今回はタイトルで韻を踏みません。すみません。
木に取り付けられたスピーカーから、やる気のない声が流れてきた。
「開始一分前でーす」
……テンション低っ。
マジで台本を棒読みしてる感じだ。
「くれぐれも、相手を殺したり、再起不能の怪我を負わせることのないようにしましょー」
注意事項もめちゃくちゃ雑。声に責任感がない。
が、そこから一転、妙に張り切った声が響いた。
「それでは姉妹校交流会、スタート!」
はいはい、始まりましたよ。
俺たちは京都呪術高専の森の中──東京校のスタート地点にいた。
号砲代わりの五条先生の声を聞いた瞬間、6人全員で一斉に走り出す。
ちなみに、この交流会は2日にわたって行われる。
1日目の今日は団体戦、ルールは「点取合戦」。
指定区画内にばらまかれたポイント付きのリングを集めたり、敵から奪ったりして得点を競う。
制限時間は2時間。敵を全滅させても勝ち。ルールは単純明快。
ちなみに、生徒全員にはあらかじめポイントの書かれたリングが配られている。
このリングにはそれぞれ1~3の点数が書いてあって、これは体の見える位置につけておかなきゃならない。
指定区画内に散らばっているポイントを集めてもいいし、相手の配られたやつを取りに行くのも良い。
しかし、区画内には妨害として3~4級の低級呪霊がばらまかれている。
まああ、長々と団体戦のゲームルールを思い出していたが、つまるところ――。
「ようは相手校の奴らを全員ボコれば勝ちってことっしょ?」
俺がそう言うと、隣を走る憂太が苦笑いを浮かべる。
「そんな、身も蓋もない……」
いや、でも正解だろ。俺は間違ってない。
走りながら、ちょいと先輩方に聞いてみる。
「去年参加してた3年生らに聞きたいんだけど、京都の3年って強い?」
男の方の3年がちらと後ろを振り返りつつ答えた。
「いや、正直そこまで差はない様に感じたよ」
「ふーん。ちなみにあっちの等級は?」
今度は女の方の3年が答える。
「一番強くて2級だったね」
へえ、意外としょぼ……いや、まあそこそこか。
そうして3年の話を聞いていると、ある疑問が浮かんだ。
「俺が倒した奴、あー……名前忘れたけど、3年のプライド高かった男。あいつ準1級じゃなかったっけ?」
そう、交流会に数日前に俺に難癖をつけてきた3年。
上下関係に厳しい風に見せかけて、ただ後輩イビリをしたかっただけの奴。
現在は俺が精神折って療養中になったが。
あいつは確か、準1級だったはず。あいつ自身がそう言っていたし。
「その時は、まだ2級だったんだよ」
3年の男の方の言葉で、納得がいった。まあ、1年経てば等級は変化するか。
女の方の3年が続けて口を開く。
「正直、去年は私達、あまり活躍できてなかったから」
「ほーん、じゃあ今年は活躍のチャンスになるのか」
とはいえ、チャンスが来るかは別問題。
少しはお膳立てしてやるが、後は本人の実力次第だ。
「でも、憂ちゃんが里香ちゃんを出したら、その機会も無くなるけどね」
「うっ、なるべく出さないように気をつけます」
星センパイのサラッとした言葉に、憂太が肩をすくめて苦笑い。
その様子に、秤金次センパイがツッコミを入れる。
「なるべくなのかよ」
その時──前方の木々が"ゴウッ"と唸り声を上げてなぎ倒された。
音のする方に顔を向けると、獣みてぇな気配が真っ直ぐこっちへ向かってくる。
「あぁ? なんだ、もう来てんのか?」
金次センパイが気配に気づき、言葉を漏らす。
「京都のゴリラが一直線に突っ込んできてんね」
俺はマイクを手に、胸を数回叩いて微弱な音波を周囲に響かせる。
ラップスキルじゃない、ただの索敵用の音波。だけど、これで十分。
「接敵するな。真正面からくるぞ」
そう言ってから数秒も経たず、森の奥から豪快な声が響いた。
「よぉし、一番乗りだ! さあ、俺と戦え!」
出た。筋肉と妄想の塊、東堂葵。
そんな彼に、金次センパイはすぐさま手印を構える。
――領域展開、《坐殺博徒》。
「んじゃあ、後はおなしゃす、金次センパイ」
東堂が単騎で突っ込んできたのはイレギュラーだけど、悪くない。
京都校で一番面倒なコイツは、金次センパイが担当する手筈だったしな。
むしろ、作戦通り。
「よーし、じゃあ、ここからは散開ってことで」
「それじゃあ、玲ちゃん、後でまた合流だね」
「うぃーす」
星センパイの言葉に返事し、俺たちは領域に包まれた二人を横目にそれぞれ動き出す。
3年の先輩方はペアで、星センパイは単独行動。
そして俺と憂太もペアで進む。
「さて……」
森の奥を見据える。
今日一日、合法で他校をぶん殴れる祭りの始まり。
これは、楽しめそうだ。
※ ※ ※
「まずは、どっかにあるポイント取りに行くか」
そう言って、俺は憂太と二人で森の中を進む。
京都校の敷地内、木々の間から漏れる日差しが斑に地面を照らし、足元は落ち葉と枝でごちゃついてる。
空気は静かで、鳥の声すら聞こえない。けど、その分、音を頼りに索敵しやすい。
いや、待て。なんで、烏は居るのに声は聞こえねぇ?
