ロック・マッチ・ライカーズ!   作:忘旗かんばせ

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第八話 1

 1

 

「イラストMV一曲目は、『霹靂の肖像』で行くわ」

 

 宴の締めに、クロカは高らかと宣言した。

 

 それは半年ほど前に作られた曲であり、ライカーズの曲の中でも。人気の高いものだった。らいかも、以前のライブで聴いたそれだった。

 

「流行りのハイテンポ系で、ライブでの人気も上々。それでいてコアすぎる曲調でもないから、イラストMVにも合う……と思う」

 

 最後の最後で自信が失速したが、しかしそれに否定の声を上げるメンバーは誰もいなかった。

 

「絵は、熟々丸に全面的に任せる。あんた自身の解釈で、好きなように描いて欲しい」

「わ、わかりました」

 

 熟々丸が頷けば、クロカは続ける。

 

「んで、それを映像にすんのは虎兎ね。私も協力はするけれど、メインは虎兎で」

「任せとけ」

 

 虎兎は言って、余裕たっぷりに笑って見せた。

 

「そういうわけだから、熟々丸は虎兎と密に連絡してよね。そこの連携が上手くいかないと絵ができたはいいけど動画には上手く使えませんでした、なんてことになりかねないから」

「わかりました」

「了解」

 

 二人の頼もしい返事が返って、クロカは満足げに鼻から息を吐いた。

 

「あと、締切、ってほどじゃないけど、期間は決めておきたいわね」

 

 クロカは顎に手を当る。

 

「とりあえず、大体三ヶ月くらいを目処に行きましょう。その頃には、とりあえず仮組できるくらいを目指すつもりで。こういうのは、なるべく早い方がいいわ」

「三ヶ月か。意外とかかるんだな」

 

 クロカの宣告に、らいかは何も考えず言った。

 

「あんたね、絵描くの舐めてるでしょ。言っとくけど、三ヶ月ってかなりのハードスケジュールよ」

「そうなのか?」

 

 らいかが熟々丸に視線を向ければ、彼女はうーんと腕を組む。

 

「確かに、一から描くなら結構きついですね」

 

 彼女の言葉に、虎兎は目敏く反応する。

 

「そりゃあ一からじゃなければ、早く行ける、ってことか?」

「え?」

 

 そう問われてようやく、熟々丸は己の失言に気付く。

 

「いや、それは、その――」

 

 彼女は両手をワタワタと動かし、否定の言葉を吐こうとする。しかしそれが放たれるよりも先に、クロカが彼女の両肩を掴んだ。

 

「熟々丸。私はあんたを信頼してるわ」

 

 だからこそ――

 

「隠し事は無しで行きましょう?」

 

 その言葉はまるで聖母のような微笑みと共に放たれたように、少なくとも外側から見ていたらいかには見て取れたのだったけれど、しかし熟々丸からしてみれば、それは間違いなく悪魔の微笑みであった。

 

 かくして。

 

 MVが完成したのはわずか一週間後のことだった。

 

 それだけ早くMVが完成したのは、もちろん獅子堂熟々丸が常軌を逸した速筆家であったから――なんて理由ではなく。

 

 彼女が元々、ライカーズの曲をイメージして、密かに絵を描き溜めていたからだった。

 

「個人的に描いてたやつなんで、ちょっと、かなり、ものすごく恥ずかしいんですけれど」

「それがいいのよ。あんたの解釈を求めてんだから」

 

 顔を赤くして悶絶する熟々丸に、クロカは言った。

 

 そんなこんなで、蔵出しされた熟々丸の絵を元に、虎兎とクロカは協力してMVを作り上げ――件の宴会の日から一週間後となる今日。ついにお披露目の時を迎えたのだった。

 

 いつも通り、完全子(ぱふぇこ)のガレージに集まったライカーズのメンバー――プラス六町らいか――は、用意されたスクリーンに投影されたMVを鑑賞する。

 

 いつもと違って――酒は無しだ。らいかにとっては残念なことだが、しかしまさか大切なMVの評定を、酔っ払ったまま行うわけには行くまいだろう。

 

 照明の落とされたガレージ。壁にかけられた白いスクリーンに、プロジェクターから映像が投影される。

 

 音はない。映像だけだ。だが映像だけであっても、あの時のライブで聴いたその歌声が、今にも聞こえてくるようだった。

 

 獅子堂熟々丸がその繊細な感性で鮮やかに描き上げた『霹靂の肖像』の世界。雷鳴のように駆け抜け、その光で人々の目を焼き尽くしたいという、破壊衝動にも似た願望。美しく、鮮烈に、若きままに燃え尽きたいと歌う、華やかなるデストルドー。命を燃やして放った輝きが、未来永劫人々の心に焼き付いて欲しいと祈る、痛烈なエゴのリビドー。永劫と刹那、相反する二つをけれど同時に欲する強欲。それを高らかと、どこまでも痛快に、いっそ爽快にさえ歌い上げる、小さな歌姫。その全てを、彼女の絵は完璧に表現し切っていた。

