ロック・マッチ・ライカーズ!   作:忘旗かんばせ

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第十一話 2

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「まずは、本当に現場には誰も入り込んでいなかったのか、を調査するべきだろう」

 

 翌朝、六町らいかはそう言った。

 

 本来なら。昨日の夜からでも、怪人探しを始めたかったのだけれど、流石に、夜も遅くになりすぎていた。

 

 仕方なく、クロカはらいかの家にて泊まり、翌朝となる今日。

 

 本格的な捜索を、始めることとなった。

 

「……そうね」

 

 あの時。

 熟々丸の死んでいたガレージには、鍵がかかっていた。シャッターも閉じっぱなしで、開閉した記録もなかった。

 

 普通に考えるのならば、状況的には密室であり、外部からの介入はなかった――自殺だったと考えるのが自然となる情報だが――しかし。

 

 あのガレージに限っては、むしろ逆になる。

 

 ライカーズの面々には、基本的にあのガレージに鍵をかける習慣はなかったのだ。

 

 特に、あの時は、獅子堂熟々丸直々に、クロカは呼び出されており、そんな状況で、彼女が自分から鍵をかけるはずがない。

 

 あの鍵は――犯人によってかけられたのだ。

 二人はガレージにやってきていた。あの日以降、そこに人が集まることはなくなっている。今もそこに人気はなく、鍵は、今日もかかったままだった。

 

「完全子に知らせなくていいのか?」

「怪人の話を?」

 

 あれ以来、完全子は部屋に閉じこもっているらしい。火葬場で、あれほど感情を乱れさせていた彼女に、今、こんな話を持っていけば、間違いなく冷静ではいられなくしてしまうだろう。それは、クロカの望むところではなかった。

 

「他のメンツに、知らせるつもりはないわ」

 

 危険を被るのは、自分一人で十分だ。そこまでは口に出さず、彼女は言葉を切った。

 

 ガレージの中に入る。

 

 中は暗い。電気をつければ、すぐにいつもの風景が浮かび上がってくる。死体の跡は、もう綺麗に片付けられているけれど、なぜだか少し、血の匂いがするような錯覚がした。

 

「指紋は出なかったんだったな?」

「ええ。指紋も靴の跡も、なにも。それが拭き取られた、なんてこともなかったらしいわ。少なくとも()()()ここに入っていたのは、私たちだけ」

 

 それは確定している。とクロカは言う。

 らいかは目を細めた。

 

「となると、犯人は()()()()()()姿()()()()()()()()()()ことになるな」

 

 クロカは顎に手を置いた。

 怪人としての姿で入り込んだ――か。

 しかし――それにしては。

 

「現場が荒れてないわよね」

 

 犯人は怪人としての姿を晒しておきながら、丁寧にドアを開け、中のものは何も壊さず、熟々丸だけを殺してひっそりと去っていった。

 やっていることは、まるで暗殺者だ。

 

「……そこまでして、あいつを殺す意味、って何かしら」

 

 通り魔的な犯行であるなら、もっと殺しやすい相手がいたはずだ。

 

 確かに、入り口の鍵が空いていたなら侵入は容易かっただろうが、そもそも()()()()()()()()()という発想を、何も知らない人間が持つだろうか?

 

 それに――

 

「……鍵」

 

 鍵が、閉まっていたのだ。

 犯人は、()()()()()()()()()()()()

 

「……ねえ、あんたから見て、ここに怪人が入り込んだ痕跡、って、ある?」

「……少なくとも入り口付近には、見当たらない」

 

 数多くの怪人を相手にしてきたらいかから見ても、怪人の痕跡を見つけることはできなかった。たとえば怪人は、昨日戦った昆虫型の怪人のように、鋭い爪や棘を持つもの、あるいは体表に獣のような体毛を持つものや、粘膜状の皮膚から粘液を分泌しするものなど、人間とは大きく異なる特徴を持つことが多い。

 

 だからこそ、()()()()()()で現場を見ているのだが――そのような痕跡は、らいかには見つけられなかった。

 

 クロカは彼女に背を向けたまま声をかける。

 

