十中八九、術式「ラップ」   作:らいこう

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第十八話 交流会は もうすぐだ

 

 古民家の柱にもたれて、じっと外の空気を感じていた。京都はまだ蒸す。

 九月の半ばとはいえ、日差しは容赦なく、どこか夏の名残を引きずっている。

 

「まだ少し暑いな」

 

 ふと漏れた声に、隣で憂太が相槌を打つ。

 

「うん……風があっても、日差しが強いからね」

 

 憂太が縁側に腰を下ろし、汗を拭いながら言った。

 でも少し疲れた顔をしてる。

 本人はあまり気にしてなさそうだが、緊張感が肌に張りついてるようだ。

 

「にしても、京都まで来る羽目になるとはな」

 

「しょうがないよ。交流会は、去年勝った方の学校で行うって決まりらしいから」

 

 なるほどな、と頷きつつも、やっぱり俺は腑に落ちねぇ。

 敵のホームでバトるってだけでもやりづらいのに──今回は、もっと面倒な話が絡んでる。

 

「よし、そんじゃあ、ぼちぼちミーティング始めっか」

 

 そう言って、金次センパイが手をパンと鳴らして皆の注意を引いた。

 

 各々、古民家の中、好きな場所でセンパイの話を聞く。

 交流戦の直前、もうすぐで姉妹校交流会が始まる。

 今は、そのための最終ミーティングってわけだ。

 

 東京校のメンバーは、3年が2人、2年が金次センパイと星センパイ、1年が俺と憂太──計6人。

 対して、京都校は3年3人、2年が3人の計6人となっている。

 

 指揮を執るのは、当然、一番等級の高い術師である金次センパイだ。

 

「とりあえず、全員に聞くが──この交流会で何をしたい?」

 

 センパイが見回す。この交流会で各々の目標をセンパイは問う。

 だがその質問に、俺は軽く手を挙げて待ったをかけた。

 

「あー、ちょっとその前に一つ、言いたいことがある」

 

 俺は軽く手を挙げ、周囲の視線を集める。

 

「あ? どうした?」

 

「……なあ、これって"交流"会、だよな?」

 

 ぽつりと口にした俺の言葉に、皆が視線を寄せる。

 

「ああ?」

 

 金次センパイは眉をひそめた。

 

「いやさ、京都に来た時、出迎えに出てきた奴ら……目がマジだったろ? ありゃあ"挨拶"の目じゃなかった。俺と目が合ったときはまだマシだったが、乙骨の方に向いたときは……明確に殺気があった」

 

「えっ、僕?」

 

 乙骨が自分を指差し、間の抜けた声を上げた。

 

「気づいてねぇのかよ……お前に向けられてた視線、ヤバかったぜ?」

 

 そんな俺の言葉に、3年の一人が言葉を漏らす。

 

「……そういえば、確かに」

 

「俺は見た。あれは──"狩る"目だった」

 

 その場が静まり返る。

 全員が、頭の中でそれぞれの"予感"と"映像"を照らし合わせていた。

 そこで俺は一呼吸置いて、声を低く落とす。

 

「この交流会で、京都校の奴らは──乙骨を殺すつもりだ」

 

「ええっ!? 僕、殺されるの!?」

 

 乙骨が目を丸くして、驚きの声を上げる。

 完全に寝耳に水って反応だった。

 

「全員見たっしょ? 京都校の奴らの陰気で陰湿な顔」

 

 俺は皆の顔を見る。金次センパイも星センパイも、どこか思い当たる様子だった。

 

「明らかに、数人……憂太に良からぬ気配を向けてたよ」

 

「全然気が付かなかった……」

 

「なんで、お前は気がついてねぇんだよ」

 

 呆れたように、金次センパイがボソッとツッコミを入れる。

 

「十中八九、この交流会で憂太が狙われる。そもそも、お前に憑いてるのは"特級過呪怨霊"だぞ。それに秘匿死刑のはずだった。そのこと忘れてるのか?」

 

