土器王紀-埴輪の愛。土偶の夢-   作:まいまいഊ

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我が宇宙への帰還
エピローグ 知と粘土の宇宙《土器の見る夢》


「まさか、ケマポンが、ねぇ……」

 最初出会ったころには思いもよらなかった。今ではこんなに立派になって……。

「わても、……あの、ケマポンが……土器王の生まれ変わりやったとはなぁ……ち~とも、気ぃつかへんかったわ」

 

 今、僕たちは土器王の宮殿にいる。土器王も、テルミナスも、グアルダも、ムチャチャも、他の土器人たちも集まっている。そして、土器王の復活に沸き、賑わっていた。

 

「本当にありがとう……」

 ケマポン……いや、土器王の声が響いた。

「そやそや。ウニバルの人には、感謝の言葉もあらへんなあ。土器王はんも復活しはったし、バルナも封印されたみたいやし……ともかく、これで一件落着や! わてら、元の平和な暮らしに、もどれましたんや。ほんまに、おおきに! あんさんの活躍は、永遠に語りつがれますやろ」

 テルミナスは、ケマ……土器王の会話を押しのけて話しつづけている。彼は、この世界で一番よくしゃべる土器人ではないだろうか。僕は苦笑いしながらも、話を聞いていた。

 

「ところで……あんさんは、ウニバルに戻らはりますか? ここに残る言うんやったら、土器人の体あげまひょ。ドースに、土器のからだつくってもろて……そうや、ええ考えがおます! キュラの代わりに、寺院の司祭っちゅうのは……どうですやろ~? ウニバル生まれの土器人の誕生や! ここの暮らしも悪うおまへんでえ~」

 テルミナスは、冗談交じりに言う。

「ははは。お誘いはうれしいけれど、お断りします。僕は、地球に……ウニバルに、帰ります」

 そこが僕の生きる場所、僕の地球(こきょう)なのだ。

「さよか……やっぱり、戻らはりますか……」

 テルミナスは、どこかさびしそうに瞳の光を揺らしていた。

「短い間だったけれども、ありがとう。楽しかったよ」

 

 

「ひびの入るその日まで……」

 それが素焼きの民たちの別れの挨拶(あいさつ)なのだろう。ひびの入るその日まで、素敵な挨拶ではないか。

 僕も、その挨拶を口にする。

 

 

 ――そして、別れのとき。

 僕は、みんなに見送られながら転送壷に入った。すべてが闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――僕は砂浜に立っている。

 戻ってきたんだ、僕の世界に、僕の宇宙に……

 

 海や空は、僕がエスパッシへ行く前と同じ。青く光に照らされている。

 足元にある僕が作った砂のトンネルの向こうには、今は何もない。どこにも通じていない。しかし、暖かな闇がある。

 

 

 海風が潮の香りを含ませて、どこまでも広がっていく。あの青い空に浮かぶ(ほし)は、完全な球体の太陽(ひかり)。完全な球体の水平線。映し出される色は、澄んだ青の粒子。母なる海は青く波打ち、光を浴びて雲の飛沫を散らす。何かの内にいるような、アルマのように。

 

 

 

 

 僕は一歩を踏み出した。砂浜に足跡が残る。

 僕はこの世界の内にいる。この広大な宇宙に足跡を残しながら、確かに生きている。たとえ、それが土器王によって作られた世界のひとつだったとしても、僕は今ここに存在している。そして、僕の(こころ)には、宇宙の息吹。世界が広がっている。

 

 それは真実。

 それは真理。

 

 僕は思うがまま、その世界(うちゅう)を眺め、世界に触れ、世界を求め、歩き続けよう。

 

 

 

 そう……

 

 ひびの入るその日まで……

 




 エスパッシはアルマの内にあり

 アルマはエスパッシの内にある

 土器はアルシラの土より生ず


 土器花(フロン)土器樹(アーボ)はセレブロの土より生ず

 土器花(フロン)より土器蝶(マリポス)土器蝶(マリポス)より土器魚(ペスカ)を生ず

 土器鳥(バヤペ)土器樹(アーボ)より生じ、メントを食す

 土器人は土器魚(ペスカ)を食しメントを排す

 成熟した土器鳥(バヤペ)はエスパッシの下方へ降りる

 土器鳥(バヤペ)は宇宙卵となりアルマより排される


 宇宙卵を得た土器は土器人となる

 宇宙卵は土器人の食した土器魚(ペスカ)で成熟する

 成熟した宇宙卵は土器を破り宇宙となる

 宇宙卵を失った土器はアルシラの土に還る

 宇宙はライブラリーで健常に保たれる


 アルマこそ、すべての宇宙の母なり


 全てはアルマの内に……アルマは全て……


 これ世界の真理なり……


               ――土器王紀「世界の秘密」のメモより

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