【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
じわじわと東京の気温が上がっていく中、夏本番に向けての準備が動き出す。
俺は毎日毎日電話メール打ち合わせ、シュシュさんは隣の部屋で配信配信また配信。
そんな社長も会長もフル回転の日々の中で、ちょっとした事件が起こった。
それは事件というか、イベントというか……いや、アクシデントとでも言うべきか……
ともかく全くの想定外だったそれは、俺の生放送への出演だった。
「みんなー! 今日はカノンボール、夏の新事業説明会に来てくれておおきにな! ほんでこちら、うちの社長」
「ただいま会長よりご紹介に与りました、名ばかり社長の長谷川です」
これはファンアートに書かれていたもので、作者に許可を得て切り抜いてきた一枚絵だ。
シュシュさんと一緒に見ている画面にコメントが大量に流れていく中……
俺は配信ソフトを操作して、肩書と名前だけが入った自分の名刺の画像を表示した。
「まずは
「いやいやいや、それはなぁ……うちも社長が話した方が確実やと
シュシュさんは隣で何か適当な事を言っているが、これはまぎれもない真実。
本当は視聴者へのこれからの事業展望説明をシュシュさんに任せようとしたのだが、何回話しても完全理解には遠い様子だったので俺が出ることになったのだ。
正直表には出たくなかったし、そもそも演者に近い男の存在は今はマイナスしか産まないので、できるだけ空気でいたかったのだが……
完全シュシュさん任せで変な部分を切り取られるよりは、俺が出ていって視聴者を更に選別する方がいいだろうという結論に至ったわけだ。
なんか喋り上手くない?
なんかやってた?
喋りがサラリーマンすぎるやろ
画面を見ていると、俺の個人情報をバラしまくっているコメントが流れていくのが見えた。
ちょうどいいから、本題の前にちょこっと触れておくか。
「ニゴニゴ動画などの切り取り動画でご存知の方もいらっしゃるかと存じますが、私以前は施工管理の仕事をやっておりました。そのため住民説明会などで人前に出て喋らせて頂く事も多く、どうしてもこうして改まった喋り方が染み付いてしまっております。お聞き苦しい点もあるかとは存じますが、何卒ご
聞き取りやすいけど言ってる事難しくてわからんわ
長谷川さん何歳?
下の名前知ってる奴なんなんだよ、怖
「先ほど、コメントの方で私の本名を書き込まれた方がいらっしゃったようですが。法律上、会社を設立しますと……所属する役員の個人情報につきましては、このようにどなたにでも見る事ができてしまいます。そのため、カノンさんの個人情報保護のために、本来部下である私が便宜上の社長にならせていただいた、というわけでございます。私は会長のご存念でいつでもクビにできるお飾り社長ですので、その点につきましてご心配はおかけしません」
知らんかった
情報抜かれる事前提で社長になるの心が強すぎるだろ
なんですぐ情報見ようとするんだよ
社長かと思ったらスケープゴートだったのか
こういう言って損のない事は、しっかり言っておく事が大事だ。
Vの事務所というのは、あくまでVが主役。
実際がどうであれ、Vに選択肢があるという
なんでカノンに雇われようと思ったの?
カノンとの関係は?
そういう質問がブワーッと来る中、俺は言わなくてもいい事は無視して先に進めようとしていたのだが……
隣に座っている
「社長はねぇ、同じ
「まぁヘッドハンティングといえば、ヘッドハンティングですか……あ、そうだ会長、切れかけてる電球ちゃんと注文しましたか?」
「ちょ、それは明日ちゃんとヨドバシ行くから……」
「
カノンが管理してるマンション絶対住みたくない
200%ずさんな管理だろ
うるさそーなマンション
親戚の
これは彼女の過去の生配信で出ていたから、普通に話せるネタだった。
とにかく、話を進めてしまおう。
「というわけで気を取り直しまして、本日の事業説明会の議題でございますが……こちらのテロップをどうぞ」
俺が配信ソフトを操作すると、今日の議題が書かれたテロップが俺とカノンの後ろに表示される。
項目は四つあるが、最初の一つだけ明かされていて、残りの三つは隠されていて、順次明かされていく形だ。
まず表示されたのは『
「私
期待!
歌ってみた聞いたよ!
作曲家は?
「作曲は、野生の賞状とかのタスマニアデビルP」
ミリオン達成者じゃん!
すんごくね!?
よく受けて貰えたな
「それと億万菊のDeadJudgeP」
二人目!?
すんげぇ大物!
億万菊大好き!
「それとトゥルーローラーの歪曲収差P」
三人目!?
社長!どうなってんだよ!
何人いるんだよ!
おい長谷川!何人に話持ってったのか説明しろ!
その後追加で四人の名前がシュシュさんの口から出て、最後にアルバムを制作する予定である事が明かされた。
……うん、俺もやりすぎたと思ってる。
名前を覚えている人に片っ端から声をかけたら、思ってた以上に話を聞いてもらえたのだ。
実際は七曲よりも更に曲数があるのだが、それはまた別の機会に回す事にした。
曲というのはなかなか腐らないものだからな。
「それでは次の議題に移らせて頂きます」
俺はそう言って、配信ソフトを操作する準備をした。
一発目の発表で、もうすでにコメントは目で追うのが難しい速度になっている。
発表中に事前に投稿内容を準備していたSNSで逐一情報発信をしたのが良かったのか、視聴者数も配信開始時からだいぶ増えている。
俺が表に出て説明を行う必要があるのは最後の二つだけだが、それまでに盛り上げられるだけ盛り上げて人を集めておきたい。
そう考えながら、俺は次の情報を出したのだった。