ウーノに別れを告げ、歩いていくと水しぶきの音が聞こえてきた。土手の向こうに滝があるのだろうか。さらに道を進んで、階段を見つけ、上っていく。予想通り、滝が流れ落ちていた。
「すごい眺めだね、ここ」
「上の庭園へ行くと、もっと眺めがいいよ~」
「そのうち、見に行くよ」
今は、観光よりも、情報がほしい。
さらに、道なりに進んでいくと、エレベーターはあった。まるで脱出ポットのような楕円のカプセルの形をした焼き物だ。大きな扉がついている。僕は、エレベータのボタンを押す。このエレベーターは、司書室にあったようなリフト形式ではなく、普通のエレベーターのようだった。
エレベータの着いた先は、白い壁の続く洞窟のような廊下であった。黒いパイプが、たくさん天井に這っている。
「このパイプは、なんだろう?」
「このパイプはね、すべての宇宙とライブラリーを、つないでいるんだよ……ボクって物知りでしょ!」
エッヘンと胸を張るケマポンが目に浮かぶ。
少し長めの廊下をケマポンの言う道筋どおりに歩き、扉を開けると、広い部屋に出た。奥には2つの扉がある。ひとまず、近くの部屋へ行くことにした。
部屋に入ると、きれいに整頓された壺が棚に並んでいた。ライブラリーというくらいだから、本があるのかと思ったら、本の代わりに壷があった。部屋の中央で、忙しそうに一人の土器人が仕事をしていた。ボーリングのピンに少し装飾をつけて格好良くしたような形をしていた。テルミナスと同じように、腕が4本ある。
「あのぅ」
僕は、おそるおそる声をかけた。
「おお、ウニバルからいらした方ですね。わたしはビブリオ。生きている宇宙と死んでしまった宇宙のデータ壷を管理しています」
僕の声に気がついたビブリオは、流暢な日本語でそう話す。
「生きている宇宙?」
「こちらに並んでいるのが、生きている宇宙のデータ壷です。宇宙の物理法則が、つねにデータ壷の中の情報と照合されて、一定に保持されているのです。それぞれのデータ壷は、パイプを経て、すべての宇宙とつながっています」
暗い
「この部屋にある壷すべてがデータ壷です。一つの壷に、一つの宇宙の法則が入っています。データ壷のはずれた宇宙の法則は狂いだして……やがて死んでしまいます」
ビブリオは、ひとつ壷を手に取った。灰色にくすみ、まるで石のようになっている壺が並んでいる。墓石のようだ。
「こちらの壺は、寿命を迎え死んでしまった宇宙が入っています。死んでしまった宇宙は、こちらに保管されます。ここライブラリーは、すべての宇宙の法則を管理する多元宇宙管理センターなのです」
この場所には、様々な宇宙の壺がある。出来上がったばかりの宇宙、生き物にあふれた宇宙、何もないからっぽの宇宙、死んでいくだけの宇宙。
「宇宙はどこから生まれるのでしょうか? 一度、この目で、見てみたいものです」
「僕を召還するのに、ウニバルの壷を使ったと聞いているのですが……持ち出しても、大丈夫なモノなんですか?」
ウニバルの壷を使ったということを、ケマポンから聞いていたので、疑問に思って尋ねてみた。
「ウニバルは今、『かりそめの壷』という予備の壷で、つないでいますので、大丈夫です。しかし、それは一時的な物です。あくまでかりそめ、本物の壷には敵いません。なるべく早くウニバルの壷を探し出したほうが良いですね。本当の壷につなぎ変えないと……このままでは、法則がだんだん狂い、いずれ、ウニバルは崩壊してしまうでしょう! 」
今まで、エスパッシの危機ばかりに、目がいっていたけれど、そして、そんなに、気にもとめていなかったけれど、もしかして、ウニバルの壺が、見つからなかったら、僕らの宇宙もやばいんじゃ? なにげに、僕たちの宇宙も危機?