「……ねえ」

「なんだ?」

「精神を操る怪人がいる、って話だったけれど、それって、どのくらいの程度で相手を操れるものなの?」

 

 クロカは問うた。

 

「……たとえば私の弟を狙った怪人の場合は、声を聞かせることで、()()()()()()()()()と錯覚させる能力を持っていた」

 

 らいか自身、その能力を食らったからこそ、それはよく覚えている。

 

「なんというか、警戒心が無くなるんだ。ああ、こいつは友達だ、と。絶対に違うと分かっているのに、心が安心してしまう。安心して、気を許して、心を許して、委ねてしまう」

「……それ、どうやって倒したわけ?」

「怪人が操るのは、精神だけだった」

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()

 どれほど大切な友人であろうとも――弟の仇であることを、彼女の頭は覚えていた。

 

 だから、ケジメをつけさせた。

 

 彼女の心は、それができる構造をしていた。

 

「なるほどね。つまり――精神を操る能力も、万能ってわけじゃないわけだ」

 

 クロカはため息を吐く。

 

「そうだな。他にも、粘膜接触をすることで相手に強制的に愛情を抱かせる能力や、向かい合うことで自分と相手の痛みを共有させる能力、あるいは視線をキーとして幻覚を見せる能力なんかを相手にしたことはあるが、どれもこれも、なんでもできるというわけじゃあなかった」

 

 怪人の異能にも法則性はあり、その力はあくまでも限定的だった。

 

「声を聞かせるとか粘膜接触とか、そういう、条件みたいなものは、必ずあるものなの?」

「少なくとも私が戦った相手はそうだったな」

 

 いくら怪人といえど、完全な無条件で他者に干渉できるような力を持つものはいない。それができるのなら、人類はとっくに滅ぼされている。

 

「なら、さ」

 

 クロカは問う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような怪人って、居ると思う?」

 

 それはどういう意味だろうか? 質問の意図を測りかねたらいかが、クロカへと問い直そうとして――

 

 がちゃり、と。

 

 ドアの開く音が、聞こえた。

 

「あら、鍵開いてらあ」

 

 ヘラヘラとした、どこまでも軽い声色で、侵入者はそんな言葉を白々しく宣った。

 

「嫌だねえ、不用心でさあ。こんなんじゃ、入ってくれって言ってるようなもんだぜ」

 

 背の低い男だった。

 

 身長はせいぜいが百五十センチといったところだろうか? しかし、子供、というわけではない。年齢はおそらく、二十代前半だろう。初めたのであろう茶髪に、マーブル柄のウェリントン型メガネ。半袖の白シャツに、腰履きにした緑色のニッカボッカ。靴はサンダルで、素足でそれを履いていた。

 

「――何奴」

「クカカ、何奴、ね。時代掛かった言い回しじゃねぇかよ、()()()()()

 

 男は髪をかきあげながら言う。その瞳が、らいかを見つめて――笑う。

 

「俺様の名前は、天間(たかしま)獣国(ししくに)――〈怪人〉さ」

 

 瞬間――男の体が()()する。

 

 その頭頂から、二つの獣の耳が生え、その瞳が、黒々とした真珠のようなそれに変わる。

 両腕の肘から下には、針のように鋭い銀色の毛が生え揃い、その先端の手指には、鋭い爪が並ぶ。最後に――腰のあたりから、鼠のような長いしっぽがするりと伸びた。

 

 半人半獣。

 

 変わり果てた男の姿を表現するのならば、それこそが相応しかった。

 

「なるほどな、犯人は現場に戻ってくる、というわけか」

 

 探す手間が省けた。らいかは言って、獰猛に笑う。彼女は昨日と同じく、羽織に高下駄の戦衣装。争うに一切の不足はなし。

 

 獣国は肩をすくめる。

 

「……ま、そういうことさ。あんたらにゃ悪いが、色々と嗅ぎ回られるのは困るんでね」

 

 ここで死んでもらう――なんて、獣国の一方的な言葉に、クロカは歯をギシリと鳴らした。

 

