墓所には、いくつか部屋があり、その部屋の中にはたくさんの割れた土器のかけらが、落ちていた。見た目は無機物の土の焼き物なのだが、それは、間違いなくかつて生きていた土器人だったものだ。種族は違えどその亡骸を目にするのは、精神的にどこか畏怖や恐怖を感じてしまう。案内役を買って出てくれた墓守のツンバがいるおかげで、僕は何とか先へ進むことができていた。もしも、ひとりでこの場所へ来たのならば、とてもじゃないけれど、この静寂の空間に、耐えられなかっただろう。
冷静になって、考えてみると、一つ目で浮遊しているように見えるツンバの外見は妖怪か何かにしか見えない。しかし、この世界に召還されてからさまざまな形の土器人に会っていたので、その姿形は抵抗なく受け入れていた。
(慣れって、すごいな……)僕は、自分自身に感心してしまう。
薄暗い空間が、張り詰める。その直後、地面が揺れだした。この世界が直面している危機、あの地震のようだ。
「震源地が近いのか……?」
僕は、そうつぶやいた。大気の感じといい、なんだか、いつもよりも揺れを直に肌で感じるような気がしたのだ。
地震の多い国に住んでいると、揺れ方でなんとなくだが、たまに、震源地が遠いのか近いのか分かることがある。本当に感覚的なものなのだが、震源地が近いと、本揺れが来る前に大気が妙にピリピリすると言うのか、一瞬、神経がとがるのだ。それは、寝ている時に顕著に現れる。僕は、いったん眠ってしまえば、夜中に目が覚めることは少ないのだが、本揺れが来る数秒前に目がふっと覚めるのだ。そして、「あれ、何で目が覚めたんだ?」と思う程度に目が覚めた頃に地震が来るのだ。
「よくわかったな。上を見るのじゃ」
僕は見上げた。暗闇のせいでその全貌は明らかではないが、何か巨大な塊が、天井を覆っている。
「あれは?」
「うむ。これが、バルナじゃ」
ツンバは、変わらぬ口調で衝撃の事実を言った。
「え? バ、バルナって、あの?」
僕は、拍子抜けた声を上げてしまった。こんなところに、世界の危機をもたらす者がいるとは思わなかったのだ。
「……大丈夫じゃ、今はまだ、眠っておる」
話によると、破壊神バルナは、土器王の力によって、ここに封じられたらしい。昇天した土器王と違い、バルナは眠っているだけのようだ。長い年月が経つうちに、その封印の力が弱まっているのだろうか。最近はよく寝返りをうつかのように、時々身震いするらしい。この身震いこそが、エスパッシが振動する理由らしい。
「土器王が復活すれば、バルナの封印もかけなおしてくれるてばよ」
「完全に、倒すことはできないのですか?」
僕の質問に、ツンバ は、続けて驚きの事実を語った。
「実はな、バルナはかつて、土器王が不完全な宇宙を消すために生み出したのじゃよ」
「生み出した? 世界の危機になるような者を、土器王が作り出したということなんですか?」
「確かにあれは危険じゃが、時には、必要な者なのよ。光だけでは世界は成りたたん。同等の闇があってこそ、成り立つのじゃ」
僕は小説や漫画で描かれる、
「闇の部分に目をつぶっていては……時に、闇を認めないと、全ては治めれないということですか?」
「そういうことじゃ。さすがは、ウニバルの宇宙から生まれた人よ。土器王のように聡明じゃ」
ツンバは感心したように大きな瞳を細めた。
「……こんなところに、長居は無用じゃ。さっさと、行くぞな」
「ですね」
僕は、眠り続けるバルナを気にしながらも、先を急いだ。
アルシラの地下はすべて墓所ではないかというくらい、どこまで行っても薄暗くて不気味な空間が広がっている。
その延々と続く空間を歩いている間にツンバは、土器王やアルマについてのさまざまな知識を教えてくれた。土器王の秘薬で不死になるのは、桃色の卵を得た土器人だけであること。かつて、土器王が生まれる前は、みんな桃色の宇宙卵を持っていて、ドキツカサもドキツクリもいなかったこと。そしてある時から、アルマは、紅と白の卵を分けて生むようになったことを。ツンバは太古の昔から生きているだけあって、口から出る知識は「世界の秘密」と言ってもいいものであった。
「……アルマは土器大人を生み出したくなかったのじゃ。アルマは、世界の意思……」
ツンバは、大きな瞳を細めそう語る。
「……どうして僕には、そのことを?」
「それは、おぬしが、ウニバル人だからよ。実はな、土器王とウニバルは、密接な関係があるのだよ」
不死であった彼は、エスパッシの……全宇宙の王として君臨していたが、ある時彼は、自らの意思で昇天してしまう。土器王が昇天して、それがウニバルの宇宙になったというのだ。ウニバルは、土器王の魂そのものの宇宙であり、だからウニバル人には、土器王を復活させる力があると。
「ウニバルは、土器王が昇天してできた宇宙……」
土器王の復活には、ウニバルから召還された者が必要な理由がなんとなくわかったような気がした。
果てがあるのかと思っていた空間に、やっと終わりが見えてきた。暗がりにぼんやりと巨大な土器人の陰が浮かんでくる。ここが墓所で一番奥の部屋で、土器王の昇天した場所だ。
「これが、土器王のなきがらじゃ!」
「大きい……」
僕は土器王のなきがらを観察する。下半身は崩れてしまったのだろうか、上半身しか残っていない。ひび割れた隙間からのぞく内部は空洞で虚無に満ちているが、その体からは威厳が未だに感じられる。
「ん? なんか、ぼんやり明るいような……ツンバさん土器王の中に入ること、できますか?」
「うむ。気をつけて行くのじゃぞ」
胴体にあいた穴からなんとか中に入る事ができそうだ。なんだか、巨大な仏像とか観音像の中に入る時のような少しわくわくする感覚に襲われる。
土器王の内部は広い空洞が広がっていた。上を見上げると、果てが見えない闇のよう。
「この瓦礫の下かな……」
ぼんやり光る何かが、そこに埋もれているようだ。僕は、瓦礫を掻き分ける。現れたのは、まばゆいばかりに光り輝く黄金色の棒であった。僕は、それを抱えて、外へ出る。
「それは、
「これが……」
「うむ、これは、君が持っていくといい。きっと役に立つってことよ」
「刃の部分はないのですね……」
僕は辺りを見回すも、それっぽいものは落ちていなかった。
「おそらく勘なのじゃが、土器王の宮殿か、もしくは転体と一緒にあるのではないかと……あれは、土器王と共にあるものよ」
「土器王の宮殿か……」
そういえばまだ行っていなかったな。次にいくところが決まった。
(……にしても、だんだん手荷物が増えてきたな)
一回、ケマポンのいる司書室に行って、少し荷物を置かせてもらうことにしよう。僕は、そう心に決めた。