十中八九、術式「ラップ」   作:らいこう

24 / 28
第二十四話 交流会 個人戦2

 

 開幕、仕掛けたのは俺だ。

 

チェンジ速攻 俺のステージ

『掛けるわけ無い、言葉のブレーキ

捨てー身 俺は常にクレイジー

故に お前より遺伝子

 

 吐き出すラップと同時に、呪力が噴き上がる。

 スピーカーが唸りを上げ、音波がグラウンドを揺らした。空気が震え、土煙が巻き上がる。

 

 広範囲に広がる呪力の音圧。

 その一発一発が、並の呪術師なら逃げ場もねぇ暴風みてぇなもんだ。

 

 だが、東堂は呪力で身体を覆い、正面からそれを受け止めた。

 

 ――あぁ、そう来ると思ったぜ。

 

 俺はその隙を見逃さねぇ。音の波に身を隠しながら、奴との距離を一気に詰める。

 拳を振るえば、東堂も応じてくる。

 

 ――キレが落ちてんじゃねぇか。

 

 その分、ヤツは身体能力でゴリ押してくる。

 打ち合いは拮抗。けど、確実に東堂のスタミナは削れてるはずだ。

 それでも、倒れねぇ。まるで、不沈艦。鈍っても、止まらない。

 

 拳と拳がぶつかるたび、衝撃が骨に響く。だが、俺は止まらない。

 

「ふぅんッ!」

 

 東堂の剛腕を受け止める。

 依然、威力は大して下がってない。だが、キレは明らかに落ちている。

 これでいい。これだけでも、東堂に時間を使わせられる。

 

 そうして、攻防を続けると視界の上、東堂の頭上に黒煙が集まり――『失敗』の二文字が浮かび上がった。

 東堂のアンサー、成立せず。これでまた、ターンは俺に返ってくる。

 

「ハッハッハッー! また俺の番だなぁ!」

 

 タックルをかまし、東堂の腹部に肩から突っ込む。

 受け止められるも、重心が揺らぐ。即座に前蹴りで奴の胸を押し返した。

 

 蹴りで生まれた距離。息を吸い込むと、またフローが口を突く。

 

『毒舌ラッパー 言葉が武器

『マイク一つで刺すぜ 腹ん中ズキズキ

『挨拶代わりに一発フロー

無効とはいわせねぇ 逃げ場は No more

 

 音波が地面を裂き、また東堂を襲う。防ぐしかねぇヤツは、呪力で身を包む。

 だが、もう分かる。

 

 ――あいつ、俺の術式を避けきれねぇ。

 

 追い詰めた。

 

 ――このまま押し切れば、勝てる!

 

 そう思った矢先。

 

「ぬうおァアアアッ!!」

 

 東堂が叫びとともに突っ込んできた。

 そいつは、さっきまでの奴とは別物だった。

 

 ――動きが――戻ってる!?

 

 間合いの外から振りぬかれた腕。そのラリアットが、俺のガードの上からでも容赦なく打ち下ろされる。

 視界が一瞬揺れる。吹き飛ばされ、地を転がった。

 

「くそっ……距離を、取られた……!」

 

 ダメージは浅い。だが、あいつのキレが戻ってる。

 逆転のタイミングを狙ってたのか。

 

 何だよ、こいつ。

 走り出す。すぐさま体勢を立て直して距離を詰めようとした――その時。

 

『No more そう映画泥棒

『犯罪とめる 平和の象徴

絶好調 想像力一等賞

決闘 俺の勝利にBETしろ!』

 

 東堂のラップが響き渡った。

 術式の縛りにより、俺のスピーカーが敵の歌を拾い上げてしまう。

 反応するように、呪力の音波が俺に襲いかかる。

 

 ――避けきれねぇ……!