「……あんたが、熟々丸を殺したの?」

「熟々丸?」

「あんたが殺した女の子よ」

「……ああ、なるほどね。差し詰め、あんたの友達だったってとこか」

 

 獣国は後ろ頭をかいて、ため息をついた。

 

「そうだよ、俺殺した」

 

 それを聞いた瞬間、クロカは自分の精神が沸騰するのを感じた。

 

「どうして――!」

 

 反射的に、クロカは獣国に詰め寄ろうとする。それを諌めたのはらいかだった。

 

「クロカ、前に出るな」

 

 腕を掴まれ、けれどクロカは止まらない。

 

「うっさい、あんたは黙ってろ!」

「……あんたさ、お友達の忠告には従った方がいいと思うぜ」

 

 クロカは獣国を睨みつける。

 

「どの口で――!」

「逆にさ、どうしてだと思う?」

 

 虚を突くように放たれた質問が、クロカの心に冷や水をかける。

 

「はぁ?」

「なんで怪人は人間を殺すと思う?」

 

 獣国の眼差しは真剣だった。

 

「……知らないわよ、そんなの。本能なんじゃなくて?」

「本能ね。それは確かに、間違っちゃいないと思う。本質的なところで、怪人は人間を殺したがる」

 

 けれど――

 

「それってのは、怪人が()()()()()()()だからだ」

 

 男は言う。

 

「怪人は、ある日突然怪人としての衝動に襲われる。――それを怪人に()()と言う奴もいるし、()()()()と言う奴もいる。後天的にか先天的にか、それは結局、俺たち自身にもわからない。でも多分、俺は怪人には()()ものなんだと思っている」

 

 なぜかって言えば――

 

「怪人に()()やつは、決まって社会に馴染めない奴ばかりだからだ」

 

 この社会に対して――この世界に対して、漠然と感じる()()()。それが、怪人に人を殺させる。

 

「な、あんた」

「……何よ」

「あんたさ、()()()()って思ったこと、ある?」

 

 ちなみに言うと。

 

「俺は、あるぜ」

 

 彼は笑って言った。

 

「昔は、怪人として目覚める前は、毎日のように思っていた」

 

 どうして俺は。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「世間で『当たり前』って言われてるようなことにさ、耐えられないんだ」

 

 人と話を合わせることが、難しい。

 他人の欠点を論って、見下す、下劣な言論を、冗談と呼んで笑い合う。そんな文化に辟易する。

 

 自分を正義だと信じ込んで、一方的なポジショントークで他人を断罪しようとする、そんな風潮に耳を塞ぎたくなる。

 

 テレビのニュースで犯罪を取り扱う時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、許せない。

 

 犯罪を、当人だけの責任のように語ることが、本当に正しいのか?

 

 周囲の環境が、心無い言葉が、下卑た冷笑が、犯人にその道を()()()()()()()()()んじゃないか――なんて、そんな風に思わずにはいられない。

 

 人間は。

 他人の痛みに、あまりにも無関心だ。

 

「昨日の夜、見ず知らずの怪人の命を助けてくれたあんたなら、わかってくれるんじゃないか」

 

 己の醜さに、耐えかねて。

 人を殺すしかなかったあの人に同情してくれた、あんたにならば。

 

 縋るような眼差しに、クロカは――

 

「……怪人ってやつの境遇に、同情をしないと言えば、嘘になるわよ」

 

 多分。

 クロカも、きっと『そっち側』の人間だ。

 怪人が、ある日突然()()ものだというのなら、クロカだって、怪人に成っていてもおかしくはなかったのだろう。

 

 だが――それでも。

 

「私は――熟々丸を殺した相手を、許すことはできないわ」

 

 そこにどんな理由があったとしても。

 ()()()()()()()()()と思う気持ちが止められない。

 

「あの時、あの虫野郎を見逃したのは、別に確固たる理屈があったわけじゃない。単純に私が、らいかが人を殺すところを見たくなかったからよ」

 

 だから――

 

「あんたのことは、私がこの手で直々にトドメを刺して、ぶっ殺してやるわ」

 

 それで、おあいこよ。

 へん、と。

 彼女は鼻を強く鳴らした。

 