 乙骨は少し口を開いたまま、固まる。

 

「そして、ここは保守派筆頭、楽巌寺の老いぼれが学長を務める京都校」

 

 俺は続ける。言葉に力を込めて。

 

「更に呪術界御三家――加茂家の人間もいる。事故を装うにしろ何にしろ、憂太は狙われる」

 

「ど、ど、ど、どうしよう!?」

 

 憂太の声が裏返った。目が泳ぎ、動揺を隠せていない。マジで焦ってる。

 

「この中で一番強いのはお前だろうが。ドンと構えとけや!」

 

 俺の言葉を聞いても、憂太は不安そうな表情で竹刀袋を握っていた。

 そして、金次センパイが顎に手をやりながら俺を見る。

 

「だが、狙われたとしても、折本里香が返り討ちにするだろ?」

 

「それだと、交流会が速攻で終わっちまう!」

 

 つい本音が漏れた。

 室内の空気が一瞬止まる。他の奴らが、目を見開いてこちらを見る。

 

「ちょ、阿比留君!? 僕の心配は!?」

 

「お前が負けるわけねぇだろうが! この呪力お化けが!」

 

「褒められてるの? けなされてるの?」

 

 俺は憂太が一方的に勝つことを信じていた。

 それは一緒に同級生として過ごしてきたから、一番よく知っている。

 

「憂太によって、折本里香によって京都校の奴らがボコされたら、団体戦はおろか、その後にやる個人戦もできなくなる!」

 

 言いながら俺は、思わず頭をかきむしった。

 俺の本音はもうバレてるなら、もうぶっちゃけちまおう。

 

「それだと面白くねぇ!」

 

 せっかく"合法的"に京都校の奴らをブン殴っていい舞台が整ってるのに、憂太が全部片付けたら意味がない。

 俺の拳を、俺の実力を、俺のラップをぶつけられない。

 そんなことを考えていた俺に、金次センパイが目を細め、苦笑した。

 

「それが本音かよ……」

 

「金次センパイも戦いがすぐ終わっちゃ、興ざめでしょ?」

 

「まあ、分からんでもないな」

 

 そこで秤が小さく笑った。

 

「それで、阿比留。お前はどうしたい?」

 

「どうせ、殺しに来るなら──憂太を囮にすりゃあ、好きなやつとバトれるんじゃないか、ってね」

 

 そこには俺自身の欲も混じってる。

 強いやつと戦いたいってのはもちろんだが。

 京都校で、京都の学長が見てる中で、京都の生徒、それも御三家の一角の加茂(なにがし)をボコボコにしたい。

 

 保守と革新の格付けをしたら、どんなに面白いか。

 

「乙骨を囮か……確かに、乙骨が狙われるならそこが逆に狙い目か」

 

 金次センパイが納得したように頷くと、星センパイもその横で口を開いた。

 

「憂ちゃんは狩られる側じゃなくて、狩る側って感じだけどね」

 

「乙骨が囮になるなら、自然と向こうの本気も引きずり出せる。面白ぇじゃん」

 

 金次センパイも笑っている。どこか楽しげに。

 緊張感よりも、戦いを楽しむ空気が強くなってきていた。

 

「安心しろって、憂太。俺がガッチガチにバフ掛けてやるからよ」

 

「囮は……既定路線なんだね……」

 

「男なら、腹くくれ」

 

 俺の言葉に憂太が小さく息をついたあと、やれやれといった風に笑った。

 

「うん、わかった。頑張るよ」

 

 その返事を聞いて、金次センパイが最後にもう一度問いかける。

 

「──それじゃあ、改めて、聞くぜ。交流会で誰と戦いたい(・・・・・・)?」

 

 静かだった空気が、少しずつ熱を帯びていく。

 戦いの火蓋は、もうすぐ切って落とされる。

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