この世界-セレブロとアルシラが浮かぶエスパッシ-を救う。
それが、僕がこの世界に呼ばれた理由。
それをなりゆきとはいえ、引き受けてしまったからには、行動に移さなくてはいけない。
ひとまず、ケマポンが司書室と言っていたこの部屋を軽く見渡してみる。窓のようなものはなく、まるでひっくり返した壷の中にいるような感じがする。部屋のいたるところに、壷が置いてある。むしろ、壷しかない。
僕が出てきた転送壷の扉を含めて、扉は3つ。それから、青地に、赤い渦巻きの螺旋が描かれた円盤が壁に設置されている。
その部屋の中、あるひとつの扉の前に、輝く何かが落ちていることに気がついた。
「これは?」
……ふと、目に付いたもの、それを拾い上げる。
石でできた板状のものに、どういう仕組みなのかは分からないが、赤く輝く文字のようなものが、描かれていた。
「これは、司書長のメモみたいだけど……ん~と、バ……バルナって、かいてあるよ、何のことだろう?」
「バルナ……」
ケマポンに分からないことが、僕に分かるはずもない。
「まぁ、一応、これは、持って行こう」
ポケットに入れるには、少し大きいこの石版のようなものを、僕はバケツに放り込んだ。
(まさか、こういう形で、このバケツが役に立つとは……)
「……とにかく、メモが、ここに落ちていたということは、もしかして」
僕の勘がメモが落ちていたの扉の中に何かあると告げる。
扉を開けてみると、そこは、物置きのようなところなのだろうか、様々な、壷が並べてある。
僕には、どう見てもガラクタにしか見えないその中に、見覚えのある物体を見つけた。
テルミナスだった。
しかし、そのテルミナスは、灰色で、動いていない。「うわ、何をする! やめろ!」と、何かに驚いたかのように、4本の腕が顔を覆うようにした状態のまま固まっている。
「しっ、司書長、こんなところに……うひゃあ、石みたいに、カチンコチン! どうしたら、元にもどるんだろう……」
ケマポンの様子を見ると、どうやら、石化は、死んだという状態ではないらしい。そもそも、この土器人たちが、どうやって生まれ、死んでいくのかさえ、見当がつかないのだが。
「バルナ」と書き残されたメモは、もしかして、ダイイング・メッセージのようなもので、テルミナスは、「バルナ」に石にされたのだろうか?
(……一体誰が、何のために? ……どういうことだろう)
「……この倉庫には、石化したテルミナス以外、変わったものはなさそうだね……」
僕は、倉庫から出た。
「この扉は?」
もうひとつ、まだ開けていない扉の前に立つ。
「そこは、エレベーターがあるの。下に行くと、飛行器械があって……そこから、アルシラに渡れるんだけれど……でも、飛行器械のキイは、司書長が持っているから……のれないの」
「飛行器械!」
見てみたい。
「見に行くだけでも良いかな?」
「うん、いいよ」
僕は、扉を開けた。部屋の中心には、マイクスタンドのような物が立っている。このスタンドの赤い部分を押すと、動くものらしい。
僕は、大きな赤い部分を押した。
「わわわ……」
それと同時に、床だけが、吸い込まれるように、下へ動いていく……これは、エレベーターというよりは、リフトに近いモノかもしれない。
壁や柵が無い、慣れないタイプのエレベーターに、多少の恐怖を覚えたが、すぐに慣れた。
奥に見えるのは、発進口だろうか。外の光が差し込んでいる。長く続く通路には、規則正しく照明がついていた。部屋の壁際には、大きな壷がたくさんあり、太いパイプがいくつも伸びていた。焼き物で、できてはいたが、どこか、
部屋の中央には、タコの頭のような流線型の、土器をひっくり返したような、モノがあった。
それが飛行器械なのだろう。
エレベーターから降りて、その飛行器械を調べてみる。搭乗口のスイッチらしきものを見つけたが、鍵がないと、開かないのだろう。押してみても、動く気配がなかった。
残念ではあるけれど、上の階へ戻ることにした。いつまでも、ここにいては、何も始まらないのだ。
石になってしまった司書長のことは、気になるが、司書室の粗探しもほどほどに、僕は、外へことに出ることにした。
「外へ出るには、どうしたらいいのかな?」
まさか、飛行器械に乗らないと、外に出れないというオチではないだろうかという、懸念を抱きながらも、僕はケマポンに聞いてみた。
すでに、この部屋にあった3つの扉は、調べたのだ。そのいずれの部屋にも、外に出れそうな出入り口はなかったのだ。
「これが……外へ出る扉だよ」
ケマポンの3本指が指し示した先には、例の渦巻き模様の壁があった。
「え? これも扉だったの?」
「そうだよ」
住んでいる人間が、奇怪ならば、その扉も奇抜だ。
模様か、単なる飾りか、芸術品の類だと思っていた、螺旋が描かれた円盤が、外へ出るための扉だったのだ。
「どうやって、開けるの?」
「さわれば、開くよ」
「そ、そうなのか」
さすが、異世界。分からない事だらけだ。