「……そうか」

 

 そうだよなあ、なんて、どこか寂しげに呟いて――彼は。

 

「それじゃあ悪いけど――あんたら二人とも、死んでくれ」

 

 言った――瞬間。

 部屋の奥で――がたりと。何かが倒れる音がする。

 

 それは。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その口が、開いて。

 しゅうしゅうと、ガスが漏れている。

 その側には――数匹の鼠が這い回っていた。

 

「俺の怪人としての能力は、()()()()()()

 

 お世辞にも強力な能力とは言えないが――

 

「しかし、馬鹿と鋏も使いよう、だ」

 

 聞いてるぜ――

 

「あんた、『ガンマン』なんだってな」

 

 六町らいかへと、不敵に笑いかける。

 

「私も有名になったものだ」

 

 らいかは肩を竦めて言う。もちろん冗談だ。おそらくは、あの昆虫型の怪人との戦いの時、どこから聞き耳を立てられていたのだろう。

 

「銃を使えば、ガスに引火する。あんた自身も、後ろのお友達も、まとめてドカンだ」

 

 だからこそ――あんたはもう、銃を使うことは出来ない。

 

「悪いが、嬲り殺しになってもらうぜ」

 

 言いながら、彼はポケットから手を引き抜いた。そこには、一本のナイフが握られている。

 刃渡はせいぜいが十センチ程度といったところ。果物ナイフのような、チャチな作りだ。しかし――それは無手で相手をするには、あまりにも危険すぎる凶器。らいかは咄嗟に、クロカを背後に庇う。

 

 獣国は順手に握ったそれを、先端を振りかざすように構えた。鋒が電球の明かりをぎらりと跳ね返し、その凶暴性を知らしめる。

 

 刹那の睨み合い。後――

 

「――シャアッ!」

 

 威嚇するように乾性の叫びを上げて、獣国は飛びかかった。

 

「っ、らいか!」

 

 思わず名を呼ぶ。クロカの声に――しかしらいかは。

 

「心配無用」

 

 一言、呟き。

 

 ダァ――――ン、と。

 

 雷鳴が、鳴り響く。

 

 見れば――天間獣国は、()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぶっ――は……」

 

 鼻から血を吹き流し、痛みに呻きながら、獣国は床に広がる。

 

 爆発はなく。らいかの手には――ただ、()()()()()()()()

 

 雷火の如き銃声は――()()()()()()()()()()()()()()。瞬足の踏み込みが――雷鳴を呼んでいたのだ。

 

 そう、らいかは眼前の怪人のその顔面を、拳によって()()()()()()()()

 

「っ、てめぇ――『ガンマン』じゃねぇのかよ!」

 

 血の滴る鼻を片手で押さえながら、獣国は叫ぶ。

 

 それに対し、らいかは不思議そうに言った。

 

「ああとも、私は『ガンマン』さ」

 

 よく言うだろう――彼女は手をピストルの形にした。

 

「『拳』銃ってな」

 

 私の拳は、銃並みさ――

 

 冗談めかして言われた言葉に、獣国は奥歯を噛み締める。

 

 違う。

 

 絶対に違う。

 

 拳銃というのは、そういう銃の種類を指す言葉であって、断じて()()()()()()()()()()を指す言葉ではない。

 

「そういうわけだ。私の銃は、火花を散らしはしなくてね」

 

 お前の対策は、大失敗というわけだ。

 

 たった今、身をもって思い知ったそれを改めて言葉で告げられて、獣国は冷や汗を流す。

 

 拳一発で人間大の生き物を吹き飛ばすような規格外の拳士相手に、ナイフ一本で対抗するなど不可能に近い。それこそ、こちらが銃を使いたいくらいだ。

 

「チィッ!」

 

 獣国は盛大に舌打ちをして、手中のナイフを投げつけた。それは当たり前のように拳で弾かれるが――その一瞬の時間が欲しかった。

 

「――鼠ども、襲えっ!」

 

 うぞ、うぞ、()()()()()()()()

 

 ガレージのどこに、それだけの鼠が潜んでいたというのだろう? 数十匹を超える鼠の大群が部屋の各所から這い出し、らいかたちを襲う。

 

