ビートが空気を切り裂くように跳ね上がり、音が燃えるような熱を持って炸裂する。
俺はマイクを握り直し、吐き出すようにフロウを刻んだ。
「Check it…!」
言葉とともに気合を入れ直す。
『逃げ腰に見せかけて "無敵"を気取る』
『じゃあ試そうぜ 不敵な笑みを切り取る』
『理屈は抜きだ ただし響くリリック』
『この一撃に宿る
その瞬間、五条の足元から低くうねる波紋が広がる。
まるで音の残響が実体を持ったかのように、彼の周囲の空間を震わせた。
『呪力? 術式? 知らねぇが効かせる』
『"言葉の檻"で その術 鈍らせ』
『意味不明な概念 でも関係ねぇ』
『
それは鎖のように重なり、音に呼応するようにうねった。
直接的な打撃ではない。だが、それは確かに五条の術式に干渉しようとしていた。
『縛りは上等 知識ゼロでも即応』
『重低音から始まる 俺の 急成長』
『叫べば 現れる この現象』
『でも偶然じゃ 終わらねぇ 空前絶後のこの絶唱』
五条の顔がわずかに曇った。
目に見えない"何か"が、彼の術式に揺らぎを与えたのだ。
空気が粘つく。術式の展開に誤差が生まれる。
無下限呪術の"無限"が、ほんの一瞬、波打った。
『韻で縛って
『一文一句が
『鼓膜焦がす 音が刺す』
『このリズム刻むぜ 魂揺らすぜ!』
最後の一節と同時に、音の奔流が五条を包み込んだ。
視界が滲む。空間が捻れるような錯覚。
……だが、それでも。
五条は、立っていた。
目隠しの奥で何かを見定めるように、静かに息を整える。
「……なるほどね」
軽く手を振ると、空間の歪みが霧のように晴れていく。
被害はゼロ。それでも確かに"何か"が届いていた。
「直接的な攻撃じゃない……これは"干渉"か。君、さっきより巧くなってるじゃないか」
そう言いながら、五条が口角を上げる。
「呪力の流れが、ほんの一瞬だけ揺らいだよ。僕の"無限"が微かに波打った。完全にノーダメってわけでもなかったかもね」
俺は息を切らしながら、マイクを握る手を下げた。
「……で、どうだよ。少しは効いたか?」
五条はふっと笑って、首を傾げる。
「うん。効いたよ。呪力の流れを揺らがせる言葉なんて、普通の術師には到底できない」
そう言って、再び俺を指差す。
「でもね、君の実力は確かに本物だけど……まだ、僕を倒せるレベルにはない」
予想していた言葉だった。
けど、なぜか悔しさよりも妙な納得があった。
「……じゃあさ」
五条の言葉を受けて、俺は汗を拭った。
そして手にしたマイク――ナックルのような金属部に指を差し込んで、しっかりと握る。
ヘビの鱗を模した彫りの入ったグリップが、手のひらに心地よく馴染んでいた。
戦いの名残を感じさせながら、それを腰のホルダーに収める。
「アンタに――五条悟に付いて行けば、いつかアンタを倒せるようになるか?」
俺の問いに、五条は少しだけ目を細めたようだった。
そして、静かに微笑む。
「……可能性はあるよ。君ならね」
その声には、今までとは違う温度があった。
冷たさでも、余裕でもなく評価と期待。
不思議と胸の奥が熱くなる。
五条は片手をポケットに突っ込んだまま、ふと思い出したように首を傾げる。
「そういえば僕、君の名前知らないんだけど?」
「ああ、そういや名乗りがまだだったか」
少し肩を回して息を整えながら、俺は笑った。
「俺は
その言葉に、五条の口元がにやりと弧を描いた。