戻れるなら   作:いぁぁぁ


オリジナル現代/日常
タグ:ゲーム中毒
もし戻れるなら、普通に戻りたい。

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ゲーム中毒

 いつからだろう。気づけば、一日の半分以上をゲームに費やすようになっていた。

 

 おそらく、高校の頃──不登校になってからだ。現実から目を背けるように、ひたすらゲームに没頭した。銃、ナイフ、ありとあらゆる武器で敵を倒す。殺して、殺して、最後の一人になるまで生き残る。それが目的であり、すべてだった。1位になった瞬間、脳内に快感が走り、それで満たされていた。

 

「おい! 今の絶対ヘッドショットだろ! ふざけんな!」

 

 声を荒げる。だが、当たっていなかった。負けた。

 怒りが頭に血を昇らせる。感情のままに、壁を殴った。

 

「……クソが」

 

 けれど、その怒りも一瞬で萎んでいく。代わりに押し寄せてくるのは、理由のない虚無感。こんなことをして、いったい何になるのか? ゲームで勝とうが負けようが、所詮は数字の上での話だ。そんなのに一喜一憂する自分が、情けなくてたまらない。

 

 考えたくない。その虚しさに正面から向き合いたくない。だから、またゲームを始める。ゲームの中に逃げ込む。そうして、また苛立ち、怒り、物に当たる。そしてまた、空っぽになる──まるで、壊れた機械のように。

 

 どれだけ上手く銃を撃っても、どれだけキルを稼いでも、それは現実には存在しない、ただのデータだ。画面の中にしか存在しない、虚構の成果だ。

 

 現実に戻ると、スマホを手にして、なんとなくインスタを開く。そこには、かつての同級生たちの笑顔が並ぶ。サークル、旅行、恋人。眩しいくらいにリアルで、充実した日々。引きこもり、社会のレールから外れた俺とは、まるで別の世界に生きているようだった。

 

 画面を見るたびに、自分が惨めに感じる。苛立ちと自己嫌悪が交錯して、胸の奥で何かが軋む。

 

 頭の中で始まるのは、終わりのない自問自答。どうしてこうなったのか。なぜ俺はこうなってしまったのか。けれど、答えは出ない。何をしたって、どれだけ自分を責めたって、現実は変わらない。

 

 ゲームの中でしか、自分を示す場所がない。哀れで、滑稽で、救いようのない存在。それが今の俺だ。社会不適合者。もうその言葉が、皮膚の内側まで染み込んでいる。

 

 わかっている。親に迷惑をかけていることも、このままじゃダメだということも、全部理解している。だけど、動けない。怖いんだ。現実が。人間が。何より、自分自身が。

 

 他人にどう見られているのか、自分はどう評価されているのか、それがわからないまま人と関わるのが、心底怖い。社会という巨大な舞台に、俺が立つにはあまりに弱すぎる。

 

 物に当たって怒りを爆発させる俺は、制御不能な幼稚な子供に見えるだろう。そう、自分でもそう思う。無駄なプライドと歪んだ自尊心を抱えた、醜い人間。それが、俺だ。

 

 普通から外れた存在。それが、俺なのだ。

 

 ……ゲームをしようと手に取ったコントローラーを、そっと机の上に置いた。

 

 このままじゃダメだ。わかってる。どれだけ逃げても、どれだけゲームの中で勝ち続けても、現実の自分は一歩も進んでいない。腐ったまま、この部屋で朽ち果てていくのは、もう嫌だった。

 

 変わらなきゃいけない。怖くても、情けなくても、それでも変わらなきゃ。

 

 でも、どうやって?

 

 何百回と銃を撃ち、何千回とナイフで敵を刺し殺しても、虚しさは消えなかった。自暴自棄な自分自身が、そこに立ち尽くしたままだった。変わりたいなら、まずは逃げるのをやめなければ。現実を受け入れて、目をそらさずに向き合わなければ。

 

 たとえ、それがどれほど辛くても。

 

 まずは──部屋から出よう。

 

 簡単なことのようで、俺にはあまりにも大きな一歩だった。もう、2年。俺はこの部屋から出ていない。自分の殻に閉じこもったまま、時間を腐らせていた。

 

 息を飲み、震える手でドアノブに触れる。冷たい金属の感触が、やけに現実的だった。

 

 ゆっくりと扉を開けると、差し込む光が俺の顔を照らした。カーテンの隙間から漏れる昼の光が、まるで長い冬のあとに訪れた春のように眩しかった。

 

 ぎこちなく廊下を歩き、リビングへと足を踏み出す。

 

 そこにいたのは──母さんだった。

 

「……母さん」

 

 たった一言が喉の奥からやっと絞り出された。母は、まるで時間が止まったかのように、こちらを見つめていた。2年ぶりに見る俺の姿に、言葉も出ないのだろう。

 

 その瞳に浮かんだのは、驚きと──涙だった。

 

「あんた……」

 

 震える声が耳に届く。

 

「母さん……今まで、本当に迷惑かけた。ごめん。俺……変わりたい。変わるよ」

 

 言葉にすると、涙が出そうだった。でも、泣くのは俺じゃなかった。

 

 母さんが、ぼろぼろと涙をこぼしたのだ。

 

 突然の涙に、俺はどうしていいかわからなくなった。動揺して、立ち尽くす。だけどその涙は、怒りでも呆れでもなかった。許しと、安心と、待っていてくれた証のような涙だった。

 

 俺は──もう一度、生き直すんだ。惨めな思いから抜け出して、より良い人生を送るために。


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