 

 咄嗟に呪力を全身に纏って防御。

 スピーカーから放たれる衝撃波が、俺の内蔵を激しく刺激する。

 

「うっ……ぐううぅっ……!」

 

 ――圧が強ぇ。

 

 だが、まだやれる。踏みとどまる。

 その時、目の前に奴がいた。すぐそこまで迫っていた。

 

「クックックッ! いいアンサーするじゃねぇか、東堂!」

 

「ははははっ! まだまだ行けるだろう! 阿比留ぅ!」

 

「だがぁ! 俺にラップで攻撃したなぁ!?」

 

 笑みを浮かべた俺が、指をパチンと鳴らす。

 

「《ラップスキル・カウンターブロー》!」

 

 拡張術式が発動。俺の身体から、ぶわっと呪力が噴き出す。

 

 まるで、鼓膜が破れそうなほどの密度と圧力。

 その中心で、俺は再び吠える。

 

『お前は、痛い お客さん

に一直な お猿さん

『所量産された オタクじゃん

未来 悲惨 ご破算 ご苦労さん!!』

 

 スピーカーから、音の砲撃。

 否、《カウンターブロー》による呪力砲が放たれた。

 避けられねぇ。喰らえば決まる。そう確信した、その刹那。

 

 ――パァン!

 

 乾いた音。視界が一瞬、反転する。

 気づけば、俺と東堂の位置が――入れ替わっていた。

 

 ――やりやがったな、東堂……!!

 

 瞬時に反応。呪力を全開で身体に纏わせる。

 自分で放った呪力砲が、まさか自分に襲いかかるとは。

 それでも。

 

「ぐううぉおおおおお!!!」

 

 全身で耐えた。骨がきしみ、皮膚が裂けそうな衝撃。

 それでも、絶対に膝をつかない。ついたら終わる。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 肩で息をしながら、視線は真っ直ぐ前、東堂を見据えた。

 

「良くもやってくれなぁ!?」

 

 俺は叫んだ。歯を食いしばって、立ち続ける。

 倒れねぇ、絶対に。

 

 ――この勝負、最後に立ってんのは俺だ!

 

 気づけば、東堂との立ち位置が入れ替わっていた。

 あの乾いた音。

 

 拍手。あれが東堂の術式か。

 

 だが、その発動の代償は重い。

 俺の術式に課された縛りの一つ、それは"ラップバトル"。

 

 俺の先攻の後、後攻として攻撃権が相手に渡る。

 そして、アンサーを返されれば、俺の歌唱呪法が相手の歌を拾い上げて、俺へ襲いかかる。

 

 だが、相手が自身の術式を発動すれば――後攻の放棄とみなされる。

 

「……ルール違反の代償を払ってもらおうか!」

 

 東堂の頭上に表示された、はっきりとした二文字。

 

 ――『失敗』

 

 それが俺に、再び"攻撃権"が返ってきた証明だ。

 

「《ラップスキル・メディケーション》」

 

 俺はマイクを構えると、吐息まじりに歌い上げる。

 

『今、訪れる 再生の時

趨勢は決し 運命は巡り

『幕間 差し込む 癒やしの光

『だが侮るな 油断は大敵

 

 呪力が律動する。体内の痛みが、波紋のように引いていく。

 破れかけた皮膚が繋がり、ひび割れた骨が軋みを上げながら整っていく。

 

 しかし、それも応急処置にすぎない。

 4小節分の最小限の回復。まだ戦えるが、ギリギリだ。

 

 ここで決める。いや、"ここ"でしか決められねぇ!

 

「スキルチェンジ――《プリズン》!」

 

『動きを 止める 鉄条網

そうとう イカレた 熱暴走

『天から 伸びる 蜘蛛の糸』

『だがお前に待つのは 昏い絶望

 

 俺の足元から、禍々しい黒い鉄条網が這い上がる。

 紫の呪力を帯びた鎖が、地を這い、空を裂き、東堂へと伸びる。

 

 そして、東堂の足元から突如出現した檻のような呪力の網が、あいつの動きを封じた。

 その網は有機的にうねり、東堂の関節に絡みつき、逃げ場を奪う。

 

「ぬうっ! 術式の幅が広いな!」

 

 更に蜘蛛の糸のように空から垂れた呪力の鎖が、東堂の身体に絡み、四肢を固定する。

 だが、これだけじゃ終わらねぇ!

 

「スキルチェンジ――《ダズル》!」

 

『俺は有り様 ミスタークラウン

『脳を揺らす 言葉を喰らう

『心揺蕩(たゆた) 意志薄弱

『限界に眩む 脳をブレイクダウン!』

 

 ふわりと、光が舞う。泡のように柔らかな演出。

 一見すれば、攻撃の意思などまるでない。

 けれどその"音"は、敵の内部へと染み込む。

 

 《ダズル》は、精神干渉。

 呪力を東堂の波長に合わせ、内部へ侵食し、ノイズを植えつける。

 

 ――これで、位置のすり替えも封じた……!

