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吠巻黒歌と師鬣未熟の歴史的和解によって、ライカーズはイラストレーター不在問題を完膚なきまでに解決した。
師鬣未熟こと獅子堂熟々丸はクロカに背中を押される形で己の技能をメンバーたちに告白し、クロカは問題解決を高らかに宣言した。
結果として、始まるのはお祭り騒ぎである。
「今度こそ、MV問題解決を祝って、乾杯!」
以前と同じ、ガレージでの宴会。音頭を取ったのはクロカでも熟々丸でもなく、なぜか括野完全子だった。こじつけるのならば、たとえば今まさにメンバーたちによって打ち合わされている飲み物の瓶の出どころが彼女であるから、なんて理由を用意することもできるけれど、しかしそれは正しいとはいえないだろう。ただのノリと勢い。もっといえば、酒を飲む理由ができた嬉しさゆえに、いの一番に彼女が声あげたというだけのことでしかない。
らいかは上機嫌だった。酒が飲める、というのはもちろんのこと、それ以上に、全ての問題が円満に解決したことが。ライカーズのMV問題も、クロカと熟々丸の確執も、そして己の性犯罪告発も、尽くが最も良い形で解決した。飲む酒にもなんの負い目もない。久々に、心の底から心地良く酔える。こんなに嬉しいことは他になかった。
「しかしびっくりだにゃー、まさかジュジュっちが絵まで描けるとは」
「まあ、あれですよ、手先の器用さは、楽器にも筆にも応用できる的な……」
「おうおうなんだなんだ。絵が描けねぇあたしらは手先の不器用な演奏下手だってか?」
「いや、違っ、そんなつもりじゃなくって……!」
「一番びっくりなのはその性格の変わりようだと思うけどね」
焱火伽羅子はケラケラと笑った。それについては、らいかも完全な同意見だ。
獅子堂熟々丸は、キャラを作るのをやめた。その心から太刀を捨て去り、代わりのように、己の本心を曝け出した。
これまでの全てを謝って。
自分を偽っていたことを謝罪して。
その弱さゆえの攻撃性を、完膚なきまでに捨て去った。
「あんたら、あんまり熟々丸のこといじめんじゃないわよ」
「へいへい、わかってんよ。喧嘩も体もうれうれのお侍さまじゃなくって、本当は未熟なお姫様だったんだもんな、未熟ちゃん?」
「そっちの名前で呼ばないでくださいってば!」
ここにいるときは、私は熟々丸なんです! と彼女は宣言した。ちょっぴり足は震えていたが、それでも獅子のように、堂々と。
「未熟だって言うんなら、むしろ前の方が未熟だったんですよ、私は。未熟だったから、あんなふうにみんなを威嚇するしかなかったんです。あれは黒歴史なんですよ。あんまり蒸し返さないでください。今の私は成長したんです。クロカさんとらいかさんのおかげでね」
今の方が熟れ熟れですよ、と彼女は唇を尖らせて、ジュースの瓶に口を付けた。
「かはは、酒も飲めねぇ歳だったくせして熟れ熟れかい。きゃわいいねぇ。お姉さんがぎゅーしてやろうか?」
「助けてくださいクロカさん! 虎兎さんのテンションがおかしいです!」
酔って顔を赤らめる虎兎に肩を抱かれて、彼女は怯えるフクロウのように縮こまる。それを見て完全子は腹が引き攣るほど爆笑していた。
「らいか、ゴー」
「虎兎、ぎゅーするなら私にしないか?」
「お、なんだよ嫉妬か? しゃあねぇな、こいよ。どこまでもクレバーに抱きしめてやるぜ」
「では失礼して」
らいかは真正面から虎兎と抱擁しあった。柔らかな女体の感触を全身で味わい、らいかはだんだん辛抱がたまらなくなってきたが、クロカの冷たい視線を受けることで、なんとか茹だる頭を沈めることができた。できたはずだ。できたんじゃないかな。あ、ちょっとダメかも。
「おいお前、どこ触ってんだ、こら」
「らいか、殺すわよ」
「待ってくれ違うんだ。私は虎兎の尻を触ろうだなんてこれっぽっちも思ってはいないんだ。ただ、虎兎の尻の方が私の手に擦り寄ってくるものだから仕方なく――」
「死ね」
クロカの平手打ちが後頭部を襲い、らいかは仕方なく虎兎の体から離れた。酒で熱った体温が名残惜しく、離れれば肌寒さをすら感じる。これが寂しさか、とらいかは心の中で涙を流した。
温もりから引き剥がされたらいかは、クロカの隣に戻る。
「それで、MVの方向性は結局、どうするんだ?」
らいかは仕方なく、真面目な話をした。祝いの席でどうかとも思ったが、しかし何も、それに反する暗い話題というわけではないのだ。話しておけるなら、話しておくべきだろう。
「そうね。どうしようかしら」
シラフのクロカは、むしろそういう話題をこそ待ち望んでいたようだった。
「想定してたような外部委託ではなくなるわけだから、枚数は贅沢に使えるわよね」
「流石に、アニメーション系は難しいと思うぞ。いくら描くのが上手くても、熟々丸は一人だ」
「んなこたわかってるわよ。あんたならともかく、熟々丸にそんな無茶させるわけないでしょうが」
私だったらさせるのか、とらいかは思ったが、それに文句を言えるほどの立場でないことは流石に理解していたがために、あえて口には出さなかった。
「そうねぇ。最初は、こっちでコンセプトを伝えて、一枚ずつ絵を描いてもらって、って形式にするつもりだったけれど、いっそ、熟々丸に全部任せちゃうってのもありかしら」
「つまり、彼女の解釈に任せる、と?」
「まあ、そーゆーこと。あいつが
その言葉に、らいかは微笑む。どうやら二人の関係改善は、修復以上に上手くいったらしい。
「ま、だから、なんというか……その」
彼女はもじもじと、何かを言いたげに言葉を詰まらせる。
「なんだ?」
「あれよ……あんたも、その――協力してくれて、ありがとう、ってこと」
彼女はそっぽを向きながら、それでも確かに、六町らいかに感謝を告げた。
「あんたのおかげで、熟々丸と、ちゃんと友達になれた」
熟々丸のことを、ちゃんと知ることができた。
ちゃんと信頼することができた。
ちゃんと信用することができた。
「それは、あんたがいなきゃ、きっとあり得なかったことだと思うわ」
だから――ありがとう、と。
彼女はらいかに、手を差し出した。
「……これは?」
「鈍いわね。握手よ、握手」
あんたにされたことを、許そうとは思わないけれど。
「それでもあんたを――仲間だとは認めてやるわ」
彼女はへんと鼻を鳴らし、太々しく笑って見せた。
らいかは思わず、破顔する。
「それはこの上なく、嬉しいセリフだ」
その手をがっしりと握り返す。手のひらの大きさには随分と差があって、ともすれば不釣り合いであるとさえ言えるような握手だったけれど、それでも。
それは苦楽を共にした、仲間同士だけが紡げる、確かな絆の象徴だった。
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