アルマ寺院は、静寂に包まれていた。建物の中は、卵のように球形をしており、天井には無数の穴が開いていた。まるで木々から漏れる光のように差し込んでいる。地上に映る影は、不思議な模様を描いていた。
僕は、白く舗装された通路を進んでいく。その部屋の一番奥、少し高くなった所にそれはあった。それは、ご神体なのだろうか。表面は少しごつごつした感じの卵のような形で、土器人にあるような瞳がついていた。楕円体の偶像は、外からの清らかな光に白く輝いていた。
「これは、何を表しているんだろう?」
気になった僕は、近くにいた土器人がいたので話しかけてみた。
「こんにちは」
「……何か……お困りですか?」
修行中だという僧侶は、丁寧な言葉でそう言った。
「ええと、これは何ですか?」
僕は、卵型の像について、尋ねる。
「これはアルマです。アルシラで焼かれた土器に生命を与えてくれます。アルマは、土器人すべての母……土器人を生み出すものであり、あるいは、エスパッシそのものと言います。……覗いてみてください、中に、セレブロとアルシラが見えるでしょう」
僧侶にそう言われ、僕はアルマの瞳の中を覗いてみた。確かに、セレブロとアルシラの全景が見えた。
「アルマは、エスパッシそのもの……」
アルマの中にエスパッシがある。このエスパッシにも、アルマ寺院があり、その寺院の中にアルマがある。そのアルマの中には、エスパッシ。エスパッシの中は、アルマの中?
「
どこがはじまりで、どこがおわりなのか。僕は、意味がわからなくなりそうだった。
僧侶の説明は、まだ続いている。
「このアルマの下にある台座に、アルシラで焼かれた土器を置くと、アルマから光の卵が生み出され、土器の体に入り込み魂となります。その光の卵のことを『宇宙卵』と呼んでいます。アルマは、土器に宇宙卵……生命を与えるのです! アルマこそ、我々土器人の母なのです! 土器人は寺院で魂を得て、限りある命を終える時、再びこの寺院に戻り……寺院の地下にある墓所へいき、死を迎えるのです。我々は土器人の死を、昇天と呼びます。しかし、なぜ……それを宇宙卵と呼ぶのか? 土器人がなぜ生まれ、そして死ぬのか……それはわかりません」
この寺院から始まり、この寺院で終わる。……生命の循環を司っているようだ。
「説明ありがとうございます。アルマは、誕生と死と言う世界の神秘が詰まった場所なんですね」
僕は、率直な感想を言う。このアルマの力で普通の土器に魂が宿り、こんなに簡単に(簡単ではないのかもしれないが)土器人になると言うのは、正直驚いた。アルマの台座に置くだけで成されるという生命の誕生……もっと複雑なものすごい儀式が必要なのだと、勝手に思っていたのだ。
光のとばりが美しい寺院、もう少しゆっくりと観光していたかったのだが、程ほどにしておく。今は、寺院を観光しに来たわけではない。本来の目的は司祭に会うことなのだから。
「司祭……キュラさんには、今、会うことはできますか?」
「はい、大丈夫です。今、ご案内します」
僕をアルマが見える広間に案内する。きっと、この場所が、いわゆる客間のようなものなのだろう。
「キュラ様を……お呼びしますね。少々……お待ち下さい」
僧侶は、そう言うと、その奥の扉に消えていった。
「お待たせしました。キュラ様です」
(これは司祭と言うより、魔王だな)僕は、密かにそう思った。
この世界の住人たちが身につけている衣服は布ではなく焼き物でできた硬い鎧で、それなりの存在感があったのだが、その彼は特に威圧感があった。まるで魔王と言いたくなるような外見なのだ。
複雑な模様の刻まれた冠のような襟飾りのようなものを頭からかぶり、同じく飾り付けされた肩当からは刺のような細い突起が左右2本づつ計4本はえていた。重そうな
「私はキュラ。アルマ寺院の司祭です。あぁ、あなたがウニバルからいらした方ですね。何か、お困りですかな?」
キュラは、僕の姿を見ると、納得したようにうなずいて、そう言った。
僕は、今までの事情を簡単に話した。テルミナスが石になってしまったこと、メモータルで発見した石版を、ビブリオに見せたらキュラに会うように言われたことを、手短に話した。
「ふむ、なるほど。……この度は、大変なことに巻き込まれてしまいましたね……」
「それで……キュラさんに、見てもらいたいものがありまして……」
僕は、メモータルで見つけた石版をキュラに渡す。受け取ったキュラは、ふむふむと、興味深そうに瞳を輝かせその石版を凝視していた。
「我、ひとたび星々とならんとも、いつの日か蘇らん。我が
キュラは、己が知っている知識を僕に惜しみなく話してくれた。
「その石版に読まれた「大三角」というのは、アルシラ平原を、示しているのでは……? ちょうど、正三角形の頂点にあたる場所に、三つの奇妙な構造物があります。ここからも、見えるかも知れません……」
キュラは、3本の細い指で外を指し示す。僕は建物に開いた穴から、外の風景が見えた。高台にある、寺院からは、村の全景を望むことができ、その平原も一望できた。鮮やかな模様が描かれた円形の広場……その模様は、メモータルの壁画で見た、魔方陣のような不思議な模様であった。たしかに、三角形の頂点の部分に、何かがあった。
「……あなたなら、何か大切なことを、発見できるかもしれませんね……特別に、墓所への扉を開いてさしあげましょう! 墓所は、昇天のときを迎えた土器人が還る場所です。そこには、古の土器王の亡骸があるといいます。……彼に墓所まで案内させますので、頼みましたよ」
キュラは、そばに控えていた僧侶に合図を送る。その僧侶は頷いた。
「墓所への扉は、特別に開かれます。……ウニバルびとよ! 土器王を復活させるのです。土器王が、ウニバルの危機を救い、テルミナスも、元に戻してくれるでしょう! 」
キュラは、僕の手をとり、力強く握り締めて、土器王復活の健闘を祈る。
「……たのみましたよ……ウニバルびと」
キュラは、「くくっ」と妖しく笑い寺院の奥へ消えていった。
(……やっぱり、立ち振る舞いが、魔王だなぁ)
僕は、苦笑いを浮かべながら、小さくつぶやいた。