「っ、き、気色悪い!」

 

 身を掻き抱いて、クロカは悲鳴を上げる。

 

「気色悪いだけじゃあないぜぇ。鼠の牙ってのは、意外と鋭いんだよぉ!」

 

 穴だらけのチーズになりな――なんて、その声に呼応するように一斉に飛びかかった鼠が、らいかの体を覆う。

 

 が。

 

「微温い」

 

 全身を鼠に集られたまま、らいかはその場で足を踏み込んだ。

 

 発勁、という技術がある。

 

 中国武術における基本にして奥義ともされる概念であり、その根幹は()()()()にある。

 

 運動によって発生するエネルギーを、体内にて自在に移動させ、望む場所にて発露させる。それこそが発勁の極意であり――たった今、らいかが活用した技術であった。

 

 その踏み込みは――しかし雷鳴の如き音色を奏でることはなく。

 

 代わりに――ぱん、と。

 

 まるで風船が弾けるような高い音色が響き――らいかの体に集っていた鼠たちが()()()()()()()

 

 ぼとぼとと地面に落ちた鼠たちは、その尽くが意識を失い、目を回していた。

 

 踏み込みによる運動エネルギー。それを発勁により()()()()()()()()()、そこに張り付いていた鼠たちへと伝達したのだ。

 

 結果として、踏み込みによって本来発生したはずのエネルギーをその身に直撃させられた鼠たちはその肌から弾き飛ばされ、あまつさえその意識を失うほどの衝撃を受けることとなった。

 

 自由の身になったらいかは――鋭い眼差しで、獣国を見つめる。

 

「さて、次はどうする?」

 

 ――次なんてねぇよ。

 

 そう言えれば、どれほど良かっただろう。

 

 獣国にとって、取れる手段は今のが最後だった。もうこれ以上は何もない。切り札も隠し札も、すでに切った後だった。

 

 どうする、どうすればいい。

 

 獣国は背筋に冷や汗を掻いた。

 

「そちらから来ないのなら、こちらから行かせてもらうぞ」

 

 一歩。雷鳴の拳士が、その足を踏み出す。

 ぞっとするような破滅の予感。獣国は己の死を覚悟して――

 

「もういいわ」

 

 ため息と共に、クロカは肩を落とした。

 

「クロカ?」

「多分だけど――そいつ、()()し」

 

 その言葉に、獣国はびくりと肩を跳ね上げさせる。

 

「こいつは――熟々丸を殺した犯人じゃない」

 

 クロカは、冷めた目で獣国を見下していた。

 

「どういうことだ?」

「どういうことだも何もないでしょ。こいつの能力で、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 天間獣国。

 

 彼の怪人としての能力は――鼠を操ること。

 

 断じて、人を操ることでは、ない。

 

 クロカはらいかの背から出て、へたり込む獣国の眼前へ立つ。

 

「ねえ、あんた――なんで嘘をついたの?」

 

 自分が熟々丸を殺した犯人だなんて――すぐバレる嘘を。

 

 その言葉に――彼は、両手を上げた。

 

「降参だ」

 

 全てを話す。

 

「だから――殺さないでくれ」

 

 獣国は、跪いたまま腰を折り、頭と両手を地面につけた。

 

 つまりは、土下座の姿勢。

 

 二人の少女は軽く目を見合わせ――

 

「いいからとっとと話しなさい」

 

 その頭を蹴っ飛ばした。

 

 3

 

「何から話そうか。まずだけど――俺は、ここでジョシコーセーが死んだっつー事件には関わってない」

 

 天間獣国は白状した。

 

 彼はすでに、人間の姿に戻っている。今は申し訳程度に両手を縄で縛られて、椅子に座らされていた。

 

「じゃあ、なんでここに来たわけ?」

 

 腕を組んでクロカが問えば、獣国はふ、と小さく笑う。

 

「それはあんたらと一緒だよ」

 

 つまり――

 

「その事件の『犯人』を、探していたのさ」

 

 事件の犯人――それは、つまり。

 

「怪人を、探していた」

 

