【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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グラボはGTX? 1080? のチ?

「この部屋はハセやんの部屋の隣の部屋で、会社で借りて防音室として使う事になりましたぁ」

 

六月中旬、空調服がフル回転の気候の中。

俺たちは動画を回しながら、アパートの部屋の中に防音室を作っ(DIYし)ていた。

一番端の部屋に住んでいたお婆さんがついに施設に入る事になり、俺とシュシュさんが入っている部屋以外が全部空いた。

そこで俺は大家であるシュシュさんの叔母さんに交渉し、空いた残りの部屋を会社名義で借り受け、原状復帰の資金を出す事を条件に改装も許可してもらったのだ。

 

「これは石膏ボードっていって、防音性? と加工性? がいいらしい、ハセやんが言ってた」

 

新しいVtuberも入る事だし、もし家に配信環境がなければここを使えるようにしたい。

それとボイス録音の際にも、スタジオクオリティとまでは言わないが区民センタークオリティは脱したい。

あとは枚方(ひらかた)カノンが生配信主体のための動画不足問題の対策、そして炎上しかけた騒音問題の(みそぎ)を一挙に済ませようというのが、この防音室作成だった。

もちろんこれで完璧ではないとは思うが、一応特定避けに部屋の全体像は映さないようにして、窓にはモザイクをかけている。

 

「えー、このグラスウールを間に挟む事でぇ、防音性が高まるんやねぇ。ハセやんが言ってたけど。グラスウールってデッドニング以外にも使うんやね」

「デッドニングって何ですか?」

「車のチューニング、車の中を静かにするやつやね」

 

そういえば彼女はやたらと車が好きなのだった。

部屋にもミニカーが転がっていたし、今日も資材を積んだホムセンの軽トラを楽しそうに運転してたしな。

 

「カノンさん車がお好きなんですね」

「車が好きかて? うちに聞いてる? 好きやねぇ~! そもそもやねんけど、うちの親戚が車屋で、サバンナに乗っててぇ……」

 

彼女がベラベラと車の事を語り続ける中、俺は何も話さずに無言で指差しをして次の作業を指示する。

ここらへん全部規制音(ピー)入れながら早送りにするからだ。

個人情報言い過ぎで使えないからな。

 

「えー、喋りすぎました。ハセやん曰く、防音室には浮き床? っていうのが大事らしいので、それを作っていきまーす」

 

もちろんシュシュさんに施工できるわけがないので、ビスを打つところだけやってもらって他は全部俺がやる。

なぜ俺がなんとなくで防音室を作れるかというと、防音の理屈を知っているからだ。

そしてアホみたいに現場の仕事を手伝ってきたからだ。

セコカン、現場監督は現場仕事をやらない……という理想論はあるが、現実問題んな事言ってられない。

現場には上から下からどんどん歪みが出てくるし、無理言って職人さんに残業で泣いてもらう事もよくある話。

そういう時に上から怒られながらでも手伝いもしないような奴の言う事なんか、誰も聞かないのだ。

 

「おりゃー!」

 

ガガガガガ! とインパクトが響き、ネジが止まる。

その動画を頭につけたアクションカメラで収めてあるので、画面の端にカノンさんの絵をつけて動画の画面は完成だ。

さすがに全部やらせていたら本業(はいしん)に差し障るため、シュシュさんの出番は概要の説明と要所の作業だけ。

その他はカメラを回しっぱなしにして俺が作業し、完成していく様を動画に纏めるだけだ。

六畳間の中に約一畳の防音室を二個作るのは大変だったが……

他の仕事をしながらコツコツやって、なんだかんだと箱自体は一週間ほどで完成したのだった。

 

「おーっ! 凄いやん! めっちゃそれっぽい!」

 

リアクションを撮るために仕上げ中には立ち入らせないようにしていたシュシュさんは、完成した防音室に大げさなリアクションを返してくれた。

 

「これでどれぐらい防音できんの?」

「今日はそれを測って頂きましょう」

 

シュシュさんにカメラを持たせて、防音室のグレモンハンドルを操作して中に入れ、外から扉を締めた。

 

「うわっ! エアコン効いてるやん!」

「スポットクーラーを繋いでますカラ」

「え!? なんて!? ちょ、防音されててわからんて!」

 

なんて誇大広告気味な寸劇も挟みながら、実際に彼女のパソコンを外から中のモニターに繋いで配信してもらう事になった。

ちゃんと換気装置(ロスナイ)も繋いでいるから、長時間配信でも息苦しくなったりはしないはずだ。

 

「はいじゃあ中で配信してみてくださーい」

「はーい!」

 

