その扉は、大きな岩のようなものでふさがれていた。まるで生の世界と死の世界を分かつ岩戸のような岩が、そこにはあった。
僧侶に墓所への扉を開いてもらい中へ入る。
「外に出たいときは、お声をおかけください」
墓所への扉は、あけっぱななしと言うわけにはいかないのだろう。岩戸が閉まると、一層、閉塞感が強くなる。あたりは薄暗い。完全な闇にならないだけましなのかもしれない。しかし、ここは、死したものが眠っている場所なのだ。ほんのり背筋もこおる。
「……ボク、墓所は初めて!」
通信で届くケマポンの明るい声だけが、僕の安心だった。
「死期が近づいた土器人は……本能的にこの場所に訪れるんだよ。昇天する……時しか……ここ……開け……ない……あれぇ? 音が……」
ケマポンとの通信が、急に途絶えた。
僕は、静寂に包まれた部屋を見回した。何か霊的な存在がいるときは、電波が乱されることがあることを、僕は思い出していた。ここは、墓所なのだ。冷たい汗が背中を流れるのを感じた。
部屋の中心には、深い穴がある。
……今、そこから、何か音がしたような気がした。
いや、確かにその穴の底から、音がする。
鈍い音を立てて何かが這い上がってくるような……
……しかし、逃げるわけにはいかない。
僕は、穴の中から、それが姿を見せるまで息を潜めて、闇に目を凝らしていた。
穴の中から、長い足のようなものが6本現れた。そして、その全貌が明らかになる。それは、まるで巨大な蜘蛛を模したかのような形をしていた。
……食われる! 死体を食う蜘蛛? 身構える僕。
警戒心丸出しの僕を気にもとめていないかのように、その蜘蛛は穴をまたぐように停止した。蜘蛛の体の部分には扉がついており、その扉が音もなく開いた。やわらかい光が、そこから漏れる。扉の先の内装は、見覚えがあった。
「これは……エレベーター?」
闇から現れたその巨大な蜘蛛に恐れを抱いていたが、単なるエレベーターだった。拍子抜けはしたものの、ほっと胸をなでおろす。雰囲気のある凝ったお化け屋敷でも、こんな大掛かりな仕掛けは作らないだろう。
「それにしても、びっくりしたな……」
僕は、そうつぶやきながらも、蜘蛛型のエレベーターに乗り込んだ。扉が自動的にしまり、鈍い音を立ててゆっくり動き出した。あの6本の足を使って、地下へ降りているようだ。思ったほど、このエレベーターは揺れなかった。
穴の底へ着いたのだろうか、絶え間なく聞こえていた音が止まると、扉が自動的に開いた。僕が外に出ようとすると、左の方向から、何かがやってきた。丸い大きな目玉がそこには浮いていた。その瞳は、闇の中に明るく輝いていた。
「うわ!」
僕は思わず声を上げてしまった。
「わしは、ツンバ。太古よりこの地で、墓守をつとめし者……」
僕の叫びにも動じず、それは名を名乗った。よくよく見てみれば、輝く目の下に小さな壷が見えた。どうやら彼は、土器人らしい。
「不思議だ……昇天するでもない者が……」
しかし、ツンバの赤く光るその目は、疑惑の色に染めながら僕を観察している。
「……おぬし、ウニバルから来た者じゃな! そうか、ウニバルか……これはおもしろい!」
「わしは、こう見えて、土器王が生きていた時代から生きている……最後の土器大人……今となっては、誰にも、知られていない存在……」
「土器大人は、体が大きい土器人と聞いているのですが」
ツンバと名乗るこの土器人は、どう見ても目玉とその下の小さな壷しかないように見える。今までであった土器人の中でも、一番小さいようにさえ思えた。
僕がそのことを尋ねると、ツンバは笑いながら、教えてくれた。
「ふむ。わしの体はこの土器蜘蛛である。土器蜘蛛と頭部は分離できるのじゃ。この体は、今となっては単なる墓所への入り口であると言う認識……。それが土器大人であることも、知られていない」
この土器蜘蛛はツンバの体だったのだ! それはでかい。
僕は、関心のあまり土器蜘蛛とツンバを交互に目をやった。
「体が巨大なだけではない。本来、土器大人は、土器王が発見した不老不死の法で生まれた巨大土器人のこと……。だがな、永遠の命を得た者は……わしや、土器王、ほかにもたくさんいたが、やがて、みな、自らの意思で、昇天して、宇宙になっちまったよ」
「宇宙に……」
お星様になったという表現だと思っていたが、よくよく話を聞いてい見ると違うようだ。本当に宇宙になるらしい。
「寺院じゃ、なんといっているか、知らないがよ……土器人てな……宇宙が卵の間すごす姿だな。ま、いってみれば宇宙卵の殻だ。アルマは、土器に宇宙卵を産み、新しい宇宙を生み出す。宇宙卵、そいつが土器人の魂だな。土器に宇宙卵を産みつけてな土器人として育てて『昇天』させて新しい宇宙を生み出す。宇宙卵が新しい宇宙になるとき、つまり、土器人が昇天して、新しい宇宙になるってことよ……いわば、土器人は、宇宙母ってなところよ」
アルセラの土で作られた体。大地を廻る火山の
セレブロから落ちる水。知をつかさどるセレブロ。土器に生命を与える水。その水は、命の源。
セレブロからあふれた水が、アルマから落ち、アルセラで作られた土器に命を与える。
土器人の中で宇宙卵は成熟し、やがて、土器人という殻を内側から破り昇天し、エスパッシに溶けて、この世に新しい宇宙が生まれる。
なんという、繰り返される生命の循環。
この墓所は、土器人が昇天し、宇宙になる場所なのだ。