「しかし、心配することはありません。何も今すぐ、崩壊するわけではありません」
あわてる僕を落ち着かせるように、ビブリオは言う。
「それよりも、今この世界に迫っている危機の方が重大なのです」
「僕は何をすれば?」
「土器王の復活を手伝ってほしいのです。土器王とは、すべてを支配した伝説の存在です。詳しいことは、リテラが知っているでしょう。リテラは、隣の部屋にいますよ」
「リテラさんに会ってみます。お話、ありがとうございました」
「いえいえ。何か困ったことがありましたら、いつでも協力しますよ」
僕は、ビブリオと別れ、リテラのいるという部屋へ行くことにした。
リテラがいるという部屋の扉を開いた。
その気配にリテラは振り向いた。丸みを帯びた体に4本の腕が生えている。人懐っこい光を宿す赤い大きな一つ目が印象的である。
「なんですかあ?」
なんか、気の抜けるおっとりした声で、リテラは僕に言葉を投げかける。
「ええと、こんにちは。リテラさん?」
予想していた人物と少し異なる印象につい、疑問形になってしまう。
「あぁ、おめは、テルミナスが呼んだ、ウニバル人だべか?」
なんだろう、この東北弁のようななまりは。そういや、テルミナスは関西弁だったな。そう思いながらも、僕はリテラの問いに頷いた。
「リテラさん、土器王について教えてください」
僕は、早速本題に入ることにした。
リテラは、赤く大きな瞳を輝かせ口を開いた。これは、マニアが知識を語るときに陥る現象だ。話は長くなりそうだ、僕はそう感じ、覚悟を決めた。
「土器王。伝説にいわく……すべての宇宙を支配した王様だべ……不老不死の方法を最初に見つけ、土器大人となった! とあるべや」
そう説明する。そして、さらに伝説について語りだした。このエスパッシはすべての始まりからあると言うこと。破壊神バルナは他の宇宙に渡り、すべてを壊す力を持っていること。最近頻発する揺れは封印されたバルナの復活の兆しかもしれないと言うこと。バルナを倒すには土器王を復活させるしかないことなど、端的に聞くことができた。
「伝説にいわく……土ではない人型のものが、危機の時に現れ、土器王を復活させる! と……あるべや。そして、今、伝説の示す通り、おめが現れた……」
伝説にいわく……、と言うのは、リテラの口癖なのだろうか。愛嬌のある口調に小柄な造形をしているので、親しみやすい印象を受ける。
「おめ、本当にウニバルからきただか?」
リテラの大きな瞳が、僕を捉えている。
「はい」
「そっか、これ……やるだ! 伝説にいわく……ウニバル人に渡せっ……てな。この部屋の司書に代々伝わっているだ」
「これは?」
手のひらサイズの曲線が美しい三角錐の焼き物を受け取る。
「それは、土器王の指だぁ。土器王再生の鍵らしいべ……きっと、大事なものだべな」
「そ、そうなんだ」
土器王の指をかたどった作りものだよね。まさか、土器王から切り取った指じゃないよね。ちょっと、恐ろしい想像をしてしまった。それにしても、指先だけでこの大きさと言うことは、土器王というのは、かなり大きいのではないだろうか。
「伝説にいわく……メモータルには、土器王復活の秘密が、隠されている!……と、あるべや」
次の行き先は、メモータルということになるのだろうか。
……とその時、再び、大地が揺れた。この世界に来てすぐのとき起こった地震とほぼ同じくらいの規模だ。
「うわ~~まただ~~いそがないと、エスパッシ……壊れちゃう~~」
ケマポンは、あわてている。
「どうか、この世界をば、お救いくだせぃ。伝説の土ならざる人」
リテラは、落ち着いていたがその瞳には、不安の色がやどっている。
「わかりました、がんばります」
僕は、別れの挨拶をして、リテラの部屋を後にした。