【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
『皆様初めまして! 高校で保健医をやっています
七月初旬の土曜の夜、うちの一期生の生配信が始まった。
六時から一時間ずつ初配信リレーをして、その後九時からは各自自由に活動をスタートする形だ。
その間は親玉である
『え? PC? なんで構成をご存知なんですか?』
白衣を来たイケメン外人である
どうやら良くないファンが行っているらしいな。
「わぁー、先生大変だぁ」
アパートの入口からトイレや各部屋に繋がる、台所のある共有部分。
その壁に設置された液晶テレビに映る保健医の初配信を見ながら、次の配信者『
普通に美人なOLさんという感じの彼女は東京住まいだったので、不測の事態があったら嫌だからとわざわざここに配信をしに来たのだ。
ちなみに
「うー、緊張するなぁ」
「大丈夫大丈夫、初配信はご挨拶ですから。自己紹介と
「そうは言ってもですねぇ……あ、そういえばカノンさんのクラファン、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
彼女が気を紛らわすように話題を振ってきたクラファンというのは、
「蓋を開けてみればトントン拍子でしたねぇ」
「まだまだ金額が優しいですから」
今回の設定金額は達成額が百万円からの、ストレッチゴールが百五十万円。
千円から五万円まで、支援額に幅を持たせたのが良かったのか……
太客からの支援がバンバン入り、ほぼ一週間で百五十万円の満額を達成した。
リターンにかこつけて色々機材を投資する事にしたため、このクラファン一発でバイノーラルマイクとトラッキング環境が手に入れられたのは激アツだった。
「私たちが3Dクラファンするとしたらどれぐらいの時期ですか?」
「十万が見えたらかなぁ」
「うへぇ、厳しいなぁ……配信終わって十人ぐらいしか登録者いなかったらどうしよ……」
「大丈夫ですよ」
クレイジーな
とはいえ、待っていれば出番はやって来る。
嘆いても工期は伸びない、やる事はやらなければならないのだ。
『皆様~っ! 始めまして! 新聞部所属の、
きちんと事前に設定していただけあり、マイクトラブル等なく二人目の配信は始まった。
また
なんだかんだ言いつつも、伸びるライバーというのは土壇場に強いもの。
彼女は
最初の不安は何だったのか……綾辻さんはきちんと一時間配信を回し切り、獣にバトンを渡して戻ってきた。
「社長、どうでした?」
「いやー、さすがです。しっかりしてますね、めちゃくちゃ才能ありますよ!」
「またまたぁ」
やり切った感じで満足そうな彼女とそんな会話をしていると、最後のライバーの配信が始まった。
『人の世の闇を照らす……魔界よりの光……今こそ、其は姿を現す! 古き盟約を胸に、万象の理を識る英知の賢獣ここに見参!! いえーい! こんばんわー! カノンボール一期生の賢獣ラムダだよー!』
そんな感じで、最初から関西弁のイントネーションでフルアクセルの獣。
以前から実況者として生配信をしていたという彼女は、初配信だというのに全く危なげのない立ち上げを見せた。
そりゃあ大手も配信経験者のみの採用に舵を取っていくわなという感じもあるが、まぁそれももう少し後の話か。
そして賢獣の生配信の枠が閉じたところで、全員がもう一度生配信を始めた。
三枠目の配信を見ながら食事をとっていた
そしてその頃には、みんなの枠を見ながら延々と雑談していたシュシュさんも出てきて、あんまり広くない共有スペースに置いた小さい机に座り、朝ご飯を食べ始める。
「どうですか? 登録者数とか」
「大成功ですよ」
「えっ? ほんま!?」
俺はHDMIでノートに繋いだ共用スペースのテレビに、新人たちのページを並べていく。
シュシュさんはボリボリ音をさせてシリアルを食べながら、その画面を食い入るように見つめる。
デビュー直後の三人の登録者数は
上を見れば切りがない世界ではあるが、初動でこれだけ登録者数がいれば十分に成功と言えるだろう。
「これ頼くんは?」
「男はこんなもんですよ、これでも多いぐらい」
「そうなんや」
この先ジワジワ伸びていってどこかで爆発するとは思うが……絶対とは言えないのがこの世界の怖いところだった。
「とりあえずは初日に全員打ち上がってくれて安心ですね」
「そやったらよかったぁ~」
ちなみに当の
先々月時点で八万人以上の登録者がいたのに、今は八万人記念生の新規衣装のブーストがあってすらギリギリ十万人に届いていないところ。
これは明確に俺のせいで、俺が表に出た事によって、八万人いた登録者が一時は六万人近くまで減ってしまったのだ。
それを二万人減で済んだと言い表すべきか、初期からの濃いファンを二万人失ったと考えるべきか……
なんだかんだと界隈全体に追い風が吹いている影響でなんとか盛り返せたのと、シュシュさんが全然気にしていないようだったのが救いだった。
「ごちそうさま。ほな、夕方まで寝ますぅ……」
「風呂行くとき起こしますから、ゆっくり寝てください」
「ハセやんは?」
「夜のイベントの最終調整してから寝ます」
「根詰めんようにねぇ……」
「はーい」
食器を洗ってから歯磨きをするシュシュさんと別れ、俺は自室に戻って、じっくりと時間をかけて配信ソフトの操作のリハーサルを行った。
ともかく、順調な滑り出しを見せたカノンボール。
この勢いを殺さないため、俺たちはデビュー日の土曜に続くこの日曜日にも、しっかりとイベントを用意していたのだった。