僕がウニバルの壷を回収している間、テルミナスはケマポンの様子を看ていた。だいぶ落ち着いたと言うことで、僕はテルミナスと司書室を出て、ビブリオの元へ向かうことにした。
ライブラリーの一室で、ビブリオはうつむいていた。仕事が手についていないように見える。僕たちが部屋に入ってきたことも気がついていないらしい。ビブリオは、弱い光をたたえた瞳をこちらへ向けた。ただただぼんやりと虚空を見つめ、心ここにあらずといった様子だ。
「……わたしは……なんてことを……あんな、恐ろしい化け物の復活に……手を貸してしまうとは……」
そう、呪文のように繰り返していた。
僕は、この部屋に違和感を感じた。この前ここに訪れたときと、何かが変わっているように感じたのだ。僕は、部屋にあるデータ壷が大量に置かれた棚を見回した。
「あれ? こっちの棚って、生きた宇宙の棚じゃなかったけ?」
この前来た時は、輝きを持っていた宇宙が、まるで灰色の石のようになっていたのだ。僕の口から出たとおり、そこは生きている宇宙の棚であるのに、輝きを失っていた。それも、ひとつだけではなく、いくつか宇宙が同じように死んだ状態になっていたのだ。
「宇宙が、死んでしまったのです……バルナに、消去されたのです。死んだ宇宙の棚に持っていかなくては……」
ビブリオは、そう弱々しく言った。しかし、口では言うものの、その手は振るえ……まるでその壷を手に取る気配はない。
「ビブリオ? どうして……」
「ビブリオ、なんで、わてを石にしはったんや~!?」
僕の言葉をさえぎり、テルミナスが口を開いた。(司書長! 僕が聞きたいこと、それじゃない……)と、心の中で密かに思うものの、全く知りたくない内容でもなかったので、黙ったまま聞くことにした。
「司書長には、悪いことをしたと思っています。……司書長によく説明して、バルナ復活を手伝ってもらおうと思っていたのですが……あの時ウニバルの壷を渡そうと思い、私は一人で司書室に行ったのです。するとテルミナスは、話も聞かずに、いきなりあなたを呼び出し始めました。……私は、とっさに石化の秘薬を……使ってしまったのです……」
「石化の秘薬?」
「……造力室を調べていたら、妙な薬をおさめた壷が、たくさんありました。その中の一つが石化の秘薬だったのです。詳しく調べようと思って、造力室からこっそり持ち出してきたのです……アロアやアドビが、どうしても調べさせてくれなかったもので…… 」
そういえば、造力室行った時に、そんな事言っていたっけ……というか、こっそり持ち出したって……研究熱心というか、この人、研究のためなら何でもやってしまう人なのか? 好奇心が猫を殺しちゃったんだね……きっと。
「計画の障害だったテルミナスが石になり、計画を邪魔するものはいなくなりました。そして、この世界に現れた……何も知らない、あなたをだましたのです。……キュラの計画通り、バルナ復活を手伝ってもらったのです」
「どうして、バルナ復活なんてことを?」
僕は、この事件で一番知りたかった事の発端、核心ともいえる理由を尋ねると、ビブリオは重い口を開いた。
「私は……キュラを……」
「……愛していました」
彼らは涙が流せない。しかし、ビブリオの瞳が濡れたように輝いて見えるは、なぜであろう?
(すべて、打ち明けることで、この罪、償えるとは思いません。しかし、すべて隠さず、話します。それが、私に課せられたものだから)
「私は……知的な彼に惹かれていました。私達はいつも死や破壊について語り合っていました……。死や破壊とは どんなものなのでしょうか……土器人は、何のために生まれるのでしょうか? ……ドキヅクリは 土器を作り続け、ドキツカサは、エスパッシを管理する。……永遠に変わることのない生活です。命を生み出し、死へと向かう、これが、アルマの意志なのでしょうか……? キュラはいつも、自らに問いかけていました……」
ビブリオの瞳には、今は亡きキュラとの記憶を思い出すかのように、遠い光を宿していた。
「ある時、キュラは紅と白の2つの卵を産み付けられた土器人が生まれたと話していました。キュラは誰とは言っていませんでしたが、感じていたのかもしれませんね。土器王の復活を」
死と破壊の決められた定め、存在意義。
人は生まれた瞬間から変わっていく、数多の
宇宙の始まりから存在し、エスパッシの変わることがない存在。
土器人は土器を作り続け、昇天して宇宙になる。
死とは何か、生とは何か、破壊とは何か、創造とは何か。
死の決められた消滅の定め、逃れられない存在意義。
「すべてを生み出す、アルマの力……。キュラは そのあまりに絶対的な力に、疑いを持ったのではないでしょうか……。キュラは、破壊神バルナの力で……変わることのない、我々土器人の宿命を……変えたかったのかも知れません。彼は変わることのないこの世界の宿命から逃れ、己の存在理由を……見つけたかったのかも知れません。……私は恐れていました。恐れを抱きながらも……いつのまにか、惹きつけられていったのです……はかり知れない、バルナの力に……」
彼の夢。
止めるべきだった、彼の夢。
ひび割れ、砕けてしまいそうなほど、妖しい輝きを魅せる
「我々だけでは、バルナ復活の謎は解けなかった。あなたがこの世界に現れるまでは夢物語、決して叶うことのない幻想だったのです。しかし、あなたは現れてしまった。彼のいるこの時代に。私は……キュラと口裏を合わせ。ウニバルびと……あなたを利用したのです。……キュラは、何かを変えたかったのです。それが何だったのかは、今となっては……確かめるすべもありませんが……」
今は、もうない愛の。
「……私は、なんと愚者だったのか……」
これが――
残された私に科せられた、罰。
永遠に背負う、罪。
ひび割れてしまった愛。
「埴輪の愛。土偶の夢。」の自分の中の隠しテーマのひとつは、
「ビブリオの愛。キュラの夢。」で、あります。
ビブリオの見た目はスラリとした埴輪っぽくて、キュラは装飾ごてごての土偶っぽいし……?