷ける話だった。

 

「当機は…9年前のモデルです。その上性犯罪者として指名手配されましたし、元の姿に戻ることも出来ていません。勝る要素がありません」

「まぁ…そうっスね」

「当機に存在意義はあるのでしょうか。世間一般で、不要な機械はスクラップとなり廃棄、もしくは部品や素材をリサイクルされます。死んでも役に立てるんです」

 

 同じ機械が壊れるのを、自然と死ぬと表現する。

 果たして気付いてるのだろうか。それとも、知らないフリをしているのだろうか。

 自分がロボだと、そう言い聞かせている姿は…本来の姿を考えると、尚更歪に見えた。

 

「しかし…当機は未だ生身の身体です。死んでも灰か土になり、人の役には立てません。ただ、無意味にそこにあるんです……それに、意義はあるのでしょうか。人となった機械に、存在意義はあるのでしょうか」

 

 ロボは自我を得たロボだ。その上で人の役に立ちたいと願い、今日までただのロボとして生きて来た。その生来の奉仕気質に、今はヒビが入っている。

 どうなっても人の役に立てるという立場から転落し、それでも魔法少女という立場があったから今日まで頑張れて来た。

 だが、彼にとっては仮初のもので、砂状の物に過ぎない。来週からはまた魔法少女として頑張れると言うのは易いだろう。

 

 しかし、それでいいのだろうか?それはいつか来る破綻の先延ばしに過ぎないのでは?

 

 魔法少女から戻れるいつか、魔法少女のまま生涯を終えるいつか、どちらになっても不幸になる選択ではないか?

 

「……協力者(人類)、返答をお願いします。当機を‭─‬‭─‬定義してください」

 

 決着…これから先のキッカケを着けるなら、今だろう。

 全てを解決するヒーローにはなれなくても…微かな光くらいなら、星屑でも差し伸ばせる筈だ。

 

「先ずその前に私から、ロボへ謝るべきことがあるっス」

「……なんでしょうか」

「忘れたっスか?ロボが魔法少女になり、こうなったのは私のせいっスよ。私があの時頼らなければ、ロボは今まで通りみんなの為に働く警官(ヒーロー)として過ごせていた筈っス」

「協力者に責任はありません!当機は当機のするべき職務を果たしたに過ぎません!」

 

 普段から機械っぽく過ごそうとするロボにしては珍しく声を荒げ、立ち上がって私の謝罪を否定する。極めて心外だと、そう全身で主張していた。

 

「その通り、ロボはいつも自分のやるべきことをしていたっス。その結果、ロボはこうなったんスよ」

「はい、ですから協力者が謝罪する必要はありません!」

「‭─‬‭─‬だったら自分の選択に後悔してんじゃねぇ!!」

「……ッ!?」

 

 ビクッとロボが大声に驚き、パチクリと瞬きする。よし、このまま突っ込もう。

 胸ぐらを掴み、軽く持ち上げた。

 

「ウっ…協力者?」

「他人に責任がないってんなら自分の責任で、自分で選択したことだろうが!!‭─‬‭─‬いいか?機械っつうのは責任を持たないのが普通なんだよ。そうやって、現状に後悔してるなんて有り得ないんだ」

「しかし私は…」

「ロボットだってか?関係ないんだよ!テメェがやったことなんて、偶々やるべき事と持って得た信念が同じだっただけだろうが!!」

「……!?」

「はぁ…頭キタ。いいか?テメェは今ロボじゃないから役立たずだって言ったな?じゃあ人間は等しく他人にとって役立たずか?違うだろうが!人は人なりに役立つ方法があるんだよ!!」

 

 敢えて語尾は捨てる。いつもと違う雰囲気を出す。

 正直怒るのがしんどいが、全部人任せにする現状は絶対ロボの為にならない。

 自我を得ているなら、ロボだからで選択を放棄するなんて、自我のないロボっぽい選択を脳死で選ぶなんて許される訳がないのだ。

 産まれたなら、産まれた責任があると伝えなければならない。そうするべきだと私は判断した。

 