 自分と同じ怪人を――探していたのだ、と彼は言った。

 

「……なんのために?」

「匿うためだよ」

 

 当たり前のことのように、獣国は言った。

 

「どうも、この辺りで新しい怪人が発生したっぽいってのは、わかってた情報だからな。そいつが、おたくらみたいな()()退()()()にどうこうされちまう前に、こっちで保護しようと思ったわけ」

 

 ま、失敗しちまったけどな。

 彼は言って、肩をすくめる。

 

「そのために、自分が熟々丸殺しの犯人だなんて言ってたわけ」

「ま、そーゆーこと。最悪あんたらを排除するのは無理でも、俺がうまく逃げられりゃ、新人くんの存在は隠せるんじゃねーかと思ってな」

 

 結果は散々だったわけだが、と彼は肩をすくめる。

 

「……なんでそこまでして、庇おうと思ったわけ? 顔も名前も知らない相手でしょう」

 

 クロカの疑問に、獣国は寂しげに微笑んだ。

 

「怪人ってのは、孤独だ」

 

 その異形性ゆえに。

 その異常性ゆえに。

 怪人は決して、人と生きてはいけない。

 

「だからこそ、せめて、怪人同士でつるめたらな、なんて思ってんだがよ」

 

 なかなか、うまく行かねーもんでな。

 彼は言った。

 

「……ねえ、あんた」

「なんだい、おねーさん」

 

 クロカは獣国に向けて、問いを投げかける。

 

「あんたさ、これまで人を殺したこと、ある?」

 

 その問いに。獣国は。

 

「あるよ」

 

 ある、と答えた。

 

「これまで、二人殺したことがある」

 

 特に気負うこともなく、獣国はそれを答える。

 

「父親と、母親だ」

 

 その答えに――クロカは。

 

「そう」

 

 ただ、そう、と。

 それだけを、答えた。

 

「らいか」

「なんだ?」

「こいつ、警察まで持ってって」

 

 もう、全てに興味をなくしたように。クロカは言った。

 

「……俺のことを殺さないのかい」

 

 それが気に入らないみたいに、獣国は言葉を投げかける。

 

「俺は人を殺してんだぜ」

「知らないわよ」

 

 クロカは冷たく言った。突き放すように。あるいは、己の心を守るように。けれど――その甘えを、天間獣国は許さない。

 

「二人殺した俺を生かすのに、あんたのお友達を一人殺した誰かは殺すのか?」

 

 その問いに――クロカは。

 

「そうよ」

 

 頷く。

 

「復讐って、そういうもんでしょ」

 

 正義でなく。

 理屈でなく。

 感情で行うのが、復讐だろう、と。

 

「そーかよ」

 

 言われた獣国は、諦めたようにぶっきらぼうに答えた。

 

「じゃあさ、あんたに特別、スペシャルな情報をプレゼントしてやるぜ」

 

 口ぶりとは裏腹に、その言葉はまるで親切とは程遠く紡がれた。

 

「基本的に、人間の精神を操作するような能力者ってのは、他人に対して、そう複雑な命令を出すことはできない」

 

 たとえば、相手に自分を友人だ、と信じ込ませることはできても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように。

 

 精神を操る能力は、決して万能ではない。

 

「――仮に、壁越しに人を自殺させるような力を持っている奴がいたとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうぜ」

 

 獣国のその言葉に、クロカは。

 

「そう」

 

 と。

 ただそれだけを、返事にした。

 大方のところ、予想はついていたことだ。

 確証が得られたという、それだけのこと。

 

「じゃーな、おねーさん。あんたとは多分、もう二度と会わねーだろうけど」

 

 元気でな。

 それが、吠巻黒歌と天間獣国の、最後の会話となった。

 

「……元気でなんて、いられるかっての」

 

 らいかが獣国を連れて出た後。ガレージの中で一人、クロカはため息をつく。

 

 そして――携帯電話を取り出した。

 

 かける番号は、もはやどれでもよかった。数回のコールの後、ぷつりと、通話の繋がる音。彼女は小さく息を吸う。

 

「――もしもし?」

 





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