何かの術式か? もしや索敵系の術式。烏の使役か?
「おい、憂太。あの烏、怪しくねぇか?」
「あっ、あれは確か、高専の人の術式だったような?」
「あぁ? 高専のってどういうこった?」
「えっと、試合中継のカメラ……みたいな? そんなことを五条先生から聞いたんだけど」
話を聞くに、この交流会を監視、見守るために高専が雇った術師がいるとか。
そいつの術式で烏がこの森のいたる所にいるとか。
「俺は聞いてねぇぞ!」
「ははっ、な、なんでだろう?」
「あの、ちゃらんぽらん不審者め!」
そんな話をしながら森を進み続ける。
少しして、もう頃合いだと思った俺たちは別行動を取ることにした。
当初の作戦通り囮役として憂太を残し、俺は外周を回って敵の索敵をかいくぐる。
「おっ、あっちで音がしたな。ちょっと行ってくるわ」
そう言って憂太の元を離れ、木々の間を抜ける。
腰のホルダーからマイクを取り出した。
走りながら術式でマイクだけ変化させる。
胸を軽く叩いて、呪力を帯びた微弱な音波を周囲に放つ。
……来てる。こっちをずっと見てた4つの気配が、徐々に憂太に近づいてる。
指示を出してるのは、あいつか?
俺は密集した木々に隠れ、そっと上空を見上げる。視界の隙間に、箒で空を飛んでる術師が一人。
魔女っ子かよ。箒って、マジでクラシカル。
──あいつが居ると、作戦がバレるな。
俺が思うに、索敵と連絡役だ。落とすしかねぇな。
木陰で足を止めたまま、索敵を続行。音波が呪力に当たり、反響してくる。
憂太に接近中の4つの呪力、十秒もしないうちに接敵だな。
もういいだろ。
俺はマイクを構え術式を発動すると、背後に紫と銀のスピーカーが顕現した。
すぐさまスピーカーを上空へと向け、音の指向性を絞る。
「ブリング・ザ・ビート!」
音が唸りを上げてスピーカーから放たれ、呪力の衝撃波となって魔女っ子を撃ち抜いた。
「……っ! きゃあーっ!」
悲鳴と共に、魔女っ子は箒ごと落下していく。
『箒の制御を放棄』
『術式の反抗期』
『相手の状態 ダンゴムシ』
『勝利 は すぐそこに Yeah!』
ビートはBPM140、4小節。
リズムに乗って、ただのラップを口ずさみながら、落下地点に向かった。
そうして、落下地点に到着したタイミングで、木々に隠してスピーカーを移動させる。
「生きてるかーい」
落ち葉に覆われた地面、横に伸びた太い木の枝に女は落ちたようだ。
箒を抱きながら体を木の幹に預けている。本人はピクリとも動かない。
「死んでんな」
「生きてるわよ!」
即座に返ってきた声に、思わずニヤついた。
「ツッコミセンス ○だ。ノリいいなぁ、あんた」
魔女っ子は枝の上で体勢を立て直し、箒を手に取って構える。飛ぶ気満々だな。
けど、あいにく相手する気はねぇ。
「おい、魔女っ子。見逃してやるから、ポイント寄越しな」
「年下の癖に口の"聞き"方も知らないわけ?」
「なに、キキ? 魔女宅の話か? 命の危機に何言ってんだか」
「随分と余裕そうね、カワいくない」
「はぁ……思った倍、下」
俺は思わず溜息をついた。予想以上に雑魚だな、これは。
周りの状況も把握できてねぇ。
言葉で注意引いていることに気がつけよ。
「──あんた、注意力散漫だな」
「……っ!?」
ようやく気づいたか、慌てて木から飛び降り、箒に乗ろうとする。
けど――ドンッ!