 

 俺は息を大きく吸い込んだ。喉の奥で呪力が暴れる。

 

「スキルチェンジ――《カウンターブロー》!!」

 

 再度、あの技を使う覚悟を決める。

 今度の《カウンターブロー》は、自身の一撃を食らった反動を"力"に変換して放つ、真の反撃。

 

 ――ドンッ!!!

 

 体内で炸裂した呪力が、全身を駆け巡る。

 

「くっ……ううっぉお!」

 

 爆発的な力が、骨を軋ませ、肉を裂く。

 身体が膨大な呪力に耐えきれない。

 

 ――耐えろ、耐えろ! ここで潰れてたまるか!!

 

 歯を食いしばり、マイクを力強く構え、歌を紡ぐ。

 

『東堂 お前は ストーカー!』

『対し、俺は 東京の クローザー!』

理想への途上 努力不要だ!』

『だって お前の人生は ゲームオーバー!!』

 

 吐き出すように、怒鳴るように、ラップを叩き込む。

 スピーカーから轟音が放たれ、音圧の波が四方に拡がった。

 広範囲への攻撃。避けることなど不可能。

 

 ――ドオオオオン!!!

 

 凄まじい衝撃波が、地面を割り、土を跳ね上げ、空気を爆ぜさせる。

 スピーカーの蛇が牙を剥き、絶叫する。

 紫銀の光線が圧縮され、ビームのように一直線に東堂を貫いた。

 

 東堂は、寸前で《プリズン》の拘束を力づくで引きちぎった。

 が、遅い――!

 

 渾身の音圧砲が、正面から彼を撃ち抜いた。

 防御のために全身を呪力で覆った東堂は、膝をつきながらも立っていたが、すでに限界なのは明白だった。

 

 ……俺も、持たねぇ……!

 

 連続でスキルチェンジを使用したことで、身体がボロボロだ。

 呪力が身体の中を傷つけていく。

 俺の縛りの抜け道。それがスキルチェンジ。

 

 スキルチェンジは《ラップスキル》を切り替えるだけの技――それだけではない。

 スキルチェンジをすることで、攻撃権をリセット出来る。

 

 つまり、スキルチェンジをするたびに俺に攻撃権が回ってくるということだ。

 だが、そうした連続攻撃には代償がある。

 

 切り変えるたびに、俺の中の呪力特性が変化していく。

 ラップスキルで変化させた呪力特性に、俺の身体が耐えきれない。

 

「くそっ、拒否反応ってやつか……!」

 

 骨が悲鳴を上げ、筋繊維が限界を迎えている。

 頭の内側からガンガンと殴られているようだ。

 もうまともに動けねぇ。けど、マイクがあれば、歌える。

 

 なら、固定砲台で最後の一撃だ。

 俺が歌唱呪法の素人みたいな使い方をするとはな。

 

 震える手を気合で動かし、マイクを構える。

 

『これで決着 狙うのはノックアウト

『パンチラインで お前をロックダウン

『スピーカー唸る Beatの爆弾

『逃げたくても遅ぇよ しろよ降参!』

 

 最後の4小節が終わると同時、背後に現れた巨大スピーカーから、雷鳴のような音が鳴り響いた。

 

 音の波が爆発する。

 東堂を中心に、地面が砕け、爆風が舞い、砂塵が空へと噴き上がった。

 

 言葉の爆弾は、決して虚構ではない。

 それは呪いの弾丸であり、破壊の音楽だった。

 爆煙の中、東堂の巨体が倒れ伏す。

 

「よっしゃあああああ!!!!!」

 

 勝利の雄叫びが、空に響いた。

 

 けれどその直後、俺の身体も限界を迎える。

 仰向けに倒れ、霞む視界で空を仰いだ。

 空は広く、静かだった。

 

 個人戦第六試合、終了。

 4勝2敗――これで東京校の勝利だ。

 

 東堂葵――化け物過ぎるぜ。

 

 意識が、ゆっくりと闇に落ちていった。

 

 





 本気の呪い合いだと、どっちが勝つかは不明です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。