 

 わずか三分半。たったそれだけの短さでありながら、まるで一本の映画を見切ったような重たい充実感を叩きつけられる。それほどまでにそのMVの出来は素晴らしく、だからこそその映像を見終わった時、ライカーズのメンバーは誰もが無言のまま、確信した。

 

 そのMVが、ライカーズ最初の大ヒットを産むことを。

 

「これは……すごいな」

 

 らいかは思わず、ため息のような賞賛を漏らす。圧倒された、という他にない。初めてライカーズのライブを見た時と同じ衝撃を受けた。まさしく、その映像はライカーズそのものだった。

 

 これに音が付いたらどうなるんだろう。そう思ったのは、らいかだけではなかったのだろう。

 

「……やるわよ」

 

 クロカは静かに言った。

 

「今から、このMVのミュージック部分の収録をやるわ。それが完成次第、すぐに投稿。みんな、用意はいいわね?」

 

 彼女は言って、楽器を手に取る。

 かくしてその日、ライカーズ最初のイラストMVは完成する。

 

 それが投稿された時、彼女らの確信は、決して間違いではなかったことが証明され、そして――

 

 2

 

「見なさい」

 

 彼女は六町らいかにスマートフォンの画面を差し出した。

 

 MVのお披露目日から、さらに一週間後。ライカーズの面々と六町らいかは、またもいつものガレージに集まっていた。

 

「一万回再生よ」

 

 差し出される画面には、一週間前に大手動画投稿サイトに投稿された、『霹靂の肖像』のMVが映っていた。

 

 その再生回数は、一万飛んで九百十二。

 これまで二桁が当たり前だったライカーズのMVとしては、ほとんど破格と言っていい数字だったが――

 

「……もうちょっと行っても良さそうなものじゃないか?」

 

 らいかは思わずそんな言葉を口にする。

 

 だって、あれだけ素晴らしいMVだったのだ。世間でもてはやされているような、百万回再生超えのMVと比べたって、まるで遜色のない出来であったはずだ。

 

 それが――一万回再生か。

 成功では、きっとあるのだろう。

 ヒットでは、あるのだろう。

 あるのだろうが――物足りない。

 

「……すいません、私の力が及ばないばっかりに」

 

 熟々丸は見ていてかわいそうになるくらい深々と落ち込んでいた。

 

 当然だろう。魂を込めて描いたはずのMVが、しかし思ったよりはずっと、ずっと低い評価しか受けられなかった。

 

 彼女が心の底から敬する吠巻黒歌の、その曲の顔とも言える映像を担当しておきながら――この程度の結果しか出せなかった。

 

「やっぱり私の絵じゃ、ダメだったんです」

 

 クロカさんの歌を彩るには、まるで足りなかった――

 

 彼女は涙ながらに語るが、しかし。

 

「それは違うと思う」

 

 らいかはキッパリと言った。

 

「熟々丸の絵は、虎兎たちが作り上げたMVは、ライカーズの音楽を、『霹靂の肖像』を、この上なく完璧に表現していた」

 

 少なくともあの映像を見た時に受けた衝撃は、初めてライブで音楽を聴いた時と同等だった。

 

「それなら答えは単純ね」

 

 クロカは肩を落としていう。

 

「つまり、私の音楽は所詮その程度ってことよ」

 

 MVにこだわって、完璧なものを作っても、一万回再生が関の山の、十把一絡げの取るに足らない音楽だったってことだわ。

 

 彼女はへん、と弱々しく鼻を鳴らして言う。

 しかし――

 

「それも違う」

 

 らいかは断言した。

 

「お前の音楽は、素晴らしいものだ。この世の誰もに届かせることは、確かに出来ないかもしれない。しかしだからこそ、()()()()()()()()()()()()の元には、絶対に届く音楽なはずだ。そしてそれは、たった一万人程度のそれで終わるようなものではないと思う」

 

 それこそ百万人にだって、一千万人にだって、一億人にだって、届くはずだ。

 

 いまだに動画再生数の仕組みを勘違いしているらいかだったけれど、しかし彼女の言葉は本気だった。

 

 彼女は本気で、吠巻黒歌の音楽は一億人にだって届く音楽だと信じていた。

 

 だからこそ――

 

「このMVはおかしい」

「……何がおかしいのよ」

()()()()()()

 

 その言葉に、クロカは「はあ?」と声を歪める。

 

「最初は、MVのせいかと思った。感動が、ライブで聴いた時より少ないのはそのせいか、と。しかし、違った」

「何よ、また音質問題に立ち返るわけ?」

「それも違うんだ」

 

 映像が完成されたことで、やっと気づけた。

 らいかはまっすぐに視線を向けて、言う。

 

「クロカ」

 

 お前――

 

「歌う時、()()()()()()()()()()()()

 





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