土器王紀-埴輪の愛。土偶の夢-   作:まいまいഊ

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3部-3章 ひび割れる愛

 僕がウニバルの壷を回収している間、テルミナスはケマポンの様子を看ていた。だいぶ落ち着いたと言うことで、僕はテルミナスと司書室を出て、ビブリオの元へ向かうことにした。

 

 

 ライブラリーの一室で、ビブリオはうつむいていた。仕事が手についていないように見える。僕たちが部屋に入ってきたことも気がついていないらしい。ビブリオは、弱い光をたたえた瞳をこちらへ向けた。ただただぼんやりと虚空を見つめ、心ここにあらずといった様子だ。

「……わたしは……なんてことを……あんな、恐ろしい化け物の復活に……手を貸してしまうとは……」

 そう、呪文のように繰り返していた。

 

 

 僕は、この部屋に違和感を感じた。この前ここに訪れたときと、何かが変わっているように感じたのだ。僕は、部屋にあるデータ壷が大量に置かれた棚を見回した。

「あれ? こっちの棚って、生きた宇宙の棚じゃなかったけ?」

 この前来た時は、輝きを持っていた宇宙が、まるで灰色の石のようになっていたのだ。僕の口から出たとおり、そこは生きている宇宙の棚であるのに、輝きを失っていた。それも、ひとつだけではなく、いくつか宇宙が同じように死んだ状態になっていたのだ。

 

「宇宙が、死んでしまったのです……バルナに、消去されたのです。死んだ宇宙の棚に持っていかなくては……」

 ビブリオは、そう弱々しく言った。しかし、口では言うものの、その手は振るえ……まるでその壷を手に取る気配はない。

 

 

「ビブリオ? どうして……」

「ビブリオ、なんで、わてを石にしはったんや~!?」

 僕の言葉をさえぎり、テルミナスが口を開いた。(司書長! 僕が聞きたいこと、それじゃない……)と、心の中で密かに思うものの、全く知りたくない内容でもなかったので、黙ったまま聞くことにした。

 

「司書長には、悪いことをしたと思っています。……司書長によく説明して、バルナ復活を手伝ってもらおうと思っていたのですが……あの時ウニバルの壷を渡そうと思い、私は一人で司書室に行ったのです。するとテルミナスは、話も聞かずに、いきなりあなたを呼び出し始めました。……私は、とっさに石化の秘薬を……使ってしまったのです……」

「石化の秘薬?」

「……造力室を調べていたら、妙な薬をおさめた壷が、たくさんありました。その中の一つが石化の秘薬だったのです。詳しく調べようと思って、造力室からこっそり持ち出してきたのです……アロアやアドビが、どうしても調べさせてくれなかったもので…… 」

 そういえば、造力室行った時に、そんな事言っていたっけ……というか、こっそり持ち出したって……研究熱心というか、この人、研究のためなら何でもやってしまう人なのか? 好奇心が猫を殺しちゃったんだね……きっと。

 

「計画の障害だったテルミナスが石になり、計画を邪魔するものはいなくなりました。そして、この世界に現れた……何も知らない、あなたをだましたのです。……キュラの計画通り、バルナ復活を手伝ってもらったのです」

「どうして、バルナ復活なんてことを?」

 僕は、この事件で一番知りたかった事の発端、核心ともいえる理由を尋ねると、ビブリオは重い口を開いた。

 

 

「私は……キュラを……」

 

 

 

 

 

 

 

「……愛していました」

彼らは涙が流せない。しかし、ビブリオの瞳が濡れたように輝いて見えるは、なぜであろう?

 

 

(すべて、打ち明けることで、この罪、償えるとは思いません。しかし、すべて隠さず、話します。それが、私に課せられたものだから)

 

「私は……知的な彼に惹かれていました。私達はいつも死や破壊について語り合っていました……。死や破壊とは どんなものなのでしょうか……土器人は、何のために生まれるのでしょうか? ……ドキヅクリは 土器を作り続け、ドキツカサは、エスパッシを管理する。……永遠に変わることのない生活です。命を生み出し、死へと向かう、これが、アルマの意志なのでしょうか……? キュラはいつも、自らに問いかけていました……」

 ビブリオの瞳には、今は亡きキュラとの記憶を思い出すかのように、遠い光を宿していた。

 

 

「ある時、キュラは紅と白の2つの卵を産み付けられた土器人が生まれたと話していました。キュラは誰とは言っていませんでしたが、感じていたのかもしれませんね。土器王の復活を」

 

 死と破壊の決められた定め、存在意義。

 人は生まれた瞬間から変わっていく、数多の運命(けっか)を作り続け、最期は宇宙に溶ける。

 

 

 

 宇宙の始まりから存在し、エスパッシの変わることがない存在。

 土器人は土器を作り続け、昇天して宇宙になる。

 死とは何か、生とは何か、破壊とは何か、創造とは何か。

 

 死の決められた消滅の定め、逃れられない存在意義。

 

「すべてを生み出す、アルマの力……。キュラは そのあまりに絶対的な力に、疑いを持ったのではないでしょうか……。キュラは、破壊神バルナの力で……変わることのない、我々土器人の宿命を……変えたかったのかも知れません。彼は変わることのないこの世界の宿命から逃れ、己の存在理由を……見つけたかったのかも知れません。……私は恐れていました。恐れを抱きながらも……いつのまにか、惹きつけられていったのです……はかり知れない、バルナの力に……」 

 

 彼の夢。

 止めるべきだった、彼の夢。

 ひび割れ、砕けてしまいそうなほど、妖しい輝きを魅せる誘惑(あい)

 

「我々だけでは、バルナ復活の謎は解けなかった。あなたがこの世界に現れるまでは夢物語、決して叶うことのない幻想だったのです。しかし、あなたは現れてしまった。彼のいるこの時代に。私は……キュラと口裏を合わせ。ウニバルびと……あなたを利用したのです。……キュラは、何かを変えたかったのです。それが何だったのかは、今となっては……確かめるすべもありませんが……」

 

 

 今は、もうない愛の。

 

 

「……私は、なんと愚者だったのか……」

 

 

 

 これが――

 残された私に科せられた、罰。

 永遠に背負う、罪。

 

 ひび割れてしまった愛。




「埴輪の愛。土偶の夢。」の自分の中の隠しテーマのひとつは、
「ビブリオの愛。キュラの夢。」で、あります。

 ビブリオの見た目はスラリとした埴輪っぽくて、キュラは装飾ごてごての土偶っぽいし……?
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