後は中と外に騒音計とカメラをセットして、その様子を同時に映すだけだ。

所詮はDIYだからたいした性能ではないが……

それでもちゃんと扉を閉めていれば、片方の防音室で爆音を出していても、もう片方の防音室内の配信に音が乗るような事はなさそう。

吸音材も貼ったので、配信を聞く限り反響も抑えられている感じ。

スタジオクオリティとは言わないが、ボイス収録にも使えそうでホッとした。

『【防音室】会社に専用スタジオを作ってみた【DIY】』と題されたこの動画。

ちょうど配信文化自体の盛り上がりに乗っかれたのか、ほぼ実写動画だというのにそこそこにバズり……

結構な再生回数を叩き出し、ネットニュースから取材が来たり、個人勢の配信者さんからカノンさんの配信に質問が来たりもしたのだった。

 

 

 

そしてその動画と同時に、俺たちはもう一つ実写系動画を撮影していた。

 

「えー、これがメモリです……このロクヨンのフーフーするとこみたいなとこは触ったらあかんって、ハセやんが言ってました」

 

頭にアクションカメラをつけたシュシュさんが、露骨に興味なさそうな口調でそう言いながら、マザーボードにカチッとメモリをはめ込む。

今やっているのは、カノンさんと新人三人用の、配信用PCの組み立て作業だった。

どうせ設備投資をするなら、ついでにネタにしてしまえという事で……

まずは全く同スペックの俺のPCの組み立てをお手本に見せてから、会長手ずから社員のパソコンを組む動画を撮る事になったのだ。

興味なかろうが、今バズらなかろうが、一回やっておけばあとは一年に一度とかで定番行事にできるからな。

こうやって色んな側面を見せていくのは、後になればなるほど効いてくる……はずだ。

実際前周の枚方(ひらかた)カノンは雑談とゲームばかりになりがちで、後年は同時接続者(どうせつ)数が落ちまくっていたしな。

色々な層に知ってもらうのは大事なのだ、断言はできないけど……

 

「ハセやん、このCPUって何するとこ?」

「車でいうとエンジンです」

「へぇーっ、ほなこのSSDっていうのは?」

「荷物スペース」

「ほなこのグラ……グラボ? は?」

「窓」

 

そんな話をしながら、会社の会長に家内制手工業でパソコンを作らせていく。

彼女がそれをやっている間、俺は防音室の音の出にくい細かい作業をやっていた。

まぁ、パソコン自作なんてプラモデルみたいなもの。

自分用の一台を無事完成させ、自信をつけた彼女はニコニコで次のパソコン制作に移っていく。

 

「パソコンて難しいと思ってたけど、えらい簡単なもんやなぁ」

 

途中作ったパソコンで配信に行ったりしながらも、一日ほどで全てのパソコンを組み上げ……

シュシュさんは自分のプロフィールの特技欄に「自作パソコン」と書き加えるほど自信をつけてしまったようだった。

 

『みんなも自作パソコンやってみた方がええね! 案外簡単やで』

 

自作かぁ

スペックどんなもん?

いくらかかった?

グラボ何?

 

『ハセやんが用意してくれたからよおわからんけど、ゲームできる性能って言うてはったで』

 

結局ハセやん頼りやん

Windows+Pause押してみ

構成考えるのが楽しいのよ

TITAN X?

PUBGやってー

 

『えっ? Windows? ポーズ? ハセやーん!』

 

壁叩いて呼ぶなよ

パワハラだろこれ

社長を解放しろ

夜中だぞ

 

『あっ、ハセやん……うん、うんうん、あーこうすんのね。んでこれは言っていい? OK? IDとデバイス名は言うたあかんのね』

 

すぐ来る方にも問題がある

最近SNSも一日二十時間稼働じゃなくなったから心配だ

二、三日前は新人が開設した垢のツイートをRTしまくるBOTになってたけどな

誰だよハセやんって

社長

社畜

 

『メモリ? 16GB? グラボはGTX? 1080? のチ? CPUはi7って書いてあるわ』

 

盛り盛りじゃん

クソ高そう

自作でも最低十五万コースじゃない?

1000円- PC情報代

社長もようこんなハイスペパーツカノンに触らせるわ

 

『とにかくこれでPCゲームも全然できるようになったから、これからは色々やってくで~!!』

 

そんな配信のしばらく後に出たPC組み立て動画は、まぁそこそこって感じの再生数だった。

パソコンの中身は、興味ない人は本当に興味ないからな。

とはいえ、こうしてコツコツやっていけばBTOの案件とかも来るかもしれない。

そう考えながら、俺はシュシュさんが組み上げたPCの動作確認を済ませ、配線を整理しながら一つずつPCケースの段ボールに戻していく。

このパソコンを使う新人三人のデビューが……もうすぐそこにまで迫っていた。

なんだかワクワクするような、胃がキリキリするような……

こうして内側に立ってみないとわからない感情を抱えながら、俺は三人分の配信スターターキットを梱包していたのだった。

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