【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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アイちゃん、好きでしょ?

「結局応募はどれぐらいきましたぁ?」

「これが意外と、結構な量が来てるんですよねぇ……」

 

久々に美容院に行ってさっぱりしてきたシュシュさん、そんな彼女がニギニギする肩越しに覗き込むPC画面。

そこに映されたメーラーソフトには、『Vtuber募集』というタブの中に大量のメールが表示されていた。

ピンクだったインナーカラーをツシマアイと同じ青に変えた彼女は、なにかを言いたげに後ろでニヤニヤしているが、とりあえずそれは放っておく。

 

「うちも面接とかするんですか?」

「会長は最終面接ですね。もう候補は絞ってありますし、大体の事はこっちで固めておきますから……会長が会う時点で、ほぼ所属は決まりだと思って貰っていいです」

 

そもそも今回の募集……

俺は最初、伸びなさそうでもまともな感じの人間を採るつもりだった。

一期生は会社のイメージカラー、すべての指標だ。

そもそもトップが関西弁のアホな(いかれてる)のだ、それに続く一期生であえてこれ以上火中の栗を拾う必要はない……と、思っていたのだ、最初は。

 

「楽しみやなぁ、これ社内コラボはオッケーなんですよね?」

「社内コラボバリバリ推奨です。シュシュさんはなかなか人とコラボできないんですから、どんどん後輩の配信や動画に出張ってください」

「できへんわけちゃいますよぉ……」

 

力ない声が後ろから聞こえるが、少なくとも前周の枚方(ひらかた)カノンはそうだった。

内弁慶の陰キャすぎる彼女は、結構コラボ相手を選ぶライバーだった。

突発コラボや凸はVの文化の一部だったが、彼女はいつも誘われ待ちというか、あんまり自分からグイグイ行けないタイプだったのだ。

 

「とにかく、一期生は予定通り三人を入れます」

「ハセやんが言ってた、経験豊富な大人ってやつですか?」

「その枠もいますし、才能を見込んでの枠もいます」

 

俺が打ち出した募集要項の中で、特筆すべきものはひとつだけ。

それこそが『経験者優遇』だった。

この経験者というのは配信経験者だけを対象にしたものではなく、どちらかというと社会人経験者を対象にしたものだ。

 

『これまでの人生で培われたあなたの力を、ぜひとも我々にお貸しください!』

 

なんて、配信ではリクルーターのような事を言ったのだが……趣旨は伝わったようだ。

メールボックスには、ニゴ生主や零細Vの中の人はもちろん、様々な職種の社会人からのものを含めた応募メールが集まっていた。

こんな時期のギャンブルみたいな募集に突っ込んでくる人材なんか、と考える向きもあるかもしれないが……実際はそうでもない。

端から見ると本当にギャンブルでしかないからか、小銭目当ての小悪党がいない部分もあり……

よさそうな相手に電話面接してみた限りでは、割と粒立った人材が集まっているようだった。

だったのだ……とんでもない人材が来て、予定が半分ぶっ壊れるまでは。

 

「一応候補者はこの三人で、ガワ(・・)はこんな感じです」

「なるほどなるほど」

 

俺はパソコンの画面に、三人分のキャラ資料を広げた。

七月デビュー予定の三人は、男(男)、女(女)、獣(女)だ。

 

「まずはこの男性ライバー」

「おっ、お医者さん?」

「そうですね」

 

男性の魂予定の方は三十五歳で、なんと職業は元医者。

ストレートで免許を取り、奨学金を返し終えるまでは頑張ったらしいが、激務すぎてそこで燃え尽きたらしい。

落ち着いた感じの喋り方で、声も聞き取りやすかったため決定。

ガワは優男外人風だが、イラストレーターさんに交渉して白衣でも着させ、保健室の先生というRP(ロールプレイ)をしてもらう予定だ。

専門職についていた人はどうしてもジャーゴンが出るし、本人もそれぐらいのキャラの方が演じやすいと言っていたしな。

イラストレーターは何十人かの絵描きにDMで依頼を送りまくった時に、最初に即レスをくれた女性絵描き。

前周の記憶にはないが、イケオジを描くのがやたらと上手な人だ。

 

「つぎにこちらの女性ライバー」

「へぇー、なんか和風な感じ」

 

女性の魂予定の方は二十四歳で事務職。

この人が問題のトンデモ人材のうちの一人(・・)……声を聞いて驚いたというかなんというか……運命を感じたと言うべきか……

彼女はシュシュさんが前周で作った箱の、一期生の柱となった人だった。

枚方(ひらかた)カノンの作った事務所だから、収束するのは当然なのかもしれないが……

とにかく今後も、前周にいたライバーが応募してきたら優先して採用していこうと思う。

ちなみにガワは京美人という感じの和装キャラになった。

特別な設定は考えていないが、後々本人と一緒に詰めていく事になるだろう。

イラストレーターは、現在大学生だが将来的に自分もVになって箱を作るようになる才女を捕まえた。

まさか受けてくれるとは思わなかったのでラッキーだった、イラストレーターが出世するとVの知名度も上がるからな。

 

「最後に、こちらがアニマル枠です」

「アニマル」

 

そして最後の獣の魂は、二十一歳の女子大生。

トンデモ人材のうちのもう一人だ。

こちらも前周の有名Vなのだが、ちょっとレベルが違った。

声を聞いた瞬間に即「採用です」と伝えてしまった彼女は、2020年代に覇権を争う頂上の箱の有名ライバー。

枚方(ひらかた)カノンに迫る登録者数を誇っていた、マジの上澄みライバーの中身だったのだ。

とにかく絶対に逃したくないので、本人に希望を聞きながらキャラを作る事になり、そこで出てきた案がモフモフの獣だった。

前周では普通の人間だったような気がするが、まぁ最初がアニマルでもエイプリルフール企画で人間に変身した姿とかを作ればいいしな。

ウサギのような猫のような、不思議なその動物の設定はまだ詰めていないが、まぁそれも後々だ。

イラストレーターは「前金貰えませんか?」と聞いてきた、ネタ絵をよく描いている絵描き垢の人。

振込先の名前は男性っぽいが、通話も「めんどう」と断る謎の人だ。

ただ途中の方向転換を含めて、仕事は爆速だった。

 

「という事で、この三人の中の人と順次面接してもらう事になりますけど、大丈夫そうですか?」

「ハセやんも一緒ですよね?」

「当然、俺も同席します」

 

会長一人にしたら何言い出すかわからないからな。

そう考えながら彼女の顔を見ていると、シュシュさんはなぜかそっぽを向いてボブカットの髪を手櫛で漉き始めた。

 

「……と、ところでぇ……髪の色変えてみたんですけど、どうですか?」

「え? いいんじゃないですか?」

「アイちゃん、好きでしょ?」

「まぁ、普通に見ますけど……」

 

怪訝に思いながらそう答えると、彼女はなんだかニコニコしながら左手で肩をニギニギしてくるが、何なんだ?

あ、そうか……女性というのは、髪を切ったら人から褒められたいものなのだったな。

 

「似合ってますよ、その髪型」

「え、ほんまぁ?」

 

うんうん、嬉しそうだ。

人間関係、こういう事の積み重ねが大切だからな。

これから女性の社員やライバーと喋る事も増えるだろうし、ちゃんとセクハラにならない範囲で褒められるようになっておかないとな……

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