【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
一応デビュー日の翌日となる、日曜日。
この日の夜九時に、一度寝て回復したカノンボールの面々は再集合し、新しい試みが始まった。
『カノンボールだよ! 全員集合ーっ!』
『『『おーっ!』』』
それは公式番組だ。
『カノンボール公式』というチャンネルにて、所属ライバー全員をオンラインで集めての配信だった。
全員「出る出る」という感じだったが、一応公式番組に出てもらう時は日給一万円を出す事にしている。
Vtuberというのは最初はマジで金にならないから、手っ取り早くやる気を出してもらいたいし……
収入に直結する自分のチャンネルでやれない分の補填としても、後で文句が出ないように払っておきたいしな。
そんな公式配信の画面では、右端の教壇のような席にMCの
『こんばんは! 私本日の司会を務めさせて頂きます、カノンボールの保健医、
『カ、カノンボールで一番偉い……?
『ペンは剣より強し! カノンボールの新聞部員、
『カノンボールの賢獣! ラムダだよー!』
明らかにトップがキョドりまくっているが、まぁそのうちこの空気にも慣れるだろう。
一応全員とは顔を合わせているわけだしな。
『本日の企画はこちら! 君は守れているか! コンプライアンスクイズー!!』
『いえーい!』
『守るぞーっ!』
『あ、えへへ、はい』
会長どうした?
自分の箱のライバーに緊張すなー!!
カノンは絶対コンプラ知らないだろ
雷神拳応援してるぞ
今日の公式番組、行う企画の内容は『コンプラクイズ』だ。
Vtuberたるもの、長く続けていくにはコンプライアンスは大切。
というわけで、前周で新入社員向けに作っていたコンプライアンス対策資料を作り直し、クイズに仕立てて企画にしてみた。
まぁうちの事業所の後輩はガンガン辞めていってたから、あんまり役に立った記憶もなかったけど。
ちなみに視聴者が言ってる雷神拳というのは、一期生三人の名前の一部を取ったもののようだ。
『ちなみに司会の私、
『コンプラぐらいわかるよー』
『そうだそうだー!』
『コンプラね、うんうん、大丈夫やで』
新聞部は大丈夫そう
賢獣とカノンはまずいか
まぁ変な事言って炎上するのはヤバいし、いい企画なんじゃない
カノンは前科持ちだしな
『この企画、一位にはご褒美が用意されておりますので、皆様その点を念頭に置いて頑張ってください!』
『ご褒美?』
『ご褒美なにー?』
『いいもんにしてやー』
俺が配信ソフトを操作すると、画面にご褒美であるお取り寄せスイーツの画像が表示される。
通販の商品は、こういうオンラインの関係でも送るのが簡単でいいな。
『ご褒美は、こちら某通販サイトで大変人気のある、美味しいワッフルセットでーす』
『おおっ! おいしそー!』
『絶対食べたーい!』
『ええ感じやん!』
美味しそう
今からみんなで頼んで在庫切れにしようぜ
あんま高くないし普通に買ってみようかな
『というわけで早速第一問!』
保健医のコールと共に、画面に問題文が表示される。
『配信中に、第三者が作成したBGMや効果音を使用する場合、最も注意すべき点は何でしょうか? お答えください!』
ピンポン! とSEが鳴り、賢獣の席のパトランプが赤く光る。
『いい曲を選ぶ!』
『それも大切ですが、違います! 他!』
またピンポン! とSEが鳴り、今度はカノンの席のパトランプが光る。
『他の人と被らんようにする!』
『違います!』
ピンポン! と音が鳴って、最後の綾辻さんの席が光る。
『著作権!』
『
『著作権な! 知ってる知ってる!』
『大事やよねー』
賢獣も関西人か
らいじんけんそこそこ濃くていいな
ハセやん関西人好きなの?
獣かわいい
『それでは、正解した
『やったー!』
その後も生放送は続いたが……
題材がお硬い割にカノンと賢獣の珍回答が飛び出しまくり、そこそこに盛り上がった。
最後は常識的な社会人の綾辻さんが優勝し、賞品をゲットして企画は終了。
『賞品ありがとうございまーす! 届いたら生放送しながら食べまーす!』
『くそー、ずっこいぞー!