「ロボだからって言い訳して!自我が産まれた事を自ら否定する!自己否定してる奴をどう定義しようと、自分と纏めて否定するから意味ねぇんだよ!!あほ!」

「と…当機があほ!?」

「そうだアホの大馬鹿だ!!自らを否定して目を覆い!成長する事を怠り続けた大馬鹿だ!それともなにか?そうするしかない事情でも有ったか?ああっ!?あるなら言ってみろ!自分がアホじゃないって証明してみろ!!」

「じ…じんるいふぜいが……!わ、私の気も知らないで!いいでしょう、だったら言ってやります!私は…私は…!………私は…私らしく生きようとして……目の前の人を助けられなかったんです……」

 

 最初は怒っていた勢いも、思い出していくにつれて萎んでいく。

 それが今のロボを作った原点なのだろう。相当ショッキングな事を思い出しているようだ。

 

「……当機は元々、男性型の介護ロボでした…正確には、記憶を保存するキューブを挿していたロボが…ですが」

「………」

 

 黙って聴く。ここまで来たら、後は語ってくれるのを待つだけだ。

 

「4歳と6歳の女の子でした。私はその子達の死んだ父親をモデルに作られたロボで、脚を不自由にした子と、心を塞げた子と、心が不安定な母の為に産まれたんです」

 

「交通事故だったそうです。山崩れで…だから、親族が私を制作しました。…私は、代用品でした」

 

「初めはタダのロボで、プログラムされた通りに目の前の家族と向き合いました。最初は戸惑っていたし、八つ当たりもされたけど…プログラム通りにやっていると徐々に心を開いてくれて…二人とも前向きに過ごしてくれたんです」

 

 具体的な回想はない。魔法少女として感応して、それらの様子が見えることもない。

 私は…その家族のことは何一つ知らない。だが……気のせいだろうか。

 その事故と脚の不自由な子のくだりが凄く覚えがあるが、気のせいだろうか。

 

「ですが…私は、自我を得た。プログラムから解放されて、自分の意思を選べる力を得たんです」

 

「それが崩壊の始まりでした。私は創作にある機械達のように、自分だけの自由を得ようとした。しかし、プログラム通りの付き合いであっても、家族達には少なくない情を持っていた…」

 

 その言葉を言っていいか、ロボは暫く悩んで、30秒程経ってから、口を開いた。

 

「……一つの家庭が、私の手によって崩壊したんです。詳しくは…交番用のロボに記憶媒体が移植した過程で消えましたが……覚えている最後は、縄を引っ張る私と、泣いている長女と、縄に捕まる母に抱えられた妹で……彼女は、縄を引っ張って、私と共に落ちて‭─‬‭─‬最後まで笑顔で、それをやっていた」

 

 ポロポロと、ロボの眼から涙が溢れる。感情が極まったのだろう。

 そして私も泣きそうである。マジかよーって言いたくて堪らない。

 

「あの後どうなったのか、あれが心中か何かだったのか、私には分かりません。気付けば交番のロボになっていて、記憶は大半を破損させていました。……ですがきっと、あれは全て私が原因だったんです。私がプログラム通りに動かず、自我を出したから……だから私は、今度こそ間違わない為に、役割に従っていたんです」

 

「だからっスか……贖罪と後悔、悔やんでも悔やんでも仕方ないことへの…ねぇ…その家族の顔や名前は?」

「それが破損して…謝罪したくても出来ないまま…」

「あー…そうっスかー…なら…うん…」

 

 その後は知っての通りだろう。壊れた交番ロボの互換パーツとしてリサイクルされ、今まで職務に忠実に過ごしていた。

 真っ当で、人間らしい判断と選択だと思う。間違っても機械の思考ではなかった。

 うーん…言いたいことは沢山あるが…それを伝えても、ロボの為にはならないだろう。

 私も私で複雑な事情があり、それにその介護ロボも絡んでいたのは…言っても仕方ないだろう。

 今の私はただの協力者だ。うん、別にロボを追い詰めて殺すつもりなんてないし、罪の奴隷にするつもりもない。下手に出て欲しい訳でもないしな。

 別に私に恨みはないし、ここは墓まで持っていくとしよう。

 

