完璧な王子の物語 作:浅野明
夜、第一王子の寝室には3つの影がある。
「はじめまして。オレはジル」
「はじめまして。よろしく」
王子はジルの口調を咎めることはせず、にっこり笑ってうなずいた。
「すごい…」
王子の笑顔に、ジルがうっとりする。ラディもまたもや目が離せないでいる。離れていても常に脳裏に浮かぶ美しすぎる顔は、すでに凶器といってもよいだろう。目を離せないか、直視することすらできないかのどちらかに分かれるほど、その笑顔の破壊力はすさまじかった。
「とりあえず病気を治そうか」
軽い口調でいうと、王子はあっさりと最上級の魔法を発動させ、ジルの病気を治してしまった。壊死していた手足の先も治っている。あり得ない現象に、ラディもジルも声がでない。王子は教皇でさえ難しく、大量の魔力を消費する魔法を使ったにも関わらず、疲れた様子も消耗した様子もない。この王子、化け物だろうか。単なる美貌だけの王子というわけではなさそうだ。
「さて、昨晩もいったけど、二人には僕の従者になってもらいたいんだ」
「……従者には貴族しかなれないだろう」
「養子になればいい」
ちょうど良い家がある、と王子が笑う。王子の中では、既に確定事項のようである。もちろん、二人にとっても断るなどという選択肢はないが、それにしてもあっさり信用しすぎではないだろうか。悪い大人に騙されないか心配になるレベルだ。
「ほかの従者は納得するのか?」
「ほかにはいないよ?」
揉め事にならないかと問えば、もともといた従者はたった2週間でやめてしまった、と肩をすくめる。辞めた理由は、と聞けば、常に真っ赤になってまともな受け答えができなかったというから、まあ、仕方ないのだろう。そのほかにも何人か付いたらしいのだが、だれもが王子を見ると目をそらすか、まともに受け答えができなため、結局十社が付けられなかったのだとか。王子の美貌をチラリと見て、二人はさもあらんと納得した。
「住むところは僕の部屋のとなり。給与もほかの王子についている従者と同じにしておくよ」
孤児で暗殺者のラディとジルには破格の条件だ。もともと奴隷契約をされても仕方ないと諦めていたのに、まさかの好待遇。
「なんか、僕お城の皆に嫌われているみたいで…」
と悲しそうにつぶやく王子を前に、自分たちが守らなければ、と思ってしまった。それほどにしょんぼりしている王子は、庇護欲をそそるのである。王子は、どうやら自分は嫌われていると思い込んでいるようだ。誰もがまっすぐに王子を見ることができないばかりか、まともな受け答えができない弊害のようである。
正直、いつ悪い大人に食い物にされてもおかしくない。今まで無事だったのが奇跡といえるだろう。いや、それも触れるのさえためらわれる神々しい美貌のおかげかもしれないが。
とはいえ、ラディとジルはこれがなにかの罠だったとしても、断ることはできないし、いまさら王子を一人にすることもできない。
2人は、王子の提案にためらいながらもうなずいたのだった。
※※※※※※
王子の従者になってから、彼ら2人は清潔な環境、健康な身体、理解ある上司を手に入れた。
二人は子爵家の養子になり、マナーをある程度身につけたら、すぐに王子の従者として城に勤めることとなった。基本は交代で常にどちらかが王子のそばについていることになる。王子のそばについていて分かったが、王子は万能だ。なんでもできすぎて教師が誰も2週間程度で「これ以上教えることがない」といってしまい、王子の教師を辞してしまうほど。教師がすぐに辞めてしまうため、王子は自分が嫌われているからだと誤解してしまうようだ。また、城のものは王子の顔が美しすぎて直視できるものがほとんどおらず、なおかつ声が麗しすぎてまともな応答ができない。遠巻きに見ているのが精いっぱいときているから、王子が孤立してしまう。
「王子は別に嫌われていないですよ」
ラディがそういっても、気を使っていると思われてしまう。
「うん、まあいいんだ。今は君たちがいてくれるからね」
うっとりするような美貌の王子は、とてもきれいにほほ笑んだ。
こうして、のちの希代の暗殺者となるラディとジルは完璧な王子様の従者となったのである。