メモータルは、土器王が、この世界から去るときに建てたという、巨大な
白い柱の隙間から下を覗くと、そこの見えないどこまでも深い青色が広がっている。高所恐怖症の人がいたら……いや、そうでなくとも、この場所は、すこし背筋が凍る。それは、柱の間を吹きすさぶ風が、少し物寂しい音を奏でているからだろうか。
「実は、ボク、メモータルの中には、入ったことないんだ。司書長が言っていたんだけど……入り口は、ウニバルから来た人じゃないと開けられないって、言ってたよ。……わくわくするね」
ウニバル人である僕にしか開けられないメモータルの入り口、か。
「ケマポンも、たのしみなんだね」
階段の終わりにある石で出来た入り口は、固く閉ざされていた。
「開かないよ……ケマポン?」
僕は石の扉に、触れてみるものの、押しても引いても、隙間なくぴっちり敷き詰まっているその扉は、人の力では開きそうにない。
「あ……そういえば、メモータルに入るには、オツゲイシの言葉を聴かなくちゃいけないんだ」
そういう情報は、もう少し、早めに思い出して欲しいと僕は思う。一瞬、自分じゃ開けられない、お手上げかと思ってしまったよ。
「オツ……お告げ石? それはどこにあるの」
「オツゲイシだよ! 左脇の……へんな石像の中にいるの」
確かに、左脇に石灰色のオブジェがある。単なるオブジェだと思っていたのだが、違ったらしい。
「オツゲイシは、土器王が造った番人なんだよ……」
確かに、つぼみのような丸みのある変な形の石像がある。この中に、お告げ……いや、オツゲイシがいるらしい。
「とにかく……オツゲイシの前に立ってみて」
僕は、ケマポンに言われるまま、オツゲイシの前に立つ。すると、石の扉が左右に開き、中から鴉に似た黒い鳥の頭が出てきた。焼き物というよりは、金属に似た器械のような造形だ。
姿を現したオツゲイシは、「ぎゃぁお~」と、鳴き声をあげ、甲高い声で言葉を告げた。
「われは土器王のしもべ、オツゲイシ。聞け! 土器王……かく語りき! 『我が、復活の時来たりなば、ウニバルより、世界の秘密求めるもの、招くべし!』」
オツゲイシは、さらに言葉を続けた。
「ウニバルびと、ここに来たり! 今こそ、再生への扉は開かれた! 探せ! そして復活を!」
その言葉を合図に、メモータルの扉が開いた。ちゃんとした手順を踏まないと開かない扉……なんだか、マンションなどの入り口にある認証システムを思い出していた。
エレベーターとか、飛行器械とか、観光名所にある案内ロボットのようなオツゲイシとか、使われているのが主に焼き物なだけで、この世界は意外と、器械文明が進んでいるのかもしれないなと、僕はそう思った。
入り口から見える廊下の足元にはライトがあり、通路を照らし出している。石を積み上げて出来ている廊下を進むと、広い部屋に出た。まるで、ピラミッドの玄室にあるような、
「わぁ、すごい部屋だね」
ケマポンは言う。そういえば、ここに入るのは、初めてと言っていたっけ。
左右側の壁には、文字のような絵は描かれておらず、代わりに、大きな絵が描かれていた。左側には、大きな土器人らしき人が描かれている大きな壁画があった。土器人の右手には、なにやら武器のようなものが握られ、左肩には人間のような人物が乗っていた。そしてその背後に、巨大なクジラに似た飛行船のような物が描かれている。
「わわ、すごいね……この壁画。……なんだか、よく、わかんないけど。こ、この……おっきなひとは……ひょっとして、土器王? ……後ろにいる、もっとおっきなものは、いったいなんなんだろ? ……ちょっと、めまいが、してきた」
「大丈夫?」
「……うん。きっと……感動しちゃったんだね」
確かに、この壁画は壮大な感じがするものね。
反対の右側の壁画は、太陽のような模様の中に三角形が、そして、その中央に渦巻きの絵が、描かれていた。
「何かの魔方陣みたいだね」
「この壁画の模様、これは、どこかで、見た形……たしか……アルマ寺院から見えたような」
「アルマ寺院から見える……その場所に、土器王の何かあると言うことを示しているのかな」
「……多分ね」
その壁画の下に、円柱の台座がある。台座には、何か小さな石版が置いてあった。僕はその石版を手に取った。その石版には、壁に刻まれたものと同じような文字が刻まれている。
「ケマポン。何が書いてあるか分かる?」
「昔のことばで、書かれてるみたい。司書長か、ビブリオなら、読めるかも…… 」
司書長は今、石になってしまっているから、ビブリオに頼むしかない。この石版を持って、ライブラリーにもう一度行くことにしよう。
ちなみに、部屋の中央にある柱は、エレベータのようだった。上か下にまだ部屋があるのだろう。しかし、ボタンを押しても、動かなかった。よく調べてみると、エレベーターを制御する台座の中央に、何かをはめ込むための丸いくぼみがあった。きっと、そこに何かをはめ込まないといけないのだろう。
「なんだか、ゲームに出てくるダンジョンの仕掛けみたいだ」
手元に、そのアイテムがないので、これ以上の探索は出来ない。仕方がないので、手に入れた石版を持って、ライブラリーにいるビブリオの元へ、行くことにした。