「ま、大丈夫っスよ!一緒に落ちずに確定で助かってる長女も恨んでないっス!私はこれ系の流れに詳しいから分かるっスよ!どっかの家で義理の家族を得てるもんっス!」

 

 例えば妹とか。

 

「そう…でしょうか。確かに幼い分理解し切れてない筈ですが…」

「いや、記録は残るし案外子供って賢いんで今はもう理解してる筈っスよ」

「……当機の殺処分はいつでしょうか」

「おっと今度は家畜扱いを希望っスか?」

「もう当機に出来る出来る償いはこれしか…」

「おっちょっと余裕が出て来たんじゃないっスか?」

 

 一人称を当機と言えている辺り、言って多少はスッキリしたらしい。

 元気になったのならこれ幸いである。早速公園から出て行くとしよう。川次はクールに去るぜ…。

 

「んじゃ帰るっスよー。何かと思ったらそんなことで悩んでたなんて拍子抜けってやつっスわ!」

「…まだ問題は解決して」

「それ、今すぐ解決する必要あるっスか?」

 

 言葉を遮り、振り返る。誰も居ない公園でポツンと立っているロボは、なんだか寂しそうな奴に見えた。

 

「その感情は死ぬまで付き合うべき物っス。解決したらそれだけ軽んじていたことになる。だから私からは、その悩みから派生するあらゆる相談はしないっスよ。だってそれ、自分が好きな時まで背負って、好きな時に手放していい物なんスから」

「そんな…軽い扱いでいいのですか?」

「軽いっスかね?だって自分の意思で持ち続けるか悩み続けるんスよ?それって、自分の意思で償っていることになるじゃないっスか」

 

 ぶっちゃけここら辺の罪云々に関して、私は中学生なので自論とかは言えない。

 しかし、先人の言葉をリレーみたいに伝えることは出来る。私はこう見えて読書家だ。今ならフタバの趣味に付き合っていたと分かるが…ともあれ、参考に出来る知識は沢山あるのだ。

 

「だからほら、先ずは帰ってちゃんと飯を食って寝て、それから自分なりに、機械らしくなくても出来る手伝いをするんスよ。償いなんてそんなもんっス!」

「……まだ納得出来ることは有りませんが…そうですね。私なりに…当機なりに‭─‬‭─‬当機の思考はアップグレードしました。これからは学習型として、より効果的な方法を模索したいと思います」

「ってか、ロボがウチに来て早々に妹のSwitch2に手を出して遊んでたの覚えてるっスからね?人間らしく遊ぶならさっさとこっちも人間らしぬ学習していけって話っスわ」

「………当機は黙秘を貫きます」

 

 あ、今視線を逸らしたわコイツ。マジ追いかけっこして生意気な態度を崩す。

 

「コイツぅ…こうなったら追いかけっこっスよ!捕まったらくすぐるから覚悟するっスよー!」

「逃走開始、全速全身です」

 

 それから私とロボは少しだけ遠回りに帰宅し、ロボは勝手に逸れないように注意されることとなった。途中で上がった花火は大変綺麗だったと言っておこう。

 一方、最初こそ私にはなんのお叱りも無かったのだが…夕飯でロボが償いですと、アーンをして来た為、たらし罪としてロボよりも厳重注意されることとなった。

 

 解せぬ。

 

 






◼️次回予告
 うーん!やはり脂っこいのは美味しいね!ステーキらーめん焼肉スイーツ食べ放題!
 通りすがりのロボです。接種カロリーに異常を検知、運動を推奨します。
 なんですとー!?そういえば脇腹がプニっとしてるような…仕方ない。こうなったらあぶちーとカッシーに頼るしか…。
 次回!「配信炎上!スポーツとカメラは御用心!」
 よっし!先ずは寝て体力を増やす所から…!

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