――時間はほんの少しさかのぼる。
焼き物というのは、数分で焼きあがるものではない。なので僕は、
土器人たちは、のんびり暮らしている。
「……危機感がないなぁ」
この世界に危機が迫っていることが、嘘のようなのどかさだった。
――言葉の壁――
僕は村の子供達からこの世界の独特な言葉を少し教えてもらっていた。
言葉はシャコウに付属している翻訳魔法を通じて分かるのだが、それが無くても少しくらい話せるようになりたかったのだ。魔法の力を通してではなく、どんなにつたなくとも、自らの口でコミュニケーションをとって仲良くなりたかったのだ。
しかし、素焼きの民の言葉は、僕に発音するのは難しそうであった。
「ほ~、ほっ! うぃういうぃゆ~?」
(僕は「おはよう、調子どう?」と、素焼きの民の言葉で言いたい)
「ぉほふぉ~! ひょうぃ~ほ~?」
(子供たちは「おはよう、調子どう?」と、日本語で言っているらしい)
お互いの言葉が変な音になってしまうことに、笑いあった。
おそらく、声帯や舌、体の構造が違うのだろう。僕にはオカリナのように、美しい音を響かせる声はどうやても出せなかった。
その逆もしかりで、村の子供たちも僕の世界の言葉の発音はできないでいた。
言葉を覚えることはできなさそうだが、子供たちと交流を深めることができたので良しとしよう。
ちなみに、口笛を吹いたら、あまりに遠くまで鋭く響いたので子供たちは驚いていた。口笛の音は吟遊詩人が歌うように美しい音色だそうで「好きな人にプロポーズする時に歌えば素敵だね」と言われた。
――恋する者の詩――
僕はセレブロにある上の庭園を探索していた。
どこかから、はかなげな音楽が流れてくる。
そういえば、セレブロを歩いているときは、いつも聞こえていたような気がする。この上の庭園に来て、はっきりとその音が、聞こえるようになった。
「ケマポン、この音は?」
「詩人さんだよ。いつも、詩を歌っているんだ」
彼の役割は、詩を歌い続ける事らしい。
「いつも、この奥にある噴水の前で、歌っているんだ」
僕は、詩人に会いに行く事にした。
宮殿を囲むように流れる運河の前に、たたずんでいる白い土器人を見つけた。
他の土器人とは、変わった造型をしている。白い枝豆のような形をしていて、その瞳は、青い。体には藍色の模様が刻まれている。その白と青のコントラストが美しい。胸部と脚部のあいだにある流線型のくびれが、なんだか女性的である。弦鳴楽器のような焼き物を持っており。3本の腕が楽器を奏で、庭園に澄んだ音を響かせている。
ずっと聞こえていたのは、この人が弾いていた音か。
詩人は、僕の姿を見つけると、今まで引いていた曲を区切りいいところまで弾き、新たに詩を歌い始めた。
「……第一楽章……『美しき宇宙、静寂の庭園』……るるるるるるるるるるるるるる~る~る~ 」
透明感のある、少し悲しげな神秘的な声が響く。
詩人の歌う『過ぎ去った時間』への
あぁ、この場所は、過去の栄華を懐かしむ場所なのだな……僕は、なんとなくそう思った。
「……詩人さんの……素敵なうた……聞こえた」
かわいらしい声が、背後から聞こえた。振り返るとそこには、小さな土器人がいた。日よけのためだろうか、おわんを逆にしたようなケープを身に着けている。
「ルピカだよ。上の庭園の手入れをしているの」
「あたし……詩人さんのうた……好きなの」
詩人の歌に誘われてやってきたらしい。
「ルピカはね……グアルダが……いちばん好きなんだよ」
「グアルダって……宮殿の門番の?」
「そうだよ~。グアルダは、いっつも照れてだじだじになるんだよ~」
「そうなんだ」
あの外見からは想像もできないが、逆になんとなく想像もついてしまう。外見が武張った人ほど、恋愛模様には不器用なのは、この世界でもあてはまるのだろうか。
「グアルダも、こんなかわいい子に好かれて……やるな~」
ルピカは、ケマポンと僕がグアルダの話をしていたので、なんだか落ち着かない様子でいる。なんだか、小動物みたいで可愛らしいなぁ。
「ルピカの、グアルダへの想い……セレブロをわたる。『恋する者』……幸いの歌。らららららららららららららら~ら~ら~ 」
詩人の清らかな旋律は、いつまでも庭園に響き渡っていた。
そういえば、グアルダは土器王がいた時代に生まれた土器人(ドキツカサ)で、土器王の秘薬(不老不死の薬)ちょっとなめたと言っている。だから、彼は、いまだに昇天していないという設定がある。
この世界で、ものすごい長生きなのは、ツンバ。次にグアルダ。そして次は多分、村長(まゆげ)かな。