スピーカーが放った衝撃波が、上空から真下へ。
枝をへし折って、魔女っ子を容赦なく地面に叩き落とした。
ぐしゃ、と葉が舞い上がる。
魔女っ子は地面に倒れ、箒も横に転がっていた。
完全に気絶してる。
「加減はしたぜ。ポイントは頂いていくがな」
俺は術式を解除し、
よし、これで一人失格。
戦う気はなかったが、ポイントを寄越さないなら仕方ない。
というか、戦いにすらなってなかった気がするな。
1年だからって、舐められてたのかね。
まあ、どうでもいいか。戻ろう。
再び森の中を駆け、音を頼りに憂太の元へ向かう。
少し開けた場所に出た。木立の影で、憂太を囲むように東京校の3年2人と星センパイがいた。
「おつかれっすー、憂太はどんな感じ?」
星センパイに声をかける。
「憂ちゃんが圧倒してる」
「まあ、だろうな」
「里香ちゃん無しであれだからね」
視線の先、憂太は京都校の3年3人と2年の加茂、合計4人を相手にまったく押されてなかった。
加茂の矢は刀で弾き、3年の術式はかわすか、受け流すか。
一度の被弾もない。
――じゃあ、俺も行くか
敵の4人が距離を取った瞬間を見計らって、俺は術式を起動しブリングザビートを再び発動。
音圧で4人を弾き飛ばし、その隙に憂太と合流した。
敵は警戒して立ち上がる。
そこに俺、星センパイ、3年2人が揃って姿を見せる。
「おいおい、なんだよ! 一対四なのに攻撃を、かすらせることすら出来ねぇのかよ!」
煽りはいつものサービスだ。
「憂ちゃん、強いね~」
「《シェルター》使い損だったな」
予め、憂太には《ラップスキル・シェルター》を使って、硬化した呪力を付与しておいた。
長く効果時間を保つため、16小節も歌ってやったのだが、全くの無駄だった。
「おつかれさん、憂太」
戦闘を終えた、憂太に労いの言葉をかけた。
「どうだったよ、京都の連中」
「調子悪かったのかな? 阿比留君や真希さん達と比べると、あまり動きが良くなかったと言うか」
「ナチュラル煽りやべぇ~!」
「えっ……いや、違うからね!」
言い訳が始まりそうな憂太をスルーして、俺は一歩前へ出る。
「そんじゃあ、加茂は貰っていきますね」
再びビートを刻んで、京都校の連中をバラけさせる。
その際、相手方の3年には少し威力を強めた衝撃波をぶつけておいた。
多少消耗させておけば、ウチの3年でもなんとかなるでしょ。
距離が開いたその瞬間、加茂に向けてダッシュ。
「そらっ、場所を移そうぜ!」
加茂に拳を叩き込む。即座にガードされたけど、手応えは十分。
そこにスピーカーから呪力衝撃波を追加。
仰け反った所へ、さらに飛び蹴りを放つ。
「くっ!」
「ダメージボイスごちそうさん!」
加茂は耐えきれず吹き飛び、手から弓がこぼれ落ちる。
「こんくらい離れとけばいいだろう」
気づけば場所は森を抜けた平地。木造の塔と建物がポツポツと並んでる。
「さあ、やろうぜ、加茂
「私の名前は
体勢を立て直した加茂は、拳を構えると力強く言い返してきた。
さてさて、呪術界御三家の一角、加茂家の嫡男だったか?。
どれだけやれるか、楽しみだ。