【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
死に戻りってあると思うか?
あれだよあれ、死んだら生きていた頃のどこかの時間に巻き戻って、そこからの再スタートになるという状況だよ。
普通ああいうのって、運命的なものだろ?
なんか無念の死を遂げた奴が、巻き戻って復讐を遂げるとか……
なんか凄い大業をやり遂げた奴が、巻き戻ってやっぱり別の人生を歩むとか……
そんな死に戻りを、俺は体験した。
「田村さんっ!! 俺いますっ!! 田村さんっ!! ……えっ?」
そう魘されて起きた場所は、七年間働いた会社に入ったばっかりの頃に住んでた社員寮の一室。
好きだったVtuberの配信が流れる、つけっぱなしのパソコンのモニターに照らされたベッド。
その上で汗びっしょりの顔を袖で拭い、スマホを見ると……今は2018年!?
さっきまで、俺は2025年の新宿の工事現場にいたはずだ。
そこに砕石を搬入するダンプカーのバックに巻き込まれて、俺は死んだ。
施工管理の仕事に何か先が見えていたわけではなく、特に無念の死でもない。
大業をやり遂げたわけでもなく、自分が世界にとって重要な人間だとも思わない。
とはいえ、さっきまで生きていた人生が、夢だとも思えなかった。
「辞めるか」
俺はそうつぶやいて、すぐにパソコンで退職願いを作った。
今は2018年の二月。
俺は知っている、この先の事を。
三月になったら、まだ一年目の俺はアホみたいな納期の終わっている現場に送られ、十円ハゲがいくつもできるぐらい酷い状況で延々働かされる事になるのだ。
そこが終わる頃には新卒仲間は全員退職しており、翌年翌々年の新卒も全員一年以内に全滅で、俺は唯一の若手として正解のないコロナ対策を延々とやらされる。
そして散々槍玉に挙げられ責められた挙げ句、七年後には指示を聞かないドライバーのせいで死ぬのだ。
先の人生を知らなくたって、新卒の頃からずっと「三年続けたら辞めよう」と思いながら働いてきたのだ。
未練は全くなかった。
「無職になるのはあっという間か……」
そうつぶやく俺の前には、これから住む予定の木造アパートがあった。
築七十年、平屋風呂なし四部屋、確実に再建築不可なわけがわからない場所に建っていて、トイレ台所共用という、想像を絶するほどボロい建物だ。
そうは言っても貯金も何もない俺は、通う予定の職業訓練センターにギリギリ通える距離で激安家賃のこの物件に縋らざるを得なかった。
告知事項の「隣人がうるさい(許せる人)」という情報は謎だったが、まぁ俺も死に戻りするまでは重機の轟音が響く中で仮眠を取っていたのだ。
たいがいの事は大丈夫だろう。
そう考えて、この物件に決めたのだったが……
角部屋に住む隣人のうるささというのは、俺の想定の斜め上をいくものだった。
『っしゃあっ!! このバイトチョロすぎやろ!! 五連勝っ! 五連勝っ! みんなー! スーパーチャットタイムやでーっ!!』
「Vtuberかよ……」
しかもボール紙でできているのかと思うぐらいの壁から筒抜けで聞こえてくるその声は、死に戻りする前に知っていた声だった。
俺は死に戻りする前から、結構Vtuberが好きだった。
施工管理の仕事をしていると家に帰ってきても深夜アニメぐらいしかやっていないし、なんなら家に帰れず車や事務所で寝る事も多い。
そんな生活の中で、スマホを開けばいつでもアクセスできるYoTubeの動画は娯楽の中心になり……
平気で夜中でも行われているVtuberの配信は、そんな狂った暮らしの中での孤独を紛らわせてくれる、一種の救いのようなものだった。
だから俺はその女を知っていたのだ。
『んはははは! まだまだいくでーっ!』
Vtuber初期勢にして、配信ジャンキーと言われていた関西弁のアホ、
コロナに乗じて事務所を作ったはいいが、その売上を横領してホストに注ぎ込み、それを所属ライバーから暴露されて一気に終わったマジのド級のアホだ。
昼間に挨拶に行った時は、派手な格好をした地味そうな女という感じだったが……そのネットでの姿がよりにもよってこいつかぁ。
隣人ガチャでハズレを引いた感もあるが、まぁ正直どうでもいいといえばどうでもいい。
俺はイヤホンをして、いっそ懐かしい推しVtuberの配信を聞きながら横になった。
どこかから二月の冷気が吹き込んでくるが、初任給で買った高級寝袋に入った俺には何の問題もない。
俺は隣からの爆笑と、耳元から聞こえてくる清楚な配信ボイスを聞きながら眠りについたのだった。