『新聞部かしこすぎるやろ!』
『それではそろそろお時間です。来週のカノンボールだよ! 全員集合! は、ユーモアを競え! カノンボール大喜利大会! を行いますので、ぜひぜひお見逃しなきよう、チャンネル登録をお願いいたします!』
『『『お願いしまーす!』』』
『また各ライバーのアカウントも概要欄にありますので。皆様、そちらもぜひご登録をお願い致します!』
司会の
今日だけで公式チャンネルの登録者数は二万人になり、SNSアカウントのフォロワー数も三万人を超えた。
各ライバーの登録者数もグングン伸び、心配していた保健医の登録者数も一気に三千人を越し、賢獣は一万人の大台に乗る。
箱のシナジーが大いに発揮され、これで新人たちのひとまずのモチベーションは大丈夫だろう。
次の公式番組も予告しておいたので、もうしばらくは新鮮な登録者の流入を期待できると思いたい。
新人のデビュー準備から初配信、そして初公式放送と怒涛のスケジュールを熟した金土日。
明けた月曜の深夜ゼロ時、俺とシュシュさんは近所のデニーズで打ち上げを行っていた。
「お疲れ様、ハセやん」
「シュシュさんもお疲れさまでした」
お互いの料理を前に、ビールとハイボールを打ち合わせて労い合う。
なんだかやり切った感すらあるが、実際はここからが勝負のかけどころなのだ。
途中でバテないように、適度に抜きながら走っていかないといけませんね……
なんて、こちらからはそんな堅めの話をしながら、シュシュさんからは最近流行っているというショート動画アプリの話を聞く。
「んでね、DA PUMPがいきなり新曲出したでしょ? しかも曲もダンスもなんかダサッ! ってなってもうて。でもみんな結局ね、それがええやんって大喜びでぇ」
「DA PUMPってあんまりよく知らないなぁ」
「うちの家はオカンが好きでぇ」
そんな世間話をしながら、ゆっくりと飯を食ってビールを飲む。
なんだかここしばらくの疲れが、はじける泡の中に抜けていくようだった。
そして、いい感じに酒も回ってきた二時頃……
向かいのシュシュさんが、ワインをドリンクバーのコーラで割ったものを飲みながら、何気なくこんな事を言いだした。
「そういや、うちらここからどうしましょか?」
「え? 会社の話ですか?」
そう問い返すと、酒で顔を赤くした彼女は、ポテトをつまんだ箸を空中でグルグルと回した。
「そうそう、所属(ライバー)増やして公式(配信)やってっちゅうのはええんやけど、社長的には最終目標とかあるんですか?」
「最終目標かぁ、逆にシュシュさんは……?」
「うちはねぇ……やっぱ目標はわかりやすいのがいいかなぁ」
「わかりやすいのって?」
「ドームとかぁ、自社ビルとかぁ、あとはアイちゃんみたいにテレビ番組とかぁ……大企業から案件もろたり、あ、アニメ化とかも!」
なんだかめちゃくちゃ言ってるようだが、そこら辺の事はだいたい俺が以前にこのデニーズで吹き込んだような気もする。
Vtuberはもっともっとデカくなりますよって話をした時に、恐らくそこらへんの展開の話をしたような記憶があるのだ。
昨日の食事も覚えていないシュシュさんが、よく今まで覚えていたなという感じだが……まぁいい。
「ドームって、ドームライブって事ですか?」
「そうそう、せっかく曲も作ってもろたでしょ? みんなでワーッて盛り上がって、USAみたいにダンスしたり……」
向かいの酔っ払いはそう言いながら、箸を持ったままの右手と一緒に上体をクイクイと反らす。
DA PUMPのダンスのマネでもしてるつもりなんだろうか?
「たしかに、それぐらいやれたら成功って感じしますね」
「でしょでしょ? その頃には下の子らも曲出してるやろし、みんな呼んでさぁ……盛り上がれたらええよねぇ」
会長はそう言いながら、トロンとさせた目を閉じそうになっている。
……いい時間だし、そろそろ帰った方がいいか。
俺は彼女の肩を叩いて起こし、領収書を貰って外に出た。
七月の夜はムッと蒸し暑く、道端ではコオロギがリィリィと鳴いている。
「ハセやーん、あついー」
「飲み過ぎるからぁ」
「アイス買いに行こー」
「綾辻さんに昨日差し入れてもらった奴がまだありますよ」
「高いやつがええのー」
そんな事を言いながら、俺のTシャツの袖を掴んでブンブン振っているシュシュさんを連れ、家とはちょっと方向が違うコンビニへと向かう。
しかし、ドームに自社ビル、テレビにアニメ化かぁ……
うちのトップって、結構しっかり無茶言ってくれるよなぁ……
俺はそんな事を考えながら、フラフラと車道に出そうになる夢追い人の手を引いたのだった。