再びライブラリーにやってきた。
薄暗い部屋に、宇宙のデータを記録する音が静かに響いている。
メモータルの雑多な感じの壁画を見た後だと、ライブラリーの整頓された空間は、無機物のように淡々としているように感じた。この雰囲気の差は、記録する場所と、記憶する場所の違いなのだろう。
ビブリオは、先ほどの部屋で、変わらず作業をしていた。
「あの、今、いいですか?」
そう言いつつも、返事を待たずに、メモータルで見つけた石版をビブリオの前に置いていた。
「何ですか、この石版は……おお、これは……古代の文字ですね……」
仕事を邪魔されて、少し苛立ちの気配が見えたが、それは、いらざる心配に終わった。石版の文字を見ると、ビブリオの瞳の中の光が輝きはじめた。
「何と書いてあるか分かりますか?」
「むふ……読んでみましょう」
ビブリオは、石版の文字を、ひとつひとつ読み上げていく。
『われ……ひとたび星々と……ならんとも……い、いつの日か……よみが……えらん。わが……メ……
「……こ、これは、土器王復活の秘密ですよ!」
土器人たちの表情は読み辛いのだが、ビブリオがもしも、彼が人間なら、顔が興奮で赤くなっていたかもしれない。しかし、彼は土器人、焼き物なので、顔色が変わったようにはみえなかった。それでも、目は口ほどにものを言うという格言どおり、目の様子を見れば、なんとなくわかるような気もしてくるのだ。
「意外と、難しい文章だな……覚えられるかな」
僕は、ビブリオが訳した言葉を忘れないように、口づさむ。
「メモか何かがあればいいのにね~」
ケマポンは、すでに覚える気がない。
人並みに記憶力はあるとは思うのだが、あまり使わない言葉と口調の連続で、なかなか覚えられずにいる。
しかし、その問題はすぐに解決することになる。
「おや? それは……」
ビブリオは僕のバケツの中のあるものを見て、そう言った。ビブリオが指差したのは、司書室で見つけた石版である。「バルナ」と司書長のメモが、書いてあったアレである。僕のバケツに入ったそれを見つけて、ビブリオは簡単に使い方を教えてくれた。
「我、ひとたび星々とならんとも、いつの日か蘇らん。我が
小さな黒板に似た石版に、日本語の漢字仮名混じり文で、そう書かれている。もちろん、これは、僕が書いた文字。
この石版のような器械を起動し、画面に付属のペンで描くと線が出るのだ。文字やアイコンの意味がわからない僕は、基本的に手書きでメモが書けるこの機能しか使いこなせていないが、なんて便利なのだろう。これで、いろいろメモができるぞ。
「僕のいた世界で、最近このタイプの携帯やらパソコンが流行っているのは知っていたけれど、まさか、似たようなものをこの異世界で目にするとは」
焼いた粘土でできているが、それは紛れもなくタブレット型のノートパソコンである。
「でも、これ、テルミナスさんの物ですよね。僕が使ってしまっても、いいのでしょうか」
これは、今は石になってしまっているテルミナスのものなのだ。貸してもらうにも、許可を得ることができない。
「大丈夫ですよ。これは、司書ならば誰でも持っているものですし、テルミナスは、快く貸してくれますよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて、しばらくお借りします」
訳された土器王復活の秘密の暗記問題も無事に解決した。
「さて……
ビブリオから、古代語で書かれた石版を返してもらう。今度は、アルシラへ行かなくては、いけないようだ。
「よ~し、行くぞ!」
僕は、やる気に満ち溢れこぶしを握り、空高く掲げた。
「あ……アルシラ行くには、飛行器械使わないといけないんだけれど……飛行器械のカギ、まだ見つかってないの。ごめんね~」
ケマポンの言葉に、僕は、「がくっ」と、膝をつきたくなった。
「ケマポン!」
「司書室の飛行器械……ですか? 確か、予備のキーがあったはずです」
ビブリオは、引き出しのつぼの中から、焼き物でできた棒のようなものを取り出した。それが、鍵のようだ。
「どうぞ、これを使ってください」
「いろいろ、ありがとうございます」
ビブリオは、しっかりしているなと、僕は心強く思った。